そうだなあ、少なくとも勉強の休憩時間を全部それに当てるくらいには面白いかな?
何が言いたいかって?それはねぇ。
遅れて申し訳ありませんでした(土下座)。
気が付いたら、妹に似た女に背負われて、戦場を駆け抜けていた。
以前にも会った妹に似た女(ユートは柚子と呼んでいた)とは、顔つきや輪郭、服装は似ていたが髪の色が違う。
背負われながら聞いたが、どうやら彼女は融合次元の人間らしい。それを聞いて、なんだか妹に裏切られたような、そんな不思議な感覚が胸の内をえぐった。
「とりあえず、ここから出る。私にもいろいろ聞きたいことがあるんだからな!」
男勝りなそのセリフに、どう考えても真反対な性格の妹の影がちらつく。どうやら、この融合次元の少女の存在は俺にとって相当、胃にきていたらしい。あの紫雲院とのデュエルで追った怪我ではなく、胃袋や心臓が締め付けられていく感覚がある。
だが、どうやらそういう訳にはいかないようだ。追ってきたのだろう、後方から紫雲院の気配がやってきている。それだけではなく、オベリスクフォースの連中もやってきていた。先ほど赤馬零児の部下である、日影と月影が時間稼ぎのために殿を引き受けたが、どうやらそれも突破されてしまったらしい。どちらにしろ、俺たち二人がここから逃げ切るのは不可能だ。
・・・一人なら、逃げ切れるか。
片方が、殿を務める。そうすれば、共倒れは防げるだろう。となれば、誰がそれをやるか。
彼女に任せる?無理だ。少なくとも俺にそんなことは出来ない。体力的にも、心情的にも。なら、俺がここで奴らを食い止める。
俺を置いていけ、そう言おうとした瞬間、後方から凄い音が聞こえてきた。
おそらく、バイクの駆動音だろうそれは、一直線にこちらに向かってくるのが分かる。敵か、とも思ったが、今までアカデミアがバイクを使っているのを見たのは一度だけだった。だが、音が違う。奴が使っていた、どことなくハイテク染みた音ではなく、この音はもっと古い、近所に住んでいた兄貴分が使っていた聞きなれた音に近い。
果たして、それはバイクだった。それも、どこか見た覚えのあるバイクだった。
この世界、スタンダード次元に来てからバイクなど数えるほどしか見ていない。だが、あのバイクは最も印象に残っている。
あの夜、対峙した男の傍らにあったバイク。あれと同じと言うことは、バイクに乗っているあの男は。
「・・・乗れ!この際3人乗りでもいい!」
その男の声を聴いた瞬間、確信した。あの男だ。
融合とエクシーズ、それらを難なく使いこなし、俺を追い詰めたあの男。LDS狩りの中、勝てなかった唯一の男。名前の知らない、あの男だ。
・・・なぜか、隣の少女は彼の声を聴いた瞬間、抑えていた震えが止まらないといった感じにおびえだし、涙目になった。思わず彼から彼女を庇うように前に出たが、そうした自分にもっと驚いた。どうやらこの少女を、俺は妹と重ねてみていたらしいことに気が付いた。
「どうした、さっさと乗ってくれ!」
「・・・そうはいかない。」
ああ、そういう訳にはいかない。どうやら、バイクの方に気を取られすぎたらしく、俺たちの周りには既にオベリスク・フォースに囲まれていた。ざっと見ても十人。俺たちを逃がさない気なのだろう。
「・・・なら仕方がないな。」
そう言って、奴はヘルメットを脱ぎ捨て俺に投げつける。さらに荷台にあった少し小さいヘルメットを、少女に被せる。
「君たちはそれに乗って逃げなさい。こんな奴らは俺一人で十分だ。」
「なッ?!」
その言葉に、最も強く反応したのは少女だった。融合次元の、オベリスクフォースの実力をよく知っているのだろう。そして、これだけ囲まれた状況なら、一人では通常勝ち目がないことも察していたはずだ。
「・・・カードにでもなる気か?」
思わずそう尋ねたが、サッサと行け、と言われる始末。だが、誰かをおいて俺が戦場を離れるわけにはいかないというと、困った顔をして、切り返した。
「だったら、その少女を安全な場所に送ってから、戻ってくれ。この先に、月影君がいる。それに・・・。可哀想に、震えてるじゃないか。」
手をひらひらとさせながら、強者の余裕を見せつけるかのように奴は言った。
・・・その
「まあ、別に戻ってこなくても構わない。今からやるのはただの憂さ晴らしなんだから。」
「憂さ晴らし?」
憂さ晴らしとは、いったい何があったのだろうか。その疑問が顔に出ていたのだろう、奴は続けた。
「なあに、ちょっとデュエルで久々に酷い負け方をして、おまけにあんな言い草をされて、ちょっとイライラしているだけですよーだ。」
デュエルで、負けた?
俺は、その言葉を理解し、咀嚼するのに数秒かかった。到底、信じられない。あの時、あれほどのデュエルをした男が?一体、敵にはどんな化け物がいるのだろうか。
その言葉に驚愕しているうちに、奴は俺たちから離れていく。そして、まるでここが舞台であるかのように、喜劇的に、叫んだ。
「お待たせしました!オベリスクフォースの皆様!今宵、と言ってももう朝ですがそれはご愛敬!今から行われるのは、私、柊菊のちょっとした憂さ晴らし!このデュエルは!貴方たちにターンが回ることなく終わるでしょう!」
その言葉に、オベリスクフォースはディスクを構え。
奴は、柊菊はデッキをセットし、
デュエルは、1分とかからずに終了した。
「俺は王家の神殿を発動し、手札の方界カードを見せて、クリムゾンノヴァの効果で特殊召喚する。カードを一枚伏せてターンエンド。」
クリムゾン・ノヴァ。確か、随分と前のカードだったか。強力な効果を持つ代わりに、エンドフェイズに互いのプレイヤーに3000のダメージを与えるカード。確かに強力だが、これではダメだ。
アカデミアは古代の機械猟犬を使う。もし、あのカードを2体召喚されればそれだけでライフが消し飛んでしまう。ノヴァは、『互いに』ダメージを与える。強大な力にはデメリットが生じるとはまさにこのことだ。相手にターンを回せば、ライフは1000。この時点で猟犬のいいカモだ。
だが、あのカード。俺の予想が正しければ・・・。
「クリムゾンノヴァの効果が発動する。全員に3000ポイントのダメージ!」
このタイミングだ。相手には妨害札はない。エフェクト・ヴェーラーだったか。スタンダードの人間が使っていたあのカードがあれば話は別だが。・・・いや、今はエンドフェイズだ。このタイミングでは、恐らくどうやってもこのカードは止められないだろう。
「王家の神殿の効果で、セットしたターンに罠カードを発動する!」
やはり、と言うべきか。発動したカードがソリッドヴィジョンとなり、奴の手元に、一丁の銃が現れる。それをアカデミア達に向けたと同時に、何かのエネルギーが収縮していく。銃口が、赤く光った。
「地獄の扉越し銃の効果で、俺が受けるバーンダメージを、相手に押し付ける。」
メギドラオンでございます、と奴は嘯いた。それと同時に、目の前は閃光で覆いつくされ、俺の意識は、そこでいったん途切れることとなる。
ただ、一つだけ思ったのは。
もしかして、この前のデュエルは、本気じゃなかったのかという疑惑だった。
◇
間一髪、セレナ(と、ついでに黒咲)の保護に成功しました。ここまで、全速力でバイクを走らせた俺を褒めてほしい。
心なしかセレナは震えているし、黒咲はぐったりしてるけど、ミッションは無事成功しているわけで。
まあ、これでいいだろうと思いながら今絶賛逃亡中でございます。
え?誰からって?そりゃあ・・・。
「待てェ!」
「そのバイク、トマレェ!」
「警察です!そこのバイク、止まりなさい!」
絶賛、警察に追われています。
いや、何とかアクションデュエルの範囲外に抜けたのはいいけど、其処の関所の警備員さんに通報されて、なんかどっかの犯人みたいな扱いになっています。
いや、仕方ないんだけどね。だってはたから見たらバイクに、俺、黒咲(ぐったりしている)、セレナ(怯えてる)の3人乗りで乗っている状態。まあ、セレナはともかく、黒崎さんはノーヘルで傍から見ても死にかけてる状態で、通報されない方がおかしいの理解している。
セレナはとりあえず柚子や凪流を乗せる時に使う予備を使わせたからいいんだけど、流石に黒咲さんの分はなかったし緊急事態だから合間に挟む形で乗せたのが悪かった。黒咲さんの長いコートがタイヤに巻き込まれないか心配している場合じゃなかった。
・・・さて、仕方ないからアクションデュエルのところまで戻るべきなのだろうか。
そろそろ周りから奴をデュエルで拘束しろ!なんて発言が聞こえてきた。どこまで行ってもデュエルで構築されているのがこの世界。でも、いったいDホイールのないこのスタンダードでどうやってデュエルで拘束するのだろうか。
ああ、サイレンが周りから聞こえてくる。間違いなく俺を取り押さえるためだろう。どうやら俺のデュエル人生はここでおしまいらしい。交通違反で捕まってプロを追いやられたとかかっこ悪すぎて笑えねぇ。いや、舞網市では絶賛スタンダード対融合の戦争が行われていて、プロとかどうこう言ってる場合ではないのだけど。
「ん?」
ふと、気になって舞網市の方を見ると、すでにデュエルフィールドが消滅していた。どうやら、大会は終了したらしい。
大会の終了。それは、融合次元の兵士たちが撤退していったということ。もう、大会を続ける必要はないのだろう。そうでなければあのダメージが実体化するフィールドを解除する必要はないわけだ。
「・・・戻るか。」
このままいても警察のご厄介になるだけである。かつ丼の気分ではないので、出来れば警察の厄介になることは遠慮したいのだ、世間体的にも。
ハンドルを切って、舞網市に急ぐ。急に曲がったせいか後ろの方から「グェ」とカエルがつぶれたような声がしたが気のせいだろう。俺は見ていない。黒咲さんが胃酸を吐きながら半分横ばいになりかけてセレナに支えられているところなんて見ていない。少なくとも、俺の運転の所為ではない。きっとそうだ。
「おい!頼むから少しスピードを下げてくれ!こいつが、こいつがやばい!何がやばいって吐きながら進んでるから道に吐しゃ物の道が出来てる!」
「・・・。」
後ろでセレナが叫んでいるが、風の音とヘルメットの所為でよく聞こえない。そんな気がする。
「顔色がやばい!死ぬ!このままだとこいつが死んでしまうからさっさと緩めろ運転を!あと私も吐きそうだ!こんなのりものははじめてなんだ!」
それはまずい、吐かれては困る。ので、なるべくスピードを早めて搭乗時間を少なくしようと決意した。スピードを上げる。
「今ギュイン!っていわなかったか?!すぴーどをあげるな!吐くぞ!わたしが!・・・おうぇ。」
大丈夫、みんなそう言って吐かないから。凪流も柚子も吐かなかった。まあ、後ろに乗せてくれとも頼まれなくなったが。
だけどまあ、こんな風に心の中でふざけていられたのも、あと少しかもしれない。
この先の原作の展開は知らないが、いいことなんて起こらない。
きっと、悲劇的なことや、絶望的なことがたくさん起こる。せめて、柚子たちを守れるようにはしないと。そうでなくても、あいつらが巻き込まれないようにしないと。
『遊戯王ではよくあること』と言う格言を思い出しながら、何となく、そう思った。
◇
朝焼けの中、消えていくソリッドヴィジョンを眺めながら、男は黄昏ていた。
マグマがコンクリートに、氷山がビルやマンションに変わっていく。光の粒となって空へ登っていくその幻想的な風景は、男に感動をもたらした。
「綺麗だな、感動的だ。カメラがないのが悔やまれるよ。まったく、アカデミア製のディスクってのはどうしてこういうところだけ不便なんだろう。カード化なんて技術いらないから、カメラとかアプリとか、そういうところに容量を使ってほしいね。」
そう言いながら、彼は足元にいる、気絶したアカデミア兵を次々とカード化させていく。中には命乞いをする兵士もいたようだが、彼の心は、まったく別のことで埋められていた。
周りの全員をカード化させた男は、「妹にも見せたかったな」と呟く。
男の思考回路は、ただ一人の人物の幸福を願って出来ている。男が感動したものは、その少女に見せたいと一番に思うくらいには、彼は
「今頃、セレナはどうしてるかな。」
男は、それが気がかりだった。アカデミアに教育された、世間を知らない少女。彼女がこれからどうしていくのかだけが、男の行動原理なのだからなおさらだ。
「大丈夫かなぁ。変な奴に挑みかかってないかなぁ?あいつ、昔から勝気だし。」
男は彼女のお転婆の尻拭いをしていたころを思い出しながら、少女の身を案じる。だが、その点で言うなら、すでに手遅れと言うべきだろう。少し前に彼女はとある男につかみかかり、『PSYフレームスピリット~八咫烏仁王立ちを添えて~』なんて言う、ふざけてるとしか思えない名をつけられたデッキの面倒なロックを食らって精神的に追い詰められていた。
幸い、お目付け役のバレットがそのあたりを『もの忘れ』で人為的に消し飛ばしたが、ただいま絶賛バイクによる乗り物酔いとそれに重なる胃痛(
「まあ、零児君もいるし、彼もいる。あの実力なら、セレナを守ってくれるだろう。約束もできたしね。」
その「彼」が柊菊を指すのなら、間違いなく人選ミスである。トラウマそのものに護衛されるというのはいささかどころではない人選ミスである。
だが、男はそれを知らないので、安心している。きっと、セレナがそこにいたのなら「止めてくれ!」と叫んだことだろう。
「いや、でもやっぱり不安だ。」
前言を撤回しだす男。彼の声は、悲痛な叫びのようだ。
「どうして俺はあそこにいないんだ。ック!セレナの身を守れないなんて兄失格だ!」
変態である。まごうことなき
「・・・まあ、仕方ない。ほんっとうに仕方ないけど、俺にはやることがあるからね。」
「セレナ、俺がいないからって寂しくならないかな?ああ、今すぐ会いに行きたい!やっぱり一度会っておくべきだったか?でも今会う訳には・・・。」なんて葛藤する変態。
彼にとって幸いなのは、ここはビルの屋上で誰もおらず、なおかつ住人の殆どが大会会場であるスタジアムにいることだった。誰かいれば間違いなく「おまわりさん、こっちです」と言わんばかりに警察への通報があっただろう。
「それにしても、『スタンダードの俺』は随分と変な奴だったなぁ。『エクシーズの俺』も『シンクロの俺』も大概な気がするけれど。まったく、どこの『俺』もなんであんなにキャラが濃いのかねぇ。」
ほかの誰よりも、貴方のキャラが濃いですと突っ込むことはない。お前よりキャラが濃いやつがいてたまるか、と言う意見もない。残念なことに、周りは無人なのである。本当に、残念である。
「『スタンダードの俺』か。」
男は数分前のデュエルを思い出す。いい試合だった。一進一退、どちらが勝ってもおかしくない試合。だからこそ、男は不満だった。
「いやぁ、それにしても有意義だった。久しぶりに熱くなってしまったよ。」
その言葉の割に、どこか不満げな言い方だった。
「流石は『俺』だ。だけど、あれはいただけない。」
その発言は、間違いなく怒りを帯びている。
「まったく、あんな『誰かを模したデッキ』で勝てるなんて、少し甘いというほかないね。リアリストとしてならともかく、デュエリストとしては最低だ。全力で来いって言ったんだから『自分のデッキ』で挑むべきだろうに。」
それなら結果は変わったかもしれないのになぁ、なんて呟いた彼は、そこではたと気が付いた。
「ん?そうなるとあれか?俺はあんな半端野郎にセレナを預けることになるのか?!ダメだ!やっぱり俺がセレナを守らなくては!あ、でもやらなきゃいけないことがあるし、やっぱり誰かに預けないと・・・。そうなると信用できるラインの実力はあいつになるし・・・。」
葛藤する
「まあ、セレナは任せた。ほんっとうに仕方ないけどセレナは任せた。
・・・『俺達』の目的は一緒なんだから、頑張ってくれよ。」
頼むよ、
そう言って、デュエルディスクを起動させる。画面には《Obelisk Force》と書かれていたが、それの下には《Resistance》とも書かれていた。迷わず《Obelisk Force》を選択する。
その中には、いくつかの項目が並んでいた。《Dimension Move》と書かれた欄の《Synchro》を押す。すると、男の体が光に包まれた。
そうして、彼はこの次元から姿を消す。
残されたのは、風に吹かれながら宙を彷徨う、アカデミア兵のカードだけだった。
今回の話
セレナ「柊菊怖い。バイク怖い。」
黒咲「本気じゃなかったのか(落胆)」
菊(某エレベーターガール風味)「スティーラーは死んだし、変な奴には負けたし最悪。ちょっとアカデミア、サンドバックになれよ」
???「妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹妹。
セレナセレナセレナセレナセレナセレナセレナセレナセレナ。」
最近のちょっとした自慢
FGO、アルジュナと嫁セイバーと槍トリアが当たったこと。そのあとバイクに轢かれかけました。幸福感が一気に覚めました。
最近の遊戯王
kozmo、最高に楽しい。何が楽しいって、友人の帝とインフェルノイドを一方的になぶれるのが楽しい。まあ、ガチじゃないデュエルならいまだに沈黙シャドールと暗黒魔轟神と聖刻アドバンス軸謎デッキ使ってます。
10月からの禁止制限についてコメント
スティーラー、逝くなぁ!お前が死んだら誰がジャンドとカオスゴッデスを介護出来るんだ!
ジェスター・コンフィ「オレオレ。」
ダーク・バグ「仕方ねぇなぁ。」
ドッペル「やってやんよぉ。」
・・・なんだろう、この物足りなさは。
余談ですが、スティーラーは我々の心の中とこの小説では永遠に生き続けるでしょう。悪いのはΩなんだよ!Ω禁止は泣くけどね!