心を穿つ俺が居る   作:トーマフ・イーシャ

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本編だけでは分かりにくいかもしれませんので簡単にIF点を言うと、『海老名さんが戸部たちよりも先に部室を訪れた』と『海老名さんが全てを話した』です。


雪乃と葉山の修学旅行パーフェクトシナリオ

「私、とべっちに好意を抱かれていると思うの」

 修学旅行の数日前、この日初めて部室を訪れた海老名さんは私たちにすべてを打ち明けてくれた。

「私、聞いちゃったんだ。とべっちが修学旅行で私に告白するって。でも、それに答えることは出来ないの。別に他に好きな人がいるとかじゃないし、とべっちが嫌いという訳でもないんだけど、それでも、告白を受けることは出来ないんだ。例え誰かと付き合ってもうまくいきっこないもん。私、腐ってるから」

 悲しそうな、でも無理に笑おうとするような顔で海老名さんは続ける。

「それに、告白を受け入れても拒絶しても私たちのグループは崩壊すると思う。けど、あのグループは壊したくないんだ。ああやって私を受け入れてくれたみんなを悲しませたくないし、壊したくもない。私にとって、あそこはすごく大事な場所なんだ」

 彼女は苦しんでいた。きっと、これを打ち明けることにも多大な葛藤の末に決断したんだと思う。

「だから、奉仕部に依頼させてください。戸部君の告白をさせないようにしてほしいの。諦めさせるか、妨害するか。そういった形でグループの崩壊を回避してください。こんな身勝手で我儘な依頼だけど、どうか引き受けてもらえませんか?」

 彼女の言葉を脳内で反芻させ、私は言葉を紡ぐ。比企谷くんも由比ヶ浜さんも真剣な表情でこちらを見ている。

「分かりました。引き受けましょう」

「ゆきのん!」

 由比ヶ浜さんが抱き着いてくる。暑苦しい。けど、必ずしも嫌じゃない。

「雪ノ下さん、ありがとう」

「依頼を引き受けた以上、全力で解決に尽力するわ。それで、幾つか聞かせて貰っていいかしら。まず、このことを知っているのは私たち以外にいるのかしら?」

「うん、グループの男子はとべっちが私を好きなことはみんな知っていると思う。そしてみんなは告白成功のためにいろいろしてるみたい。優美子は知らないと思うけど、うすうす感づいていると思う。あと、葉山くんにも同じことを相談したね」

「葉山に?なら、葉山が戸部を説得してくれているんじゃないのか?」

「そうだと良いんだけど、いろいろと心配だからね」

 おそらく葉山くんは何も出来ないと思う。あの男は優しいだけ。他人にも、自分にも。だから、自身はその影響力で他人の意見を簡単に捻じ曲げてしまうけど、それなりに芯のある人の意見を曲げるほど何かを言うことは出来ない。せいぜい、『やめといた方がいい』なんて言い方が精一杯だろう。

 でも、比企谷くんが会話に参加するのは少し意外ではあった。彼なら『そんな程度で壊れる関係なら所詮その程度の関係だろう』なんて言って何もしなさそうだと思っていたが。

「そう、なら次は修学旅行の班について……」

 海老名さんと話し合いを続けていると、教室に再びノックが響く。

「ごめんなさい由比ヶ浜さん、来客者に少し外で待ってもらうように言ってもらえないかしら。ああ、比企谷くんはここにいてくれるかしら。戸を開けていきなりそんな腐った目を見てしまったら依頼者が心に傷を負ってしまうわ」

「俺の目はPTSDを誘発するくらいにやばいのかよ」

「ま、まあ、とりあえず様子を見てくるね」

 席を立った由比ヶ浜さんは戸を引く。すると、耳障りな声が聞こえてくる。林間学校で聞いたことのある、あの声。

「ここが葉山くんおすすめの奉仕部ってやつ~?」

 たしか、戸部くんだったか。だが、ここに海老名さんがいることを知られるのはあまり望ましくないのかもしれない。

「比企谷くん、私が海老名さんを帰すから、あなたは彼らをどこか遠くに連れて行ってくれないかしら?」

「おう、分かった」

 比企谷くんも由比ヶ浜さんとともに彼らの相手をする。最初はやいのやいのと騒いでいたが、由比ヶ浜さんたちと一緒にどこかに行ってしまった。

「海老名さん、今のうちに逃げてちょうだい。何かあれば奉仕部専用メールアドレスにメールを頂戴」

「ありがとう、雪ノ下さん。比企谷くんたちにも伝えておいて。それじゃあ、失礼するね」

 海老名さんは足早に立ち去っていった。私は由比ヶ浜さんに戻ってくるように連絡する。

 

 

 

 

 

「なにか御用かしら?」

 海老名さんの退室後、葉山くん、戸部くんと他二名が入ってくる。しかし葉山くんは戸部くんを連れてきてどうするつもりなのかしら。恐らく、告白に関することであることは間違いないと思う。けれど、彼がここに連れてくることが理解出来ない。

 話を進めると、やはり海老名さんに告白するようで、必ず失敗しないようにそのサポートを依頼したいとのこと。正直、奉仕部として持ってくる依頼として間違っているという気がする。「必ず失敗しないように」というのは奉仕部のスタンスとして間違っている。奉仕部はあくまで手助けを行い自立を促すだけで、核となる部分は自分自身で決め、自分自身で行わなければならない。自立とは、そういうものであるべきだ。戸部くんはこの部を何でも屋程度にしか理解していないだろう。葉山くん、紹介する以上はそのあたりを説明してもらわないと困るわね。それに、私たちに恋愛相談など、出来ない。こればかりは経験と適正の問題だ。恋愛の相談に乗れるほど私は詳しくないのだから。

 由比ヶ浜さんは先ほどの話を聞いていたからか苦笑いで戸部くんに「いやー姫菜はガード高そうだし……」とか「告白に失敗したら気まずくなったりしちゃうし……」などとあきらめるように説得しているが戸部くんは考えを変えるつもりはないらしい。

 比企谷くんは苦々しげな表情で戸部くんと葉山くんを見ている。比企谷くんも私と同じように葉山くんの行動に思うところがあるのだろう。

 葉山くんは相変わらず仮面みたいな笑顔を張り付けている。その仮面の下には、いったいどんな顔をしているのかしら。

 

 その後、比企谷くんも自身の過去の思い出を使って告白を止めようとするが、葉山くんに遮られてしまう。なぜ止めるのだろうか。理解出来ない。海老名さんから話を聞いているのであれば、比企谷くんの話を続けさせて少しでも戸部くんが告白しようとする思いを削ったほうが都合がいいだろうに。疑問はまだ氷解する気配はない。氷の核は今だに凍りついてその全貌を見ることはまだ出来ない。

「じゃあ、俺は部活あるから、悪いけど後は頼むな。依頼のこと、戸部のこと、よろしく頼む。……戸部もあんまり遅くなるなよ」

 まるで私たちが依頼を引き受けたかのような発言。戸部くんが「隼人くん……ありがとう!」と友情ごっこみたいなことをしている。

「葉山くん、他に話しておくべきことはないかしら?修学旅行までもう日がないのだし、もしかしたら今後、他の依頼人が来たりしてあなたが話すべきことがあっても伝えられない可能性があるわ。だから、私たちに伝えるべきことがあるなら先に伺うわ。何なら、他の」

「……いや、ないけど」

 そのまま連れの二人とともに立ち去ろうとする葉山くんを見て疑問は氷解しつつある。少しずつ氷の中から姿を現しているそれは怒りと軽蔑、そして少しばかりの諦めだった。諦め……私はこの男にまだ期待でもしていたのだろうか。

「……そう」

 比企谷くんも横で険しい顔をしている。あなたも気づいたようね。

「待ちなさい。葉山くん、少し話があるので残ってもらえるかしら。由比ヶ浜さん、申し訳ないのだけれど、他の三人を外に連れ出してくれないかしら出来れば、ここでの会話が聞こえないくらい遠いところまで、ね」

「え?ああ、うん」

 恐らく葉山くんの考えに気付いていないであろう由比ヶ浜さんに他の三人と外に出るように促す。この話は由比ヶ浜さんには聞かせられないわ。

 

 

 

 

 

「それで、話って何かな?この後、部活があるから早くしてもらえないかな?」

 相変わらず気持ち悪い仮面を張り付けているわね。その仮面の下のあなたはきっと真っ黒な笑顔だったでしょうね。

「そんなことを言う余地があるとでも?むしろ由比ヶ浜さんたちに聞かせないようにしたことに感謝してもらいたいわね」

「……なんのことだ?」

「あなたたちが来る前、海老名さんがここに来ていたわ。告白には答えられない、けど断るとグループが崩壊するからどうにかしてほしいとね」

 葉山くんは一瞬だけだが苦々しい表情を浮かべる。

「姫菜が……そうか」

「そうか、だと?海老名さんはお前にも同じことを相談していたと言っていたぞ?それなのになぜお前は戸部をここに連れてきた?」

「……そりゃ俺からも協力を仰ぎたくて」

「だから、なぜ戸部くんを連れてきたのかしら?というか、あなた、戸部くんの恋路を応援しているのかしら?海老名さんの気持ちを知っているにも関わらず?海老名さんが告白を受けるつもりがないことはあなたも知っているはずよ」

「……それは」

 分からない。なぜこの男が奉仕部に来たのか。なぜ結果を知っているにも関わらず戸部くんの応援を続けるのか。失敗すると分かっているのに……?

 

 失敗?

 

「あなた、まさか……」

 思わず比企谷くんを見る。私と同じ考えに至ったのか比企谷くんも戦慄している。疑問はすべて氷解した。

「ああ、そういうことかよクソッたれが。ある意味さすがは弁護士の息子と言いたくなるぜ」

「なんの……ことだ?」

「とぼけるなよ。お前、戸部の告白が失敗することは分かってるはずだ。それでも戸部にこの部活を紹介した。失敗すると分かっていながらなぜ依頼を持ってきたのか。それは……」

 比企谷くんが一瞬言いよどむ。ここから先は部長である私の仕事よ。私が言わせてもらう。私が、彼に引導を渡すわ。

 

「あなたは告白が失敗したときの責任を奉仕部に押し付けたかったのね」

 

 葉山くんの仮面が剥がれて顔がゆがむ。私、あなたの仮面は嫌いだったけど、そんな素顔を見せられるなら仮面を被っていてほしかったわ。

「あなたは告白を成功させたい戸部くんと告白を受けたくはないけどグループの空気を壊したくない海老名さん両方から相談されて板挟みの状態だった。このままでは戸部は海老名さんに告白し、海老名さんはそれを拒絶。結果、グループは気まずくなって解散。しかしあなたは相談を受けたにも関わらず解答を出すことがまだ出来ていなかった」

「ち、違う。俺は」

「だからあなたは思いついた。解答が分からないのなら問題を他人に押し付ける手段を。そのために戸部くんに奉仕部へ告白のサポートの依頼をするように仕向けた。これで奉仕部が依頼を引き受けて、その状態で戸部くんが告白に失敗したら、責任は私たち奉仕部が背負うことになる」

「……」

「そうなればあなたは万々歳ね。本来あなたが負うハズの責任は奉仕部が背負うことになる。あなたは奉仕部のせいにして適当に戸部くんを宥めていればいいんだから」

「…………そのあたりのことは、後で相談しようと」

「お前、部室を立ち去る前に雪ノ下が話す事はないかと言ったの、覚えているだろ?だったらなぜ、その時に相談しなかったんだ。俺はてっきり戸部たちを帰した後に海老名さんから聞いたことを相談するつもりだと思っていたのに、お前、先に帰ろうとしてたじゃねぇか」

 葉山くんは肩を震わせている。あなたは変わったわね。幼いころは、あなたなりに私を助けようとしてくれたのに。私個人よりもみんなを守ろうとするあなたの行動は結果的には逆効果でしかなかったけれど、それでも私のために動いてくれていたわ。

 けど、今のあなたは見ていられないわ。あなたは昔のようにみんなを守ってすらいない。みんなから見られるあなた自身しか守っていないじゃない。

「なあ、どうしてこんなことを?俺はお前は常に正論に縛られるような人間だと思っていたんだが」

 比企谷くんと葉山くんが話し始める。

「そんなつもりじゃなかったんだけどな」

 まるで万引きをした小学生みたいな言い分ね。

「で?こんなもんで保たれる上っ面の関係で楽しく出来るのか?俺には理解出来ん」

「そうかな……。俺は、これが上っ面だなんて思ってない。今の俺にとっては今あるこの環境がすべてだよ」

 その中に私も比企谷くんも奉仕部も入っていなかったようね。

「いや、上っ面だろ。じゃあ戸部はどうなる。あいつだって結構真剣じゃねぇか。あいつのことは考えてやらねぇのかよ」

「何度か諦めるようには言ったんだ。今の戸部に姫菜が心を開くとは思えないから。……それでも先のことはわからない。だから、あいつに結論を急いでほしくなかったんだ」

 あなたもそれなりにやってきたようね。それでも戸部くんの決心を変えることは叶わなかったから責任を移転するためにここに来たわけね。けど、それで私たちがあなたの責任を肩代わりする理由にはならないわ。

「得ることよりも失わないことが大事なものだってあるだろう」

「勝手な言い分だな。それはお前の都合でしかない」

「ならっ!……なら、君はどうなんだ。君なら、どうする」

 その発言を聞いて私は彼の真意に気付いた。そして彼の行動が、言動が、どうしようもなく私の心を揺さぶる。なぜなら、その様が、かつての文化祭での私に酷似している。自身のキャパを上回る依頼を受け、そのツケを比企谷くんに傷という形で支払わせた私に。こうして見ていて、初めて思い知ったわ。ああ、あの時の私は、こんなにも愚かだったのね、と。

「そう、あなたは比企谷くんのあのやり方を使わせたいわけね」

「雪ノ下?」

 やはりこの男には私が引導を渡さなければならないようね。文化祭終盤、屋上で、あなたは何も出来ず、比企谷くんが傷を負うことで依頼を解決させた。比企谷くんが傷を負った要因は私が最も大きいわ。あの時、姉さんを追いかけるあまり周囲も依頼も文実も奉仕部も、そして比企谷くんと由比ヶ浜さんさえも二の次にして私は暴走した。その結果、私は比企谷くんに傷を負わせてしまった。こんなことはもう繰り返さない。もう、比企谷くんに傷を負わせない。その役目は、部長である私のものよ。奉仕部で発生した傷も責任も、私が全て負うべきだわ。

「比企谷くん、これより先は私が引き継ぐわ」

「雪ノ下さん?」

 ああ、葉山くん。あなたは私と同じ。姉さんの後を追って文化祭を引っ掻き回して文実に多大な迷惑を与えた私。自身のキャパを超える相談を断ることもなく引き受けた挙句、責任を奉仕部に擦り付けようとした葉山くん。どちらも自分では手に負えなくなって、それでもそれを認めず、比企谷くんに甘えて、頼って、期待して、傷つけ、そして否定することしか出来ないクズよ。クズの相手はクズがするべきだわ。

「あなたは具体的な方法は分からないけど比企谷くんが傷を負うことでこの依頼を解消させようとしているのね。それがあなたの真の目的。いや、予備プランとでも呼びましょうか。その方法は、追い込まれて土壇場の状態でしか使用できない。文化祭終盤の屋上がそうだったようにね。だから、多くは言わずに戸部くんに依頼をさせた。何も出来ず、あるいはさせず、戸部くんが告白するまでのタイムリミットが近づき、あなたたちのグループも奉仕部も追い込まれた状況を演出するために。それで比企谷くんがその方法を取って、成功すれば比企谷くん以外にダメージなんて発生しないから誰にとってもトゥルーエンド。失敗したり実行できなければ奉仕部の責任として処理されてあなただけはノーダメージ。最高のシナリオね。つばを吐きたくなるくらいだわ」

 ホント、つばを吐きたくなるわ。同じことを文化祭で比企谷くんにさせた、自分自身に。

「これで分かったでしょう?あなたのクズさが。醜悪さが。卑怯さが。姑息さが。戸部くんの依頼を引き受けるにしても引き受けないにしても、あなたは有害因子でしかないわ。それが分かったなら、ここから立ち去りなさい。そして二度とここに現れないで」

 葉山くんは何も言わず、その場を後にする。部室を出て、戸を閉めるために振り返ったことでチラリと見えた葉山くんの顔。その、憤怒と恥辱に塗れた顔。私はその顔を一生忘れないわ。あれは私。だからその顔を、この気持ちを心に刻みつける。文化祭と同じことをしないように。もう、比企谷くんを傷つけないために。

 

 葉山くんが立ち去った部室で、私は比企谷くんと二人きりになった。今、どれだけ私は彼に謝罪したいと思っているのだろう。謝りたいと思っているのだろう。気を抜けば、きっと私は彼の胸に飛び込んで泣きわめきながら延々と謝り続けることだろう。

 だが、そんなことはただの自己満足だ。謝罪したい、許しを請いたいという自分勝手な気持ち。だから、私が今とるべき行動は、この依頼を彼の方法を使わずに解決すること。それだけだ。

「比企谷くん」

「お、おう、何だ?雪ノ下」

「文化祭であなたが行った方法。あの方法なら、今回の依頼、どうする?」

「え?えっと、そうだな。戸部が告白する直前に俺が変わりに告白するとか、かな」

「どんなふうに?」

「え?その、今言うのか?」

「ええ」

「……『ずっと前から好きでした。俺と付き合ってください』」

「……」///

「あの、なんか返してくれませんかね?」

「あ、いえ、ごめんなさい」

「なんか調子狂うな……」

「それで、その告白の後はどうするのかしら?」

「俺の予定では、海老名さんに『ごめんなさい、今は誰とも付き合うつもりはないの』と言わせる。そうすれば戸部は海老名さんが誰とも付き合うつもりはないことを知ることになる。そうすれば、告白なんてしないだろ。これで解消ってわけだ」

「そう、ならそれを別の人に言わせましょう」

「別の人?」

「由比ヶ浜さんよ。この後、戸部くんにはとりあえず調査をすると言って依頼を受けるかどうかの返答を保留するわ。翌日、由比ヶ浜さんに好きな人がいるのかとかどんな人に告白されたいとかそういったことを海老名さんに聞かせる。戸部くんに会話が聞こえる、けど海老名さんたちが何も知らなければ戸部くんたちを認識出来無さそうな距離でね。その時に海老名さんに『誰から告白されても付き合うつもりはない』と宣言させればいいのよ。あらかじめメールで連絡しておけば大丈夫よ。こうすれば修学旅行に行く前に告白を封じれると思う。一応、修学旅行中は二人きりにさせないなどの対策を行うくらいは必要だと思うのだけれど」

「なるほど。流石、雪ノ下。俺の話から数秒でよくそんな完璧なシナリオを思いついたな。しかし、お前がそういう嘘や裏工作をするなんて思いもしなかったよ。変わったな」

「そうかしら。自分では自覚がないのだけれど」

「まあいいや。それで行くなら戸部たちを部室に戻す前に先に由比ヶ浜に話しておく必要があるな」

「そうね。なら比企谷くん。お願いするわ。由比ヶ浜さんを部室に戻して、あなたが由比ヶ浜さんの代わりに戸部くんたちを見ていてくれるかしら。終わったら連絡するわ」

「連絡するって、お前、俺の連絡先知らねえだろ……あ、由比ヶ浜経由でってことか」

 いつもと変わらない会話。でも、彼は私を変わったと評価した。初めてあったとき、比企谷くんは変わることを否定した。もし、比企谷くんが今、私が変わったことを許容してくれるのなら、もう少しだけ変わっても、踏み込んでみても許してくれるかしら?

 

 

 

「そうね。なら、比企谷くん。私と連絡先を交換しましょうか?」 

 


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