心を穿つ俺が居る   作:トーマフ・イーシャ

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比企谷八幡は手札を持っていない。だから自己犠牲みたいな手段を使用する。なぜなら自分自身しか切れる手札がないから。それは随分と傲慢で、怠惰な話ではないですかな?だって、比企谷八幡は努力していないのだから。手札を作るという、努力をね――――



比企谷八幡は手札を作る

俺は、手札を持っていない。

林間学校にて、俺はそれを痛感していた。あの時、俺は依頼を解消した。確かに、俺にはあの方法しか思いつかなかったし、それはあの場にいた全員がそうだった。だが、俺は解消しか出来なかった。俺が持つ手札は、人の悪意を読み取って利用する頭脳と、社会的立場への執着心のなさ。その二つだけだ。

だから、俺は手札を増やすことにした。もう、手札がこれしかなかったなんて言わないために。もっとよりよく立ち回るために。他人も、自分も、傷つけないために。

 

 

 

 

 

「うち、実行委員長やることになったけどさ、こう自身がないっていうか……。だから、助けてほしいんだ」

先日、文実で実行委員長に立候補した女。相模は奉仕部に訪れて依頼をしてきた。雪ノ下は依頼を受けないものだと思った。

「そう……。なら、構わないわ」

だから、依頼を引き受けるとは思っていなかった。事故のことで何か思うところがあるのだろうか。だが、こんな状態でこんな複雑な依頼が達成できる気がしない。だから俺は手札を作る。とりあえず最初は弱くてもいい、少しずつ、数を増やしていく。

「なあ、それってつまり、『実行委員長をサポートして文化祭を成功に導く』ということでいいのか?」

「はぁ?アンタ何?」

「いいから、答えろ」

「べ、別にそれであってるしー」

「雪ノ下も『実行委員長をサポートして文化祭を成功に導く』ということでいいのか?」

「え、ええ、構わないわ」

「じゃ、よろしくねー」

相模連中は部室から去っていった。俺はボイスレコーダーを取り出して録音を終了する。とりあえずこれが初めて作った俺の手札だ。

 

 

 

 

 

「文化祭を最大限、楽しむためには、クラスのほうも大事だと思います。予定も順調にクリアしてるし、少し仕事のペースを落とす、っていうのはどうですか?」

あの女やりやがった。陽乃さんに何を影響されたのは知らんが、そんなサボりの大義名分を与えるようなことをすれば今までのバッファなんざ一瞬で食いつぶされてしまう。だが、俺にそれを止める権限なんてないし、雪ノ下の声も陽乃さんに消されてしまい届かない。やはり相模では駄目だ。何か手を打たなければ。

 

 

 

数日後、俺はある書類を作成していた。それを平塚先生のもとへ持っていく。

「比企谷……私にこれをどうしろと?」

「目を通していただいてサインしていただければいいかと」

「ふむ……。確かにこれを作ることは間違っていないのかもしれない。だが、彼女のことも考えてやれないか。彼女なりに一所懸命に頑張っているのに、この書類は彼女を信頼していないことがありありと伝わってくるぞ」

「信頼していませんよ。だからこれを作ったんです。それで、許可をいただけますか?」

「……ふむ、構わない。厚木先生にはあとでこちらから説明しておくよ。ただ、そうやって信頼していないことを晒すのは敵を作ることを知っておくように」

「ええ、重々承知してますよ」

俺を誰だと思っている。信頼や信用なんてものはいつも切り捨てられてきた人間だぞ。さて、次は城廻先輩だ。

 

「城廻先輩、この書類にサインして頂けませんか?」

「これは……?」

「詳しくは、ご自身でご査収して頂いたほうがよろしいかと」

城廻先輩はむむむーと唸りながら俺の持ってきた書類を読んでいる。不思議だ。これをそこいらの女子がやったらあざとクソビッチとか思うけど城廻先輩だと似合っていて腹が立たない。

「うん、読ませてもらったよ。これ、平塚先生のサインがあるってことは平塚先生は許可したということだよね?」

「ええ」

「そうなんだ。一つ聞かせて貰っていいかな?」

「なんです?」

「どうしてこれを?そんなに相模さんが不安?信用できない?君の目から見て、相模さんはこれが必要だと思うくらいダメなのかな?」

そうです。その通りです。不安です。信用できません。そう言うことは簡単だ。しかし、俺はこの先輩にその言葉を言うことが望ましいとは思えない。何故なら、城廻先輩は生徒会として実行委員長である相模を精一杯サポートしている。なのでその言葉は城廻先輩たちにも当てはまる。俺から見て、サポートを行っている城廻先輩は上からの物言いで失礼だがかなり優秀だと思う。もちろん他の生徒会メンバーも。だが、相模はそれをはるかに上回るダメさを持っている。

それに、文実の中で最も権力を持つのは相模だ。そしてそれを知ってか知らずか自身に都合のいいように振り回している。より自分が楽を出来るように、より自分に人望が集まるように。それを生徒会は止めることが出来なかった。雪ノ下も。だから抑止力が必要なのだ。

「いえ、万が一に備えて、ですよ」

「万が一?」

「ええ。これを使わないほうがいいのは分かっています。ただ、手札を増やしたいだけです。それで、この書類を了承してもらえますでしょうか?」

「うん、それが分かっているなら安心だよ。サインしておくね」

「ありがとうございます」

さて、最後は相模のサインだ。

 

「雪ノ下。これを相模にサインさせてくれないか」

「これは……?」

「見ての通りだ。相談しなかったことは悪いと思っているが、すでに平塚先生と城廻先輩の認可は貰っている。あとは相模のサインだけだ」

「……いえ、これを否定するわけではないのだけれど、少し驚いてね」

「驚く?」

「あなたがこういう手回しや裏工作、予防線のようなことをするのが少し意外だっただけよ」

「そうだな。初めての試みだ」

「あなたも変わったのね」

「こういうセコイ手を使うようになるのはお前としてはいいのか?」

「まあ、必ずしも褒められる行為ではないのかもしれないけど、それでも今回は必要になるのかもしれないわね」

相模の依頼を受けた時と若干態度が違っている。頭が落ち着いたのか、文実の仕事に追われてて余裕がないのか、それとも……。

「……お前、大丈夫か?」

「……大丈夫、なんでもないわ。とりあえず、この書類は預からせてもらうわ」

雪ノ下は作業に戻っていった。やはりおかしい。いつもの雪ノ下とは違う気がする。というよりは例え誰であっても普通、大丈夫か?などと聞かれて本当に大丈夫ならその質問の意図に疑問を持つ。大丈夫なんて答える奴は大丈夫じゃない。ソースは俺。母ちゃんに『学校、大丈夫?』って聞かれて『うん、大丈夫……』としか答えられないような学校生活送ってきたから。まあ、雪ノ下は業務で疲れているだけかもしれないし、大丈夫だろ。

「……二F担当者。企画書が出ていないのだけれど。今日中に提出なのだけれど、大丈夫なのかしら」

「……大丈夫です」

大至急教室へと向かう。いや大丈夫じゃないわ。

 

 

 

企画書を書くため由比ヶ浜とともに会議室に戻ろうとしたころ、葉山のかほりを嗅ぎつけた相模が会議室へと向かった。

会議室に入った相模が葉山と世間話をしようと近づくと、葉山をマークしていた雪ノ下が相模をスクリーン。そして相模に書類をパス。思わず『リバンッ!』って叫んじゃうところだった。いや、シュートしてないけど。

相模の手に書類の束が渡される。そして一番上に例の書類。それを相模は決済印をポン。え、押しちゃうの?読んだの?あなたにとって大事な書類だよ?

「相模さん、その書類はサインをお願い」

すると相模はボールペンでさらりとサイン。いいの?絶対もめると思っていたのに。いや、こっちとしては助かるんだけど。

 

 

 

 

 

雪ノ下が倒れた翌日。スローガンの変更で俺はやってしまった。俺はあの方法が最善策だと思うが、新しく作った手札では何も出来なかった。だから、あんなことを言うしかなかった。結果的に文実は回りだしたが、平塚先生の目を、雪ノ下の目を直視することが出来なかった。俺も、少し心がざわつくような感触を得た。他人に言わせればこれが心に傷を負ったということなんだろう。小さいころから経験していて、慣れてしまったこの感覚。でも、慣れてもいいのだろうか。これが回避したくて、手札を作ることを決めたのではなかったのか。

 

 

 

 

 

文化祭当日、終了直前、相模が集計結果を持ったまま逃げたことを告げられる

「比企谷くん、私は時間を稼ぐわ。だからお願い。相模さんを連れてきてちょうだい」

最後の最後にとんでもない仕事を持ってきたものだ。だが、やらねばなるまい。副実行委員長として、奉仕部部長として、上司の命令には逆らえないからな。

「雪ノ下、城廻先輩。俺が以前作成してサインを貰った書類を覚えていますか」

雪ノ下と城廻先輩の顔に一瞬、動揺が走る。が、すぐに俺の真意を理解してくれたようで覚悟を決めた顔になってくれる。

「ええ」

「うん、大丈夫。すべて理解してるよ」

俺は走り出す。新しい手札とともに。

 

俺は屋上へと向かう。途中、材木座と川崎の協力を得て、相模が屋上にいることを悟った。俺には手札がないなんて言いながら、材木座と川崎という手札があるんじゃないか。

屋上にいた相模にエンディングセレモニーが始まるから戻るように促すが、戻るつもりはないようだ。と、そこに現れたのは相模の取り巻きと、葉山。生まれながらにして俺と違って多くの強い手札を持つ人間。人脈、知能、運動能力、金、親の力、人望、容姿。俺とは全く違う人間だ。

だが、葉山であってもこの事態を解決できないようだ。このままではエンディングセレモニーが始まってしまう。その時、思いついた。俺を敵として、葉山を正義のヒーローにして相模を説得する術を。だが、この方法はやめると誓ったのだ。

このために俺は手札を作ると誓ったのだ。俺が終わらせよう。俺が新しく作った手札で。

俺は携帯を取り出す。

「もしもし、城廻先輩?集計結果を入手しました」

 

 

 

 

 

相模さんの友達と相模さんを探していると屋上に向かうのを見たという目撃者を見つけた。俺たちは屋上へと走る。

屋上には、相模さんと、ヒキタニくんがいた。俺たちは相模さんの説得を行うが、来てくれない。このままでは、エンディングセレモニーに間に合わない。どうすれば……。

「もしもし、城廻先輩?集計結果を入手しました。一位が……」

ヒキタニくんがどこかに電話している。お前も相模さんを説得するのを手伝ってくれよ!

「ええ、ええ、そうです。無理でした」

無理だって!?待ってくれ!あと少しなんだ、諦めるな!

「ですので、予定通り、雪ノ下を実行委員長としてエンディングセレモニーの進行をお願いします」

待ってくれ!どうしてだ!なぜだ!お前も、説得するためにここに来たんじゃないのか!?

ヒキタニくんは、相模のほうを向いて、告げる。

 

「副実行委員長・雪ノ下雪乃及び生徒会長・城廻めぐりの代理として通達させてもらう。相模南にリコールを行う。現時点を以て相模南は実行委員長を辞退。そして新たに雪ノ下雪乃を実行委員長として文化祭の運営を行うものとする」

 

……どういうことだ?リコール?なんのことだ?

「どういうことだ比企谷」

自分でも分かるほどに冷たい声が出た。

「なぜ彼女がリコールされる?その必要がある?」

「……度重なる職務怠慢及びエンディングセレモニー直前の職務放棄。これにより彼女が実行委員長では文化祭の運営に支障が出ると判断した。そのためにこのような処置をとることになった」

ああ、それは十分納得できる。だがそれではダメだろ?みんなで力を合わせてこその文化祭だろ?

「リコールとはなんだ。そんなシステムは文実には存在しないはずだが」

比企谷は、胸ポケットから一枚の書類を出して渡してくる。何かの書類のコピーのようだ。平塚先生と城廻先輩、相模さんのサインが書かれている。そこには、

 

 

一、実行委員長、相模南の運営によって文化祭の運営が困難であると副実行委員長、雪ノ下雪乃及び生徒会長、城廻めぐり両名が判断した場合、その時点を以て相模南は実行委員長を辞退し、雪ノ下雪乃を実行委員長として文化祭の運営を行うものとする。

 

 

なんだこの書類は。どうしてこんなものが。だが、そこには相模さんのサイン。適用は、可能だ。

「うちこんなの知らない、知らない!」

相模さんが錯乱している。知らない?紛れもなく相模さん自身のサインが書かれているのに?

比企谷が立ち去ろうとしている。とっさに胸倉をつかんで壁にぶつける。

「ガハッ!」

「比企谷……どういうつもりだ?」

「今告げた通りだが」

手がわなわなと震える。必死に抑えないと殴ってしまいそうだ。

「葉山くん、そんなやつほっといて、いこ?」

相模さんの友達が相模さんを連れてここから立ち去るように促す。戸が閉まる前に、比企谷に一言だけ告げる。

「どうして、お前はそんなやり方に変えたんだ……?」

返答を聞く前に屋上を去る。急がなければ。

 

 

 

「『もしもし、城廻先輩?今相模がそちらに向かいました。時間が間に合えば、相模を実行委員長として進行をお願いします、では』……録音終了、っと。それにしても、俺が敵になる方法で思い描いた結末と結果が同じになってしまったな。ならいいや。あとは、自己防衛するだけだな。そのための手札は、手中にあるのだから……ハハッ」

 

 

 

 

 

数日後、俺は生徒指導室に呼び出された。生徒指導室には、葉山と相模、その取り巻きがいた。俺が生徒指導室に入ると、相模がニヤニヤした目でこちらを見てたが、葉山が「相模さん、大丈夫?」と顔を覗き込むと目に涙を浮かべて辛そうな顔をする。まったく、役者並の演技だぜ。

あの時屋上であったことは相模によってあっという間に広まった。なんでも、ある男子が実行委員長の相模に「使えない」だの「役立たず」だの「実行委員長失格」だのと言った暴言を吐いたとか。おそらくそれが今回呼び出された原因だろう。

しばらくして生徒指導室の戸が開き、平塚先生、厚木先生の文実担当教師ペアと校長だか教頭だかのお偉いさんが入ってきた。

ああ、平塚先生が悲しそうな目をしてこっちを見てるよ。文化祭終了後、傷つくのがどうこうとか説教されたからな。あの時と同じ目だ。

俺は四角形に並べられた机の西側の席に、葉山たちは東側の席に、先生たちは窓を背後にして南に座る。

席に着くと、さっそく教頭が口を開いた。

「さて、君たちを呼んだのは他でもない、文化祭でのことだ。校内でも噂になっている。そこにいる比企谷くんが相模さんに向かって暴言を吐いたのだとか。相模さん、本当かね」

「ハイ……あの時、屋上にいたうちにあんなひどいこと……うぅ」

顔に手を当てる相模。大した大根役者だよ。先生からも葉山からも見えていないだろうが口が笑ってるぜ。仮面で覆い隠し切れてないぞ。

「では、比企谷くん、本当かね」

「いえ」

「な、アンタ!あんなこと言っておいてそんなこというの!?アタシらも聞いてたんだかんね!サイテー」

相模の取り巻きがなんか言ってる。

「つまり、比企谷は嘘をついているというのかね?」

「そうです!」

「葉山くんもその場にいたのだったね。どうなんだ?」

「ええと、その…………はい」

おおう、葉山。その場の空気に合わせてしまったな。俺に向けられたその目は済まないと語っている。いや、俺も本当に悪いと思うよ。葉山がその場にいなければお前もとばっちりを食らう必要なんてなかったのに、そこのアホのせいで巻き込まれちまったんだかな。

だから、俺も目で伝える。済まない、悪かったと。俺はこれから俺を守るよ。そしてお前を俺は守らない。そこの相模とともに沈んでろ。

「相模、俺はどんなことを言った?どんなことを言ったと言いふらしまわったんだ?」

「はあ?『使えない』だの『役立たず』だの『実行委員長失格』だの言ってたし!」

「先生、噂では俺はなんと言ったと聞いてますか?」

「まったく同じだ。違うのかい?」

「俺はそんなことは言っていませんが」

「はぁ!?アンタ、エンディングセレモニーの前にうちに言ったこと、忘れたとは言わせないし!」

俺はボイスレコーダーを取り出して再生する。

 

『エンディングセレモニーが始まるから戻れ』

『別にうちがやらなくてもいいんじゃないの』

 

相模らが驚愕している。先生方が眉をひそめる。平塚先生が目を見開いている。ここから先は、俺のターンだ。

屋上であったことをすべて再生し、葉山に問う。

「これは相模が言ったエンディングセレモニーの前にあったことを録音したものです。葉山、事実との差異はあったか?事実と違う点はなかったか?過不足は?これはエンディングセレモニーの前に屋上であったことだけを含んでいるか?逆に、これ以外に屋上でのやり取りがあったか?」

「……いや、差異も過不足もないよ。相模さんも、そうだよね」

「……確かにあのときあったことだけど、それが何?アンタはうちにひどいこといったことは変わりないし!」

「認めるんだな。先生方もこれが証拠として認めて頂けますか?」

「ああ、認めよう。そのボイスレコーダーは証拠能力として十分であることを」

「なら、反論を。おかしくないですか?俺がいつ『使えない』だの『役立たず』だの『実行委員長失格』だのと発言しましたか?そんなこと一言も言っていないじゃないですか。相模はエンディングセレモニー前に屋上で言われたと言っています。だが、俺はそんな発言をしていないことはこの録音から分かるでしょう。暴言を吐いたところを都合よくカットしていないことは葉山たちが証言している。つまり、嘘をついているのは俺ではなく、そこの四人だ」

「な……!」

「……」

相模とその取り巻きは絶句し、葉山はうつむいて何も話さない。

「つまり、相模さんが嘘をついていると。事実かね、相模さん」

校長が問いかける。相模がわなわな震えている。

「……いや、アイツは言いました。うちに職務怠慢だの職務放棄だの勝手なことを。それはうちを『使えない』だの『役立たず』だの『実行委員長失格』と言ったことと同じでしょ?」

おっと、まだ食らい付くか。まあこれは想定内だ。面白くなってきたじゃないか。

俺は相模のサインが入っている例の書類を提示して反論する。

「相模を実行委員長として文化祭の運営を続けるのは困難であることは明白だった。だからこそ副実行委員長、雪ノ下雪乃及び生徒会長、城廻めぐり両名は相模のリコールを承認した。俺はそれを相模に伝え、葉山に理由の説明を求められたので説明しただけです」

「だからって、あんな言い方……」

「言い方?あれはただの業務連絡だ。要点だけを事務的に説明しただけだ。俺としてはこれ以上なく簡潔に、短く、分かりやすく、端的に話したつもりなんだが」

「なぜ比企谷はリコールをした?結果的にエンディングセレモニーは滞りなく相模さんによって進行したじゃないか」

「それは結果論だ。あの状況で相模によって絶対に進行出来ると誰が断言できる?少なくとも俺はそうは思わなかった。それに、滞りなく?エンディングセレモニー開始は遅れたじゃないか。雪ノ下たちが時間を繋いでくれたから外部の人間からはそう感じただけだろ」

平塚先生がこちらを見ている。どう読み取ればいいのか、うれしそうな、安心したような、それでいて怒りと失望のようなものを感じる。

「で、先生方はどうですか?」

「ふむ……。比企谷くんの言い分を認めよう。解散とする」

「ちょっと!うちが心に傷を負ったのに学校はなんもしてくれないわけ!?」

「君のその心の傷はただの勘違いだ。比企谷くんの言葉を悪意ある受け止め方をしたからだ。それより、君には処分を与える。なんでも、君は職務怠慢と職務放棄を行っていたようじゃないか。そのことについて、レポートでも提出してもらおうか。君たちも、虚偽の証言をしたことと事実無根の噂を流したことについてね。これでも優しいほうだと思いたまえ」

判決は出たようだな。弁護士葉山も不正が暴かれ刑を受けてしまった。俺は帰るとするか。せっかくだし、半紙に『勝訴』と書いて走ろうかな。

「なんで!?アンタにうちは依頼したのに!奉仕部にうちをサポートするように依頼したのに!」

俺はもう一つのボイスレコーダーを再生する。

『なあ、それってつまり、『実行委員長をサポートして文化祭を成功に導く』ということでいいのか?』

再生を終えた後に告げる。

 

「俺が依頼を受けたのは実行委員長のサポートだ。特定の個人を示していない。例え実行委員長が変わろうと奉仕部は実行委員長をサポートする。それはそちらも承諾していると思っていたが?それと、これ以上俺や奉仕部について根も葉もない噂をばらまくなら、こちらも名誉棄損で訴える用意は出来ている。ここであったことはすべて録音しているので、そのつもりで」

 

俺は生徒指導室を後にした。

 




こうして、八幡は手札を手に入れました。自分を傷付けず、相模に矛先を向けるための手札をね。

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