遊戯王ARC-Ⅴの世界に廃人がログインしました   作:紫苑菊

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 今回、インフェルニティのリベンジ回となりました。インフェルニティガンの制限を無視していますが、この小説の中では制限がかかっていないと思てください。

 それはそうと、ついにデュエルリンクス始まりましたね!作者は1時間で飽きました!・・・ぶっちゃけ、シャドバでエイラビショップやらテンポエルフやら超越ウィッチやらで楽しんでいる方が遥かに楽しかったり。次はアグロネクロ作りたいです。コントロールロイヤルは死ね。メアリーコントロールが貴様の所為で勝率微妙なんだよ・・・。

 


第10話

 

   ◇

 

 柚子が行方不明になったと聞かされた時、目の前が真っ白になった。

 

 素良とのデュエルがソリッドヴィジョンが掻き消えたことで中断され、後からやってきた赤馬零児にそれを伝えられた時、頭の中で柚子との思い出が一瞬でフラッシュバックする。お節介やきな柚子の顔、悲しんでいる時の柚子の顔、起こっている時の顔。小さい時から一緒にいたからだろうか、その記憶は際限なく頭の中を巡っていく。

 

「君たちは選ばれたのだ!アカデミアに対する槍、ランサーズとして!」

 

 赤馬零児のその言葉を聞き終わると同時に、不思議と思い出が頭の中で途切れた。思わず目の前の男に殴りかかる。

 

 いつもなら、こんな感情的になった時は権現坂が止めてくれるんだけれど、その権現坂も、話のインパクトで動けないのか、止めることはなかった。これ幸いと思いながら拳にスナップを効かせて殴りかかる。だが、その拳は他でもない赤馬零児に止められた。

 

 「悔しいでしょうねぇ。」と頭の中で声が反響する。その言葉は果たして赤馬零児の言葉だったのか、それとも自分のなかで生まれた都合のいい幻聴だったのかは頭に血が上った今では判断できない。だが、どちらにせよやることは変わらない。今は目の前のいけ好かないやつ(赤馬零児)を泣くまで殴り掛かるだけだ。

 

 もう一度殴りかかろうと体を乗り出した時、遠くからバイクの駆動音が聞こえてくる。昨今の技術は素晴らしく、音の小さいバイクが主流となっている中、排ガスをまき散らすマフラーの音がするバイクに乗っているのはよほどのもの好きくらいだろう。

 そして、俺はその余程のもの好きに心当たりがあった。

 

 やはりというべきか、その時代遅れになってしまったバイクに跨っていたのは行方不明になった柚子の兄である菊兄さん。その後ろでグロッキーになっているのは黒咲と・・・柚子?!

 

「・・・こんなバイクがあるのだな。まさか警察を振り切るとは・・・。」

 

「大丈夫かい、黒咲。」

 

「・・・多少吐いたが、問題ない。それよりも問題は。」

 

 そう言って、黒咲は柚子の方を見た。だが、柚子にしては若干様子が違う。服装は同じだけど・・・。

 

「・・・・・バイクとは吐瀉物製造兵器だったのだな。べんきょうになった・・・。」

 

「あの虚ろな目をした、セレナとかいう少女ではないか?」

 

 セレナ?やっぱり柚子じゃないのか?兄さんもどこか柚子によそよそしいのはそれが理由か。

 

「・・・体調悪かったのかな?」

 

「目をそらすな。」

 

「おうぇぇぇぇ。」

 

「あ、吐きそう。」

 

「流石にトイレに連れてってやれ。その内吐くぞ、あれは。」

 

「そうさせてもらうか。」

 

 か、可哀想に。新たな兄さんの被害者だ。あの運転は頭がおかしくて、なんで事故をしないのか不思議なレベルだと遊勝塾ではそれなりに定評がある。柚子はもう慣れたのか、吐きそうになったりあんな風に体調を崩したりすることはない。ただ、目が死ぬだけで。

 ああ、そういえば兄さんが免許を取ったと言って柚子を乗せた日はあんな感じになっていたっけ。塾長にこっぴどく叱られていた兄さんを見たのはあれが初めてだった。

 

「スピード抑えたのになぁ。ほら、大丈夫かい?トイレがあっちにあるから。ついていこうか?」

 

「・・・いや、大丈夫だ。ひとりでいける。」

 

「そう?なら行ってらっしゃい。」

 

 そう言って、菊兄さんはセレナと呼ばれた少女を近くのトイレに案内していった。菊兄さんの方はすぐに戻ってきた。

 

「何があったんだい?」

 

 と言うが、お前が言うな!と突っ込みそうになった。顔を引きつらせているから、きっと権現坂も赤馬零児も俺と同じことを思ったに違いない。

 

 全力で場の雰囲気をぶち壊したその兄さんに、だがしかし誰も言うことは出来ない。なんだかんだで突っ込みづらい。どこから突っ込んでいいやらわからない。

 

 そのボロボロになった体から突っ込んだらいいのだろうか、解説の仕事はどうしたと突っ込んだらいいのだろうか、セレナというあの柚子に似た生者はいったい何者なのかとか、なんでここにいるんだよとか、いろいろ突っ込みたいことがありすぎて何を聞いたらいいのか分からない!

 

「・・・とりあえず、この状況については俺から話します。」

 

 権現坂、勇者だ。勇者権現坂だ。あの雰囲気全部スルーして説明し始める。

 

 融合次元の兵士が攻めてきて、その中に素良がいたこと。素良と黒咲がどこかに行って、素良が連れてきたらしい融合次元の兵士とデュエルしたこと。一夜をあかして柚子を探しに行ったけど見つからず、赤馬零児の話では柚子は行方不明になっていること。素良と再会して、デュエルをしたけど決着はつかないまま、つい先ほどどこかへ行ってしまったこと。

 

 長い二日間の内容を、権現坂は要所要所をとらえて説明していく。菊兄さんが柚子が行方不明になったと聞いたところで顔色が一瞬で変わったが、落ち着きを取り戻してゆっくりと話を聞いていた。

 

 だけど権現坂は、俺が融合次元の兵士を謎のドラゴン、『オッドアイズ・リベリオン・ドラゴン』を呼び出して倒したことは言わなかった。多分、権現坂もそこはうまくまとめることは出来なかったのだろう。それに、菊兄さんに伝えたくなかったのかもしれない。俺が、あのドラゴンでやったことが、今でも信じられないのだろう。なにより、俺自身も信じられない。だけど、エクストラデッキにカードが追加されている以上、本当なのだろう。

 

 すべての話を聞いた兄さんは、ただ、一言。

 

「そうか・・・大変だったね。」

 

 と、言って俺達二人を抱きしめた。

 

「よく帰ってきた。柚子については心配ない。俺が何とかする。」

 

 そういう兄さんに、きっと安心させるための言葉だったのだろうけれど、俺はそこに食い掛った。

 

「何とかするって、兄さん!何をするつもりなんだ!?」

 

 言ってから公開する。きっと、善意で言ってくれた言葉なのに、其処に食い掛っては、その気遣いを無用にしてしまうというのに。

 

「何とかするって言ったら、何とかするのさ。」

 

 でも、兄さんはそう言ってニコリと笑い、振り返って赤馬零児に頭を下げた。

 

「遊矢が殴りかかったそうだね。申し訳ない。」

 

 これには、赤馬零児も驚いたらしい。あの鉄仮面のような顔が驚愕に染まっていた。

 

「兄さん!どうして!」

 

「・・・冷静になれ、遊矢。悪いのは赤馬零児か?」

 

「そいつは柚子を見捨てた!柚子だけじゃない!他の参加者だって見捨てて・・・。」

 

「見捨ててなんかいないんだよ、遊矢。むしろ、よくやった方だ。」

 

「どうして?!」

 

 赤馬零児がデュエリスト達を見捨てたことには変わりがないだろうに、なんでそんなことを言い出したのか分からない。

 

「遊矢、今、この街にプロデュエリストが何人いるか知っているか?」

 

「そんなこと今関係ないだろ!」

 

「遊矢、頭をヒヤシンス。」

 

「なんのネタだよ一体!冗談なんか言ってられるか!」

 

 兄さんの一言が、余計に苛立たせる。いつもなら笑って流す冗談すらが不快に思えてきた。

 

「あ~、もう、仕方ないなぁ。一から説明してやるからちょっと待ってろ。」

 

 そう言って、菊兄さんは今や時代遅れになりつつある型の携帯を取り出した。

 

「はい、コレ。」

 

「うわぁ!っと。・・・なにこれ。」

 

 そう言って投げ渡したのは何かのPDF出力で出されたリストだった。あいうえお順に並ぶ名前の羅列。その中で、何十人ものの名前に二重線で名前を引かれて消されている。

 

「それが今、LDS所属のプロデュエリスト達。名前が消されているのは、止めた人たちだよ。」

 

 仮にもトッププロだからね、辞めたプロの情報まで入ってくるのさ、なんて言っているが、いまだに話は見えない。

 

「一か月ほど前か。LDS連続襲撃事件が発生した。犯人の実力は、LDSに所属するプロの実力をはるかにしのいでいると感じた彼らは、半数を残してフリーに転属していった。残ったプロも、遠征試合という名目でこの街に残るものはいなくなっていく。そんな中、今回の事件だ。LDSが対策しようがないのも仕方がない。」

 

「それでも保護に向かう人員位いるはずだ!」

 

「その人材として、ユースチームが派遣されたのくらい知ってるだろう?」

 

「それは・・・。」

 

 確かにそうだ。それを言われたら何も言えない。

 

「更に言うなら、柚子が攫われたとき、ユースチームはもう倒されていた。それは俺が確認している。」

 

「確認しているって・・・。」

 

「・・・ユースにはな、遊矢。俺がよく知っている奴らが居たんだ。」

 

 え?

 

「あいつらの実力は俺がよーく知っている。一人は刀堂大牙。優秀な剣闘獣使い。あいつのデュエルは、豪快でいて、そして堅実に盤面を整えていく。あいつとの長期戦は・・・俺はしたくないかな。実績として、過去にあったLDS内のプロ、生徒混合の試合で準優勝している。一人は光津香澄。植物族関係のカードを使うシンクロ、エクシーズ使い。あいつのデュエルはまだまだソリティアの使い方がなっていないけど、ある程度のレベルのプロなら倒せる。実際、過去の大会で何人もプロが出場する大会で優勝したこともある。あいつとデュエルするなら、妨害札を入れておかないと危険極まりない。一人は志島凪流。聖騎士使い。聖剣によるビート、耐性持ちアルトリウスを先行で立たせて耐久戦。そして安定したデッキ回転。あいつには一度負けたことがあってね、敵に回すと厄介ではある。」

 

 ・・・泣きそうになりながら、兄さんは一人一人のことを教えてくれた。あんな顔をした兄さんを、俺は初めて見た。

 

 兄さんが言っていた凪流さんについては知っていた。昔、柚子の家に行ったとき、菊兄さんと家の前で話していたことがある。随分と仲が良さそうだったので柚子と気になって聞いてみると、仲のいいクラスメイトの一人で、大切な弟子みたいなもの、って言っていた。珍しく照れていた様子に、柚子が調子に乗っていろいろ聞き出そうとしていたっけ。

 

 凪流さんは、大会でもトップクラスの実力を持っていることは知っている。去年、マイアミチャンピオンシップの試合がテレビで流れたとき、偶然にもその人の試合だった。前大会において、結果こそ出なかったけれど、それなりに注目されていたのを覚えている。兄さんの弟子だったというのは、後で知ったことだった。

 

「他にも、グレートモスを使うデュエリスト。ベン・ケイによるビートダウンを使うワンキル使い。帝使いの優勝候補もいたかな。・・・例外なく、アカデミア兵にやられていったよ。幸いにも、凪流と帝使い君、他、何名かは幸いにもカード化を免れたようだけれど。自分の身すら守れないデュエリストを巻き込んではいたが、LDSが出来る限りのことはやっていたわけだ。保護のためにないに等しい人材を引きずり出した訳だ。」

 

 だけれど、まだ納得がいかない。

 

「それでも・・・他に方法はあったはず・・・。そうだ!この街にいるプロに片っ端から声をかけていけば。」

 

「そんな思い付き、LDSが考えていないと思うかい?現在この街に滞在しているデュエリストは俺が知っているだけで10人。実際、何人かは声をかけたみたいだね。だけれど、誰も取り合わなかった。」

 

「どうして!」

 

「遊矢・・・。」

 

 いかにも残念そうに見られている。何が何だか分からない。

 

「・・・こんなSF染みた話、常識的に考えてそうそう信用できる話と思える?」

 

 ・・・。

 

 常識性を説かれた。間違いなく常識とかそういうものから外れかけている、頭のねじが一本外れているなんていわれる人に常識を説かれた!この人の常識は世間から外れているのに、その本人に常識を説かれるとは思っていなかった!なんだか悔しい。

 

 けど、確かに言われてみればそうだ。俺だって、ユートに会うまではまったく信じていなかったし、会ってからも事実が受け入れられずに黒咲に会おうとした。それを言われると仕方のないことかもしれない。

 

「LDSに責任はない。むしろ、彼らも被害者だ。・・・まあ、世間がそれで納得するとは思えないし、大方、今回の事件を利用して何かを考えているところだろうけどね。」

 

「・・・何かって?」

 

「・・・さあね。」

 

 ・・・何かを知っている。そんな風だった。

 

 だけれど、納得がいかない、整理がつかない気持ちが収まらない。心の底から、LDSを、許すことなんてできない。

 

「・・・整理がつかないんだろう?最もだ。零児君の言い方は、あまりにも被害者のことを考えてなさすぎる。不謹慎ではある。でもね、企業のトップとしてはああいうしかないんだよ。」

 

「でも!でも!」

 

「だからさ、遊矢。いい機会だからデュエルで決着をつけな。赤馬零児に、目に物言わせてやれ。」

 

「兄さんは、それで納得してるのかよ!柚子が行方不明になっても納得できるのかよ!」

 

「・・・納得はしてない。でも、LDSを責めても何も変わらないのは理解している。なら、LDSに取り入って、柚子を、友達を、融合次元から取り返す方が、まだ建設的じゃないか。だから、俺はここで赤馬零児とは事を構えない。俺の分までやって来い。」

 

 だけど、暴力はいけませんねぇ。そう言って言うだけ言った後、兄さんはセレナを迎えに行った。

 

「・・・榊遊矢。」

 

 赤馬零児がディスクを構える。言いたいことがあるならデュエルで語れと、奴の目が言っている。

 

 結果として、俺は負けた。

 

 でも、負けた後は不思議と前だけを向いていたように思う。

 

 

 ・・・待っていてくれ、柚子。今は赤馬零児に負けるような俺だけど、きっとお前を取り返しに行くから。

 

 

 

 

 

    ◇

 

 

 赤馬零児と榊遊矢のデュエルが終わって、その1時間後。

 

 LDS、その社長室の一室で、菊と赤馬零児は今後のランサーズと、柊柚子の安否について話していた。

 

「・・・じゃあ、柚子は融合次元にはいないんだ。」

 

「ええ。この動画で、妹さんはシンクロ次元の人間と共にどこかに消えている。その後、他の場所では彼女の姿を見受けられないことから推察するに、シンクロ次元に行っている線が濃厚です。」

 

 「ふぅん、そうか。」と言いながらも、菊は心底安堵したようだった。無理もない、と零児は思う。大方敵ではないシンクロ次元の人間と居る方が、融合次元に連れ去られたということよりも状況的にまだましだ、とでも考えたのだろう。

 

 そしてこのことは赤馬零児にとってもうれしい誤算だった。今、この段階で菊が感情的になって、ランサーズから抜けられることは、こちらにとって大きな痛手になる。LDSにとって、彼は重要な広告塔(客寄せパンダ)になりえるのだ。

 

 プロでも屈指の実力者が、戦争に第一線として活躍する。となれば、彼のファンである実力者や、彼の縁者、彼と親しいプロデュエリスト。そして何よりインダストリアル・イリュージョン社にも協力が要請できるかもしれない。

 

 更に言うなら、世間にこちらが正義である、大義はこちらにある、とアピールしやすくもなるのだ。レオコーポレーションの人間ではない、第三者が入るだけで、LDSだけが主張するSF染みた世迷い事から、現実味を帯びたアピールとなる。世間での重要度が一気に増すだろう。

 

 そのためにも零児は今、ここで彼と不和を作りたくはなかった。プロに入ってから何度も世話を焼いてもらった恩人と言うことを抜きにしてもだ。

 

「・・・まあ、理解したよ。そして、LDSとしては融合に攻め入るまでは俺はここにいてほしいわけだね。」

 

「ええ、シンクロ次元の人間に協力を得られ次第、融合次元に向かいます。なので、その時までこちらで万が一のための防衛に徹してほしいのです。」

 

 そう、その時まではここにいてもらう。マイアミチャンピオンシップの時の彼の行動から、もはや彼が融合の間者であるとも、シンクロの人間であるとも考えてはいない。もし間者ならセレナをここまで連れては来なかっただろう。

 

 『セレナの保護』を彼に頼んだのは、実はテストだった。彼が本当に間者であるのかどうか、見極めるための。その結果、彼は襲い掛かる敵集団をなぎ倒し、彼女をここまで連れてきた。

 

 これにより、零児の彼に対する疑いは無くなった・・・筈だった。

 

 彼の目の前に現れた謎の男。敵なのか、味方なのかはっきりしない男と、なぜか目の前の彼は親しげだった。それにより、またもや疑問が生まれる。せっかく払拭した疑惑が、ここにきてまた発生していた。

 

 なので、現状ここにいてもらう。融合次元への進行は、彼抜きで秘密裏に行う(・・・・・・・・・・)、というのが会長である零児の母と秘書の中島、そして零児の結論だった。

 

「・・・それについては留意した。それで、君の計画ではシンクロ次元の協力はどれくらいの期間で得られそう?」

 

 零児はこの質問に思わず舌打ちをしそうになった。あまりに交渉期間が長すぎれば、不審に思われるかもしれない。だが、短すぎれば、その間に融合次元に攻め入ることは出来ないだろう。

 

 今の菊は、零児含むランサーズにとって大きな不発弾だった。彼が本当にスパイだったのか、それとも味方なのか。あるいは、そのどれでもなかったのか。いつ爆発するかもわからない、爆発して何が出てくるのかもわからない。

 

 昔読んだ神話に、似たものがあったなと零児はふと思い出した。災いの女、パンドラが持っていたパンドラの箱。開けた中にはあらゆる災害が出てきたが、最後に残ったのは希望だった。

 

 果たして、彼を開けてもいいのか。そんな賭けを、零児は立場上取ることは出来ない。

 とりあえず、当初の予定である1ヶ月を半月ほど幅を伸ばして彼に伝えた。不確定だから何とも言えないが、と保険を添えて。

 

「・・・・・成程ねぇ。」

 

 思わず、背筋が凍った。まさか、今の嘘を見破られたのではないのではないかと錯覚させられた。

 

 そんなはずはない、と思いながらも疑念が拭えない。目の前の、ボロボロの人間一人が、とにかく不気味に思えてならない。

 

「まあ、いいや。それにしても、LDSも中々に強かだ。」

 

「え?」

 

「今日の、侵略戦争に関する演説だよ。」

 

 それは、先ほど流した融合次元の存在を知らせるために流した映像のことだろう。

 

 何が言いたいのだろうか、この人は。

 

「例えば、アカデミアの侵略を世間に発表したとする。今回に関しては試合撮影用の大量のカメラがあるから、信憑性に関してはいくらでも補填できるから、存在を疑われることはもうないだろう。

 

 と、なれば後は足りないものは人員。戦争をするにもなんにしても、まずは兵士と武器がいる。武器(カード)に関しては、いくらでも替えがきく。なら、あとは兵士だ。それも、良質な兵士。」

 

「待ってください、菊先輩!そんなことは!」

 

 無いわけではない、がしかし、それを認めてはどんな不和が起こるか分からない。それに、俺は。

 

 俺は、父みたいに兵士を使い捨てとも、思ったことはない。あくまで仲間として・・・。

 

 だが、彼は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「零児君がそれをするとは思ってないよ。でも、君のお母さんはどうだろうね。」

 

「それは・・・。」

 

 ない、とは言えない。あの人が変わったかのように仕事に専念し、侵略のことが分かった時には、まるで目標(復讐の理由)が出来たかのように嬉々とした表情を浮かべていた。中島に言われるまで、自分が笑っていることに気付かなかったほどだ。

 

「リアルソリッドヴィジョンの開発で大きくなった企業、レオコーポレーション。その企業が成り立つ過程で、多くのデュエル関係の企業があの会社に(弱み)があるというのは有名な話だ。そんなレオコーポレーションが要請すれば、名のあるプロデュエリストが集まるだろう。」

 

 そんなことを言い出す菊先輩は、何故だかあの時の母を連想させた。目は爛々としていて、留まらない暴走特急を連想させる。

 

「正義がこちらにあるということを焦点に置いてスピーチをすることで、LDSはさらに塾生が増えるだろう。正義の使者(ヒーロー)を作り出すという名目の元、LDSは力を付けていくことが出来る。」

 

 ああ、母の策略は、やはりこの人にはバレていたのか。侮っていたとしか言えない。

 

「その、正義の使者に、『ペンデュラム』を操る遊矢、『LDS』トップである赤馬零児。そして・・・自分で言うのもなんだが、プロトップクラスの俺。これだけのネームバリューを持つデュエリストを集めたんだ。遊矢と俺に関しては、世間では海外でも注目されている有望株、企業側の注目は零児君。客寄せパンダにはもってこいだ。」

 

 そして、浅はかだった。時間がないとはいえ、この人を甘く見すぎていた。ここまでバレているとは思いもしなかった。ここまで直結的な表現をされるとは思ってもみなかったが。

 

 言葉を続ける先輩が、今度は一息置く。思わず、怒られると思って身構える。

 

「でもさぁ、名前を使うならせめて一言言ってよ!おかげでマネージャーと会長直々に怒られたんだからな?!」

 

 電話代がやばいんだけど?!と激昂する先輩に、今度は脱力させられる。確かに、今回の件は早急すぎて、インダストリアル・イリュージョン社相手にアポイントメントなどを取ることが出来なかった。仕方なしに実際に演説としては、プロとしての彼の名前は使わず、あくまで一市民の協力者として彼の名前は使ったが、やはりギリギリのラインだったのだろう。こちらにまで連絡は来ていないことから、あくまで菊さんの独断だった、ということにはなってはいるのだろうが・・・。

 

「まあ、いいや。インダストリアルイリュージョン社としての決定は、『当面の協力はするが、あくまでプロ個人の意見を尊重する』とのこと。協力者を積極的に送り込むことはしないけど、勧誘は自由。ただしプロの籍はこちらが持ってるから、どさくさに紛れて人員の補充は許さんぞってことだね。あとで社長と会長直々に、LDSの母体であるレオコーポレーションに連絡がいくんじゃないかな。」

 

 まあ、妥当なラインだろう。・・・だが、そんな重要なことをなぜそんなに軽く伝えるのだろうか。

 

「向こうも、俺が移籍しないか心配なんだねぇ。」

 

「菊先輩ほどのプロなら、不思議ではないかと思いますが。」

 

「・・・そう、かなぁ。」

 

 一気消沈したかのようなその声を、彼はよくする。

 

「・・・前から気になっていたんですが、貴方は自分を過小評価していませんか?」

 

 え?と彼は声を出した。そしてどこか戸惑っている。

 

「貴方の実力は、十分すぎるほどに強い。なのに、それを褒めるとなぜか何とも言えない表情をするので、少し気になりまして。」

 

「・・・ああ、そういうこと。」

 

 合点がいったとばかりに納得する。そして、少し考えた後、彼は口を開いた。

 

「・・・俺がプロでやったことなんか、ただのテンプレートなデッキ構築と、予習とメタだけだから。ある程度頭さえ回ればあんなデッキなんて誰でも回せる。」

 

「そんなことはありませんよ。」

 

「あるんだよ。」

 

 たかがデュエルだ。そういう彼の言葉は、プロとしての顔ではなく、先輩としての顔でもなく、彼の本音だった。

 

「デュエルなんて、たかがゲーム。プロだって、プロゲーマーの延長戦。そんな風に思ってたのになぁ。」

 

「・・・それは、俺も思っていました。2年前までは。」

 

「だよねぇ。・・・さっきなんか、よくわかんない男に説教かまされちゃったよ。」

 

「説教?」

 

 それは、あの映像に映っていた男のことだろうか。10分にも満たない時間、その中で先輩と男はデュエルをしていた。残念ながら、映像は途中で途絶えた(一時的に停電に陥った区域でもあったのでこれは仕方のないことだと諦めた)ので、その合間は観察することが出来なかったが、何かあったのだろうか。

 

「いやね?なんでも、『お前のデッキには、信念が宿っていない。そんな、相手を気遣っているデッキでは何もなすことは出来ない。お前が本当にやりたいデッキを使うべきだ。』とかなんとか。・・・まあ、趣味に合わない方界デッキを、使われたことを見抜かれたんだろうけど、なんだかムカつくなぁ。偉そうにそれだけ言ったら結果は見えてる、とか言って帰っちゃって。せっかく稀に見るいい勝負だったのに。」

 

 ・・・。

 

 その、内容に思わず納得していた。信念が宿らないデッキ。以前から彼のデュエルに感じていた違和感。デュエルをする時にたまに驚くくらい、苦々しい表情を浮かべることも。

 

 きっと、彼はデッキを信じていない(・・・・・・・・・・)のだ。デュエリストは普通、自分が作りあげたデッキを信じて、戦う。だからこそ、ピンチの時に逆転のカードを呼び寄せることがある。デッキを信じているから、どんな手札だって、展開することが出来る。それを楽しむのが、デュエルの本質だった。

 

 だけど、彼はそうではないのだ。数多のカードの中から最適化されたものだけを選び取り、それを組み立てることで無駄を無くしている。だが、それは言ってしまえばカードを信じたり、己の運に任せる、などということではない。完成されているのだから、ある程度何かを引いてもリカバリが効く。

 

 言ってしまえば、自分たちとは全く違うデッキの作り方。デュエルを楽しむのではなく、勝つために構築するデュエル。

 

 ああ、それは強いはずだ。なんせ、そこにあるのは自分のデッキではない、自分の意思もこだわりの欠片もないデッキ。勝つために洗練されたデッキなのだから。

 

「・・・俺には、その男が何を言いたいのか分かる気がします。」

 

「・・・本当に?俺にはさっぱり分かんない。」

 

 つまり、この人はデュエリストではなかった。この人は・・・。

 

 だが、それを証明するのにはまだ、何かが足りない。思わず、質問をぶつけてしまった。

 

「・・・貴方は、自分がデュエルをしていて楽しいと思ったことはありますか?」

 

「あるよ?遊矢や柚子、権ちゃん。それに、凪流や香澄、大牙とやってるときは最高に楽しいね。」

 

「そうではなくて、プロの試合の時です。その、今言ったメンバー以外と言い換えてもいい。」

 

「あるわけないじゃん。」

 

 仕事だよ?

 

 そう、言った。即答だった。そして同時に自分の考えが間違っていなかったことを知る。

 

「貴方は・・・。」

 

 思わず、感情的になってしまう。抑えろ、抑えろと念じても、内からあふれ出てくる。

 

「どうしたの?零児君。泣きそうな顔してるけど。」

 

「貴方は、デュエリスト失格です!」

 

 ぽかん、とした顔のこの人に、今だけは殴りかかりたくなる。

 

「デュエリストは、自分のカードを、デッキを、モンスターたちを信じて戦う!それなのに、完璧な相性だけで組まれた、ただただ強いデッキ?それだけならまだしも、それを欠片も信じずに戦う!そんなのはデュエリストじゃない!」

 

 そんなのは、そう、こう表現するべきだ。

 

「貴方は、ただのリアリストだ!」

 

 リアリスト。その言葉を聞いた瞬間、彼の顔が驚愕に染まる。知りたくはなかった。プロとして先輩と仰ぎ、一度は師事してもらったこともある。そんな人が、誰よりもデュエルが強い人が、誰よりもデュエルを楽しんでなかったのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。だが、そんなことは関係ない。今だけは、彼の後輩として言いたいことを言わせてもらう。

 

「貴方のデュエルは、ただ、緻密に計算が練られただけの紙束に過ぎない!本当のデュエリストなら、強い弱いじゃなく、自分の好きなカードで強くあるべきだ!」

 

 そうだ。デュエリストなら守らなければならない、最初の一線。それが、この人にはない。

 

「答えてください、菊先輩!」

 

 胸倉をつかみ、顔を近づける。面食らったこの人に、言葉をぶつける。

 

「貴方はッ!私と最初にデュエルした時、楽しいと思いましたか?!」

 

 数秒、沈黙が来る。

 

「・・・楽しかったよ。」

 

「なら、あれは貴方のデッキでしたか?!」

 

 矢継ぎ早に質問をする。そうして、彼の本音を聞き出そうとした。そうすれば、きっと彼も答えてくれるだろうと思ったから。

 

「・・・ははは。」

 

 だけど、彼は乾いた笑いを吐き出した。

 

「・・・ふふふ。あは、ははははは。」

 

「何がおかしいんですか?!」

 

「・・・俺のデッキ?そんなわけないだろう。」

 

 やはり、そうだったのだ。彼のデッキを、彼の本当のデュエルを、俺は知らなかったのだ。

 

「あの時のデッキは、俺からすればネタの域にすぎないさ。ユベルに君は随分梃子摺っていたけれど、あんなのキラートマトが入るデッキで、コストとして少しレベルが高いモンスターが必要だったから入れただけのカードでしかなかった。」

 

「何を言って・・・。」

 

 あれが、ネタ?反射ダメージで返してくる、戦闘では破壊されない、効果破壊すれば次のユベルがやってくるのに?

 

「あのデッキは儀式デッキだった。儀式のキーパーツを揃えるまでの時間稼ぎ兼コスト。その程度のカードにどんだけ時間かけるんだよ。あの時は笑いそうだった。可笑しくって腹痛い。」

 

 ・・・あれが、コストでしかなかったというのか。あれより強い該当する儀式モンスター、一体切り札は何だったのか?

 

「ハンバーガー。」

 

 は?

 

「あれ、ハングリーバーガーデッキだった。」

 

 ハングリーバーガー。

 

 攻撃力2000、守備力1850。効果、なし。

 

 それのコストとしてあんなモンスターを採用しようとしたのか?

 

「観客に対する受け狙いさ。元々、あれは食材関連のカードを探している時にキラートマトを見つけて、それのリクルート範囲内でなおかつ一枚でバーガーが出せる程度に思っていたカードだった。手札に来てもコストにしてしまえばいい、程度のモンスター。・・・本当だよ?まあ、ガイウスデッキにあそこまで戦えたんだ。十分楽しめたと言っていいだろうね。」

 

「・・・なら、あのインフェルニティはどうなんです?!」

 

「俺はあれをインフェルニティなんて言わない。あのデュエルはインフェルニティの動きとは到底呼べないね。ミラージュも入ってない、ガンは1枚。ヘルウェイは2枚あったけど、俺が使うのはリベンジャー採用の方で、ビートルは趣味じゃなかった。あっちの方が安定感はあるはずなんだけど、不思議なことに事故ってしまったんだよねぇ。」

 

 あんなデュエル、インフェルニティ使いに失礼だ。ガンの使用制限もかかってないのにわざわざ一枚にしたら事故っちゃって。いっそ、ゴーズ抜かなくてよかった。その言い方に、思わずカチンとくる。

 

「・・・・。」

 

「納得がいかない?なら、インフェルニティ今あるからデュエルしようか?」

 

「え?」

 

「・・・あの時のペンデュラムスケール。あれ、バグでしょ?あのスケールが変わってなければ負けていたのかもしれないし、雪辱戦さ。・・・お望み通り、本気を見せてあげよう。」

 

 ・・・いいだろう。仮にもデュエリストだ。あそこまで言われて何も言い返せないのも癪だ。

 

「なに?ここではダメだったかい?なにか気に障るとか?」

 

 気にしている(ムカついている)のは貴方のその態度だ。場所は関係ない。

 

「そう、じゃあ始めようか。」

 

 だが、先輩はそんな毒をまったく気にせず、続きだとでも言わんばかりにディスクを構えた。

 

 出た目は3。菊先輩は4。先行は相手(先輩)から。

 

 そして、実質デュエルは先行で終わった。

 

「俺の先行。・・・手札から、増援を発動し、ダークグレファーを手札に加える。そしてそのまま召喚。チェーンは?」

 

「ないです。」

 

「では、ダーク・グレファーの効果を起動し、手札のヘルウェイ・パトロールを捨てる。デッキから闇属性モンスターを墓地に送りたい。」

 

 恐らく、エフェクトヴェーラーのようなカードを警戒していたのだろう。こちら側にアクションがあるか尋ねてくる。

 

「通します。」

 

 その言葉を聞いた先輩は、安心したような、それでいてがっかりしたような顔をした。

 

「なら、デッキからインフェルニティ・リベンジャーを墓地に落とす。手札断殺を打ちたい。」

 

「・・・いいでしょう。手札を2枚捨てます。」

 

「俺は手札を2枚捨てる。」

 

 捨てられたカードは・・・、まずいな。直感で判断できるほどに、見たくないカードだった。アレが来る(・・・・・)

 

「手札を1枚伏せる。ソウル・チャージを発動し、インフェルニティ・デーモンと、インフェルニティ・リベンジャーを蘇生する。特殊召喚したデーモンの効果、手札が0枚の時にインフェルニティカードを手札に加える。で、インフェルニティ・ミラージュを手札に加える。」

 

 前のデュエルの時にも出された、究極のシンクロモンスター、その一角。

 

「フィールド上の合計レベルは、9。グレファー、デーモン、リベンジャーでシンクロ。トリシューラ。零児君の墓地のアビス・ラグナロクと手札を1枚除外する。」

 

 ・・・やはり、出てきたか。残念ながら、妨害札(ヴェーラー)は手札にはない。なすすべなく消えていく2枚のカード。だが、このぐらいならまだリカバリが効く。

 

「そして、墓地のヘルウェイ・パトロールの効果で手札のインフェルニティ・ミラージュを特殊召喚。」

 

 インフェルニティの効果を、最大限発揮できる、ハンドレスの状態にあえて戻し、伏せていたカードを発動させた。

 

「伏せていたシンクロキャンセルを発動し、デーモン、リベンジャー、グレファーを蘇生。デーモン効果でインフェルニティ・ネクロマンサーを手札に加え、グレファーの効果でネクロを捨ててデッキからヘルウェイ・パトロールを墓地に落とす。」

 

 シンクロキャンセル。それは、シンクロモンスターをエクストラデッキに戻すことで、その素材になったモンスターをもう一度特殊召喚できるカード。滅多に使われないカードではあったが、場合によってはこのように素材になったモンスターの効果をもう一度発動できることが出来る。そしてなにより・・・。

 

「そして再度シンクロ召喚、トリシューラ。零児君の墓地のネクロスライムをゲームから除外して、手札も1枚除外する。」

 

  なにより、シンクロ召喚時の効果をもう一度発動できるのは何よりのメリットと言えるだろう。もう一度、絶対零度の龍が召喚される。これにより、墓地は無くなり、手札は3枚になった。

 

「ミラージュは手札が0枚の時にリリースすることで墓地のインフェルニティ2体を特殊召喚できる。デーモンとネクロマンサーを特殊召喚。」

 

 やはり、かなり強力な効果を内蔵していたようだ。これにより、またしてもデーモンの効果が発動する。

 

「デーモンの効果で、手札が0枚の時にサーチ、持ってくるのはインフェルニティ・ガン。ガンをセットしてネクロマンサーの効果。手札が0枚の時、墓地のインフェルニティを蘇生。対象はリベンジャー。」

 

 サーチしたけど、伏せればいいよね。みたいな軽いノリでまたハンドレスに戻る。今度はレベル8が出てくるらしい。

 

「特殊召喚したリベンジャーとネクロとデーモンでシンクロ。PSYフレームロード・Ω。」

 

 この瞬間、最大限に嫌な予感がした。あれだけは、早々に始末しなければならないという思いにとらわれる。

 

 背筋が凍る。体毛が逆立ち、逃げなければという思いに駆られていく。だが、どこにも逃げる余地はない。

 

「Ω効果、相手の手札一枚を次の俺のスタンバイフェイズまで一緒に除外する。」

 

 セレナとの闘いを見ていたから、あのモンスターの効果はよく知っている。だが、幸いにも仁王立ちは落ちていなかったらしい。なにより、早々に退場してくれたのはありがたい。ふう、と心を落ち着かせる。

 

 だが、それは地獄絵の始まり、ファンファーレに過ぎなかった。

 

「ガン発動。ガンを墓地に送ることで効果発動。インフェルニティを2体、蘇生できる。インフェルニティ・デーモン、ネクロマンサー。・・・ミラージュは墓地からの特殊召喚は出来ないからね、残念ながら。」

 

 以前のデュエルでも使われた、強力な蘇生魔法が芽吹き、またもやフィールドに2体、インフェルニティが揃う。・・・数秒前の嫌な予感はまだ終わっていなかったのだ。

 

「デーモン効果でガンサーチ。セットしてネクロ効果でリベンジャー蘇生。デーモン、ネクロ、リベンジャーでΩ。」

 

 まずい。

 

「Ω効果でその手札も除外。」

 

 まずいまずいまずい!

 

 だが、そんな心の声は空しく消えていくのみ。手札は、とうとう一枚にまで減ってしまった。だが、その手札も・・・。

 

「ガン発動。デーモン、ネクロ蘇生。デーモンでガンサーチ、セットしてネクロ効果リベンジャー。リベンジャー、デーモン、ネクロでΩ。」

 

 その最後の一枚も。先ほどと同じように、除外されるだけなのだろう。

 

「Ω効果で手札と除外。」

 

 ・・・手札が、無くなったな。

 

 だが、それでも地獄は終わらないのだ。

 

「ガン効果でリベンジャー、ネクロを蘇生。ネクロ効果でデーモン。デーモン効果で持ってくるのはミラージュ。デーモン、ネクロ、リベンジャーでシンクロ。ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン。」

 

 まだ、シンクロを呼び出すのか。もはや次のターン、Ωが戻ってくる時点でオーバーキルなのだが、それでは満足しないらしい。

 

「墓地の、ヘルウェイパトロールの効果を発動。除外して手札の悪魔を特殊召喚。ミラージュを特殊召喚。ミラージュ効果でデーモン、ネクロ蘇生。デーモン効果でデッキからインフェルニティ・バリアを手札に加える。バリアをセット。ネクロ効果でリベンジャー。デーモン、ネクロ、リベンジャーでシンクロ。」

 

 そして、何より不吉なカードが、目の前で召喚された。

 

「煉獄龍オーガドラグーン。」

 

 ・・・いまだに続く嫌な予感の正体は間違いなくコレ(・・)だろう。何か、嫌な力とでもいうような気を感じる。ただのソリッドヴィジョンのはずなのに、其処にはリアルソリッドヴィジョンを超える何かがあった。

 

「さらに、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果発動。墓地の闇属性、レベル6以下のモンスターを除外することで、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンをそのモンスターと名前を同じにして、同じ効果を得る。」

 

 ・・・手札が無くなったから安心、ということではないらしい。墓地のモンスターを酷使し、再びあの悪魔が呼び寄せられた。

 

「俺は、ワンハンドレッドをインフェルニティ・ミラージュに変更し、ミラージュ扱いのワンハンドレッド・アイ・ドラゴンをリリースすることでデーモン・ネクロを蘇生。デーモン効果でバリアを手札に加え、セットしネクロの効果で墓地のリベンジャーを蘇生し、シンクロ召喚。ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン。」

 

 おそらく、再び墓地に直行するであろうドラゴンが再びあらわれる。

 

「ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンの効果で墓地のミラージュを除外し、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンをインフェルニティ・ミラージュにする。ミラージュ扱いのワンハンドレッド・アイ・ドラゴンをリリースして、デーモン、ネクロを蘇生。デーモンの効果でデッキから手札に加えるのはインフェルニティ・ブレイク。ブレイクをセット。ネクロ効果でリベンジャー蘇生して、シンクロ召喚。インフェルニティ・デス・ドラゴン。」

 

 再び現れたのは、不思議な形をした龍だった。だが、おそらくインフェルニティ、という名前から、何か手札が0の時限定の強力な効果を持っているとみていいだろう。

 

「これで、ターンエンド。・・・これで、満足したぜ。」

 

 そんだけ展開していればそりゃあ満足でしょうよ、という声をグッと飲み込み、現実逃避しかけたデュエルを再開させる。

 

「俺のターン、ドローします。」

 

 引いたのは、地獄門の契約書。デッキからDDモンスターを手札に加えることのできる優秀なカードだが・・・。

 

「地獄門の契約書を発動します。」

 

「オーガ・ドラグーンの効果、1ターンに一度、魔法、罠の効果を無効にして破壊する。」

 

「・・・・・。」

 

 黒咲とアカデミア(紫雲院素良)のデュエルで、『こんなのデュエルじゃない!』と大会で叫んでいた榊遊矢にこれだけは言いたい。そのセリフは今こそふさわしいと。

 

 これなら、まだX-セイバーによるハンデスの方がマシかもしれない。それくらいには全くリカバリが効かなかった。勝てると思っていた数分前の自分を殴りたい。

 

「・・・これなら、トリシュ3連打まではできたかな?やっぱりインフェルニティは難しい。トリシューラはやっぱり3枚積んだ方がいいね、うん。そうすると、やビートル積んだ方がいいのか?でも、ヘルウェイ対応してないしレベル2だからオーガ出しにくいし・・・。ブリュ経由させるか?でもそうなるとレベル6シンクロ入れなきゃならないからエクストラの枠がなぁ。」

 

 ちょっと何を言っているのか分からない。今ので全力じゃなかったら全力はいったい何なのか。

 

 ガンでデーモン蘇生してガンをサーチするのは、どう考えてもインチキだろう。

 

「そう思うだろう?だからあの時はガンを1枚しか入れていないタイプのデッキを使ったんだよ。慈悲だよ慈悲。」

 

 確かに、インチキ臭い。だけど、だからと言って、自分からデッキに制限を掛けたりするのはどうなのか。

 

「だって、そうでもしないと君たちとまともに戦えないから。」

 

 ・・・。

 

「今のデュエル、ダークグレファーにエフェクトヴェーラーを打っていたら俺はあそこまで展開することが出来なかった。手札断殺以降に握っていると仮定するなら、デーモンにヴェーラーを打っていたら、あそこまで展開されることはなかったし、幽鬼うさぎなら多分手札と墓地はもう少し残ったんじゃない?増殖するGなら、俺は手札を無闇に増やさないためにもターンを回さなきゃいけなかったし。」

 

「常に相手が手札誘発を持っているとは限らないでしょう。」

 

「でも、俺が求めるレベルはそのライン(・・・・・)だ。今回は、極端な例だけどね?俺が本当に使いたいデッキは、あれくらいに展開(満足)するデッキばっかりなんだよ。だけどそれを使うと、周りからなんて言われるかわかったもんじゃない。だから、使えない。」

 

「ですが、それではゲーム(遊び)として成立しないでしょう?そんなのは、デュエルじゃない。」

 

「デュエルだよ。カードとしてすでにデザインされていて、その範囲で使っているんだ。でも、使えば文句を言われる。だから俺は全力を出さない構築(・・・・・・・・・)にしているんだ。」

 

 でも。

 

 でも、そんなのは強者の傲慢だ。真剣にデュエルをしている相手に、失礼だとは思わないのか。

 

 そう言おうとして、続けられた言葉に何も言えなくなった。

 

「でもね、零児君。今みたいなデュエルを、みんなの前ですると、なんていわれるのか想像つくかい?」

 

「・・・。」

 

「外道って、そう呼ばれるのさ。」

 

 そこから話されたのは、彼がまだ中学生の時、榊遊矢が虐められていた時に自分の全力のデッキを使って追い返した後の話だった。

 

 虐めていた連中が、兄弟や友人を使って囃した噂。いや、噂と言うより事実なのだが、彼は一時期、人を叩き潰す外道デュエリストと呼ばれるようになった。

 

 自分は盤面を整え(楽しみ)、その後妨害して、相手に全力を出させる前に片付ける。あいつとやってもデュエルを楽しむことなんて出来ない。そんな風に噂をたてられ、彼は柊家にやってきた後に転校した先、その学校で孤立した。

 

 それだけならまだよかった。だけど、彼が庇った遊矢や柚子にまで飛び火し、孤立しかけたのだという。幸いにも、権現坂やいい友人に恵まれていた遊矢達や遊勝塾の被害は其処までではなかったのだが、だからと言ってその影響は無視できるものではなかった。

 その後、デュエルで全力を出すことは無くなった。全力を出せないから、デュエルに関する戦略を全て練り直した。

 

 その結果が、『軍師』と呼ばれる所以になったのだろう。相手のデッキを知り尽くして、妨害は最低限に。そしてある程度ターンをまたいでから止めを刺すようになった。彼はそう言った。

 

 ・・・多分。

 

 この人のデュエルは、俺達よりはるか高みにあったのだろう。だから、俺たちに、世間には、決して全力のデッキを使わなかった。そうしなければ、周囲と不和が生まれると知っていたから。

 

 だけど、その実力は決して隠せるものじゃなかった。手加減はしている。でも、手加減をしても勝ってしまう。態と負けようにも、デュエルの公式試合は後に公開されるとき、手札も映し出してしまう。変な負け方をすれば、周りから弾劾される。それはそれで不和が生まれると考えた。だから、デッキそのものを本当の実力の半分以下で構築するようになってしまったのだ、と彼は語った。

 

「俺だって、もっといろんなデッキを使いたい。でも、どれもダメなんだ。相手を殲滅するだけじゃない。後攻ワンキルが当たり前になる。そもそも俺にとって4000のライフは少なすぎるんだよ。」

 

「それは・・・。」

 

「・・・全力で相手をしたのは、さっき言ったメンバーだ。あいつら、ちゃんとまずい時に妨害してくるから手ごたえがあったし、遊矢達は何をしてくるか分からないから、三人とは別の意味で楽しめるし、何より俺の手の内を知っているからきちんと対処してくる。・・・まあ、遊矢達には本気っていうほど本気は出してないけれど。

 

 ・・・でも、今気づいたよ。確かに俺は全力でデュエルを楽しんだことなんて、ほとんどなかったのかもしれないね。」

 

 やっぱり、引退時かな?デュエルも。

 

 そういう先輩の目は、見たくもない現実に気付かされたような、そんな絶望感あふれる目だった。

 

 その目を見たとき、思った。もしかして、この人は。

 

「・・・もしかして、気付いていたんですか?」

 

「・・・まあ、ね。うっすらとだけど。」

 

 ああ、そうだったのだ。違和感の正体、そして矛盾。

 

 ・・・彼は、気付かないようにすることで、目をそらすことでデュエルを楽しんでいたかったのだ。

 

 周りと不和を作らない代わりに、自分のデュエルを、身勝手な自分を抑え込む。社会で生きる上で、それは仕方のないことだと諦めながらも、自身のやりたいことが出来ないから、楽しめない自分。そんな自分を、目をそらすことで抑え込み、自分はデュエルが好きなんだと思い込もうとしていたのだ。

 

「なあ、零児君。やっぱりゲームは趣味で終わらせておくだけでよかったんだよ。プロなんて碌なもんじゃない。」

 

 ・・・だから、こんな簡単なことも分からない。

 

 それは、その生き方は違うのだ。別に、そんなことをしなくてもいいということに気付いていない。

 

 そのことだけは、違うと伝えなければならない。プロとして、デュエリストとして、それだけは絶対に伝えねばならないのだ。

 

「別にいいじゃないですか、好きなようにやれば。」

 

「ハァ?」

 

 人の気も知らないで。そう、怒った眼をしている。

 

 ・・・でも、それは違うのだ。

 

「やりたいようにやる。遊びなんです、好きにやらないでどうします。」

 

「俺にとって、今のデュエルは仕事だ!遊びではできない!」

 

「元々、遊びのものを楽しまない!それこそがおかしいとは思わないんですか?!」

 

 う、と口を閉じる。そこに、ここぞとばかりに畳みかけた。

 

「貴方は、身勝手であるべきです。・・・もう少し、楽しんでもいいんですよ。だって、『やるときは真剣にやらなきゃ損。遊びも、仕事も、何もかも。』でしょう?」

 

 だって、これは。

 

「貴方が、プロに入るときに教えてくれた言葉です。」

 

 貴方が、プロになって最初に教えてくれたものなんだから。

 

 この人のことだから、深く考えずに言った言葉なのかもしれない。でも、それでもあの時の俺にはその言葉がとてもうれしかったのを覚えている。

 

 プロになった後、父の居所や何をしようとしているのかも判明し、俺は一時的にデュエルが出来なくなっていた。何をしても楽しくない無気力な状態に陥ったこともある。

 

 そんなときに何気に言われたこの言葉に、俺がどれだけ救われたかこの人は知らないだろう。だけど、それくらいこの言葉は俺にとって心に残る言葉だったのだ。

 

「『世の中には、幸も不幸もない。どう考えるかで、どうにでもなるものだ。』」

 

「え?」

 

「シェイクスピアの言葉さ。それを、俺風に解釈して、小中学生でもわかるようにと思って、ああ言ったんだ。。少しでも気が楽になるように、と思って言ったんだけど、俺が言われるとはつゆほども思っていなかったよ。」

 

 ・・・俺としては何気に言ったであろう一言を覚えていることに驚いている。正直なところ、悠々自適、悪く言えばどこかちゃらんぽらんなこの人のことだから忘れているのだと思い込んでいた。

 

 あと、この人がシェイクスピアを知っていたことにも少し驚きだった。

 

「・・・そうか、そうだな。『楽しまないと損』だった。今の今まですっかり忘れていたよ。」

 

 膝を手でパシパシと叩いて笑いだす先輩。

 

 でも、ようやく分かってくれたみたいだった。そう、どんなことだって、デュエルだって、心のどこかで楽しんでいないとダメなんだってことを・・・。

 

「じゃあ、もっと楽しい(エグイ)デッキを使うことにするよ!」

 

 よくなかった。ちっともよくなかった。

 

 綺麗に落ちがつくのはいいが、嫌な予感が満載する。

 

「え?だって楽しめって言ったのは零児君じゃないか。それってつまり、俺も満足して(楽しんで)いいってことだよね?」

 

 何かが違う。

 

「いやぁ、俺のデッキの展開力をサモサモキャットベルンベルンのレベルに落とすの凄い苦労してたんだよぉ。白黒ジャンドとか、シンクロダークみたいな展開をしても良かったんだけど、其処まで行くと流石に受けが悪くてさぁ。」

 

 サモサモキャットベルンベルン。前に先輩から聞いた、悪魔の呪文。サモンプリースト一枚と魔法カード2枚で出来る、簡単なワンキルの方法だった。ダーク・ダイブ・ボンバー1枚のスペックが破格なのだから2枚出せば確実に殺せるよね?とか言われたときは、何を言っているんだこの人とか思ったが、一度それをやられてから、その恐ろしさは十二分に知っている。そのレベルでも十分脅威な気がするのだが、どうやらまだあれは序の口だったらしい。割とやってられないレベルなのだが。

 

「あの時のジャンドだって、白黒入れた方が手札枚数安定するのに入れてなかったし、ライブラリアン2枚に抑えたりしてたし?全然満足できないよあんなのじゃ!

 ・・・いや、待てよ?ブリュ入るのならいっそフューチャーフュージョン入れて無限ループしても良かったんじゃね?彼岸パーツはどうだったかな?デスガイド制限かかってたっけ?征竜かかってないから全然何とかなるのは確認済み。なら、マスドライバーも確か制限かかってないし、イレカエルと鬼ガエルはどうだった・・・?」

 

 ぶつぶつと聞こえる声にものすごく不穏な気がするが、いくつか口出しをしておく。

 

「フューチャーフュージョンは制限ですが、マスドライバーなんてどうするんです?あとデスガイドは制限はかかってません。カエルは・・・すいません、把握してませんが制限だったかと。」

 

「ワンキルするんです。そうだなぁ、なら久しぶりに『ガエル』作るか?バジェ突っ込んで餅とマスドライバーの両方でキルできるようにすれば・・・。あ、あと零児君、終末の騎士はどうだった?」

 

「マスドライバーでワンキル?一体どうやって・・・。あと、終末の騎士はたしか制限かかってません。」

 

「だよな?!なら、いっそエクシーズ型でインフェルニティ作るか?ソウルチャージがライフ的に何度も使えないのが痛いが、まあリビデあるなら何とかなるか。あとは・・・あ。」

 

 ・・・なにか、ろくでもないことを思いついた予感がする。

 

「零児君、たしかランサーズには支給品として、いくつかペンデュラムカードを渡すんだよね?」

 

「え、ええ。」

 

「そのデータ、ちょっと見せてもらえない?」

 

 断る必要はないので、素直にデータを渡す。資料に目をやった先輩は、そこに書かれていた開発中のカードをいくつかピックアップして、尋ねた。

 

「このカード、俺にももらえないかな?遊矢にいくつかペンデュラムカード貰ってるから、それと組み合わせて使いたいんだ。」

 

 見せられたのはデニスと榊遊矢用に用意していた、ペンデュラムカード。そして、他のメンバーにも使えるようにと思って用意した、汎用性を重視して作ったペンデュラムカードだった。

 

「出来れば3枚づつ、最悪、これとこれと、あとこれは2枚でいい。可能かい?」

 

 それを見た瞬間、一瞬猿が高笑いする幻覚が見えたが、嫌な予感はそのままにして、質問に答える。

 

「ランサーズに支給するためのテストプレイという名目でなら、支給することは出来ますが、何をするつもりですか?」

 

「いや、ちょっと作りたいデッキがあるんだ。」

 

 トラウマ製造機(EMEm)を、ね?そういう彼の目は爛々と輝いている。なにか、やばいことを言ってしまったのだろうか。

 

「ありがとう、零児君!俺もなんだか吹っ切れたよ!そうだね、我慢なんてする意味なかったんだ。だって、君の言う通りゲームなんだから、楽しまないとおかしいよね?」

 

 俺は今絶賛後悔中です。あれよりひどい状況ってほとんどないと思うんですが。

 

「ああ、流石にあんなひどい展開(・・)を毎回することは出来ないって。」

 

 ・・・ただ、あれよりも制圧力(・・・)を持っているデッキはあるから、それを使おうと思って。そういう先輩に不安しか覚えない。

 

「・・・何をする気ですか?」

 

 

「え?秘密。でも、どうせならソリティア(満足)したいよね!」

 

 ・・・どうやら、俺はパンドラの箱を開けてしまったらしい。嫌な予感がヒシヒシとするのだが、よく考えたら、被害がオベリスクフォースに向くのだから放置しすることにした。こういっては何だが、しばらくあの人とデュエルしたくはない。なにか致命的な、デュエリストとしてのモチベーションとか自信とか云々すべて消失してしまいそうだ。

 

「・・・さて、俺の話はこれで終わりにして、だ。零児君、一つ隠してることがあるんじゃない?」

 

「え?」

 

 また、何かを言い出した。これもまた、嫌な予感がする。今朝、何気に点けたテレビの占いで最下位になっていたのを思い出した。アンラッキーアイテムは職場の先輩。アイテム?とか思ったが、意外なことに当たっていたんだなと思った。明日からは、見逃さないようにした方がいいかもしれない。

 

「零児君、君、さっき3年前に思い知ったって言ったよね?」

 

「ええ。」

 

「おかしいなぁ。3年前、かぁ。3年前、ねぇ。」

 

 何が言いたいんです、と言おうとして、気付いた。3年前と言えば、榊遊勝が行方不明になった年だった(・・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。そして、榊遊勝はこの人の縁者であるということも!

 

「あれれ、おかしいなぁ。俺にとって3年前と言えば、ちょっとした事件があったはずなんだよ。」

 

 らしくないミスだ。しおらしい先輩が珍しいのと、半分徹夜で監視していたせいで、判断力が鈍ったのか。

 

「友達の、盟友のところにいくといったきり戻ってこない、榊遊勝が消えた年。あれも、3年前だったよねぇ?零児君?」

 

 伝えるつもりのなかった事実を、ここで伝えなければいけなくなった・・・!

 

「ちょおっと、お兄さんに話を聞かせてくれないかなぁ。」

 

「・・・分かりました。こうなれば分かっていることすべて洗いざらい、吐かせてもらいます。」

 

 こうなっては仕方がない。向こうは腹を割って自分のことを話してくれたのだから、諦めて俺も、自身の全てを話そう。俺が知る限りの全てを。

 

「・・・事は、7年前。貴方のお父様である、立浪山茶花。榊遊矢の父である榊遊勝。そして俺の父、赤馬零王。三人の研究『リアルソリッドヴィジョン』と目的であったそれをデュエルに導入する、『アクションデュエル』の実用化。全てはそこから始まりました。」

 

 

 そしてその結果を、俺は後悔することになる。

 

 

「貴方のお父様、立浪山茶花は、俺の父、赤馬零王の従兄弟です。」

 

 

 運命の歯車は、狂いだした。

 

 

 

「え?山茶花って名前なの?厨二?DQNネーム?あ、だから俺菊なんて名前なのか!くっそ中途半端なDQNネームつけるなら、それくらい開き直ってつけやがれや。」

 

「突っ込むとこるは其処ですか?!」

 

 ・・・本当に。

 

 本当にこの人は分からない。だけど、その言葉を聞いた時、いつもの先輩に戻ったみたいで、少し安心した。

 

 そして、その安心が幻想であったことを、俺はすぐに知ることになる。

 

 だけど、今はその安心が心地よかった。

 




 
 前書きで超越ウィッチと打とうとしたら、超嗚咽ウィッチになってた。ある意味間違いじゃない気がする。

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