遊戯王ARC-Ⅴの世界に廃人がログインしました   作:紫苑菊

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 遅くなりました、第7話です。・・・デュエルはありません。おまけにちょっとシリアス。果たしてこれは遊戯王小説なのか?
 それから、青眼作りたくてシャイニング・ビクトリーズを友人と4パックずつ買いました。友人は外れたのですが、自分はクリスタルウィング(しかもシク)と賢士が出て、店で発狂しました。その後調子に乗って箱買って賢士外れたのはいい思い出。まあ、ホロのクリスタルウィングと下準備2枚出たからいいんだけどさ。亜白龍買わなきゃ(使命感)

 Fateは最近やる時間がなくてほったらかし。今からイベ進める(もうすぐ終わるのに)ので少なくとも3日は空くでしょう。イベ終わったら続き書きます。まあ、1話最低2週間かかる作者(しかもどちらかの作品のみ)なので気長に待ってください。


第7話

 ここは、どこだろうか。私は、いったいどうなったのだろうか。・・・菊は、どうなったのだろうか。目を覚ました私の頭は、そんなことばかり考えていた。

 

 ふと、右を見る。そこには使われた形跡のあるベットがある。左を見る。寝違えたのだろうか。首筋に妙な痛みを感じたが、そんなのは今はどうでもよかった。だが、そこには誰もいない。急に心細くなり、何でもいいから、誰かいる証拠が欲しかった。

 

「・・・目を覚ましたら、其処はどこかの施設でした。」

 

 こんなことを呟いてみる。普段なら、それに突っ込んでくれる気のいい友人がいる。だけど今はもういない。彼らは、私の目の前で・・・。

 

 ダメだ、あのことを思い出したら泣けてきた。私には、泣く資格なんてない。その友人たちを人質に取られて、菊とデュエルした。・・・いっそのこと、あそこで負けていたらどんなに楽だったか。

 

「残念だが、ここは雪国じゃなく病院で、お前は島村でも葉子でもないがな。具合はどうだ?凪流。」

 

 その声に私は振り返った。

 

「・・・菊、ですか。」

 

 今、貴方には会いたくなかった、と言うのが正直な私の心情だった。・・・あんなデュエルをした後。それも、彼を危険にさらすようなデュエル。

 

 いくら脅されていたからと言って私がしたことは許されるようなことじゃない。先ほど、私は大牙や香澄のために、菊をカードにしようとした。・・・もう、友達と思われてないかもしれないと思うと、胸が痛くなる。もう、4人で笑いあうこともなくなるのだと思うとやりきれない思いで一杯になる。

 

「・・・具合が悪いのか?今看護師を呼ぶから少し辛抱してくれ。」

 

 その優しい言葉に、泣きそうになる。ああ、どうして。

 

「凪流?」

 

 どうして、貴方は優しくしてくれるんですか?私は、貴方をある意味で殺そうとした。それなのに・・・。

 

「おい、大丈夫かよ。ちょっと待て、今先生呼んでくる。そしたら・・・?」

 

 気付いたら、私はどうやら彼の袖を掴んでいたらしい。彼は不思議そうにこちらを見ている。

 

「おーい?凪流さん?」

 

 だけど、今の私が彼に何を言えるのだろうか。

 

「凪流さん。」

 

 ・・・。

 

「凪流。」

 

 ・・・・・・・・。

 

「あの、痛いんですけど。ミシミシ言ってるんですけど。」

 

 ・・・・・・・・・・・・・・。

 

「痛いって!マジで痛いから!離して!てか離せ!骨が!骨がミシミシ言ってるから!リアルに逝っちゃうから!」

 

 あ?え?あ、腕掴んだままだった。

 

「す、すいません菊。・・・大丈夫ですか?」

 

「お、おう。・・・触覚逝ってる気がするけど。」

 

 どうやら随分と強く握りしめてしまったらしい。

 

「・・・ごめんなさい。」

 

 自然と、口からこの言葉が出た。

 

「これ位どうってことない。気にするな。」

 

 いや、謝りたいのはそこじゃない。そこじゃなくて謝りたいのは・・・。

 

「・・・・・・ゴメン、ナサイ。」

 

「だから・・・凪流?なんで泣いてるんだよ。」

 

 気が付いたら、蹲って私は泣きじゃくっていた。謝ってすむことじゃない。それは分かっているのに、今の私は、拒絶されたらどうしようとばかり考えていた。もう、笑いあうこともない。きっとそうなる。今回の件で、私は間違いなく彼の友人という枠からは外れてしまうだろう。

 

 だけど、これだけはさせてほしい。謝罪だけは受け取ってほしい。・・・いや、受け取ってもらわなくてもいい。これは自己満足だ。欺瞞だ。

 

「・・・はぁ。」

 

 彼はため息をついて手をあげた。暴力を振るわれたって、私は拒絶しないだろう。それこそ、殺されそうになったってかまわないと思うくらいには抵抗しない自信はある。・・・まあ、やっぱりそこまでされたら流石に抵抗するかもしれないと考え直すあたり私らしいと言えばらしいのかもしれない。菊はそんなことしないとは思うけど。

 

「・・・てい!」

 

「痛い!」

 

 何しやがるこの真っ黒黒助!

 

「・・・色気ねぇ悲鳴。」

 

「・・・女子の頭に本気でチョップするやつがいますか?!あと、色気ないのは余計なお世話です。」

 

「そうか。まあ、女子力皆無だしな。しゃーない。」

 

「うるさい!掃除と洗濯くらいなら出来ます!」

 

「叫ぶなよ。ここ病院だぞ。ICUだぞ。寝てる患者さんや救急救命士の先生だっているんだからそう憤るな。」

 

「誰のせいだと・・・。」

 

 ほんとに、こいつと来たら。

 

「・・・落ち着いたか?」

 

 そこまでじゃれあって、ハッと我に返る。さっきまでの深刻な雰囲気・・・と言っても、私が勝手にそうしていただけだったみたいだけど・・・は無くなっている。

 

「・・・すいません、菊。落ち着いた・・・とはいえませんが、それでもとりあえずは大丈夫です。」

 

「そうか。・・・よかった。」

 

 そう言って、彼は私の横の椅子に座りこんだ。

 

「・・・何から聞きたい?」

 

「・・・香澄は、大牙は、どうなりました?」

 

 ・・・大事なのはそこだ。アカデミアによってカードにされた友人は、今はどうなったのだろうか。

 

「・・・お前が知ってる通りだ。カード化されたまんま。おまけに最悪なのがアカデミアによって大牙のカードも香澄のカードも持ち去られた。あいつらは現状、生死不明だよ。」

 

「そう、ですか。」

 

 夢じゃなかった。夢であってほしかった。そんな現実が私の前に改めて突きつけられる。

 

「ほかに聞きたいことは?」

 

「菊は、大丈夫でしたか?」

 

 食い気味に聞いたこの質問には驚いたようだった。

 

「お前、自分のことを心配しろよ。俺はこの通りお前の前にいる。無事なのは明白。」

 

「それでもです。」

 

 私は真剣だ。今の自分の現状なんか二の次でいい。

 

 その様子に、菊はため息をついた。

 

「・・・お前のおかげで、幸いにも無傷だよ。」

 

「嘘ですね。」

 

 嘘だ。そんなはずはない。あれだけの爆発を受けて、無傷で済むとは思えない。だけど、菊は苦笑いしてまだ言い続けた。

 

「本当だよ。」

 

「菊、知ってますか?貴方嘘をつくときに鼻に血管が浮かび上がるんです。」

 

 そう言ってやると、彼はため息をまたついた。

 

「そりゃあジョジョだろ。それも第3部。ひとつ言わせてもらうなら俺は4部と7部派でね。」

 

「貴方とは気が合いそうですね。私は4部一択です。仗助いいですよね。」

 

 そう言ってジョジョ談義に入るのもいいが、今はそれどころじゃない。

 

「でも、怪我してるでしょう?それくらいわかりますよ。」

 

 なんだかんだ、5年の付き合いになるんだ。それくらいは分かるつもりだ。

 

「・・・まったく、女は怖いねぇ。」

 

 ああ、やっぱりと言う気持ちが沸き上がる。正直、気の所為であって欲しかった。

 

「先に言っておくがお前の所為じゃない。怪我の件だが、腹に少し切り傷と火傷。腕に怪我。まあ、お前に比べれば軽傷だよ。お前は頭をぶつけたことによるものと、その前に受けたであろう打ち身。あの爆発に直接的なダメージとして巻き込まれたのは、結果としてはオベリスク・フォースの連中のみだ。」

 

 すまなかったな。そういう菊だが、その言葉が余計にこっちの胸に刺さる。私が、私たちがもっと強ければ。もしくはランサーズに勧誘されていい気にさえなっていなければ。

 こんなことには、ならなかっただろうから。

 

「・・・なんだよその顔は。」

 

 そういう菊だって、泣き笑いみたいになってるじゃないですか。

 

「泣いてねぇよ。お前に釣られそうになってるだけだ。」

 

 そういう割に、目から流れてますよ?涙が。

 

「・・・お前の顔よりは、マシになってることを願うね、俺は。」

 

「負けず劣らず、です。」

 

 そう言って、私たちは泣いていた。菊は鳴き声を押し殺して大牙や香澄の名前を呼んでいたし、私は・・・正直、何を言っていたのか分からないくらいに泣きじゃくっていた。多分だが、ずっと謝っていたような気がする。

 

 5分ほどだろうか、泣きつかれて、涙も出なくなってきた私に、いつの間にか泣き止んでいた菊が、水のペットボトルを差し出してきた。

 

「飲むか?飲みさしでよければ。」

 

「貰います。」

 

 水がおいしい。時間がたったのか、生ぬるいその水は、私の体にずしんと響いた。

 

「・・・他に、聞きたいことはあるか?」

 

 そう聞かれるが正直もう他に聞くことはない。と、言うよりかは思いつかないといった方が正しいが。

 

「・・・お前、家族に連絡したのかとか、そういうこと頭から抜けてないか?入院費のことだってそうだろ。」

 

 あ・・・。

 

「ちなみに、家族には俺から連絡してある。つっても面会時間過ぎてるし見ての通りここは大部屋だ。お前の母さんと父さんが来てたが、さすがに患者全員が寝る時間だし、家のことも仕事のこともある。医者が明日には目を覚ますって言ってたのを聞いて安心して帰っていったよ。明日朝また来るってさ。娘をよろしくなんて言われたが、どうしろっていうんだよなぁ。」

 

 え?もうそんな時間なんですか?

 

「今の時間、午前2時ジャスト。まったく、いくらなんでもこの時間起きるとか、正直ないんじゃないか?」

 

 そうなんですか・・・てっ、え?

 

「菊は何でここにいるんですか?!」

 

「大声を出すな。俺も入院してるんだよ。患者だからこの大部屋でお前と一緒だったんだ。」

 

 まあ、俺は幸いにも明日朝には退院できるくらいだけど。そういう菊は笑っていたが、やっぱり怪我していたんだと、気が沈む。

 

「・・・だから、お前の所為じゃないっていってるだろ?この怪我はオベリスク・フォースの攻撃を受けたときの怪我。ICUに運ばれるほどでもないのに心配性の医者が念のために検査するからって言って無理やり拘束されたからここにいるだけで、怪我自体はそこまで酷いものじゃないし、安心しろよ。」

 

「そうはいっても、やっぱり。」

 

「・・・たく、変な所で真面目だよなぁ。」

 

 誰に似たんだか、なんて言ってますがそのセリフはそっくりそのままブーメランだと思いますよ。なんだかんだ言って課題も学校も試合も真面目にやってるのを知らない人は学校にはいませんでした。そうじゃなきゃ先生だって、課題の量が多すぎるからってわざわざやらなくてもいい仕事の話を回して課題をチャラにしたりとかしませんよ。あれは貴方だからこそ出来たんです。

 

「なんだか変なことを考えられてる気がしたから、この話題はやめようか。」

 

 相変わらず感がいい。自分でも何となくブーメランだと思うところでもあったんですかね。

 

「・・・そのニヤニヤした顔はやめてほしいね。」

 

「・・・。」

 

「・・・。」

 

「・・・・・・・。」

 

「・・・俺の負けでいいよ。」

 

 勝った。何に勝ったのかわからないけど勝った。久々に優越感を感じる。

 

「お前のは優越感じゃなくて愉悦感だと、俺は思うけどね。」

 

「何か言いましたか?」

 

「いんや、何にも。」

 

 なんだか失礼なことを言われた気がした。頭の中に中年麻婆神父が思い浮かびあがってくるのはなぜだろう。

 

「同類だからじゃない?」

 

「なら私の思考を読めるあなたも類友ですよ。」

 

「自覚あり。今更だね。」

 

 この野郎・・・。

 

「・・・さて、そろそろ寝て置け。疲れは早いうちにとっておく必要がある。」

 

「ちょっと待ってください。」

 

「?」

 

 わずかに付いていた明かりを消そうとする時に呼び止めた私を、菊は不思議そうに見ていた。

 

「・・・菊は、何も聞かないんですか?」

 

「聞いて欲しいのか?」

 

「いえ、不思議に思ったんです。」

 

 まあ、そりゃそうかと言った風に納得した彼は、スイッチを押そうと立ち上がった腰をまた椅子におろした。

 

「大体のことは、検討がついている。LDSのトップクラスの実力者を集めた対アカデミア精鋭チーム『ランサーズ』に入っていたんだろう?」

 

「知ってたんですね。」

 

 何となく、彼なら知っていてもおかしくないような気がした。

 

「俺も誘われた。その時に少々詳細を聞いていただけで、協力するつもりはないって断ったけどね。」

 

「・・・私たちはその話を聞いて、2つ返事で受けました。」

 

「それが普通だ。大半の人間が受ける話だと思うよ。街の人を守ってほしい、そのための力が君たちにはある。そうプロに言われて舞い上がらないデュエリストは少数だ。」

 

 そう言ってくれるのは何よりの救いだ。・・・彼は断っていたと聞いて少々思わないところがないわけでもない。

 

「アカデミアについては聞いてますか?」

 

「それについても知ってる。負けた相手をカードにする技術とはまた物騒だ。」

 

 やっぱりこの人は知っていた。何となく会話をしていてそう感じていたが、やはり正しかったようだ。

 

「貴方が言う通り、私たちはランサーズの一員でした。大会の途中、アカデミアの兵士たちが乱入してきたのは知ってますか?」

 

「気付いたよ。司会中にその映像が出て何事かと思った。急いで街中に出て柚子たちの安全を確保しようと出た矢先にお前と会った。」

 

 ああ、そうだったのか。それは・・・悪いことをした。

 

「・・・私たちは、大会出場者の最低限の安全を確保するために会場の中に潜り込みました。いくらジュニアユース有数の実力者と言えど、それこそさっきのように10人がかりで囲まれたら勝負にすらなりません。ジュニアユースの実力者がどこまで戦えるのか。そして生き残ったデュエリストの保護。敵の目的を達成させないように動く。この3つが私たちランサーズに出された使命でした。」

 

「だけど、お前たちは返り討ちにあった。」

 

「正確には、数人がかりでリンチされたといった方が正しいです。何人ものランサーズがそれで倒れる中、生き残ったのは私、香澄、大牙。他のランサーズの面々は、それぞれ分かれて行動していましたが、少なくとも私たちが居たエリアでのランサーズの生き残りは、私たちだけでした。」

 

 菊は私の話を黙って聞いている。彼に静かにされると、違和感を感じるのはなぜだろうか。

 

「そんな中、香澄が最初に倒れました。そして、それに気を取られた大牙が・・・。」

 

 ダメだ、思い出したらまた泣けてきた。目の前で友達がやられていく様は、いまだに脳裏にこびりついている。

 

「・・・辛かったな。」

 

 そう言って慰めようとしてくれるが、話はまだ終わっていない。

 

「・・・すいません、菊。貴方が襲われたのは私たちの所為でもあるんです。」

 

「え?」

 

 これには、流石に驚いたみたいだった。

 

「あの時・・・。私たちは、ここから抜け出せることが出来たら、菊にアメリカの大会のベスト4を祝ってプレゼントを渡そうって話をして、心を保とうとしていました。・・・大会が終わったら、ご飯でも食べに行こうって言ってましたよね。実は、その時に渡そうとしていたものがあったんです。」

 

 そう言って私は、ベットの横にあるカバンから箱を取り出して、菊に渡した。フライングだけど、一緒に買った香澄も大牙ももういないから、これでいいだろう。

 

「・・・その時の会話を、オベリスク・フォースに聞かれたんでしょうね。柊菊の名前を聞いたオベリスク・フォースの隊長は、明らかに顔色を変えて連絡を取っていました。・・・その後です。彼らがカードにされたのは。そして・・・。」

 

「人質に取られて、俺とデュエルするように強要された。」

 

 やはり、菊は頭が回る。話が早いのは、菊の長所の一つだろう。・・・それ以上に短所が目立つのは、彼らしいところだが。

 

「・・・ほんとは、皆で渡したかったのに。皆で買ったものだったから、集まって、笑いながら・・・。」

 

「・・・凪流。」

 

 でも、もう彼らはいない。彼らは、カードになってあいつらに・・・。

 

「なあ、一つ聞いていいか?」

 

「なんですか?」

 

 泣きそうになっていた私に菊は訪ねてきた。

 

「どうして、お前らランサーズに入ろうと思ったんだ?お前は・・・ともかくとして、なんだかんだ慎重派な大牙がそれに納得するとは思えなくってさぁ。」

 

 なんだ、そんなことか。

 

「大牙は反対派でしたよ。何も自分から死にに行くようなことをする必要はないだろうって。逆に香澄は肯定派でした。」

 

「ああ、目に浮かぶ。香澄は勝気な奴だからなぁ。」

 

 そうですね。そうでした。そして、私も・・・。

 

「でも、肝心のお前はどうだったんだ?」

 

「私も、肯定派でした。」

 

「それが意外だ。お前、生き死にとかかかるようなことに積極的にかかわる奴じゃないだろう?」

 

 ああ、確かにそうかもしれない。なんだかんだ言って、私は臆病だ。だけど、あの時は・・・。アカデミアについて。その話と、実際にその場にいた人、黒咲隼の話。そしてカードにされた人の実物。それらを見て、聞かされた私の心境は・・・。

 

「やっと、菊に並ぶことが出来る。」

 

「え?」

 

「やっと、菊に追いつけたんじゃないかって。そう思ったんです。」

 

 今まで私の中には、菊に対する劣等感があった。それは香澄も、大牙も同じ。そうじゃなきゃ、大牙があんなにあっさり香澄に説得されたりしない。なんだかんだ、大牙も頑固なのだから。

 

「どうしてそんなことを?」

 

「だって、悔しいじゃないですか。」

 

 今まで、勝てたのは数回だった。本気用じゃないデッキで数回。プロで使われるようなデッキで1回だけ。香澄と大牙は、1回勝てたならまだいいなんて言っていたが、そのデュエルを見返すと、勝てたのは菊がやったプレイミスの影響が大きかった。実力じゃなく、菊のミスで勝った。それでもいいじゃないかと思う私と、もっと全力の時に勝ちたいと思う私。そんな中に赤馬零児に勧誘された。その時、それでもいいじゃないかと思う私が、あれは実力だったんだと主張し始めた。

 

 その時、初めて自分のデュエルに自信が持てた。菊は、いつも褒めてくれた。危ない時もあったなんて言う割に、堅実に勝利を収めていく。私は、そんな人の弟子であることが誇らしくって。でも負担で。同級生の弟子であるということがたまらなく情けなくて。

 

 そんな中に褒められたら、舞い上がってしまった。我ながら、単純な人間だとは思う。でも、それでも。

 

 なんて言うか、私は・・・菊に、認めて欲しかったんだ(・・・・・・・・・・)。私が作り上げた、弟子と言う形でも友人と言う形でもない。ライバルとして、一人のデュエリストとして、認められてはいないような気がして。

 

 ・・・でも、結果は。

 

「そんなわけです。我ながら、馬鹿だとは思いますけどね。」

 

「ああ、馬鹿を通り越して愚かしいよ。」

 

 そこまで言いますか。まあ、理由が理由なんで仕方ないっちゃ仕方ないかもしれないですね。

 

「・・・お前らは十分に強いだろうが。」

 

「え?」

 

「一つ言わせてもらうがな、俺は試合なんかより、お前らのデュエルの方がよほど真剣に考えている。今のプロで活躍している半数のデュエリストは、エクストラのない、最近のシンクロもエクシーズもなかった時代のデュエリストたちだ。プロと言うだけあって、技術もデッキ構築力も、戦略性もお前らよりは高い。だけどな・・・。」

 

 そう言って、彼は私を元気づけるように優しい声で。

 

「いざとなった時の爆発力は、お前らの方がよっぽど気を抜けない。前にお前とやった時も、その隙を突かれて負けた。お前らは、もう十分なデュエリストだ。」

 

 まあ、一流とは言えないけどな。いや、それは俺もか。なんて冗談めかして言う彼は、目だけは真剣だった。

 

「・・・『この世の理不尽は当人の実力不足』。」

 

「え?」

 

「漫画のセリフだけど、今の俺らにはピッタリなセリフ。お前は実力が。俺は・・・お前らと関わろうとしていく力が、思考が、何もかも足りなかった。ただでさえ、デュエリストとしては二流なのに、こんなんじゃダメだよな。」

 

「いや、貴方が二流デュエリストなら私たちはどうなるんですか。」

 

 まったく、その二流に勝てない人たちの気持ちも考えてほしい。

 

「いや、俺の実力はデッキにおんぶにだっこされてようやくってところだ。」

 

 コンマイ語を習得しきれないデュエリストは半人前だよ。そういうが、コンマイ語って何だろう。

 

「なあ。」

 

「はい。」

 

「・・・悔しい、よな。」

 

「ええ、とっても。」

 

「なら、さ。」

 

 俺らで、大牙と香澄を取り返さないか?

 

 そう、冗談めかして。でも、顔は真剣に、そういう彼に、私は勢いよく返事した。

 

 

 

 余談だが、この声の所為で、私と菊は医者にこっぴどく叱られた。すいません、先生。

 

 

 

  ◇

 

 凪流との話が終わった後、俺は電話を、ある番号にかけていた。3コールもしないうちに、電話の主は応答する。

 

「そろそろかかってくる頃だと思いました。でも、病院からかけるのはちょっと感心しませんね。」

 

「やっぱり、君は知っていたんだね。零児君。」

 

「ええ、まあ。・・・彼女には、つらい思いをさせました。」

 

 彼女っていうのは、やはり凪流のことなんだろう。

 

「ねぇ、零児君。・・・カード化された香澄と大牙がどこに行ったのか、知っているかい?」

 

「いいえ。ですが、見当は付きます。」

 

「へぇ。してそれは?」

 

 まさか、もうHITするとは。

 

「・・・貴方は、あのカードを回収した人を知っていますか?」

 

「いいや?なんせ、ちょっと凪流に意識が行っている合間にそのカードも、アカデミアの兵士も居なくなっていたからねぇ。」

 

 強制帰還システムでも発動したのかと思っていたけど、違うのかな?

 

「・・・貴方が彼女に気を取られている時、あるデュエリストがその場にやってきて、彼ら全員を回収しました。一瞬の出来事で、監視カメラでも、僅かしか映っていません。」

 

「それで、カードは彼が持ち帰った。」

 

 そういうことなのだろうかと思ったが、どうやらそれは当たりらしかった。

 

「正確には、カードを持っていたオベリスク・フォースの隊員をと言うのが正しいです。・・・貴方に悟られないようにしていたのか、離れたところで気絶している面々のみを回収していきました。・・・これについては、後程写真をメールで送付しますので、確認してください。」

 

「残ったメンバーは?」

 

「貴方に手当てをしたメンバーに回収させました。」

 

「そいつから、アカデミアに行く方法を聞き出せるか?」

 

「・・・まさかとは思いますが、自分から攻めに、いや、取り返しに行くつもりですか?」

 

 まあ、そのつもりだった。最悪、俺だけでも。

 

「・・・無理です。」

 

「え?」

 

「オベリスク・フォースは、デュエルで負ける、もしくは捕らわれの身になるとデュエルディスクが作動して、元居た次元に強制送還されるシステムが存在します。」

 

 それについては知っている。問題は、どうして聞き出せないのかと言うことだ。

 

「貴方は、電車に乗っている人そのすべてが電車の仕組みをすべて答えられると思いますか?聞き出して得られる情報は、精々が次元の座標が限界でしょう。聞き出すよりも効率がいいのはデュエルディスクを解析することです。ですが・・・。」

 

「なんだい?オベリスク・フォースは捕らえた。なら、デュエルディスクのサンプルは十分にあるだろう。」

 

 そうだ、いくら数人回収できても、それ以上にサンプルは大量にある。なら・・・。

 

「・・・先ほども言いましたが、オベリスク・フォースはデュエルで敗北、もしくは捕らわれの身になるとデュエルディスクが作動して、元居た次元に強制送還されるシステムが存在します。」

 

「それはさっき聞いた・・・あれ?」

 

 なんだか、おかしくないか?

 

「気付きましたか?あなたが倒したオベリスク・フォースはデュエルで敗北しても強制送還されなかった。ではなぜか。」

 

「見当もつかないね。」

 

「・・・貴方が使ったモンスターですよ。より正確に言うなら、《インフェルノイド・ティエラ》と言った方が正しい。」

 

 は?あいつが?なんで?

 

「・・・貴方は気付いていませんが、あの時の融合反応は明らかに異常でした。」

 

「融合反応?」

 

 ちょっと訳分かんなくなってきた。

 

「簡単に言うなら、モンスターの召喚時に発生するエネルギーのことです。それらを我々LDSはそれぞれの召喚方式に当てはめて呼称しています。一般的な塾生のエネルギーを100とするなら、オベリスク・フォースは1000と思ってください。そして、700あたりから、現実に影響が出始め、モンスターが実体化します。先日の襲撃事件は、この仕組みを利用して襲い掛かっていました。」

 

「それで、俺のティエラは?」

 

「53万です。」

 

 フリーザかよ!高ッ!なんなの?星つぶすの?!

 

「冗談です。ただ、3500を超えたあたりから我々も電源をシャットダウンしに入ったので計算できていません。・・・あんなものポンポン召喚されたら、LDSの電力がストップします。」

 

 お、おう。なんか、ごめん。ティエラ、お前そんなに凄かったのね。中華鍋のコストにしてごめんなさい。今度はもうちょっと労わるよ、破壊輪がいい?

 

「まあ、その影響が、対戦しているデュエルディスクには影響したらしくて。デュエルが終わった後確認したところ、モーターが焼き切れていました。復活させるには、少々時間がかかりますし、データが飛んでいる可能性もあります。菊先輩の要望は、無理そうですね。」

 

「・・・なら、お前らはどうやって融合次元に乗りこむつもりだ?」

 

「さあ?それは言えません。貴方はまだ部外者だ。」

 

 ・・・そりゃ、そうだよな。味方じゃない人間に、それはできない。なら、部外者じゃなくなればいい。

 

「なあ、零児君。」

 

「はい?」

 

「・・・俺を、俺と凪流をランサーズに入れろ。」

 

「・・・彼らを取り返すつもりですか?」

 

 それ以外に何がある。

 

「危険が伴いますよ?」

 

「覚悟の上だ。」

 

「・・・彼女は、どうします?あんなことがあった後だ。こちらとしては無闇に犠牲者を増やすようなことは控えたいのですが。」

 

「実力のことなら安心しろ。彼女は・・・俺のライバルだ。実力に関しても、元々ランサーズのメンバーだから問題はないはずだ。」

 

「だが、彼女は負けた。」

 

「それは多数用にカスタマイズされていなかったからだ。彼女の対多人数用のデッキは、そりゃあ強いぞ。」

 

「・・・彼女をもう一度向かい入れるメリットは?」

 

「明日お前が選出したメンバーの誰か3人とデュエルさせろ。そうすれば、彼女の実力は分かるだろう?」

 

「・・・それは、どうでしょうか。」

 

 ん?ならどういうことなんだ?

 

「まあ、いいでしょう。貴方がこちら側として積極的に動くことをメリットとして捉えます。ただし一つ、仕事を依頼していいですか?」

 

「彼女の同行を許可してくれるなら、なんでも聞くよ。」

 

「今何でもって言いましたね?」

 

「・・・そのネタ挟むのはやめようか。」

 

「それは残念です。・・・仕事は、貴方なら簡単だと思いますよ?」

 

 へぇ?なんだろう。まあ、何でもどんと来い!

 

 その頼みごとを安易に聞き入れたことを、俺は数秒後に後悔することになる。

 

 アカデミアのデュエリスト、『セレナ』の保護。

 

 正直、気まずいんですけど・・・。八汰烏がトラウマになっていないことを切実に願う。

 

 

 

   ◇

 

 

「社長、よろしかったのですか?」

 

「なんだ、中島。」

 

 舞網市の中心にそびえ立つビル。赤馬コーポレーションの一室で、中島は上司である零児に、質問を投げかけた。

 

「柊菊のことです。彼は・・・いや、彼の父親は・・・。」

 

「諄いといったぞ、中島。彼とあの男の縁はすでに戸籍上からも消えている。それに、それを言うなら私はプロフェッサーの息子だ。家族だからと言って、『敵』と言うわけではないだろう。」

 

「それはそうですが・・・。」

 

 なおも食い下がる中島。それは、心の底から零児を心配しているが故の言葉。

 

「それに、彼を戦力に加えることが出来たのなら、それは大きなメリットだ。彼のネームバリューを存分に使うこともできる。彼はいまや世界的なデュエリストだ。」

 

「ですが、彼はまだ味方と決まったわけではありません。まだスパイの容疑は晴れていません。」

 

「それなら、なぜアカデミアは彼を始末しようとした?」

 

 その言葉に思わず詰まってしまう中島。だが、零児の次の言葉に驚くことになる。

 

「安心しろ。彼の実力はともかく、私も今は彼をあまり信用していない。彼には、防衛と言う面目で、この街に留まってもらうつもりだ。」

 

「え?」

 

 それは、先ほどの電話とあまりにも条件が違いすぎる。

 

「勘違いしていないか?私はランサーズに入れるとは言ったが、融合に攻め込むメンバーに彼を入れるとは言ってないぞ?」

 

 詭弁だろう。説明を要求する中島の思考を読み取った零児は言葉をつづけた。

 

「彼は嘘をついている。少なくとも、彼はアカデミアに出会う前からその存在を知っていたはずだ。」

 

「どうしてです?!」

 

「中島。アカデミアは教育されたデュエリストだ。斥候なら、斥候らしく隠密行動に長けてなければいけない。それなのに、プロとはいえ一般人の柊菊が、彼らの存在に気付くことが出来た。おかしいと思わないか?」

 

「偶然気付いたと、彼は証言していたのでは?」

 

「確かに、奴らは目立つ。だが、たとえ偶然見つけても、普通なら警察に連絡する。それなのに、彼はデュエルで殲滅するというやらなくてもいいことをわざわざやっていた。なぜか?」

 

 その言葉に、赤馬零児は一息開けて。

 

「彼は、アカデミアの存在をすでに知っていた。少なくとも、この数ヶ月よりも前に。」

 

「そんな馬鹿な?!」

 

「だが、これなら説明がつく。なぜ彼はわざわざ彼らを倒した?彼らが危険だと知っていたから。なぜ、監視カメラの映像ではアカデミアと会話した形跡がないのに彼らがカードにすることが出来ることを知っていた?なぜ、彼らが居なくなった時に彼はうろたえることなく何事もなく遊勝塾の面々と合流している?全て事前に知っているならまだ説明がつく。」

 

「なら彼を味方に引き入れる必要はない!むしろ余計にスパイの可能性が。」

 

「だが、彼は少なくともアカデミアではないだろう。」

 

 は?とでも言いたげに中島は口を開けた。零児は続ける。

 

「それならば、アカデミアがわざわざ危険を晒してまで志島凪流を利用するなんて回りくどいことをする必要はない。もっと単純に殲滅した方が、彼女レベルのデュエリストをわざわざカードにしないで捕獲するなんて、途中で抵抗されて倒されるリスクを背負う必要はない。」

 

 ただ殲滅するだけの方が手間は少ないうえ、襲撃されたときに人質が抵抗すれば、むしろ枷になる。そういう零児に、まだ食い掛る中島。

 

「だからと言って、敵ではないとは限りません!不確かなことが多い人間を、わざわざこちら側に引き入れる必要性はないではありませんか!黒咲の情報では、シンクロ次元の人間は、アカデミアと組んでいる。融合次元ではなく、シンクロ次元の人間かもしれない。何より、柊菊はシンクロについて、かのランク7位の冥界王ですら奴のシンクロを認めていた!シンクロ次元の人間なら、それも不思議ではない。」

 

「成程、シンクロ次元か。確かに、そうかもしれないな。」

 

「ならば!」

 

 中島に、首を横に振る。

 

「だが、本当にシンクロ次元の人間なのか?少なくとも、彼の公式試合は7年前から存在している。・・・部下の情報だと、確かにそれは柊菊本人のものだ。」

 

「この次元の人間が、寝返った可能性だって!」

 

「それは随分と嫌な発想だな。考えたくはないが、確かにその可能性だってある。」

 

 話を聞けば聞くほど、中島は零児が何を考えているのか分からなくなった。メリットよりも、デメリットの方が多すぎる。

 

「だが、それでも。」

 

 俺は彼を信じたい。そういう零児の目には、中島が仕えて、少なくとも年単位で見ていない、年相応の顔だった。

 

「それに、敵だったとしたらアカデミアが侵略してきたとき、わざわざあそこへ出向いたりしないだろう。・・・安心しろ。我々の肝心の計画にかかわるようなところには入れるつもりはない。我々が不在の間、ここの留守を任せる人員も必要だ。その人員に彼を入れれば、戦力としても、宣伝としても十二分に使うことが出来る。」

 

 ・・・確かに、今の私たちには宣伝することは重要だ。アカデミアの危険性を示唆すると同時に戦力の拡大を狙うことが出来る。何より、彼の弟分である榊遊矢以下数名をこちら側に引き入れやすくできるだろう。今の私たちには、戦力があまりに不足している。せめて、もっと効率的に戦力を増やすことが出来れば、彼を引き入れるリスクを減らすことが出来るのだが・・・。

 

「ですが、戦力ならユースをはじめとしたランサーズが・・・。幸い、何人かはまだ生き残って・・・。」

 

「一度死にかけたものがもう一度奮起して彼らに挑む。それを私に誘われただけの信念も覚悟も足りない子供が、それを実行できるのか?」

 

「それは・・・。」

 

「もし、今回の侵略を食い止めることが出来ることが彼らにできるのなら、彼らは戦う覚悟が出来るだろう。その覚悟は、実力よりも重要だ。」

 

 ・・・だが、彼らは少年だ。まだ子供だ。そんな彼らに、対アカデミアについての殿を任せなければいけないというのが、中島は心苦しかった。

 

「・・・彼らは、今回で少年から、戦士に変わる。中島、お前のその甘さはこれからは捨てろ。融合次元を倒すにはその甘さは弱みになる。」

 

 そういう零児に、父親に似てきたなと悲しくなる中島。

 

 ・・・せめて。

 

 せめて零児を含む少年たちが、カードにされることがありませんよう。中島はそう願うしかなかった。

 

 

   ◇

 

 

 月明かりが覚めていく中、黒咲はカードを眺めていた。

 

「あの時・・・。」

 

 思い出すのは、数日前のデュエル。あの時の感覚が、黒咲には残っていた。

 

「お前達を出していれば、話は違ったのだろうか・・・。」

 

 そこには、黒咲のフェイバリットとも言えるカード。RR-ライズ・ファルコン。そしてその進化形であるカード達。あのデュエルで、出すことなく終わっていたカード達が、そこにはいた。

 

「・・・いや、そうとは言い切れないのかもな。」

 

 だが・・・。そう思ってしまうのも、無理はない。あのデュエルで、黒咲は勝つこと

のみを優先し、効果の強いカードを出すことに専念していた。その方針は、アカデミアに攻められ、楽しむことではなく勝つことを優先していたことの名残だろう。

 

「・・・次は、こうはいかない。本当の俺のデッキを見せてやる。待っていろ・・・。」

 

 そこまで言って、名前を知らないことに気が付く。せめて名前さえ分かればリベンジの機会があるものを・・・。そう考えて、黒咲隼は目の前に改めて意識を向ける。そこには一人のデュエリスト。

 

「どうしたの?かかって来いよエクシーズの残党!」

 

 昨日の昼から、場所を変えてデュエルし続けているが、一向に決着がつかない。・・・まあ、途中で何度か互いに妨害を受けたのもあるが、それでも一晩使ってデュエルするとなると、集中力が切れてきても不思議はない。だから、こんな余計なことを考えてしまったのだろうか。

 

「行くぞ、アカデミア!」

 

 隣の相棒、RR-フォース・ストリクスは鳴き声を上げて自分と共に奮起する。その声を聴くと、自分の戦場はここなのだと思い知らされる。

 

 だが・・・。

 

 いつの日か、奴と殺意なくデュエルすることが出来る日を。その時は、決着を。

 

 最後のデッキトップにあったカードを思い出しながら、黒咲は戦いに戻った。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「本当に、出来るのでしょうか。」

 

 凪流は、病室の中でそう呟いた。あのデュエルの感覚が、いまだに自分の体の中に残っている。

 

 ため込んだ胃の中のものが逆流してくる。思わず吐きそうになる彼女だが、必死でそれを抑え込んだ。

 

「・・・やるしかない。」

 

 自分が、自分たちが蒔いた種をきっちり片付ける。それが、菊や皆にできる唯一の償いだ。そう凪流は考えた。

 

「・・・絶対に許さない。」

 

 その言葉に、自分の怨嗟を全て詰め込んで。

 

「駆逐してやる、アカデミアを!」

 

 彼女はその言葉を吐瀉の代わりに吐き出した。

 

 

 ・・・その言葉を病室の扉から聞いていた菊が「エレン?」と何とも閉まらないセリフをつぶやいたのは余談である。

 




 ・・・長くなったなぁ。知ってるか?これ作者の息抜きなんだぜ?

 それはそうとお気に入り数が1400を超えていてびっくりしました。これからも気長にお付き合いいただければ幸いです。

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