今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

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第6話

 

 地下洞窟の探索挑戦を無難に乗りきった翌日。

フレンは、手に入れた魔石を買い取ってもらうため、専門店に来ていた。

 

魔石は魔道具製作の為にも王国が買い取っている。

 

しかし王国と冒険者個人が直接売買をする訳にもいかない。

 

そこで冒険者ギルドが管理する専門店を作り、仲介することで流通が出来ている。

 

魔石の買い取り価格も決まっているため、不正なピンハネやマージンを抜かれない。

 

「そんな訳で、買い取りお願いします」

 

「は?、どんな訳です?……とりあえず買い取りですね?。お預かりします」

 

魔石を買い取る際には査定を行う。魔石は魔力を帯びている。内包する魔力量が多いほど高価になる仕組みだ。そして査定には不思議アイテムこと魔道具が使用される。

 

 

「お待たせしました。査定結果ですが、中位が1つ、下位が2つで買い取り価格は2万6000ガルになります」

 

 

「えっ、中位があったんですか?。それは嬉しいなぁ」

 

 

魔石は上位、中位、下位の三段階で分類される。どの魔石が出るかは完全に運まかせ。ギャンブル性が強いのも特徴だ。

 

 

「2万6000ガルです、ご確認ください」

 

 

「はい、確かに。では、また」

 

 

フレンは想定以上の買い取り額に喜びながら専門店を出た。

 

 

(1日のアガリが2万オーバー……。素晴らしいスタートだ!)

 

「くくくっ、掴むぜ、明るい未来を」

 

小さく呟くフレンは、ワルい顔になっている。

 

(目指すぜ!、日銭で薔薇色の人生を!)

 

目立たず地味に過ごしていたフレンだが、ニヤニヤとしながら歩くその姿は、不審者その者。しばらくして、周りの視線に気が付いたフレンは、逃げるように走り去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

恥ずかしい奇態を見せ、逃げ出したフレンは、日課になりつつある露店に立ち寄り、いつもの串焼きを10本と果汁水をお持ち帰りで購入。そして今日も地下洞窟へと挑むため移動する。

 

職場(地下洞窟)に向かいながらフレンは先ほどの専門店での事を思い返す。

 

(下位の魔石が1つ7000ガル、中位が1つ1万2000、上位なら3万ガルか。)

 

専門店で魔石の買い取り価格を聞いていたフレン。

 

先日のように最低でも3つの魔石を手に入れれば、それが下位であっても2万1000。

 

1日の報酬としては悪くない。今後の目標を魔石3つに据えることにした。

 

(あまり多くお持ち帰りしても目立つ可能性があるからな…)

 

1日の必要経費で、その内訳は宿代と食事代ぐらいで1万弱。最悪、下位魔石が1つしか手に入れられなくても、少しの赤字で済む。

 

情報を統合し、現状を把握する。フレンは、いつものように歩きながら思考する。

 

(パーティーを組まないからこその報酬独占だな…)

 

冒険者でパーティーを組み、その人数が多い方が安全に戦闘を進められるだろう。だが、得られる報酬は当然、折半になる。

 

仮に四人組のパーティーが、1日2万ガルを得ようとしたら、下位魔石でも10個以上は必要になる。

 

(だからこそ泊まり込みまでして、1つでも多く魔石を集めてるんだろうな…)

 

そんな思考をしていたが、ようやく地下洞窟の入口まで来ていた。

 

昨日も来ていたので、常駐スタッフには手を上げて挨拶する。言葉を交わすことなく、地下洞窟内へと進む。

 

「さて、切り替えて行こう…」

 

ゆるやかな地下へと続く下り道、人の目もなくなったので、フレンはステータス画面?を呼び出した。

 

(おぅ、レベルが7に上がってる?!…)

 

「昨日だけで2つも上がったのか…」

 

(流石はレベル1桁。それなりの経験値を積めば、一気に上がるんだな…)

 

そんな自虐ネタを思いながら、ステータス画面?を消し、地下、奥深くへと進んで行く。

 

験(げん)を担(かつ)いで昨日と同じルートで奥地へと進む。だいぶ歩いたが相変わらず不人気な地下洞窟には、人の気配が全くない。

 

それどころか、魔石獣さえも現れる気がしない。昨日の狩り場は、とうに過ぎている。もうすぐ昼メシぐらいの時間なのに……。

 

「ルート選びに失敗したか?」

 

やっちまった…、っと溜息。仕方ないので、その場の壁を背もたれにし、座り込むと食事を始める。串焼きをガッツキながら後半戦に意気込みをみせる。

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩を済ませて地下洞窟の通過をさらに進んで行く。この辺りから、ようやく魔石獣が現れ始めて、せっせと倒していくフレン。

 

レベルアップの恩恵なのか、昨日より魔法の威力が少し上がってる気がしていたが……。

 

「そんなに大差は……、ねぇよな」

 

1つ、2つレベルアップしたところで大きな変化はないだろう…、そんなに甘くない世界なのだから。

 

結局、距離をとっての中遠距離魔法攻撃。これが最も安全で確実なのだから。

 

(ホントに魔法って便利だなぁ~)

 

魔法を実戦で使い始めて、その真価を最大限に発揮させてきている。レベルこそ低いが、複数人の大人(素人)なら、不意討ちじゃなければ遅れをとらないだろう。

 

(これが不意討ちでも、後の先がとれる様になれば一人前だなぁ…)

 

戦闘中でも、若干の余裕が持てるようになったフレンは、本日9体目の魔石獣を倒した。だが、しかし……。

 

「魔石が出ねぇ~…」

 

そう、ここまで、ただの1つも魔石を手に入れてないのだ。

 

「……………………帰ろぅ」

 

正面を見据えて一言。くるりと踵を返すと来た道を戻り出す。

 

残念な結果に、残念な背中が哀愁を漂わせ、その姿は負け犬のようだ……。

 

「フッ、こんな日もあるさ…」

 

明らかにショックを受けているのに、どーみても無理をしているのに…。

 

「こんなんだから人気が出ねーんだよ!。この地下洞窟は!」

 

気が触れたようだ。『ちくしょう~』とか、『誰が負け犬だ!』っという叫び声は、遠くまで響いただろう。

 

 

 

 

 

 

 

フレンの愚痴は案外早く終わっていた。切り替えの速さは、この男の特徴なのだ。

 

昨日に引き続き、夕方に地上に出たフレンは、常駐スタッフのテントに向かっていた。

 

「どもー、お疲れ様です」

 

フレンからテント内で椅子に座っているギルド職員に声を掛ける。

 

「あぁ、昨日もこれぐらいの時間帯に戻って来たね…。流石に泊まり込みはしないようだね」

 

「1人ですからね~、泊まり込みは怖くて出来ませんよ」

 

「パーティーは組まないのかい?、今時の冒険者は、みんなパーティー組んで、魔物討伐だというのに…」

 

「こっちの方がラク、っていうタイプなんですよ。報酬の独り占めも美味しいですから…」

 

「はははっ、なるほどね。それで今日は、どうだったんだい?」

 

「それが、すっからかんで丸坊主でしたよ。他の皆さんは1日で、どれくらい集めるんですかねぇ?」

 

「1日だと、運が良くても5個ぐらいだろうね。徘徊してる魔石獣に辿り着くまでが長いからね」

 

「あぁ~、やっぱりそうですか…。それなら、明日はもう少し早く来ようかな…」

 

聞きたかった情報が聞けたので、もう2、3言葉を交わし、また明日…っと告げ、その場を後にした。

 

夕暮れ時に1人テクテク歩きながら明日の予定を考える。

 

(明日は、そとが明るくなったら出掛けようかな?。そうすると問題は昼メシかぁ…)

 

昼時には、お気に入りの串焼きを持ってきてるため、明日も用意したいのだが、早朝では流石に露店も開いてない。

 

(仕方ない…。非常食を買うか…。飲み物は水筒があるから前日に用意すれば大丈夫だな…)

 

そうと決まれば話しは早い。いつもの食堂で晩メシを食べ、その際に水筒に果汁水と非常食の干し肉を2人前、お持ち帰りで用意してもらった。

 

がっつり食べたフレンは宿に戻ると、さっさと入浴を済ませ、明日の準備をするとベッドに潜り眠るのであった。            

明日こそは、日銭を稼いでやる。そんな決意を抱いて…。         


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