遊戯王ARC-Ⅴの世界に廃人がログインしました   作:紫苑菊

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 どうも、お久しぶりです。最近FGOとFEヒーローズにはまってきた作者です。ルキナとエイリークが欲しい今日このころ。マルス、お前じゃないんだ、欲しいのはCV小林ゆうの方なんだ・・・。FGOは新宿のアーチャー当たらないし。アヴェンジャーとアサシンは来たけど。

 あ、小説ですが、なんかシリアスになってきました。あれ?こんな感じだったっけ?この小説。
 
 余談ですが、リンク召喚についてはこの小説で実装するつもりはありません。リンク召喚の所為でシンクロデッキが死んだ・・・。せっかくクリスタルウィングの米シク当たったのに・・・。



第2話

    ◇

 

 彼と出会ったのは、7年前だった。

 

 小学生のころだろうか、突然転校生が入ってくることになった。時期的におかしな時期だったからよく覚えている。6年生は終業式間近となり、5年生はその準備、そして予行演習でドタバタとしている時期だった。

 

「立浪菊です。よろしくお願いします。」

 

 それだけ言って、彼は言われたとおりに席に座り、言われたとおりに予行演習の準備に参加した。

 

 物珍しい時期の転校だったから、皆が不思議に思いながらもなんだかんだ受け入れていた。積極的に声をかけて、残りの一年間を一緒に過ごそうと仲良く声をかけに行った男子も居たし、それなりに気になったのか明るい性格の女子も、積極的に声掛けに参加していた。彼がそれを拒否するようなこともなく、特に何事もない、ごく普通の転校生として、彼はクラスになじんでいった。

 

 でも、それからわずか一ヶ月で終業式をむかえ、始業式が始まるころにちょっとした事件が起こった。

 

 事件が起こったのは、5月辺り。そのころに私たちが行うこと、それは授業でのデュエル実習だった。それも、ただの実習じゃない。ジュニアユースに向けての、アクションデュエルの実習だ。

 

 ジュニアコースでは、アクションデュエルが制限される。安全性の高い、スポンジ製のリアル・ソリッド・ビジョンを使用し、けがの無いように行う。だが、ジュニアユースに入ると、その内容はガラリと変わってしまうのだ。ジュニア用のスポンジ製から、鉄製、アルミ製、果ては羽毛までもが再現されるのが本来のアクションデュエル。ス安心安全な素材から、数多のモンスターと共に、文字通り地を這い空を舞う、まさしく美しい、魅せる、魅了するためのデュエルに変化していく。

 

 それを、安全に慣れていくための授業。だけど、問題はそこだった。彼のディスクだけが学校の最新式のリアル・ソリッド・ヴィジョンに反応しなかったのだ。

 

「先生、デュエルディスクが反応しません。」

 

「え?」

 

 だれかが、そう驚きを口にした。先生は、半ば分かっていたかのように代替機を持ってきて、彼に差し出した。

 

 でも、それを面白がった人間はもちろんいた。貸し出されたものは、私たちが使っているディスクよりも数段古いもの。そして、それが読み込んだものが使えないということは、彼のディスクはそれよりもさらに古い、もはやアンティークと言っても差し支えないようなものだ。それを面白がって、男子たちはそれをからかった。

 

 じゃあ、それが問題だったのかというとそうではない。むしろ、彼はそれを自分で笑い話に変えていた。「あ、道理で使いにくいはずだわ。」なんて面白半分に言って、それでまた彼らの笑いを誘った。

 

 そう、そこで終わる話だった。

 

 それが面白くなかったのだろう。一人だけ、其のことで妙につついてくる男子がいた。それなりに有名な男子だった。実力もある、頭もいい。ただ性格、というよりは、空気が読めないのが少々玉に瑕な、そんな男子。

 

 悪い奴ではない。ただ、調子に乗りやすいタイプだ。それが元でよくケンカを起こしていた生徒だった。

 

 悪い奴じゃない。本当に悪い奴じゃない。でも、その男子は彼を授業中も少しずつ弄っていった。じゃれ合い程度のものだったし、それを彼も嫌がらなかったから助長したのだろう。もしかしたら、少々面白くなかったのかもしれない。自己顕示欲の強い子だったから。自分以外が目立っているのが少し気に食わなかったくらいの気持ちももしかしたらあったのかも。

 

 その男子は、彼の逆鱗に触れた。

 

 今思えば、どうして彼がキレたのかは分からない。キレた本人はそのことをなかったことにしたそうだったし、これの真相は闇の中だろう。

 

 まあ、そんな他愛もない喧嘩、私を含めた女子たちはそれを遠巻きに見ていたし、男子はそれを面白がって助長させていた程度の、本当に他愛もない喧嘩。でも、当然そんな喧嘩は先生が仲裁に入る。そして先生は、仲直りの意味も込めてデュエルでもしたらどうだと、ご機嫌取りにその二人をアクションデュエルの見本に抜擢した。

 

 子供がやることだ、大目に見て、仲直りに二人を遊ばせればそんな喧嘩なんか忘れて楽しむだろう。はたから見れば手に取るようにわかる先生の意図。それを理解したのかしないのか、彼は男子に、先生が目を離した時を見計らってこう言い放った。

 

「なあ、遊び(ネタ)本気(ガチ)、どっちがいい?」

 

 そう言って、彼は二つのデッキを持ち出した。本気のデッキと言ったほうは、何やら黒いスリーブがかかっている。何ならデッキを賭けたアンティでもいい。彼はそう言った。

 

「・・・上等じゃないか。」

 

 そう言って、男子はそれに乗るように本気の方を選択。でも、その男の子がそれを見ることはなかった。だって、彼はその本気だといったほうを早々に懐にしまい込んだから。

 

「お前相手に全力?出すわけないだろ。遊びで十分だ。」

 

 遊びさ、本気でやるわけないじゃん。彼はそう言って、貸し出された型番の古いデュエルディスクに差し込んだ。それだけ舐められたら、どんな人間だって怒る。実際、周りにいた彼に同情的だった生徒まで、彼に牙を向け始めた。

 

 だが、彼の言葉が正しかったことを、数十秒後には理解することになる。

 

「魔法発動、ダーク・フュージョン。手札ののカードを刈る死神と、ヴェルズ・ヘリオロープで融合する。出でよ、E-HEROダーク・ガイア。」

 

 現れたのは、攻撃力3330という、中途半端なステータスを持ったモンスターだった。先ほどから出てきていたのは、1950や、1610。そして、1380と中途半端なステータスを持ったモンスター達。成程、ネタとはこういうことを言っていたのかと即座に理解できた。

 

 だが、相手の場にはマグネット・バルキリオンがいる。攻撃力は3500。攻撃力の足りないモンスターを召喚しても意味はない。なにかのパンプアップをするのかと思ったが、そう言うそぶりは見せなかった。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド。」

 

「俺のターン、ドロー!マグネット・バルキリオンで攻撃!」

 

「罠発動、銀幕の鏡壁!このカードは、相手が攻撃してきたモンスターの攻撃力を半減させる!」

 

 そうか、銀幕の鏡壁。あれがあるから、あえて攻撃力の低いモンスターにしたのか。カウンターを仕掛けて、ダメージを増やすために。万が一、もっと攻撃力が高いモンスターを出されたりしても、このカードがあるのなら少なくとも一ターンは持つ。

 

 そして、相手のミスを誘発させたことで、心理的にも一歩上を行った。一瞬、そしてたったの一手。それだけで、状況は圧倒的に覆ったのだ。幸いにも、ダメージ自体はさっき彼が発動していた一時休戦の効果で守られていたが、がら空きのフィールドにそんなアドバンテージなどあってないようなものだろう。

 

「死者蘇生を発動!甦れ、マグネット・バルキリオン!守備表示!ターンエンド!」

 

 ああ、またバルキリオンがやられに行く。それが、私には理解できてしまっていた。

 発動するのは、次のターンにするべきだった。もしくは、あれを分解するべきだった。それが、理解できてしまう。守備表示で出したとしても、それをたやすく突破する何かを、彼は持っているのだ。それが、私にはわかった。

 

 だって、彼の顔は、あまりに余裕に満ち溢れていたのだから。

 

 ドローフェイズ、スタンバイフェイズ、銀幕が破壊され、メインフェイズ。彼は、二枚の魔法カードを発動した。

 

 振り出し。手札を一枚コストにすることで、フィールドのモンスターをデッキトップに戻す魔法カード。そして、もう一枚は・・・。

 

「本当のマグネット・バルキリオンの使い方を教えてやろう。ダーク・コーリング。ダーク・フュージョンで行う融合を、墓地と手札からモンスターを除外することで行う。融合するのは、墓地のダーク・キメラと手札コストで墓地に送った、俺のマグネット・バルキリオン。」

 

 融合するのは、さっきも出てきたダーク・ガイアだろう。そして、その攻撃力は3500と1610を合わせて、5110となる。

 

 また、中途半端な攻撃力を持ったモンスターだ。ここまでされたら、相手のデッキがどんなものなのか嫌でも理解できる。あれはたしかに、遊ぶための(ネタ)デッキだ。

 

「ダーク・ガイアで相手にダイレクト・アタック。攻撃宣言時、伏せカードオープン、収縮。」

 

 収縮、それは、攻撃力と守備力を半減させるカード。5110となった数値が、2555となった。ライフは4000から削られ、数値は1445となる。今までデュエルをやってきて、ライフがこんな数値になったのを見るのは初めて。まあ、その攻撃ももう一体のダークガイアで攻撃されて、消え去ることになるが。

 

 決着、それも圧倒的なものだ。片方のライフは一切削られず、それに対して相手側は終始かき回されて何もできずに終わっている。

 

 男の子は泣いていた。それでも、デュエリストとして言ったことは守ろうと、負けた子はデッキを彼に差し出した。それに対し、彼はすっきりしたからいい、と受け取りを拒否した。こっちも悪かった、という謝罪も含めて。

 

 ただ受け取りを拒否しただけならまだいい。だけど、彼の表情と、そして言動。まるで、敗者に興味ない(・・・・・・・)、だからデッキにも興味はないと言わんばかりのその様子。謝るからどこかに行ってくれとでも言っているかのようだった。

 

 その様子に、あの子は耐えられなかったのだろう。早々に涙を隠して、どこかに行ってしまった。先生も、その子を追いかける。この場には、先ほどのデュエルに圧倒されていた私たちと、張本人である、彼だけ。その彼は、何で逃げたのが分からない、といった風だった。

 

 その様子に、しびれを切らしたのだろう、また別の男児が一人、彼に突っかかっていった。

 彼の顔には覚えがある。刀堂大牙、大太刀堂という、ここから少し離れたところにある剣道道場の跡取り息子。本人も未だ1級でありながら、既に二段持ちの中学生を倒すくらいの実力者。私も少し剣道は齧ったが、彼の実力はかなりの物だった。

 

 あの様子、おそらく気付いたのだろう。彼が、対戦相手の事なんて途中から見ていなかった(・・・・・・・)ことを。あの様子、肝心の本人は気づいていないかもしれないが、あれは以下の面白い盤面を作れるか、という遊びになっていた。対戦相手なんか、デコイ同然に考えていたのかもしれない。そのことを言われて、ようやく彼は気づいたのだろう、彼はこういった。

 

「ああ、そういう風に受け取ったのか。悪いことをした。」

 

 何事もないように、彼はそう言った。

 

「ごめん、悪かった。いや、素直にすっきりしたからもういいよ、という感じで言ったつもりだったんだけど・・・。悪いことしたなぁ。」

 

 何事もなかったのよう。実際、その言葉でクラスの半分以上は納得していた。いや、それで納得しなかったのはおそらく私と、そして大牙。

 

「ごめん、刀堂。そんなつもりは本当になかったんだ。」

 

 そう言うが、とてもそれに納得できるとは思えない。彼のデュエルが、あの子のデュエリストとしてのプライドを著しく傷つけたのには変わらないんだから。

 

「あ~、俺、デュエリストじゃないからその辺分からないんだよなぁ。だって、これって所詮ゲームじゃん。こんなんで傷つくなんて思ってもなかったんだわ。」

 

 デュエリストじゃない。彼はそう言った。そうか、違和感の実態はそれだったのか。

 

「じゃあ、もしお前があんなデッキで遊ばれても、お前はなんも思わないのか!」

 

 大牙が激昂する。そう、彼のデュエルはまるで人を弄ぶようだった。それでいて、彼を見世物にするようなデュエル。エンターテイメントの皮を被った蹂躙劇。それがあのデュエルにふさわしい言葉だ。

 

「思わない。だって、こういうカードはこういう風に遊ぶためにできている。この盤面を突破できなかったのは、単に実力不足なだけだろ?それが嫌ならバックを破壊すればよかったし、モンスターの除去カードを積んでいたら普通に勝てる範囲だ。」

 

 大牙の異に、彼は反論する。実力不足。確かにそうかもしれない。勝てないものに挑みこんだ大馬鹿者。そんなものはただ負けに行くだけだ。

 

 互いが互いの言い分がある。片方は、デュエリストとして。そして片方は、ゲームプレイヤー(・・・・・・・・)として。それぞれがそれぞれの言い分がある。

 

 だけど、デュエルを見世物のようにし、うっぷんを晴らすために使ったのは、いくらなんでも許せるものじゃない。それは、大牙や私たち、デュエリストとしての気持ちだった。

 

「なら、せめて本気で相手をしてやれよ!」

 

「したじゃないか。攻撃力が5000を超えたモンスターも出したし、相手の切り札を迎撃もした。」

 

「そうじゃない!本気のデッキを使えと言ったんだ!」

 

「気分じゃないデッキを無理に使わせるなよ。遊びさ、いつもいつも本気でやるわけないじゃん。

 あ、それともお前が本気のデッキでやる?もっとひどいデッキになるだけだよ?」

 

「ああ、上等だ!やってやる!」

 

 そんな喧嘩をまた彼らは始め、そして、結果はお察しの通り。

 

「影のデッキ破壊ウイルス。そして闇のデッキ破壊ウイルスが2枚。3体のグラファをリリースして、相手の手札とフィールド、発動してから3ターンの間にドローした魔法、罠、そして守備力1500以下のモンスターを全て破壊する。さて、手札を見せてくれ。」

 

 手札には、魔法カードと彼が愛用している剣闘獣のカード。剣闘獣の殆どは、守備力が1500以下だ。残る手札は無い。策もない。墓地からモンスター効果を発動することもない。

 

 先攻一ターン目で3000のモンスターを3体並べたその手腕に、相手に抵抗させることなく倒すそのタクティクスは、明らかに私たちよりも遥かに上だった。

 

「デュエリスト?ゲームにプライドを乗せてどうする。そんなものに意味はない。より楽しんだほうが勝つのがこのゲームだ。そう、ゲーム(・・・)なんだ。楽しまなくてどうする。」

 

「・・・それで、相手が傷ついてもか?」

 

「だから、悪かったと言ってるだろ?空気を読まなかった俺が悪い。

 でも、まあ全力を出してこうなるんだから、全力を出さなくても同じ結果にしかならなかったとは思うけどね。」

 

 小学生が高校生に挑みに行っても当然勝てない。彼とのデュエルはそういうものなのかもしれない。私はこの時そう思った。

 

「それとも、切り札の攻撃力を2000のラインに下げて戦ったほうがよかったか?」

 

「・・・いや、分かった。もう何も言わねぇよ。」

 

 負けたやつが言っても、負け惜しみにしかならねぇからな。大牙はそう言って引き下がった。

 

 でも、このデュエルが噂になったのだろうか。彼と、彼の中のいい下級生に、中学生が挑みかかった。結果は彼一人に撃退されたが、その後は『外道』だの『鬼畜』だの、黒い噂が絶えることはなく、彼は孤立した。

 

 私には何もできなかった。お互いがお互いの言い分があったし、彼のやったことは褒められたものでは無かったが、それでもそこまで言われる理由はない。そう思っても、彼をかばうこともできずに、何事もなかったかのように過ぎていった。見かねた大牙が彼に突っかかり、そしてあっけなく撃退されることで彼との溝を埋めようとはしていたが、その努力も空しく、小学校は終わっていった。

 

 正直、もう会うことはないだろうと思っていた。中学校、それも受験して受かった学校で彼をもう一度見かけるまでは。

 

 てっきり、公立の学校に行くものと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。まあ、あんまりな噂の数々で、小学校からそのまま上がるには居心地が悪かったのかもしれないが。

 

 それに何よりも驚いたのは、大牙がいることと、その彼らがデュエルでの推薦入学だったことだ。そこまで仲がいいようには思っていなかったが、意外と馬が合ったのかもしれない。

 

 まあ、それはいい。正直、この時私は少し気まずいなぁくらいにしか思っていなかった。だって、この時の私には、もっと他に重要なことがあった。

 

 新入生交流会。そこで、何人かと組んでデュエルを行う。私は、そこでライバルである光津香澄に挑むつもりだったから。

 

 いい機会だった。ライバルである彼女に勝つ、いいチャンスになる。この際だから、白黒はっきりつけよう。そういうつもりだったし、向こうもそうだった。

 

 互いが互いのデュエルに燃えていて、他の事なんか目に入らない。そんな時だった。

 

 彼が、推薦代表ということで、全校生徒の前で上の学年の生徒とデュエルをすることになったのだ。

 

 うちの学校は、他の学校に比べて大分変わっている。この町に居を構えるからというのもあるのかもしれないが、他の学校に比べて、幾分かデュエルが重視される。恐らく、校長が元プロデュエリストというのもあるのだろう。若い頃はそれなりに名の売れた選手だったらしい。

 

 正直、その時はああ、また彼が勝つのか、くらいに思っていた。小学校の時点で、彼のデュエルは私の知る限りで最も強い。そんじょそこらのデュエリストなら赤子の手を捻るようなものだろう。

 

 そう、その時まではそう思っていた。

 

「俺は、天帝従騎イデアを召喚!さらに、イデアの効果で冥帝従騎エイドスをデッキから特殊召喚する!そして、二体を生贄に、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアをアドバンス召喚!」

 

 彼が使ったのは、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアを軸に、家臣を利用して回すタイプのデッキだった。よく考えられていて、それでいてハラハラする場面も演出していた。

 

 だけど、私にとっては予想外なことに、彼は一転して追い詰められている。頼みのヴァンプ・オブ・ヴァンパイアは破壊され、魔王ディアボロスとアサルトワイバーンの攻撃で、ライフは風前の灯となっていた。

 

「俺の手札は0!伏せカードは一枚と進撃の帝王、ライフも残りわずか!だけど、このドローでもし俺が逆転のカードを引くことが出来たのなら、面白いとは思いませんか?さあ、最後の運試しです、先輩!」

 

 ドローフェイズ。宣言した瞬間、先輩の魔王ディアボロスの効果でデッキトップは一番下に行く。下に言ったカードは妨げられた壊獣の眠り。さっきも彼は使っていたが、一度モンスターを一掃するカード。まさしく逆転の一手だっただろう。

 

 だが、彼はそんなことを気にも留めず、周りに見えるようにカードを引いた。それは、私たちにはあまり見覚えのない魔法カード。一瞬にして、皆の顔が落胆に変わる。だけど、彼だけは不敵に笑いだした。

 

「魔法カード、悪夢再び!墓地から守備力0のモンスターを2体手札に加えます。手札に加えるのは、ジェスター・コンフィとヴァンパイア・デューク!ジェスター・コンフィの効果は皆が知っての通り、手札から特殊召喚が出来ます!伏せたカードは死者転生!手札を一枚捨てることで、墓地のモンスターを手札に戻します。私が選択するのは、当然、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア!」

 

 だが、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアのレベルは7。ジェスター・コンフィを特殊召喚して、アドバンスを狙うにも、生贄が1体足りない。

 

「ジェスター・コンフィを特殊召喚。そして、墓地の、小人のいたずらを発動!」

 

「墓地から罠だって?!」

 

「小人のいたずら。先ほど使ったのは伏せてあった時の効果ですが、実はこのカードは墓地から除外することでもう一度同じ効果を使えるのです。互いの手札のモンスターのレベルを1下げます。よって、手札のヴァンプ・オブ・ヴァンパイアのレベルは6になる!これで、問題なくアドバンス召喚できる!出でよ、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア!」

 

 彼の切り札、いや、厳密にはあのデッキの切り札が、再び私たちの目の前に顕現した。美しい銀色の髪、スタイルの良いその美貌、ソリッドヴィジョンだというのに、その姿は私たちを虜にしていた。

 

「ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの効果発動!魔王ディアボロスをヴァンプ・オブ・ヴァンパイアに装備し、その攻撃力をヴァンプ・オブ・ヴァンパイアに加算する!」

 

 攻撃力4800となった、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア。さっきはパンプアップにパンプアップを重ねた攻撃力4300となった魔王ディアボロスでようやく倒していたが、今の相手フィールドにあのヴァンパイアを超えるようなカードはない。

 

「いけ、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアでアサルトワイバーンに攻撃!」

 

「攻撃の無力化を発動!」

 

「いいや、残念ながら進撃の帝王の効果でアドバンス召喚されたカードは効果の対象にならず、効果で破壊されない!よって、攻撃は続行!」

 

 無力化のバリアを超えて、ヴァンプ・オブ・ヴァンパイアの攻撃が炸裂した。ライフが消えて、歓声が上がる。勝者は柊菊。いつの間にか、苗字も変わっていたことを初めてそこで知った。

 

 以前、小学校で見た時とは、はるかに別人だったと思えるデュエル。後で聞いたが、このために大牙に相談に乗ってもらい、魅せるためのデッキに調節していたらしい。仲良くなっているように感じたのは、そういうことだったのだ。

 

 まあ、つまり、なんというか。彼は、どんなデュエルでも出来てしまうのだろう。相手を蹂躙するデュエル、煽るようなデュエルから、魅せる、楽しむデュエルまで。

 

 私は、その時の衝撃が忘れられなかった。どう考えても絶望的な状況から、リカバリを聞かせてたった一枚から死に札となっていた死者転生をも活かして戦うデュエル。

 

 彼と同じように戦ってみたい、彼と同じように逆転してみたい。そう思えた。まるで、映画を見ているかのような、見事な逆転劇。私の心は震えた。

 

 その後、私は香澄とデュエルをしたが、正直上の空だったと思う。香澄には案の定ぼこぼこにされ、これではだめだと思った私は、彼に話を聞きに行くことにした。

 

「柊君!私に、デュエルを教えてください!」

 

「え、ちょっと待って状況が把握できない。ヘルプ!ヘルプミー大牙!」

 

 土下座した。開口一番に土下座した。正座した時点で若干嫌な予感はしていたのか、彼は顔を引きつらせていたが、そんなことは関係ないと言わんばかりに土下座した。

 

 女の子がーとかそんなプライドは一切なく、その時の私は無我夢中だった。騒ぎを聞きつけてやってきた香澄に頭を殴られるまで私は無我夢中で彼に頼み込んでたし、彼は半泣きになりながら了承していた。

 

「まさか授業開始初日にこんなことになるとは思いもしなかったよ・・・。また居心地悪くなる。」

 

 申し訳ない。確かに初日に女の子に土下座されたら彼も対応できないだろう。まあ、そんなことにはならないようで安心した。周りの目は、彼を同情的な目で見ている。

 

「いや、君の所為だからね?!」

 

 てへぺろ。

 

「ああ、不幸だ・・・。」

 

 失礼な、そんな某幻想殺しのセリフを吐かれるようなことはしてないと思う。

 

「してる。めっちゃしてるよ志島さん。」

 

「・・・すいませんでした。」

 

 まあ、いいけど。そう言って、彼は笑った。自然と出た笑みだったのだろう。小学校の頃は見たことのない笑顔だった。

 

「それで、志島さん。」

 

「凪流でいいです。師匠。呼び捨てでも構いません。」

 

「師匠は止めて。マジでやめて。・・・分かった、凪流さん。とりあえず・・・。」

 

 とりあえず、何だろう。なんでもやります。そういう気概で彼の目を見る。ゆっくりと、彼は指を黒板に向けながらこう言った。

 

「HR。もう始まってるから、席に戻ってくれる?」

 

 私は、赤面しながら席に戻った。

 

 

 

 

 こんなこともあったな、と私は空を見上げる。まだ日は上っているというのに、空はこんなにも赤い。燃えるような赤。いや、実際に燃えているのだが(・・・・・・・・)

 

「火はいいなぁ。心が穏やかになるようだ。燃えるよう、熱いよう。ははは、まるでアカデミアがゴミのようじゃないか!」

 

 ・・・さて、横にいるのは本当に彼なのだろうか。魔王の間違いではないのだろうか。

 

「・・・いくらなんでも、放火(・・)はやりすぎじゃないですか?最終手段は最後の最後までするんじゃないって赤馬零児にも言われてたでしょう?!」

 

「だから、最終手段なんだよ。最初で最後の手段(・・・・・・・・)。それがこれさぁ。」

 

「なら、せめて私にもやらせてください!あなただけがこんなことをする必要はない!さっきから、火をつけるのもアカデミアを撃退するのもカードにするのも、全部あなたがやっているじゃないですか!」

 

 そう、私はさっきから何も仕事をしていない。しいて言えば撃退に手を貸したくらいで、その他は何もしていない。

 

 アカデミアに侵入してから20日、やったことは本当にそのくらいだった。情報を手に入れるためにアカデミア兵に化けたわけではなく、作戦のために何かを実行したわけでもない。誰かをカードに変えたわけでもない。やっていることは、見つかったときに菊と一緒にアカデミア兵をデュエルで倒すことと、スパイとなった仲間と情報を連絡することくらい。菊みたいに、誰かをカードにしたり、こうやって火をつけるような直接的なことは、何もしていなかった。

 

「お前はそれでいい(・・・・・)。お前は、あいつらをカードから救い出すことだけ考えていろ。他のことは俺がやる。」

 

 そう言って、彼は何も教えてくれなかった。その姿が、まるで知っている菊がどこか遠くに行ったような感覚になる。それとも、私は始めから菊の事なんて何一つ分かっていなかったのだろうか。

 

「さて、アカデミアよ。刈られる側に回った気分はどうだ?」

 

 そう、高らかに笑う菊を見て。

 

 私は、何が正しいのかが分からなくなった。

 




短くてすいません、次は頑張ります(いつになるかは分からないけど)

誤字多くてすいません。報告助かってます。

ダーク・コーリングの効果を勘違いしていました。訂正しました。それに伴ってバルキリオンさんがかませだったり除外で素材になったり散々な結果に・・・。まあ、電磁石とかないと(あっても)出しにくいからね、仕方ないね。

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