忘却の忘れ傘 ~a lonely quicksilver   作:エノコノトラバサミ

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八話 手遅れ

 館の扉は、俺が手を掛ける前に開いた。まるで俺の事を呼んでいるかの様だ。こういうシチュエーションをアニメやゲームで見たことがある。大抵こういうのは閉じ込められて、お化けやら怪物に襲われるのだが、大丈夫なのだろうか?

 

 俺が館に入ると、案の定扉は閉まった。念のため出ようとすると、呆気なくまた扉は開いた。閉じ込める気はないらしい。

 

 館の中は真っ暗で、ほとんど何も見えない。分かるのは埃っぽくて相当古そうだという事だけ。俺はバックの中から懐中電灯を探す。

 だが、それを見つける前に、館に蝋燭が灯った。一定間隔に取り付けられた蝋燭は、俺を案内するかの様に一つの道を照らし出している。誰が、どうやって蝋燭をつけたのか。人影は見当たらない。

 

 蝋燭が照らす道を沿って、俺は館を進んでいく。館は相当年期が入っている様で、そこらじゅう蜘蛛の巣と壊れた家具でいっぱいだった。数十年……いや、下手したら数百年の間、放置されていたのかもしれない。

 そんな館に俺を導いた者、それが何なのかは全く検討がつかない。ただ、一つだけ分かっている事がある。

 人間じゃない。

 

 やがて、蝋燭の道はある部屋の前で途切れる。何の変鉄もない古びた扉。ここに何かあるのは一目瞭然だ。

 ポケットにあるナイフを握り、気持ちの整理をする。

 俺は、思い切り扉を開いた。

 

 誰もいない。

 部屋の中は幾つかの本棚とベット、窓際にイスとテーブルの一式。そしてそれは全て、埃を被っていてボロボロになっている。

 気配も、何も感じない。おかしい、ここに何かある筈なんだ。

 本棚から適当に本を取り出してみる。表紙に書かれてある字は、日本語でも英語でもない。全く見たことのない文字だ。中身も読めそうじゃない。

 

 まさかと思い、本棚を徹底的に調べてみる。こういう時、本棚の裏に隠し通路があったり、何かの本がスイッチになって仕掛けが起動したりするものだ。もしかしたら何か隠されているかもしれない。

 埃に包まれながらも、本棚の探索を続ける。一冊一冊本を取り出したり、中身を開いたりしているが、何も見つからない。単に疲れるだった。

 

 本棚に何もないのなら、何処に何が隠されているのだろう。ベットの下、テーブルの下、イスの下、なんか床ばっかり調べてるが、何も見つからない。

 

「あぁもう、疲れた……」

 

 床に寝転がったその時、俺はとんでもない事に気が付いた。

 

「あ、気付かれちゃった」

 

 天井に、あの時の少女が張り付いていた。

 一瞬驚いて血の気が引いた。

 

「誰だ!?」

 

「名前を聞く時は、先に自分なら名乗るのが礼儀でしょう」

 

「俺は加」

 

「カナ・アナベラルよ」

 

 言ってる事が矛盾してる。

 

「……加能聖真」

 

「そう、加能聖真。宜しくね」

 

 ふわふわと宙に浮きながら、微笑んでいるカナ。メイド服の様なものを身につけ、金髪の髪を(なび)かせている。そんな彼女の様子が、俺には見慣れた様な気がした。

 

「貴方から私と同じ気配がしたんだけど……人間、だよね?」

 

「ああ」

 

「うーん……貴方の知り合いに、私と同じ様な人いない?」

 

「……いる」

 

「やっぱりね」

 

 彼女、カナは幽霊だ。何となく分かる。小傘と同じ雰囲気がするのだ。

 何故か、気配は全く感じない。

 

「どうして俺を呼んだんだ?」

 

「単なる暇潰しよ。もう何年も一人きりだったし。それに、人間にしては珍しかったし」

 

「珍しい?」

 

「あら、自覚してないの? なら教えてあげるわ」

 

 得意気に、カナは話を続ける。

 

「貴方の中、色々な力が混ざって不思議な事になってるの。一番強いのは私と同じ様な力だけど、他にも沢山の力がぐちゃぐちゃに混ざってるわ。それで普通の人間なんだもの。本当に不思議ね」

 

「は?」

 

 一体、どういう事だ?

 

「それに、貴方のポケットから何か感じるわ」

 

「ポケット? ……これか」

 

 俺はポケットの中にしまっていたナイフを取り出した。

 

「……何だかそれ、とっても悲しそう」

 

「悲しそうって……このナイフが?」

 

「そう、泣いてるみたい」

 

 ナイフが泣いてる?

 一体どういう事なんだ、話に全く着いていけない。

 

「頼むから順番に説明してくれ」

 

「ええ、どうせ退屈だったしね」

 

 俺はベットの埃を払い、その上に座った。

 カナは俺の傍で浮いている。

 

「それじゃ、何から話す?」

 

「……まずはこの館とあんたについて」

 

「そうね、分かったわ」

 

 カナの語り始めた話を、俺は黙って聞いていた。

 

 かつて、この館は大金持ちのお嬢様が住む立派な館であり、その頃からカナは今みたいな幽霊だったらしい。館の住人にイタズラをしながら、呑気に日々を過ごしていたという。どうして彼女が幽霊になったのかは、語らなかった。

 彼女が過ごしていた日々は平和だった。平和だけれど、気が付けば何も無くなっていた。失った事に、実感が沸かなかった。そう、彼女は呟いていた。館の住人は時が経つにつれ、皆館から姿を消した。

 彼女は地縛霊(クイックシルバー)、その場所に取り憑いて生活していく。あまりの退屈に一時期放浪していたらしいのだが、結局この館が恋しくなり、戻ってきた。

 それからはずっとこの館で誰かが訪れるのを待っていたという。

 

「と、いう訳なのよ」

 

「……」

 

 然り気無く、凄い事を話している気がする。

 

「それじゃ、次はそのナイフかしら」

 

「あ、ああ」

 

 再びナイフを手に取り、何となく刃を出す。至って普通のナイフにしか見えないが、カナはこのナイフを悲しんでると言う。

 

「それ、貸して」

 

 差し出された手にナイフを乗せる。そのまま彼女はナイフを握り締め、目を閉じた。

 

「……ええ……そう、分かった。はい、返すわ」

 

 一人呟いて、カナは俺にナイフを返す。

 

「彼女、貴方と直接話がしたいみたい」

 

「直接話す?」

 

「ええ」

 

「そう言われても……どうするんだ?」

 

「貴方、このナイフの事をどう思う?」

 

「どう思うって……そりゃ、武器だけど……」

 

「それじゃダメ、ダメなのよ。このナイフには意思がある。ただの武器と思っちゃダメ。自分にとってこのナイフが、かけがえのない大切な物と思わないと」

 

「ナイフに意思?」

 

「論より証拠、手を貸して」

 

 カナに言われた通り手を差し出すと、カナはその手に自らの手を乗せた。そして何かを呟くと、カナを通じて俺の体が青く光出す。言い様のない、不思議な感覚。

 

「さあ、ナイフを取って、心を開いて」

 

 言われるがままナイフを取り、よく分からないまま無心になる。

 刹那、世界が変わった。

 

 

 

 

 

 

 ゴミ捨て場。地面全てにゴミが散乱している。

 灰色の空、汚い空気、地平線の彼方まで積み重ねられたゴミの数々。なのに、ここに居ても不思議と不快感はない。

 これが、ナイフの意思なのか?

 

「──こんばんわ」

 

 背後から聞こえた少女の声には、聞き覚えがあった。

 

「お前は……」

 

「そう、私メリーさん。今、貴方の目の前にいるの」

 

 そうだ。あの時、俺を殺そうとしたあの人形、メリーさんだ。

 けれど、今の彼女はあの時の醜い姿じゃない。まるで作られたばかりの様な、可愛らしい人形そのもの。

 

「お前がこのナイフの意思なのか? どうしてお前が俺の心配をしてくれるんだ?」

 

「……だって、このナイフは私だから」

 

「ナイフが?」

 

 確かにこのナイフはかつてメリーさんが俺を殺そうとした際の凶器で、俺がそれを拾った。だが、これがメリーさん自身だなんておかしい。

 

「お前は人形じゃないのか? 俺を殺そうとしてたんじゃないのか?」

 

「そう、人形だった。そして、貴方を殺そうとした」

 

「それがどうして俺の心配なんて……」

 

「私は生まれ変わったの……貴方に殺されたお陰でね」

 

「……ごめん」

 

「いえ、謝らなくていいの。(いず)れそうなる運命だったから。寧ろ感謝してるわ、ありがとう」

 

 複雑だ。殺したものに感謝されるなんて。

 

「私は死んで、その亡骸も貴方が処分した。残ったのはこのナイフだけ。本当だったら、私の力は時が経つにつれ自然と消滅する筈だった。けれど、私は消滅するどころか、寧ろナイフの中に蘇ったの」

 

「どうして?」

 

「貴方のお陰なのよ、全部」

 

「俺が何かしたのか?」

 

「ええ、したの。貴方は一度、私と融合してる」

 

「融合って……ッ!?」

 

 そうだ、言われれば覚えがある。

 夢の中。小人達に襲われたあの時、あの感覚。

 

「けれど、それは夢じゃ……」

 

「いいえ、夢じゃないわ。現実よ」

 

「それじゃあ、どうして他の時はそうならなかったんだ!?」

 

「……それは、貴方の心が原因。貴方が心の奥で私を拒んでいた、それだけなの」

 

 拒んでいた?

 

「あの時の感情を思い出して。貴方は、私を心から必要としていた。だから私は貴方と一体化した。不完全な私だったけど、それでも力になれた」

 

「……俺が、悪いのか? 俺がお前を受け入れていれば、あの時……」

 

「勝てる保証は無いけど、戦う事は出来たわ」

 

 そんなの今更言われても、俺にはもうどうする事も出来ない。

 残るのは後悔だけ。

 

「……いや、違う。どうせ負けてた。どうせ殺された。俺なんかがどうこう出来る訳ない。そんな力も夢だ、有る訳無い!」

 

「いいえ、現実よ。有るわ」

 

「……無い、有るわけ無い、無いんだ!!」

 

「有るのッ!!!」

 

「ッ……!?」

 

「さっきも言ってたでしょう。カナが、貴方には色々な力が混ざってるって。しかも、それで人間の状態を保っているのは、凄い事なの。本当は貴方、とっくに人間じゃなくなってたのよ」

 

「……どうなってたんだ?」

 

「生きたまま幽霊になったり、妖怪へと姿を変えたり、それこそどうなるか予想はつかないわ」

 

「じゃあどうして俺は人間のままなんだ? 何か理由があんだろ!?」

 

「ええ、あるわ。貴方の中にある力で一番大きなもののせいよ。貴方が今まで、人間じゃない者と一番長く過ごしてきた相手は誰?」

 

「……小傘だ」

 

「そうよ、彼女のせいなの」

 

「でも、どうして?」

 

「貴方は生まれつき、そういう類いへの感受性がとても高いみたいなの。それでさえ人間にはとても珍しいのに、更に貴方は彼女と共に居過ぎたわ。彼女の力……憑喪神の力を多く取り込んできた貴方の体は、言わば『媒体』」

 

「媒体?」

 

「そう。力ある道具がその力を強める為の『媒体』。まるで古き道具に霊が取り憑いて憑喪神になる様に」

 

「なんだよ、それ……」

 

 

 

 

 

「貴方は人間の憑喪神。【力ある道具に更なる力を与える】事が出来るの」

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 人間の憑喪神? 俺が?

 

「……なんでそんな事が分かんだ?」

 

「貴方と一緒にいると、力が湧いてくるの。精神的な意味じゃなくて、本当に力が出てくるの」

 

「そんな確証も無ぇ事で判断すんじゃ──」

 

「また、失うわ」

 

「──!?」

 

「現実と向き合って。もう貴方は、普通には戻れないの。戻ろうとすれば、全て失う」

 

「何が現実だ! お前の言ってる事の方が現実離れしてるだろ!!」

 

「私の言ってる事は本当よ!! 嘘なんか言っても意味無いわよ!!」

 

「本当だとすれば、これからどうすればいいんだよ!」

 

「戦うしかないの!」

 

「俺に力なんて無いんだよ!!」

 

「有るのよ!!」

 

「有ったとしても、俺じゃ無理なんだよ!!」

 

「私が助けるわ!!」

 

「──!?」

 

「私が貴方の武器となるわ。私が貴方の力となるわ。その代わり、一つお願いがあるの」

 

「……」

 

「私を大切にして欲しいの。私がこうして自分の意思を伝えられたのも、貴方が初めて。お願い……貴方が死ぬまで、私を傍に置いて」

 

「……どうして、俺なんだ?」

 

「私が貴方を殺そうとした時、貴方はあの憑喪神が身代わりになって、激昂した。信じられない程怒り狂って、哭いていた。それは、貴方が道具を大切にしていた証拠。道具を道具として見ず、家族として見ていた証拠。私も、そんな貴方に家族として見て欲しい」

 

「……違う、小傘だけが特別だったんだ」

 

「いいえ、そんな事はないわ。だって貴方、故意に物を壊した事無いでしょ。拒んでいた私の事だって、壊したり捨てたりしないでずっと持ってたでしょ」

 

「……」

 

「貴方と融合した時、少し貴方の記憶を覗かせて貰ったわ。小さい頃から苦労ばかりで、決して自由な暮らしじゃ無かった、そうよね。そんな中で得た数少ない物を、貴方は大切にしているのよね」

 

「……」

 

「貴方が初めて憑喪神を拾った時、彼女はただの傘だった。けれど貴方、ずっと彼女の事を傍に置いてたじゃない」

 

「……忘れてただけ、俺が使ってたのは別の傘だ」

 

「もしその傘が壊れたらどうしてた? 貴方ならきっと、憑喪神を使ってたわ」

 

「……」

 

「一番とか、特別とか、そんなのは別にいい。少しでも大切にしてくれる……そんな心さえあれば、私はいいの」

 

「けど、それじゃ……」

 

「……いいの。お願い、私に心を開いて。私を受け入れて。そうすれば、私は貴方と一つになれる」

 

「……でも」

 

「大丈夫、怖くなんて無いわ。私は貴方から離れない」

 

「──!?」

 

「ずっと、傍にいてあげる。どうせ私には、貴方しかいないの」

 

 何かを得るのが怖かった。それは必然的に、何れ失う事になるから。初めから何もなければ、どれほど楽な事か。

 けれど今、目の前に俺を必要としてくれる人がいる。

 本当は断りたかった。断れば、俺はきっと何も背負わなくてもいいから。このまま自由に生き続けられると思ったから。

 だけどそうなれば、彼女はどうなる? 俺がいなくなって、彼女はどうやって生きていけばいい? ずっとナイフの中で一人、孤独に耐え続けているのか? そんな事になったら、彼女に生まれ変わった意味はあるのか?

 

「……メリー」

 

 ここで逃げたら、俺は、ずっと逃げ続ける。

 他人の事なんて何も目もくれず、自分の事しか考えない、最低な人間として生き続ける事になる。

 そんなのは嫌だ。

 

「俺は、死にたくない……」

 

 けれど、それでもすぐになんて決められない。

 争いには、常に勝者と敗者が必ず生まれる。敗者には何の権利もない。例え、勝者に殺されたとしても。

 そう、負けたら殺される。守りきれなければ殺される。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 でも、失いたくもない。これ以上失うなら、寧ろ俺は──

 

「けれど、俺はやっぱり小傘と一緒に居たい……」

 

「……家に帰る?」

 

「…………あぁ、帰ろう」

 

「……ええ」

 

 メリーが差し出した手を、俺は受け取った。

 

 

 

 

 

 

「……嘘」

 

 カナは驚きを隠せなかった。

 カナが聖真に与えた力、それは夢を見せる力。彼女が永い時を祈り続けて得た能力。それを二人に同時に掛ける事により、同じ夢で、同じ空間で、二人は出会えた、話し合えたのだ。

 だが、彼女がしたのはそれだけだ。今目の前で起こっている現象には、全く関わっていない。

 無論、こんな事は始めてだった。かつて異世界で不思議な連中と弾幕で戦った時でさえ、こんな事は起こらなかった。

 

 ──それは変身というより、転生に近い。

 

 服装は変わっていない。ラインの入った黒いジャージのまま。

 けれど、それ以外の全てが変わっていた。

 金髪でウェーブの掛かった髪、綺麗に整った顔、色白で細身な小さい身体、正に人形の様な少女の姿だった。

 カナは解っていた。彼女がナイフの意思、メリーだという事を。

 

「先程は、ありがとうございました」

 

 彼女は言った。とても透き通った、美しい声だった。

 

「貴方のお陰で、私も、主人も、希望を見出だせました。本当にありがとうございます」

 

 彼女は微笑んだ。天使の様な、可愛い笑顔だった。

 

「私達はもう、帰らなくてはなりません。やるべき事があるのです」

 

 それだけ言い残すと、彼女の姿は消えてしまった。

 暗い部屋の中、一人カナは佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 人は何の為に生まれてくるのか。

 その明確な答えは、どれだけ探しても見付からない。

 何故ならそれは、人各々違うから。

 

 

 ある者は、生きる為と答えるだろう。

 

 ある者は、死ぬ為と答えるだろう。

 

 ある者は、幸せにさせる為と答えるだろう。

 

 ある者は、守る為と答えるだろう。

 

 ある者は、勝つ為と答えるだろう。

 

 ある者は、働く為と答えるだろう。

 

 ある者は、救う為と答えるだろう。

 

 ある者は、作る為と答えるだろう。

 

 ある者は、何も答えないだろう。

 

 

 ここにいる一人の青年は、自分が何の為に生まれてきたのか、はっきりと理解してはいない。

 ただ、幾つか解る事はあった。

 彼は他人と共に日常を過ごす事に、何よりの幸福を感じていた。どんな災難がその身に降り掛かろうとも、彼は懸命に抗っていた。多くのものを失っても、たった一つの大切なものを守る為に、戦う覚悟を決めた。

 

 けれどその覚悟も、たった一枚の紙により、全て水の泡と化した。

 

 

 

『聖真さん、お元気ですか?

私は元気です。聖真さんがいなくなったあの日から、私は聖真さんをずっと捜していました。けれど私は、聖真さんを見付ける事は出来ませんでした。

聖真さんがいない内に色々あって、私は全てを思い出しました。私がいた世界、幻想郷の事を。そして、私を助けてくれた友達の事を。

私は戻らなければいけません。私の友達が、今苦しんでいるかもしれないのです。友達を助けなければいけないんです。

本当は、直接会ってお別れしたかった。けれど、それも叶わなかった。せめてこの手紙を見てくれる事を祈ります。

どうか、私の事を忘れて幸せに暮らして下さい』

 

 

 

 名前は書いていなかった。だけど、これが誰の手紙かなんて、考えなくてもすぐに分かった。

 

 

 

 彼は慟哭した。


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