遊戯王ARC-Ⅴの世界に廃人がログインしました   作:紫苑菊

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FGO最高・・・。ソロモン無事クリアしました。最後はジャンヌが奮戦して粘りに粘ってくれました。

それはそうと、成金が再録。チキンレースも再録。ドロー暗黒界が安く作れますね。あとは精霊の鏡だけ。再録はよ。

あと、ブリュが解禁されてとてもうれしいです。作者のジャンドは白黒で復活し、カオスゴッデスが出しやすくなりました。米シクのゴッデスが欲しいです。作者のは日本版レリーフです。

※注意
  今回、かなり表現がきわどいものだったり、人によっては不快に思うかもしれません。ご注意ください。
 あと、言い忘れてましたが、私はHELLSING厨です。DRIFTERSも大好きです。豊久スリーブ予約しました。ゲンジバンザイ。

 サンジェルミ好きな人手を挙げて。キャラ的な意味で。


シンクロ次元?いいえ、融合次元です
第1話


 アカデミアは、陸の孤島である。

 

 本土から隔絶された、兵士養成所アカデミア。プロフェッサーの指示の元、次元侵略の為に兵士を作り出す施設。次元戦争のその先にある、新たな世界のために身を粉にして戦場に出ていく兵士たちの拠点。

 

 それがデュエルアカデミア。

 

「あーあ、今日も大変だった。」

 

 オベリスク・フォース。アカデミアの中でも、所謂エリートと呼ばれる兵士集団に、自分は属している。

 

 アカデミアの訓練は、ただデュエルが強いだけではやっていけない。身体能力、思考能力、そして危機を突破するだけの応用力や機転を利かせるためにあらゆる訓練が強いられる。これは、誰でもクリアできるわけではない。逆に言えば、これをクリア出来たものだけが、オベリスクフォースに所属できるのだ。

 

「・・・いったい、どうやって素良はクリアしたんだよ。卒業ノルマ難しすぎるんだけど。」

 

 紫雲院素良。アカデミアのオベリスクフォースの中でも、いや、下手をすればアカデミアの中でもトップクラスに入るデュエリスト。数々のアカデミア生徒が挫折する中、悠々と試験をクリアしていった神童。聞けば、あの年でアカデミアの試験をクリアしたのは、彼を除けば僅か数人しかいないという。

 

 自分も、あいつのようになれないものかと必死に努力した。年下、それも遥かに幼く見える彼に負けるというのは、少なからずエリートへの道を順調に歩いていた自尊心を傷つけた。

 

 だが、あいつの実力を、おそらく同期の中で誰よりも知っている。だからこそ、いつしかあいつは自分のあこがれで、そして目標になっていった。

 

 もうすぐ追いつける、もうすぐあいつに追いつける。そう思うと、数か月前まで現実味のなかった目標に、少し手が届きそうな気がした。

 

 ふと、自分の手元を見る。卒業試験のためにクリアしなければならない課題が、まったく進んでいないことに気が付いた。どうやら頭に血が上りすぎて、目の前のことに集中できなくなっていたらしい。

 

 ついこの間、任務に行ってしまった目標を思い浮かべながら、滾って頭に上った血を収めるために、少し外に出ることにした。

 

 幸いにも、まだ外出許可時間内だ。もうあと1時間もすれば、自室のある寮は閉まってしまうが、その時間までに戻れば問題ないだろう。寮監に少し外出する旨を伝え、時間内に戻ってくるからと言って湾岸に行くことにした。

 

 海のほとり、そこに存在する灯台。そのふもとから見える海の景色は、灯台の光が反射して、どこか幻想的に見える。かつて、共に勉学に励んだ友人も、ココが好きだったな、なんて思いながら、高ぶる頭の血が冷えていくのを感じる。

 

 30分ほどたっただろうか。寮に戻ろうとすると、近くに人影があるのを見つけた。

 

 この時間にここに人が来るのは珍しい。ここの景色は綺麗だが、それを見に来る人間はごく僅かだ。寮から少し離れているのもあるが、何よりここは隠れた穴場のような場所で、今まで誰かに会ったことなど、この場所を教えてくれた明日香以外、誰もいなかった。

 

 少し興味がわいた。ここに来る人はどうやって知ったのだろうか。半分興味本位で近づこうとして、顔がギリギリ判別できるところまできて、それを後悔した。

 

 人影は、一人ではなかった。男女の二人組。もしかしたら、恋人かもしれない。だとするならば納得だ。恐らく、どちらかがこの光景を偶然見つけ、デートにでも誘ったのだろう。だったら邪魔するわけにはいかない。ここはクールに去るべきだ。

 

 そう思って踵を返し、足音を立てないようにゆっくりとその場を離れる。しかし、見てはいけなかったような気がして、動揺していたのか。階段で足を滑らせてしまった。

 

 あ、ヤバいそう思ったのもつかの間。衝撃に対応するために咄嗟に顔を庇う。

 

 だが、その衝撃は受けることがなかった。直前に肩を掴まれたらしい。顔の前で構えた腕が、行き場を無くす。

 

 つかんだのは、先ほどの男だった。少し肩で息をしている。どうやら走って肩を掴んでコケるのを防いでくれたらしい。

 

「大丈夫かい?」

 

「あ、はい。」

 

「・・・大丈夫そう、だね。」

 

 いやぁあ、よかったよかったと言って彼は手を放す。肩に会った圧迫感が無くなる。どうやらそれなりに強い力で掴んでいたようだ。

 

「痛くなかったかい?咄嗟のことで加減が出来なかった。」

 

「いえ、ありがとうございました。」

 

 あ、ならよかった。そう言って彼は安堵する。その笑みは、不思議と人を引き付ける綺麗な笑みだった。

 

 背格好は、明日香より少し高いくらいだろうか?大体170後半くらいだろう。身に着けた黒い服は、どこか夜の闇に溶け込んでいるようだ。

 

 近くに船がある。初めてここに来た時、乗ってきた船だ。本土との連絡船、そして新入生を迎え入れるのに利用される船。普段は本土にあるこの船がここにあるということは、この人は本土から来たのだろうか。

 

 新入生、というには年を取りすぎているし、何より時期が違う。なら、物資搬入の人だろうか。だが、後ろにいる少女はそうなると説明がつかない。搬入なんかの力仕事を任せるには、少々頼りなさすぎるように思う。

 

 不審に思っていると、向こうが頬を掻きながら、バツが悪そうに聞いてきた。

 

「ねえ、ココはアカデミアであっているかい?」

 

 これまたおかしなことを聞く。いくら本土の人間でも、ココがアカデミアであることぐらい知っている。何より、船に乗ってきたのならそれくらい分かっているはずなのに、なぜまたこんなことを聞くのだろうか。

 

 不審に思いながらも、質問には答えなければならない。少なくとも、悪い人ではなさそうだ。そう思っていた。

 

「え、ええ。ここはデュエル戦士育成施設、デュエルアカデミアです。」

 

「じゃあ、君はここの兵士というわけだ。」

 

「まあ、そういうことですね。」

 

 まだまだ見習の域は出ませんが、という言葉は胸の中にしまった。一人前に見られたい、という欲が出たからだ。

 

 だが、目の前の男はそれに納得した様子で、しきりにそうかそうか、と呟いていた。

 

 そして、どういう思考の一巡があったのだろうか。口を開いた。

 

「じゃ、ちょっと首置いて行ってくれ。」

 

 ・・・。

 

 ・・・・・・。

 

「はい?」

 

 どういう思考の一巡をした。まったく訳が分からない。

 

「首置いてけ、首、置いてけ。アカデミアだろう?お前、アカデミアだよな?なあ、アカデミアだろ?」

 

 もう一度言う。どういう思考の一巡したんだお前。

 

 呆気に取られてもう訳が分からない。そんな中、また一人、今度は船の中から、後ろにいる少女よりも2、3歳ほど年上だろう少女、いや、女性が出てきた。

 

「菊、終わりましたよ。」

 

「ああ、お疲れ様。どうだった?融合次元のデュエリストとサシ(・・)で連戦した感想は。」

 

「5人までなら同時でもなんとかなる範囲かと思います。少なくとも、攻め入ってきたデュエリストの方が遥かに手強いですね。」

 

「そりゃあそうだ。アカデミアは攻め入られることは計算していない。彼らの今までの行動から考えるに先に攻め入るのが常套手段だ。

 

 なら、高い実力のものを攻めに回した方が効率がいい(・・・・・)。このアカデミアに残っている戦力は、総じてそこまでの戦力はないと思っていいかもしれないね。」

 

 攻め入ってきた?ということはもしかして、彼らは。

 

「で、本当にカードにしなくてよかったんですか?」

 

「別に構わない。今の俺らには、目撃者が必要になる。被害者が必要になる。戦力に数えなくてもいいような雑魚には、役割を与えてあげようじゃないか。見敵必殺(サーチ&デストロイ)には早すぎる(・・・・・・)。」

 

 間違いない。彼らは別次元の人間だ。それも、私たちと同じカード化の技術を持っている。

 

 ではなぜ攻め入ってきたのか。それが分からない。いや、そもそもどうやってこのアカデミアにやってきたというのか。

 

「・・・随分と不思議そうな顔をしているね、新兵君(・・・)。」

 

 新兵。そう言われて、なぜ、という言葉が私の口から出てくる。私は、この人に一切新人だとは、オベリスクフォース見習いだとは言っていない。飲み込んだ言葉は、吐き出されてはいない。

 

「簡単なことだ。攻め入られた、と自覚した瞬間から君の足は震えている。俺達の次元に侵略してきたアカデミアは、敵を見ただけで足を震えさせるやつは一人もいなかった。当たり前だ。その時すでに彼らは経験を積んでいたのだろう。

 

 だが、君の足は震えている。ならば恐らく、経験が浅いか、見習いか。

 

 ・・・見たところ、侵略に参加した兵士よりも、少々顔が幼い。だから、新兵。間違いはあるか?アカデミアの見習い君?」

 

 間違いはない。まともに敵と戦ったことはない。まだ、実習すら踏んでいない新兵だと見抜かれたことを否定しない私に、男は少し顔をしかめた。

 

「残念だ、非常に申し訳ないと思うよ。だけど、アカデミアであるのなら。俺達の敵であるのなら。君にはカードになってもらうしかない。

 

 たとえそれが、まだ兵士にもなっていない子供だとしても!

 

 たとえそれが、目の前で生まれたての小鹿のように震えている、か弱い少女(・・・・・)だとしても!

 

 例外はない。首を置いていけ。首を置いていけ(カードになれ)!」

 

 その言葉を言い放った瞬間、辺り一帯にオベリスクフォースが現れた。警報が鳴り響く。だれかが、ここに警邏を呼んだのだと理解できた。

 

「だから言ったじゃないですか。やっぱりあの船長たち、兵士を呼び集めた。」

 

「それでいいんだよ、凪流。さっき俺は目撃者が必要だ、といったが、あれは正確ではなかった。

 

 正しくは、目撃者は大量に(・・・)必要なのだ。見せしめは多い方がいい。被害者は多い方がいい。俺たちの脅威度を、より大きく伝えることが、重要なのだ!!」

 

 そうでなくては、俺たちの目的は達成できない。呟くように会話をするその声は、多分彼らの敵の中では、一番近くにいた私にだけ聞こえたように思えた。どうやらオベリスクフォースがここにやってきたのは敵の予想の範疇、いや、罠だったらしい。

 

 オベリスクフォースの隊長が、男に質問した。

 

「・・・何者だ、貴様ら。」

 

 その質問に、目の前の男は不気味な笑いと共に言い放った。

 

「アカデミアの、敵。それ以外に必要か?

 

 必要ならば宣誓しよう。我々はランサーズ!『Lance Defense Soldiers』!!我々の次元に侵略してきた不届き者どもを殲滅するためにここに来た!今から俺たちが行うのは、貴様らアカデミアに対する宣戦布告であり、戦の法螺貝だ!開戦の狼煙は貴様らが、俺達の次元で放った!

 

 よろしいならば戦争だ!自分たちだけがぬけぬけと生き残るとでも思ったか?!自分たちは侵略される側にならないとでも思ったか?愚か者どもめ!!俺たちはここに来た!貴様らの首を、根こそぎいただきに来た!貴様らが被害者になり、カードになり、糞尿を垂れ流して命乞いをする羽目になると、微塵も思わなかったか?

 

 目には目を、歯には歯を!ハンムラビ法典の掟を知っているか?やられたらその分だけやり返す。それは遥か昔からある道理だ!

 

 アカデミア兵士諸君!小便は済ませたか?神様にお祈りは?部屋の隅でガタガタ震える心の準備はOK?!」

 

「ディフェンスじゃなくてオフェンスなんですけど?!ディフェンス要素は?!」

 

 思わず突っ込んでしまった。ランスというか、もはやゲイボルグとか鉤付きの武器とかに近い何かである。

 

「知るか。俺ではなく貴様らのボスの息子に言え。あいつは賢いが、計画を守ることしか考えていない。父親を止めることしか考えていない。

 

 だが、俺は違う!俺の使命は、我らの平穏を穢す愚者共を、その肉の一片までも殲滅すること!エ゛ェェイ゛ィメン゛ッッ!!」

 

 そんな彼に後ろの、おそらく彼の仲間であろう女性が、声をかける。

 

「あの、菊。セレナが引いてるんでそろそろそのキャラ止めませんか?」

 

「止めん!ここらで一発、強烈なインパクトを残しておけば、俺たちの本気具合を奴らは知るだろう。なら、出来るだけ鮮烈に!出来るだけ惨たらしく!全力を持って、彼らに脅威を与えなければならない!気力を削ぐのもまた兵法なり!」

 

 壊れている。なんか頭の大切な螺子が5、6本抜け落ちている。キャラ作っていてもやりすぎだろ、コレ。オベリスクフォースがドン引きしている。私もドン引きしている。後ろの、彼の仲間であろう二人もドン引きしていた。

 

 音楽の授業で、魔王という曲があった。今ならあの子供の気持ちがわかる。魔王が来る、魔王が来るよお父さん。

 

「さて、デュエルだ。貴様らもデュエリストの端くれなら、デュエルで死ね!言っておくが貴様らに退路はない。

 

 なぜなら、たとえここで逃げたとしても、いつかは貴様らを滅ぼすからだ。

 

 たとえ誰かが時間稼ぎをしたとしても、俺達にはかなわないということを思い知れ。そしてここで死ね、潔く死ね。黄泉路への先陣を切れ!もしかしたら、俺を倒せるかもしれないぞ。千に一つか、万に一つか。億か、京か。

 

 だが、貴様らはたとえそれが那由他の彼方でも、戦わなければならない!

 

 もし戦わないのならば、貴様らの大事な大事なプロフェッサーを、貴様らの目の前でカードにしてやろう。その後燃やしてやる。炭にしてやる。灰にしてやる。塵は塵に(Dust to dust)。貴様らのボスをゴミに、塵に還してやる。」

 

 その瞬間。

 

 その瞬間、オベリスクフォースの何人かが怯えたようにディスクを抱え、突撃していく。だが、そのディスクに、男が投げた輪っかがつなげられた。

 

「いいだろう!貴様らは誉れある黄泉路への先陣を遂に切った!ならば死ね!カードになれ(死ねぇ)!」

 

 そう言って、彼は。

 

 その3人を瞬殺し、カードに変えていった。目の前で起こった光景に、オベリスクフォースも、私も、ただただ呆気にとられるだけ。

 

「さあ、こいつらを倒すのに1分かかった!その合間に援軍の要請は出来たか?それともそれすらしなかったか?この場での貴重な戦力を、3人が稼いだわずかな時間で、それをただ見ていただけか?何でも構わないが、さっさと貴様らにはカードになってもらう!」

 

 中指を立てながら言い放ったと同時に、オベリスクフォース達は震えあがった。

 

「う、うわあああぁぁぁ!!!」

 

「に、逃げろおおぉぉぉ!!!」

 

「な、お前たち逃げるな!!」

 

 オベリスクフォースたちは逃げ出し、隊は瓦解。彼の異様な空気に押されたのか、同志がカードにされたのが止めになったのか。

 

 だが、男は逃げ出すオベリスクフォースに、まるで拳銃を突きつけるかのように、腕についているデュエルディスクを向けた。

 

「逃げるのか。それもいいだろう。だがな、忘れていないか?カード化の技術は貴様らが編み出した(・・・・・・・・・・・・・・・・・)。そして、貴様らの技術には、デュエルから逃げ出した者を強制的にカードに出来るものだということを!」

 

「な、止めろ!そのボタンを押すんじゃあない!!」

 

 隊長が叫ぶ。だが、それで止まるとは思えない。

 

「いいや、限界だ!押すね!!」

 

 その言葉と同時に、最初に逃げ出したオベリスクフォースがカードにされる。叫び声と共にその場に残ったのは一枚のカード。

 

 泣いて許しを請う、兵士の姿が、其処にはあった。

 

「逃がしませんよ。」

 

 いつの間に後ろにいたのだろうか。カードに気を取られた隙に退路を塞いだのは、先ほど後ろにいた女性だった。もう一人の少女は、まだ男の後ろで・・・あれ、いない。

 

 いや、いた。女性の後ろで蹲っている。時折聞こえる「PSY怖い烏怖いPSY怖い烏怖い」とエンドレスに呟いている。オベリスクフォースもそれに気が付いたのか、なるべく視界に入れないようにしていた。

 

「ほら、セレナ。さっさとこの場の仮面変態集団を倒しますよ?敵は菊じゃないんですから、安心してください。」

 

「うう、なんだかよくわからないが、無性に怖いのだ。頭が痛いのだ。頭痛薬はないか・・・。」

 

「その原因はあとで〆ますから、今は目の前のことに集中してください。行きますよ?」

 

「あ、ああ・・・。」

 

 できれば今すぐに〆て欲しい。土下座でも何でもする。だから、今すぐに・・・。

 

 だけど、その懇願は、目の前の女性には効かないらしい。「どうしてあなたを守らなければいけないんですか?」というような目で見られた。

 

 それでも、一縷の望みをかけて女性に目で問いかける。どうやら根気で勝ったらしい。ため息をついて、オベリスクフォースを挟んだ側にいる、魔王に声をかけた。

 

「菊、流石に戦意を喪失した人たちをカードにするのは憚られるんですが。」

 

「ダメダメ、やりたいことがあるのと、ちょっと考えがあるから、殲滅してくれ。」

 

「ですが、流石に・・・。」

 

「お前がやりたくないならいいけど、どのみち俺がやるよ?それに、綺麗事でやっていける訳が無いじゃないか。戦争なんだぜ?」

 

「・・・とのことです。残念ですが、そんな捨て犬のような目で見てもダメですよ?助けませんよ?」

 

 チッ、やはりダメか。

 

 だが、この場を生き残るのには、彼女の協力が必須になるだろう。正直な話、目の前のオベリスクフォースはどうでもいいが、自分がカードにされるのだけは避けなければならない。

 

 こんなところで、躓いてなんていられないのだ。

 

「さて、十分に時間は与えただろう?さっさと始めようじゃないか。早く(ハリー)早く(ハリー)早く早く早く早く(ハリーハリーハリーハリー)!」

 

「う、うおおおぉぉぉ!!!」

 

「か、掛かれー!!」

 

「さあ、始めよう!破壊と暴力のパジェントを!!」

 

 ミツザネェ!と叫びたくなるが、そんなことは言っていられない。

 

 逃げるべきか、それとも彼らに襲い掛かるオベリスクフォースに交じり、物量作戦で押し切って倒すか。

 

 だけれど、その思いは肩に乗せられた手によって阻まれた。

 

「忠告しておきます。」

 

 そう言ったのは先ほど私が「助けて」と目で訴えていた、二人組の片割れである女性であった。

 

 彼女は、唯々やめておきなさい、と言い、三人のオベリスクフォースに向きなおる。一瞬思考停止し、乱入する機会を逃した私は、ただ彼女のデュエルを見ていただけだった。

 

「私のターン。聖騎士モルドレッドを召喚!!モルドレッドに装備魔法、天命の聖剣を装備します。モルドレッドは、装備魔法が存在している場合、効果モンスターとなり、レベルが5になり、闇属性に。そして、モルドレッドの効果を発動。デッキから聖騎士を特殊召喚し、装備しているカードを破壊します。特殊召喚するのは、聖騎士ボールス。破壊された聖剣は、聖剣自身の効果で場にいる聖騎士に装備されます。ボールスに装備。ボールスもモルドレッドと同じく、装備魔法が存在している場合、効果モンスターとなり、レベルが5になり、闇属性に。そしてボールスの効果で、デッキの聖剣を3枚選択し、その中からランダムに手札に加え、残りを墓地に送ります。選択したのは、聖剣EX-カリバーン、聖剣ガラディーン、そして聖剣を抱く王妃ギネヴィア。ランダムカットを機械に任せてもいいんですが、せっかくなんで、其処のあなた。」

 

 ちょっと早速何をやっているのか分からなくなってきたが、モンスターに装備魔法カードを装備させたことで、そのモンスターは効果を発揮したらしい。そして、そのモンスター効果で呼んできたモンスターに、聖剣をあえて破壊することで、もう一体の効果を発動させたということか。

 

 サーチと言ってもランダムなので、機械に任せるのが通例だが、彼女は、あえてそれをせず、相手の判断に任せた。

 

「・・・俺か?」

 

「ええ、貴方に決めてもらいたい。」

 

「それじゃあ・・・右のカード。」

 

「了解しました。・・・聖剣を抱く王妃ギネヴィアは、手札または墓地から、聖剣扱いとして聖騎士に装備されます。墓地のこのカードをモルドレッドに装備し、モルドレッドのレベルを5にします。」

 

 レベル5のモンスターが2体。ということはもしかして。

 

「私は、モルドレッドとボールスでオーバーレイ!二体の聖騎士でオーバーレイネットワークを構築!」

 

「エクシーズ召喚か!攻め入ったということは貴様らエクシーズの残党か!」

 

 だが、彼女はその言葉を無視した。オベリスクフォースはそれを無言の肯定と受け取ったようだが、近くにいる私には、それがただの無視であるように思えた。

 

「神聖なる円卓の王よ!今こそ降臨し、騎士道の名のもとに、尋常なる決闘を!エクシーズ召喚!ランク5!神聖騎士王アルトリウス!」

 

 出てきた騎士に、私は見惚れた。高貴な、そして神々しいまでの光。現れた騎士に、私の心は奪われた。

 

「神聖騎士王アルトリウスは、墓地の聖剣装備魔法を3枚まで装備できる!墓地のEX-カリバーンと、天命の聖剣を装備!更に手札の聖剣ガラディーンを装備!」

 

 現れた聖剣が、空中にファンネルのように漂っていく。そしてそのうちの一本を、アルトリウスが、顔の前に掲げ、主である彼女を守るかのように、其処に佇んだ。

 

「カイザーコロシアムを発動!私のフィールド上にモンスターが1体以上存在する場合、相手がフィールド上に出す事ができるモンスターの数は、私のフィールド上のモンスターの数を越える事はできません!このカードが発動する前にフィールド上に存在しているカードは、この効果の影響を受けませんが、他に出ているカードはないので関係はありませんね。」

 

 そこは、まさに一対一(サシ)の勝負をするにはうってつけの場所だった。コロセウムを彷彿とさせるこの戦場は、尋常な、正々堂々とした勝負を望むらしい。

 

「カードを一枚セットして、ターンエンドです。」

 

 まるで、倒せることが出来るなら倒してみろ、とでも言いたげに、アルトリウス(騎士王)はコロセウムの中心で唯々敵を待っていた。

 

「俺のターン、手札から、歯車街を発動し、歯車街を対象に、古代の機械射出機を発動!射出機の効果で歯車街を破壊し、デッキから、召喚条件を無視して古代の機械を特殊召喚する!」

 

「罠発動!虚無空間!このカードが存在する限り、プレイヤーは特殊召喚できません!」

 

 正々堂々とした、とか思った数秒前の私を殴ってやりたい。騎士道とかもはやかなぐり捨てていた。

 

 装備魔法で攻撃力を底上げし、特殊召喚を封じることで相手を制圧。さらにカイザーコロシアムの効果で、フィールドのモンスターの数を制限させた。

 

「・・・モンスターを伏せる。カードを二枚伏せてターンエンド。」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 一人目の手札には、あのカードを破壊する術はなかったらしい。

 

「なーんだ、まだやっていたのか、凪流。」

 

 え?

 

 気付いた時には、私の後ろに、あの男(魔王)がいた。いったい、いつの間に。

 

「魔王っていうのやめてくれない?可愛いアカデミア兵士さん?首を置いていく覚悟は出来た?」

 

 魔王じゃないか。紛れもない魔王じゃないか!何が違うんだ!

 

「失礼な。魔王モードはもう疲れたから終わりにしたんだよ。」

 

 もう、オベリスクフォースは殲滅し終えた(・・・・・・)んだから、その必要もないしね。

 

 その言葉を聞いた瞬間、気付いた。僅か数ターンの合間に、後ろのデュエルは終わっていた。私が気を取られていたのもあるが、いつの間にか彼らはいなくなっている。つまり、そういうことなのだろう。

 

 何が起こったのは気になるが私はもう今それどころじゃない。次は私の番になってしまった。目の前の人より、遥かに多くのオベリスクフォースと対峙していたというのに、目の前の人物はそれの消耗を微塵も感じさせない。私一人では、やられるのが落ちだ。

 

 そう考えた瞬間、私はデュエルディスクとデッキを地面に置いて、手を挙げた。

 

「何のつもりだい?」

 

「命乞いです。・・・私は、ここの生徒ですが、勝ち目のない試合はしない主義なんです。」

 

「じゃあ、ここでカードにされてもいいのかい?君は、デュエルを放棄した(・・・・・・・・・)。なら、カードにされる条件はクリアされている。」

 

「ですから、命乞い(・・・)だといいました。これは、抵抗しないという意思表示です。ここでカードにされるというなら、仕方がないですからカードになりましょう。」

 

 嘘である。そんなつもりは毛頭ない。だが、ここで消えるわけにはいかない。なら、答えは一つしかない。

 

「私を、買いませんか?」

 

 裏切り。ここで彼らの側につき、アカデミアを見限る。正直、未練という未練はアカデミアにはない。仲のいい友人は、『アカデミアの神隠し』の所為で、いつの間にか誰も居なくなっていた。私の数少ない知り合いである素良は、先日から連絡が取れずじまい。ここ数ヶ月連絡が取れないとなると、彼も消えているかもしれない。時たま起こる『アカデミアの神隠し』で、私がアカデミア側につく理由は殆ど希薄になっていたのだから、裏切ることに罪悪感はない。

 

「・・・君は何ができる?」

 

「そう言われると厳しいですが・・・。

 

 私はここの土地勘があります。貴方たちはどうやら別次元の人間ですから、この辺りのことはわからないでしょう?」

 

「成程、なら君が案内役になると。」

 

「ええ。」

 

「話にならないな。」

 

 ・・・やはりか。

 

「まず、一つ。そこにいる蹲って頭を抱えているのはセレナといって、この次元の人間で、俺たちにとって信用できる協力者だ。君よりも、遥かに信用できる協力者だ。彼女の協力がある限りは、土地勘云々の心配は俺達にはないだろう。

 

 二つ、俺たちがここに攻め入ったのは、君たちアカデミアのディスクを解析したときに、デッキ内容、手口、そしてここの地図を手に入れた(・・・・・・・・・・・)からだ。よって、万が一何かのトラブルがあったとしても、最悪道に迷ったり、攻め手に困ることもないだろう。

 

 そして三つ、アカデミアを裏切ろうとする君を、信用できる根拠と、メリットがない。」

 

 思っていたより最悪な状況だった。まさか既に裏切り者がいるとは思ってもみなかった。

 

 思考を止めるな、とにかく頭を回転させろ。生き残る術は・・・。

 

 そう思っていた矢先、彼は私の期待を良い意味で裏切った。

 

「ま、いいや。君にはあとで役立ってもらうことにする。ただ、デッキとディスクは没収させてもらおうか。」

 

 何を手伝わさせられるのか気になるが、助かることに越したことはない。

 

「凪流~。まだ~?」

 

「貴方みたいにポンポンポンポン倒せるわけじゃないんですから、黙ってくれません?!割と大変なんですからね?!」

 

「でも、カイザーコロシアムに虚無にアルトリウスでもう封殺しているじゃん。あとバトルフェイズ来るだけで倒せるだろう?」

 

「ええ、そうです、ね!!」

 

 特殊召喚が封じられたからと言って、効果が封じられたわけじゃない。実際、目の前の人は、何度もハウンドドッグの効果でバーンダメージを受けていた。

 

「ほらほら、負けちゃうよ?」

 

「うるさいですね!!私のターン!ドロー!スタンバイフェイズにガラディーンの効果で攻撃力が200下がります。アルトリウスの効果!オーバーレイユニットを一つ使い、アルトリウスの効果を発動!フィールドの古代の機械猟犬を破壊します!そして聖騎士トリスタンを通常召喚!」

 

 一人目の負けが確定した。残ったのは二人か。

 

「まあ、カイザーコロシアムの効果でフィールドに出すことのできるモンスターは2体までと限られているが、虚無空間で特殊召喚は出来ない。フィールドには伏せモンスターと、古代の機械猟犬がプレイヤーに1体ずつ。アドバンスのリリースにすれば、何とかなるかもしれないけど、天命の聖剣は装備モンスターの破壊を一度だけ無効にする効果がある。さらに、EX-カリバーンの効果で対象にとられない効果も付与されている。万が一、アルトリウスを破壊できても、アルトリウスは破壊されたとき墓地の聖騎士を1体特殊召喚できるから、次のターンもう一度アルトリウスをエクシーズ召喚されれば、また元の盤面に戻っていく。

 

 まったく、俺でもあれを突破するのは至難の業だよ。だれだあんなろくでもない盤面を作ろうと言い出した奴は。」

 

 なぜだろうか。言い出しっぺはこの人の予感がしてきた。

 

 そして、彼の言う通り、アドバンス召喚で出てきた古代の機械巨竜で、相打ちに持ち込もうとするアカデミア。しかし、天命の聖剣で破壊されなかったアルトリウスに、返り討ちに会う。このターン、もう一度破壊さえすれば何とかなったのだろうが、どうやらその術はないようだ。二人は諦め、ターンを譲った。

 

「あの場での最適解は、巨竜での攻撃対象をトリスタンにしていれば、そのターン展開できなくなっても、虚無空間は破壊出来た。残るライフは2800から1700になる。

 次の手番が、もし古代の機械猟犬の効果を発動した後、古代の機械魔神を特殊召喚できていれば、残りライフは風前の灯火。勝機はあった。・・・まったく、詰めが甘いな、凪流。一人を倒しきるのではなく、トリスタンでもう片方の猟犬を始末すればそんな心配をせずに済んだんだ。あやうく乱入するところだったよ?」

 

「・・・すいません。」

 

「まあ、結果論に過ぎないが、相手が突破してきた場合の対処は考えているのか?」

 

「大丈夫ですよ。手札にあれ(・・)が来ました。問題ありません。」

 

「・・・そうかい。なら、安心させて見せてもらうよ。こんなとこで負けているようじゃ、話にならないからね。」

 

 どうやら、残った手札には何やら対策があるらしい。そんな状況で、残りの二人を倒せるのだろうか。

 

 結局、彼らは負けた。残った三人は、女性の方ではなく、男性の方がカード化を行ったらしい。そのことで言い争いを彼らはしていたが、内容までは私の耳には入ってこなかった。

 

 目の前に落ちている・・・正確には、私が落としたデュエルディスクに目を向ける。そこにあるのは私のデッキ。アカデミアから支給されたものではなく、正真正銘唯一無二の私のデッキだった。命惜しさに手放したとはいえ、どうしても諦めきれない。

 

「菊、いくら何でも今のは酷すぎませんか?!命乞いをした相手に・・・!!」

 

「だから、戦争なんだから仕方ないだろう?やられないためにはやるしかない。」

 

「ですがこれは・・・!!」

 

 向こうはまだ言い争いをしているらしい。私はその隙に、デッキを手元にあったアカデミア支給の古代の機械デッキにすり替えた。幸い、常に予備として持ち歩いていたので、すり替える代わりのデッキには困らない。すり替えられたことに向こうは気付かないだろう。これで、スキを見て逃げ出すとき(・・・・・・・・・・・)、未練なく逃げ出せそうだ。

 

「・・・どうやら、着いたみたいだね。」

 

 え?と、振り向くと、後ろには大量のアカデミア兵士たち。

 

 ・・・いや、違う。あれはおそらくアカデミアではない。

 

 アカデミアは、一人を大隊長とした、一個小隊で行動する。そこから、三人組に分かれたのち、デュエルで各個撃破していく。それがアカデミアで最初に教わる戦い方だった。

 

 だが、目の前の集団は違う。よく見れば、全てがただの一兵だ。大隊長がいない。

 

 大隊長がいない状況で、私たちは行動しない、というより出来ない。そういう風に教育はされていないし、そういう指示を出されることはまずない。つまり、彼らは・・・。

 

「君たちが、零児君から派遣された、デュエリストでいいのかな?」

 

 その言葉に、彼らは頷いた。

 

 間違いない。彼らは、アカデミアの内部に潜入するつもりだ。何をする気なのかわかる。内乱(・・)を起こすのだ。

 

 内部から崩壊させるための布石として、彼らを送り込むのだ。

 

「さあ、始めようじゃないか。」

 

 魔王なんて生ぬるい。彼は、間違いなくアカデミアを、この融合次元を根こそぎ滅ぼさんと言わんばかりに。

 

 

 

 

「諸君、復讐を始めよう!」

 

 

 戦争を、宣言した。

 

 

 

   ◇

 

 

 アカデミアに菊が乗り込む2日前。

 

 赤馬零児は、胃痛で倒れかけていた。

 

 ・・・どうして、こんなことになったんだ。

 

 目の前の人物に、自分が知る限りの全ての真実は話した。

 

 父のコンピューター内部に入っていたデータ。赤馬零王の計画。3年前の、融合次元での出来事。榊遊勝の行方。そして、彼の父親が何者であったのか。

 

 全てを話した時の彼の反応は、やはりというか予想通りというか、怒りで満ち溢れた顔をしていた。

 

「へぇ・・・。零児君。いや、赤馬零児。君、そんな大事なこと隠して、俺の協力を持ちかけようとしていたとか、ちょっと虫が良すぎやしないかい?」

 

 いたって正論である。だが、こちらもなりふり構っていられなかったと言えば、とりあえずは理解してもらえたみたいだった。

 

「まあいいよ。ランサーズに入れてほしいって言ったのはこっちだ。たとえ、君から持ち掛けられた話が最初だったとしても、それは変わらない。俺はここは引いてあげようじゃないか。」

 

 嫌味たっぷりである。だが、文句は言えない。遺恨なく彼の協力を得ることに比べれば、そんなのは必要経費である。

 

「だから、零児君。あえて君にこう言うことにするよ。」

 

 そう、前置きをされた。つまり、失った信頼を取り戻したければ、言うことを聞いてくれ。そういうことだろう。

 

「・・・何がお望みですか?」

 

「アカデミアに先に攻め入りたい。」

 

 言われたことが、一瞬理解できなかった。なぜ、そんなことを言い出したのだろうか。

 

 この人は、無意味にそんなことを言い出す人ではない。感情で動いてはいるが、その実、合理性で出来ている人間だ。何か狙いがあるに違いない。

 

 問題は、それが何なのか分からないこと(・・・・・・・)なのだ。一体、何を考えているのだろうか。

 

 何事にも、理由がある。だけれども、彼の行動はそれが読めない。確実にアカデミアに対抗するには、勢力が足りない。スタンダードの人員だけでなく、他の次元の人間を用意して対抗しなければならないほどに。それくらいには、相手の実力も兵士の数も未知数なのだ。

 

「何が狙いですか?」

 

 そう言って返したことに、彼は驚いていた。

 

「・・・真っ先に反対されると思っていたんだけどねぇ。」

 

 何をいまさら。

 

「反対したところで無意味でしょう?貴方は、下手をすればそのまま単騎ででも特攻していくでしょう。それに、あなたは勝算がないことはしない人間だと、俺は思っていたんですが。」

 

「いや、まあ、勝算が無いわけじゃないんだけれど・・・。」

 

 だけれど?この人にしては歯切れが悪い。

 

「・・・そうだね、一から説明していこうか。

 

 まず、君の狙いは各次元。融合次元以外の人員を戦闘態勢に持っていくこと。そうしないと、いつ奇襲されて殲滅されるか分からない。スタンダードに至ってはそれは成功した。なら、次はシンクロ次元。もし、シンクロ次元の人間が、アカデミアについたのなら、スタンダードとエクシーズだけでは間違いなく対処できなくなるだろう。君は、それを警戒してシンクロ次元に行きたい。違うかい?」

 

 ・・・それを見破られるとは思っていなかった。

 

 その通り、シンクロ次元に行きたい理由はただ人員の確保というだけではない。融合次元とシンクロ次元、その二つが手を結ばないようにあらかじめコンタクトを取っておく。あわよくば、協力体制をつけて、融合次元への牽制にしたい。それが狙いだった。

 

「俺も、それについての重要さは理解している。だからこそ、最初はおとなしくここに居ようと思っていた。」

 

 そう。この人は最初、この場に留まることを肯定的に考えていた。だからこそ、俺はこの人に今の情報を与えたのだ。

 

「でも、流石に想像していたより状況が悪いねぇ。俺は、てっきり敵の総人数(・・・・・)にあたりをつけていると思っていたんだ。」

 

「それは・・・。」

 

 そう。俺達もそこは知りたかった。と、言うより最初は当たりをつけていたのだ。

 

 だが、一つの次元を、たった一つの軍団が滅ぼしえるなんて、早々できることじゃない。想像している人員より遥かに敵の数が多いかもしれない。

 

 そして、それは確信に変わった。いくら、重要人物の保護、もしくは奪取とはいえ100を超える人員(・・・・・・・・・)を易々とこちらに送ってくるなんて出来るのだろうか。

 

 そんなはずがない。少なくとも、敵の人員は万を超え、十万、もしかしたらそれ以上かもしれない。そこにシンクロ次元までもが敵に回れば手を付けることは出来ないだろう。

 

「それからもう一つ、謎がある。」

 

「もう一つ?」

 

アカデミアの兵士が戦う理由(・・・・・・・・・・・・・)

 

 ・・・。

 

「ずっと、不思議に思ってたんだ。どうして、彼らは戦っているんだろう。」

 

「彼らにとって、次元の統一が目的だ、と黒咲から証言を得ています。」

 

「そうだね。それに間違いはない。でも、ならなんで次元を統一しなければいけないのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

「次元を統一すれば、彼らにとって住みやすい次元になるそうですよ。」

 

「おかしいだろう?人が暮らせているんだ。住みやすいとかそういう問題の前に、普通に暮らせるならそれで人は満足するはずだ。

 

 尊厳が無くて飯があれば人は満足する。飯が無くても、尊厳があれば人は生きられる。なら、彼らには飯も尊厳もないのか?俺はそうは思わない。」

 

 どうして?と、それを問うのは野暮だろう。

 

 彼らは、よく鍛え上げられていた。その為には健やかに育つ(・・)必要があるだろう。それに彼らには、少なからず融合次元の人間である、という誇りもあった。

 

 なるほど、そういう見方からすれば確かにおかしいのかもしれない。

 

「更に言うなら、彼らの目的が、彼らだけが(・・・・・)選民的に優遇される生活を望んでいたとする。でも、それならとっくに目的は達成されてなければおかしい。

 

 既に、エクシーズ次元を滅ぼしているんだ。なら、その次元の人間を使えばいい。汚い言い方になるからあまり言いたくはなのだけれど、食欲を満たしたいなら彼らを農奴にすればいい。性欲を満たしたいのなら彼女らを情婦なんかにすればいい。尊厳欲は、下の立場が居る時点でとっくに達成されているだろう。そこは、彼らにとっては理想郷だ。

 

 だけど、そうはしなかった。彼らは、誰一人危害を加えることなくカードにしていったんだ。カードにしていた人間を、彼らに奉仕させればいいのに、そうしなかった。そうした方が、彼らは遥かに楽なのに、そうしなかった。

 

 なら、彼らの目的はなんだ?俺はそれが知りたい。そしてそれは、彼らに対する突破口になりえるかもしれない。」

 

 成程、そういう見方は自分にはなかった。やはりこの人は馬鹿ではない。目的がある。合理がある。道理がある。だが、多少殺伐としすぎているような印象も、偏っている印象もあるが。

 

「だから、俺たちはアカデミアに攻め入ろうと思う。攻め入るというよりは、潜入に近い。内部から彼らの情報を集める。情報は武器だ。必ず役に立つ。」

 

「潜入に失敗した場合、リスクが高すぎます。」

 

 そう言った瞬間、彼は笑い出した。何が可笑しいのか。

 

「リスクが高い?何を馬鹿なことを言っているんだ。

 

 その時は、俺や潜入した人間全員が捕虜になるだけだ。いや、あいつらはそれすらしない。多分、俺達がカードになるだけ(・・)だ。」

 

 だけ、と。彼はそう言い切った。随分と危ない土台。だけど、それに乗れるだけのものは作っている。

 

 だけど、それを許していいのだろうか。下手をすれば、彼ら全員を見捨てなければいけない選択を、するべきなのだろうか。

 

「・・・ですが、どうやって潜入します?」

 

「面白いものを見つけたんだ。ほら、コレ。」

 

 そう言って、彼が見せたのはアカデミア製のデュエルディスクだった。それも、恐らく上官クラスが持っているものだろう。今まで俺たちが回収したディスクとは、作りがわずかに違う。

 

「これの、ココの項目を見てほしい。コレ、多分彼らの個人IDだ。」

 

 そこには、まるで学生証のように顔写真と、個人ID。そして名前と階級が記されていた。

 

「多分、彼らはこれを使って裏切り者や潜入員を探り出していたんだろう。もし、ディスクの顔と、彼らの顔が一致しなければその時点で裏切り者。という具合じゃないかな?」

 

 それは分かっている。そんなのはとっくに解析済みだ。

 

「解析済みなら話は早い。それを偽造すればいい。」

 

「それは無理です。」

 

「え?」

 

 無理だ。そんなのは。

 

「このID。これは一度サーバー、つまりは大本のコンピューターを介して発行されたものです。ですから、そのサーバーそのものにアクセスしないことには新しいIDを作り出すことは・・・。」

 

「ならこの写真を入れ替えるだけでいい。」

 

「そんなことをしても、いつかはバレますよ?」

 

「バレていい。わずかな期間だけでもごまかせるならそれだけで情報は手に入るだろう。それに・・・。」

 

 それに、もしかしたら送り出した人員が、内部からの破壊工作を可能にしてくれるかもしれない。

 

 そう彼が言った瞬間。俺は彼を殴り飛ばしていた。正気なのか、この人は。

 

 ああ、確かにうまくいくかもしれない。でも、そんなことをすれば即刻そいつがスパイだとバレる。

 

 バレた人員がどうなるか。そんなことは分かり切っているだろう。この人は、人を捨て駒のように消費するやり方を提示してきたのだ。

 

「・・・君が殴った理由は分かっている。でも、誰かがやれば、それだけで救われる人間がいるだろう。その計画でうまくいけば亡くなっていた人間が、何人も救われるだろう。一人が犠牲になって二人が生き残れば勝ちだ。戦争なんてそんなものだろう。」

 

「人道に反する!少なくとも、俺はそれをやるつもりはありません!」

 

「もちろんだ。犠牲は少ない方がいい。だからこそ、このデュエルディスクは切り札になる。」

 

 ・・・は?

 

 どういうことなのだろうか。

 

「このデュエルディスク、負けた人員はある程度時間がたてば登録した座標に強制送還されるようになっている。このデュエルディスクは、その前にそのプログラムがおじゃんになってしまったものだけれど、それでもこれを直して、新たに組み込めばたとえ捨て駒になっていた人員でも、この場に戻ってくることが可能になるだろう。

 

 それがいかに有利なことか、君なら分かるだろう?」

 

 虚ろな目。虚ろな笑み。彼は、正しく壊れていた。

 

 恐らく、彼は誰よりもこの戦争という事実を重く受け止めたのだろう。そうでなければ、こんなことは言い出さない。戦略的、それでいて現実的で殺伐とした気配すら感じる。

 

 やはり、彼はリアリストなのだと、そう思わせた。

 

 そして俺は、この選択をしなければならないのか・・・。

 

「零児君。俺が君にするお願いは、人員を十人ほど用意して、アカデミアへ潜入する用意をしてほしいということだ。向こうについてからは、俺が何とかする。君はシンクロ次元に集中しろ。

 

 そっちはある意味、俺が行こうとするところよりも何が起こるか分からない。・・・君にはキツイ言い方になるかもしれないけど、こちらのことは気にするな(・・・・・・・・・・・・)。」

 

 それは、俺は知らなかったことにしろということだろう。部下が勝手にやったことだと。そう言うことにしろと。

 

 彼は、自分が汚れ仕事を負うつもりなのだ。そうはいかない。

 

「・・・そうはいきません。人員は用意します。事情も何もかもすべて話したうえで同意してくれる人員を探し出します。・・・貴方に追わせるわけにはいきません。

 

 セレナを連れて行ってください。彼女は融合次元の人間です。現地の情報は彼女が一番豊富です。戦略の足しになるでしょう。何より、貴方の隣が、彼女にとって一番安全だ。」

 

「そうかい。」

 

「ただし!」

 

 そう、ただし。

 

「内部破壊は、あくまで最終手段にしてください。私たちは一刻も早く、シンクロ次元との協力を得るために準備します。そうならないように事を進めます。・・・くれぐれも早まらないでください。

 

 状況は、まだそれをするまでに進行はしていませんから。」

 

「・・・留意した。」

 

 苦笑していた。そうだろう。俺だってこの決断は甘いと思っている。でも、やらなくていい残酷なことはしない。俺は、赤馬零王ではないのだ。彼のようにはならない。

 

 最初にアカデミアに言った日に、そう誓ったのだ。

 

「そうそう、ココの防衛の話だけど、代わりの人員は俺が用意するよ。とびっきりのを、だ。

 

 もう一つ。彼らにカードを支給するのなら、その調整のための準備期間を3日でいいから取りなさい。何ができるのかを理解している方が、その場で考えるよりも万倍はいいからね。調整には俺も手伝おう。

 

 そして最後に。」

 

 そう、前置きをして彼は。

 

「あの中に、裏切り者は間違いなくいる。覚悟しておいた方がいい。余計な忠告かもしれないけどね。」

 

 特大の爆弾を置いていった。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 オマケ。アカデミア10人vs菊。

 

「俺は手札から竜の霊廟を発動。その効果でデッキから真紅眼の黒竜を墓地に送る。竜の霊廟は通常モンスターを墓地に送ると、デッキからもう一体別のドラゴンを墓地に送ることが出来る。巌征竜-レドックスを墓地に送る。そして手札抹殺を発動し、手札を3枚墓地へ。三枚ドロー。墓地のレドックスとブラスターを除外し、タイダルを特殊召喚。この時、除外されたレドックスの効果で、リアクタンを手札に。ブラスターの効果でブラスターを手札に加える。手札のリアクタンの効果を発動。地属性のグローアップ・バルブとこのカードを手札から捨てることでデッキからレドックスを特殊召喚。手札の風征竜-ライトニングの効果を発動。手札のブラスターとこのカードを手札から捨てて、デッキから嵐征竜-テンペストを特殊召喚する。テンペストとレドックス、レベル7二体でエクシーズ召喚、真紅眼の鋼炎竜。鋼炎竜の効果発動。エクシーズ素材を取り除き、墓地のレッドアイズを蘇生する。蘇生するのは真紅眼の黒竜。真紅眼の黒竜とタイダル。二体でエクシーズ、真紅眼の鋼炎竜。鋼炎竜の効果で破棄った素材の真紅眼の黒竜を特殊召喚。墓地のリアクタンとライトニングを除外し、墓地のテンペストの効果を発動。特殊召喚。黒竜とテンペストでエクシーズ、真紅眼の鋼炎竜。鋼炎竜の効果発動。真紅眼蘇生。墓地のグローアップ・バルブの効果発動。デッキトップを墓地に送りこのカードを特殊召喚。真紅眼とバルブでシンクロ。スターダスト・ドラゴン。エンドフェイズに超再生能力を発動。このターン手札から墓地に行ったドラゴン族の数×1枚ドローする。墓地に行ったのは手札抹殺で3枚。征竜の効果で3枚。よって6枚ドロー。手札からもう一枚発動し、更に6枚ドロー。手札制限で6枚捨てる。ターンエンド。」

 

「おい、そのモンスターの効果は・・・。」

 

「効果を使うたびに500のダメージを与える。つまり、一度効果を使えば1500のダメージ。全体破壊を持つブラックホールなんかで除去しようが、スターダスト・ドラゴンはカードを破壊する効果をこのカードをリリースすることで無効にする。

 ・・・更に言わせてもらうなら、これは|バトルロワイヤル形式だ。鋼炎竜のテキスト記載が『カードのコントローラー』とは記載されていないため、この場合、敵全員に1500ずつダメージが入ることになる。心してかかりたまえ。」

 

「ふざけんな!」

 

「実質2回の効果でそれを突破出来るわけないだろう!」

 

「簡単に出来るだろう。少なくとも俺は出来る。・・・それから、二回ではなく三回の間違いだ。」

 

「いや、三回目使ったら死んじまうだろ!」

 

「なら三回目で突破するといい。」

 

「・・・ブラック・ホールを発動。」

 

「スターダスト・ドラゴンをリリースして無効にする。」

 

「・・・モンスターをセットして、ターンエンド。」

 

「この瞬間、エンドフェイズ時にスターダスト・ドラゴンの効果で、自身を特殊召喚する。」

 

「ふざけるなぁ!突破できるわけないだろうがぁ!!俺のターン、モンスターをセットしてターンエンド!!」

 

「俺もだ!」

「俺も!」

「俺も!」

 

「そうして全員が回しても無駄だよ。手札にはシエンの間者、チューニングガム、が存在する。次のターン、手札のブラスターの効果で俺のスターダストを破壊し、チューニングガムを召喚。征竜の蘇生効果もしくは鋼炎竜でレベル7を特殊召喚し、ベエルゼをシンクロ召喚するとしよう。ベエルゼはバーンダメージを受けたときその数値だけ攻撃力をアップさせる効果があるが、それをお前らにシエンの間者で送り付ければ、一度でも効果を発動した瞬間におじゃんだ。あ、あと死者蘇生も握っています。12枚ドローすればそりゃあ引くよなぁ。」

 

「どうしろって言うんだ・・・。」

 

「笑えばいいと思うよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




菊「DRや多元魔導よりはマシだと思っている。」
凪流「持ってんの?!」

魔王版菊先輩は、某教授のだいだいみたいな感じか、ドリフターズ3巻の106ページの信長さんみたいな感じだと思ってください

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