地下洞窟の探索挑戦を無難に乗りきった翌日。
フレンは、手に入れた魔石を買い取ってもらうため、専門店に来ていた。
魔石は魔道具製作の為にも王国が買い取っている。
しかし王国と冒険者個人が直接売買をする訳にもいかない。
そこで冒険者ギルドが管理する専門店を作り、仲介することで流通が出来ている。
魔石の買い取り価格も決まっているため、不正なピンハネやマージンを抜かれない。
「そんな訳で、買い取りお願いします」
「は?、どんな訳です?……とりあえず買い取りですね?。お預かりします」
魔石を買い取る際には査定を行う。魔石は魔力を帯びている。内包する魔力量が多いほど高価になる仕組みだ。そして査定には不思議アイテムこと魔道具が使用される。
「お待たせしました。査定結果ですが、中位が1つ、下位が2つで買い取り価格は2万6000ガルになります」
「えっ、中位があったんですか?。それは嬉しいなぁ」
魔石は上位、中位、下位の三段階で分類される。どの魔石が出るかは完全に運まかせ。ギャンブル性が強いのも特徴だ。
「2万6000ガルです、ご確認ください」
「はい、確かに。では、また」
フレンは想定以上の買い取り額に喜びながら専門店を出た。
(1日のアガリが2万オーバー……。素晴らしいスタートだ!)
「くくくっ、掴むぜ、明るい未来を」
小さく呟くフレンは、ワルい顔になっている。
(目指すぜ!、日銭で薔薇色の人生を!)
目立たず地味に過ごしていたフレンだが、ニヤニヤとしながら歩くその姿は、不審者その者。しばらくして、周りの視線に気が付いたフレンは、逃げるように走り去るのだった。
恥ずかしい奇態を見せ、逃げ出したフレンは、日課になりつつある露店に立ち寄り、いつもの串焼きを10本と果汁水をお持ち帰りで購入。そして今日も地下洞窟へと挑むため移動する。
職場(地下洞窟)に向かいながらフレンは先ほどの専門店での事を思い返す。
(下位の魔石が1つ7000ガル、中位が1つ1万2000、上位なら3万ガルか。)
専門店で魔石の買い取り価格を聞いていたフレン。
先日のように最低でも3つの魔石を手に入れれば、それが下位であっても2万1000。
1日の報酬としては悪くない。今後の目標を魔石3つに据えることにした。
(あまり多くお持ち帰りしても目立つ可能性があるからな…)
1日の必要経費で、その内訳は宿代と食事代ぐらいで1万弱。最悪、下位魔石が1つしか手に入れられなくても、少しの赤字で済む。
情報を統合し、現状を把握する。フレンは、いつものように歩きながら思考する。
(パーティーを組まないからこその報酬独占だな…)
冒険者でパーティーを組み、その人数が多い方が安全に戦闘を進められるだろう。だが、得られる報酬は当然、折半になる。
仮に四人組のパーティーが、1日2万ガルを得ようとしたら、下位魔石でも10個以上は必要になる。
(だからこそ泊まり込みまでして、1つでも多く魔石を集めてるんだろうな…)
そんな思考をしていたが、ようやく地下洞窟の入口まで来ていた。
昨日も来ていたので、常駐スタッフには手を上げて挨拶する。言葉を交わすことなく、地下洞窟内へと進む。
「さて、切り替えて行こう…」
ゆるやかな地下へと続く下り道、人の目もなくなったので、フレンはステータス画面?を呼び出した。
(おぅ、レベルが7に上がってる?!…)
「昨日だけで2つも上がったのか…」
(流石はレベル1桁。それなりの経験値を積めば、一気に上がるんだな…)
そんな自虐ネタを思いながら、ステータス画面?を消し、地下、奥深くへと進んで行く。
験(げん)を担(かつ)いで昨日と同じルートで奥地へと進む。だいぶ歩いたが相変わらず不人気な地下洞窟には、人の気配が全くない。
それどころか、魔石獣さえも現れる気がしない。昨日の狩り場は、とうに過ぎている。もうすぐ昼メシぐらいの時間なのに……。
「ルート選びに失敗したか?」
やっちまった…、っと溜息。仕方ないので、その場の壁を背もたれにし、座り込むと食事を始める。串焼きをガッツキながら後半戦に意気込みをみせる。
昼休憩を済ませて地下洞窟の通過をさらに進んで行く。この辺りから、ようやく魔石獣が現れ始めて、せっせと倒していくフレン。
レベルアップの恩恵なのか、昨日より魔法の威力が少し上がってる気がしていたが……。
「そんなに大差は……、ねぇよな」
1つ、2つレベルアップしたところで大きな変化はないだろう…、そんなに甘くない世界なのだから。
結局、距離をとっての中遠距離魔法攻撃。これが最も安全で確実なのだから。
(ホントに魔法って便利だなぁ~)
魔法を実戦で使い始めて、その真価を最大限に発揮させてきている。レベルこそ低いが、複数人の大人(素人)なら、不意討ちじゃなければ遅れをとらないだろう。
(これが不意討ちでも、後の先がとれる様になれば一人前だなぁ…)
戦闘中でも、若干の余裕が持てるようになったフレンは、本日9体目の魔石獣を倒した。だが、しかし……。
「魔石が出ねぇ~…」
そう、ここまで、ただの1つも魔石を手に入れてないのだ。
「……………………帰ろぅ」
正面を見据えて一言。くるりと踵を返すと来た道を戻り出す。
残念な結果に、残念な背中が哀愁を漂わせ、その姿は負け犬のようだ……。
「フッ、こんな日もあるさ…」
明らかにショックを受けているのに、どーみても無理をしているのに…。
「こんなんだから人気が出ねーんだよ!。この地下洞窟は!」
気が触れたようだ。『ちくしょう~』とか、『誰が負け犬だ!』っという叫び声は、遠くまで響いただろう。
フレンの愚痴は案外早く終わっていた。切り替えの速さは、この男の特徴なのだ。
昨日に引き続き、夕方に地上に出たフレンは、常駐スタッフのテントに向かっていた。
「どもー、お疲れ様です」
フレンからテント内で椅子に座っているギルド職員に声を掛ける。
「あぁ、昨日もこれぐらいの時間帯に戻って来たね…。流石に泊まり込みはしないようだね」
「1人ですからね~、泊まり込みは怖くて出来ませんよ」
「パーティーは組まないのかい?、今時の冒険者は、みんなパーティー組んで、魔物討伐だというのに…」
「こっちの方がラク、っていうタイプなんですよ。報酬の独り占めも美味しいですから…」
「はははっ、なるほどね。それで今日は、どうだったんだい?」
「それが、すっからかんで丸坊主でしたよ。他の皆さんは1日で、どれくらい集めるんですかねぇ?」
「1日だと、運が良くても5個ぐらいだろうね。徘徊してる魔石獣に辿り着くまでが長いからね」
「あぁ~、やっぱりそうですか…。それなら、明日はもう少し早く来ようかな…」
聞きたかった情報が聞けたので、もう2、3言葉を交わし、また明日…っと告げ、その場を後にした。
夕暮れ時に1人テクテク歩きながら明日の予定を考える。
(明日は、そとが明るくなったら出掛けようかな?。そうすると問題は昼メシかぁ…)
昼時には、お気に入りの串焼きを持ってきてるため、明日も用意したいのだが、早朝では流石に露店も開いてない。
(仕方ない…。非常食を買うか…。飲み物は水筒があるから前日に用意すれば大丈夫だな…)
そうと決まれば話しは早い。いつもの食堂で晩メシを食べ、その際に水筒に果汁水と非常食の干し肉を2人前、お持ち帰りで用意してもらった。
がっつり食べたフレンは宿に戻ると、さっさと入浴を済ませ、明日の準備をするとベッドに潜り眠るのであった。
明日こそは、日銭を稼いでやる。そんな決意を抱いて…。