今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

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第8話

 

本日 快晴。

 

この日も早朝から積極的に行動していた。先日、議題にあがった弁当問題に解決の糸口を発見したのだ。

 

宿の店主さん情報によると、冒険者向けに早朝から弁当を売りに出している、ありがた~い店があるという。

 

都合の良いことに、職場(地下洞窟)へ向かう途中で、少しだけ寄り道すれば目当てのモノは手に入るらしい。

 

そして情報通りにお店を発見。どうやら、サンドイッチを詰め合わせた弁当のようだ。全く問題がないので、朝昼分の弁当2個と竹筒(っぽい容器)に容れられた果汁水を2本購入。

 

弁当問題が解決したことに喜びながら、西端の職場(地下洞窟)へ向かう。

 

いつものように常駐スタッフへ軽く挨拶して、本日も地下洞窟に挑戦する。

 

やることは決まっている。奥まで進んで魔石獣と遭遇次第、ぶっ倒す。至ってシンプルな仕事だ。

 

そして、それを可能とする技能を持っている。とても便利な魔法である。

 

魔法の恩恵に感謝し、これからもヨロシク。っという思いだ。

 

今日は通路を変更した。今までは分かれ道になったら、すべて左側を選んでいたのだが、今回は、すべて右側で進んで行く。

 

早速、朝食のサンドイッチを食べながら歩く。入口付近では魔石獣は滅多に出くわさない。行儀が悪いが、気にするほどではない。

 

初めて進む通路でも、まっすぐ前進。さらに前進。ひたすら前進。この通路には分かれ道が無いようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

フレンの体感時間で、もうすぐ昼時というところで本日、最初の獲物を発見。しかも、大当りだ。

 

「イエス!。団体様が大量で大漁だ!」

 

地下洞窟の通路に、びっしりと蠢く魔石獣。フレンの気配を察知すると、構わず向かって来る。だが、その動きは遅い。

 

「20体近くいるんじゃないか?。まぁ、いいんだけどさ…」

 

そして、フレンは遠距離から、いつものように魔法を使う。突風の弾丸は次々とヒットしていくが、団体様は流石に数が多い。

 

正面のヤツラには魔法はあたっているのだが、一撃で倒せているわけではない。それによって少しずつだが距離を詰められている。

 

「それなら、これでどうよ?」

 

左手から放たれる突風の弾丸と同時併用で魔法を使う…。

 

フレンの全身から台風並みの突風が正面に向けて発生する。殺傷能力こそ低いが、足止めするには丁度いい。

 

魔石獣からすれば正面からうける突風により前進が出来ない。

 

「狙い通りだな…」

 

こうなっては、一方的である。遠距離から撃ち込まれる、突風の弾丸は避けられるわけもなく、近づこうにも突風を全身に浴びて、行く手を阻む。

 

気分の乗ったフレンは思い付きで、即興魔法を試してみる。右手で剣を握り、構える、魔力を込めると横薙に一閃。

 

容赦のない魔法攻撃に魔石獣もキツいみたいだが、知能が低いため現状を理解できてないようだ。

 

フレンの左手からは突風の弾丸が。右手からは突風の衝撃刃が。そして、その身体からは正面に向けて突風が吹いている。

 

「上手くいくもんだな…。特典の優しさ補正標準装備は伊達じゃないな…」

 

実際に補正機能が付いてるのかは判らないが、用途の違う三種類の風魔法を同時併用し、一気に畳み掛ける。

 

前方が交通渋滞していた魔石獣御一行たちに、魔法使いらしい攻撃を繰り出し殲滅させた。

 

「合計22体で、戦利品の魔石が3つ。ノルマ達成しちゃったよ…」

 

嬉しいはずが、最速でのノルマ達成に驚愕するフレン。

 そして、なにやら身体が不調に感じられる。考えられること、思い付くことはある。

 

「魔法の使い過ぎで、ガス欠…。っだな」

 

22体の魔石獣を相手にして、さらにタイプの違う風魔法を3種類、同時併用したもんだから、魔力が底をついたようだ。

 

「ちょっと調子に乗っちまったかな…。次は気を付けよう…」

 

周囲を警戒しながらも、とりあえず魔力を回復させるため、通路の壁にもたれて座り込む。ついでに2つ目の弁当を食し、果汁水で流し込む。

 

落ち着いたところで、今日の、これからの予定を考える。

 

(魔石は必要な分が手に入ったし、戻ってもいいんだが…)

 

まだ時間もあるので、このまま戻っては勿体ない。長い時間をかけて、この付近に来ているから…、それなりにしんどいのだ。

 

「レベルアップのためにも、もう1団体様を見つけますか!」

 

そう言って予定を決めると、ふと気付く。自分のレベルを全然、見てなかったことに…。

 1つぐらい上がってたら、いいなぁっと思って確認する。

 

特典の恩恵により、その場で自身のステータスを見ることが出来るフレン。

 普通は冒険者ギルドに立ち寄り、登録水晶にギルドカードをかざすことで、持ち主のステータスデータを更新してくれる。

この手間いらずは正直ありがたい。ギルドにも、あまり近付きたくないからだ。

 

「えっ!。レベル10?。マジで?!」

 

前回確認した時は、レベル7だったはずだ。昨日と今日で50体近くの魔石獣を倒している。そのお陰なのだろう。

 

(最初はレベル5からのスタートだったのに、わずか数日で、5つも上がったのか…)

 

あまり自身の成長には気づかないようだ。だが朗報であることに変わりはない。

 

「継続は力なり、っだな。しかし急成長の影に何かあると、変に勘繰られても面倒だ。上手く立ち振る舞わねぇとな…」

 

自身の思惑とは関係なしに利用されるのは勘弁してもらいたいのだ。

 

たっぷり休憩もとったので移動を開始する。無理はしないつもりだ。命は大事だと思ってるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大当りを引き当てたフレンは、次の獲物を求めて別の通路に進んでいた。

 

 

 

そして現在は戦闘中である。今日はとことん運が良いようだ。新たな通路に入り、ほどなくして正面から2体の魔石獣と遭遇。即、開戦。

 

続々と現れる魔石獣を、突風の弾丸と衝撃刃で撃破。霧散、消滅させていく。その数は10体、戦利品の魔石も1つ獲得した。ついでにレベルも1つ上がってレベル11となった。

 

「さて、今日はこれで戻るとするか…」

 

時間的にも問題はないだろう。そう思い、フレンは小おどりしながら帰路を進む。

 

 

(ククク、まさに大漁で大量じゃ、素晴らしい結果だ)

 

またしても、ワルい顔のフレン。戦果は文句なし、地上に出るのも夕方の時間帯。本当に完璧だった…。

 

 

   ここまでは…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「マジかよ……。」

 

 

 

 

 

およそ20メートル四方の広い一室空間。人工的とは思えない光が天井から周囲をわずかに照らしている。その広間の中央に立ち尽くすフレン。なぜフレンがこんな場所にいるのか。当然、原因がある…。上々の戦果をもって、鼻唄まじりに帰路を進んでいたフレンだが、ふと気付いてしまった、感知してしまった。地下洞窟の何てこともない通路で、魔力反応に近い感覚を感じとった。

 

フレンは警戒しながら魔力反応の出どころを探した。しかし、そこには何もない。あるのは通路の土壁。不審に思い、その土壁に腕を伸ばし手に触れた。

 

すると、フレンの手が土壁をすり抜け、吸い込まれていく。あわてて、腕を引き抜こうとしたが、理解出来ない強力な力により、フレン自身も土壁の中へと入ってしまった。

 

あまりの出来事に一瞬、 目を閉じてしまったが、すぐに目を開けた。

 そこには狭い小部屋のような空間がある。そして小部屋の中央の床に、にぶく輝く何かがある。

 

「まさかの隠し部屋発見…?。そして、その中央にあるのは魔法陣か??」

 

なんとなく直感的に魔法陣の存在に気が付いたフレン。普通なら、それが何なのか解らないのだが、以前の知識と、この世界の知識を併せ持つが故に、魔法陣ではないかと思い至った。

 

「う~ん、どうすっかなぁ……」

 

隠し部屋の隅で腕を組んで考え込むフレンは悩んでいた。

 

「おそらく、あの魔法陣の上に立てば、何かが起こる…。だが…」

 

隠し部屋である以上、発見者にはボーナス的な何かがある…、かもしれない。だが慎重派を自称するフレンには、ありがた迷惑、この上無い。

 

「もしこれがレベルアップ的なヤツで、1人1回の限定ボーナスなら、正直うれしい…」

 

しかし、この魔法陣が罠の可能性も十分、考えられる。……悩む。

 

「慎重な行動も大事だが目の前にチャンスがあるなら、例え、罠の可能性があったとしても、飛び込むべし!!」

 

覚悟を決めて、小部屋の床に描かれた魔法陣の上に立つ。すると魔法陣が輝き始め、やがて小部屋いっぱいにまで膨れあがった。

 

気が付けば、およそ20メートル四方の広い一室空間の中心に立っていた。どうやら転移の効果がある魔法陣だったようだ。

 

「何なんだ、ここは?」

 

隠し部屋から、さらに隠し部屋へ移動…。現状が理解できない。にわかに光が灯っているため、薄暗いが周囲が見てとれる程度には明かりがある。

 

足元には魔法陣がわずかに輝いている。一度、魔法陣の外に出て、再び入り直すが小部屋には戻ってくれない。

 

「………やっちまったか?」

 

罠の可能性が出てきた。そうなると出口を探さなければならない。しかし、辺りは壁に囲まれて扉なんてものは見当たらない。

周囲を見回していたその直後、思わぬ展開が訪れる。

 

「ちょっと……。いくらなんでも、それはヒドいんじゃないか?」

 

四方の壁際の地面から、魔石獣が這い出てきた。そしてジリジリとフレンに歩み寄ってくる。周囲は完全に囲まれて逃げ場もない。

 

「…自業自得ですもんね、ヤるしかないよな…」

 

自分自身に納得の答えを出し、戦闘モードに移行する。しかし、この現状にフレンは若干の焦りがあった。

 

(これは、骨が折れそうだな……、色んな意味で)

 

前後左右の方向から、各10体以上、全部合わせれば50体近い魔石獣が進行している。これまでの魔石獣との戦闘は、正面で向き合った状態で相手をしていた。だからこそ遠距離からの魔法攻撃が重宝で有効だったのだ。

 

(一方向にだけ集中攻撃をしても、ほかの三方向から距離を詰められるだけ、それなら…!)

 

フレンは自分自身を中心に周囲に向けて、広範囲突風を巻き起こす。殺傷能力の低い、足止めと、行動を阻害するための魔法だ。

 

(突風の威力を極限まで調整するんだ。ヤツラの脚が止まるギリギリを見極めろ!)

 

フレンは心の中で吼える。50体近い魔石獣を倒すためには足止めだけでは当然ムリだ。数を減らすためにも攻撃魔法を使う必要がある。だが、あとさき考えずに使えば、魔力が欠乏してゲームオーバーになってしまう。

 

「オレの、初の省エネ戦闘だなぁ!」

 

吼える…。だが、頭は冷静を保っている。足止め役の突風が魔石獣の動きを止める。魔力を温存するためにも調整を繰り返す。

 

「神経が…、すりきれる思いだよ。優しさ補正標準装備に涙がでるよ。まったく!」

 

無駄口を叩くのは、自身を奮い立たせるため。そうでもしないと、やってられないのだろう。

 

省エネ広範囲突風の効果が出始めた。魔石獣達は動けるか、動けないかのギリギリの状態になった。フレンは集中を切らさず、次の行動にでる。

 

「さて、得意の弾丸をご馳走してやろう…。今回は特別製だぞぉ!」

 

フレンは動きの止まっている前方の魔石獣達に、一発一発の質を最大限に高めた、突風の弾丸を、その左手、手のひらから丁寧に撃ち出す。

 

弾丸には激しい回転が加えられている。その効果は貫通力だ。これにより弾丸がヒットした正面にいる魔石獣と、その背後にいる魔石獣も、ついでにダメージをあたえられる。

 

今のフレンでは改良型の弾丸は素早い連発ができないが、省エネのためにも、やるしかない…。

 

(常時、展開中の広範囲突風が維持出来なくなるのは避けたい…、その前にヤツラを倒さなければ…)

 

魔石獣達が動き出す……、それはフレンの敗北を意味する。すなわち『死』だ。

 

「時間を掛けずに、時間を掛ける…。まったく、何て日だよ…」

 

少し前の時間までは、素晴らしい日だったのに、一転してこの始末。ボヤキながらもフレンは集中し魔法攻撃を続ける。魔石獣との我慢比べは、始まったばかりなのだ。

 

「俺が、ガス欠で潰れるのが先か…、お前らが潰されるのが先か…、負けるつもりはねぇぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、げほっ、はぁ、はぁ…」

 

 

 

…生き残った。

 

 

 

薄暗い広間の中央付近で、本日、2度目の魔力切れ。大の字に倒れ込んで、息切れを起こしている。

 

最後は本当にギリギリだった。ラスト1体では魔法で弱らせたところでガス欠。トドメはフラつきながらも、気合いを込めて近づき、剣を突きつけた。

 

「はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ、はぁ…」

 

フレンは呼吸を整えながらも勝利を喜んだ。この戦闘は自分自身にとって大きな財産となる。それが解っていたからだ。

 

「ふぅ~、たいしたボーナス・ステージだな、まったくよっ!」

 

ようやく、喋れるくらいに体調が回復してきた。フレンの言い分は、もっともなのだ。広間には魔石と思われるモノが幾つか落ちている。そして、この広間の魔法陣も光り輝いている。その上に乗れば隠し部屋の小部屋まで転移できるのだろう。

 

隠し部屋を発見した者には、罠とボーナスのプレゼントが用意されていた…っと思われる。受け取りの拒否もできたが……。

 

用意された罠(ステージ)をクリアすると、経験値と魔石(ボーナス)が手に入る。そんな仕組みなのだろう…。

 

「レベル13……。確かに上がってる。まぁ、そりゃそうだよな…」

 

ステータス画面を消すと、立ち上がり、落ちている魔石を回収する。その数は6つ。一度の戦闘で手に入れた魔石では新記録だ。

 

本気で疲れているフレンは、さっさと戻ることにした。思惑通りに転移し隠し部屋を抜けて、地下洞窟、本来の通路に戻れた。これから地上に出なきゃならないと思うと、苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

長い帰路を、ぐったりとしながら進み、そして、ようやく地上に出れた。すっかり太陽も沈み、辺りは魔道具の照明に照らされていた。

 

(本当なら夕方頃に帰ってきたはずだったけど…)

 

アクシデントは毎日のように起きているのだ、今さら嘆いても仕方ない…。フレンは、そう思うことにした。

 

いつものように、常駐スタッフに片手を挙げて挨拶。疲れているが、足早に過ぎ去る。向かうは食堂。腹が減ってしかたないのだ。

 

(まだ営業していると思うけど…。不安になる…)

 

 

 

 

 

フレンの祈りは通じた。天は見捨てなかったようだ。早速、食堂に入り晩飯をガッツク。一心不乱に……。

 

生きてる実感を噛みしめ腹を膨らませる。宿に戻ると風呂に入り、疲れを癒し、部屋のベッドにダイブする。ここで、ようやく一息つく。

 

(内容の濃い1日だった…。特典というアドバンテージがありながらも、2度も魔力が底をついた…。これは、これからの方針に対応策を組み込もう)

 

寝る前に反省会。実は、結構大切である。

 

(ガス欠以外は、戦果を得られた。この辺は明日以降に繋がるな)

 

ここでフレンは決心する。

 

 

「………明日は休日にしよう、ふあ~あ、おやすみ~」                   

 


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