今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

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第5話

 

「…はい、おはよーさん…」

 

自分で自分にご挨拶

 

太陽もすっかり登り、外からは朝の喧騒が聞こえてくる。

 

「さて…」

 

少し寝ぼけた状態で、身体を起こし部屋をでる。

 

慣れた足取りで一階に降り洗面所へ向かう。

 

顔を洗い、歯を磨き、トイレを済ませて部屋に戻る。サクッと着替えると宿を出る。

 

現在の装備は、旅人の服に革鎧を纏い、小剣を腰に提げ、リュックを背負っている。

 

(なんか冒険者っぽいな…?。……いや、冒険者でいいのか…)

 

今更な事を思いながらフレンは食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

朝食を済ませると、少し寄り道をして、本日の予定通り、城下町西端を目指す。

 

(地下洞窟か……。上手くやらねぇとな…)

 

西端までは結構な距離があるためフレンは歩きながら思考する。

 

 

(長い年月をかけて、通うことになるから城下町内にあるのは、まぁ、助かるんだが……)

 

フレンが向かう地下洞窟は通行規制が敷かれる区域にある。

 

(何でそんなもん(地下洞窟)がこんなトコに在るんだろうな?……)

 

アルファス王国の建国は、もう1000年以上、昔。始まりは集落だった。次第に人が集まり、村になり、町になり、国となった。

(建国の時には、もうあったのか?、意味が解らんな……)

 

アルファス王国としても、地下洞窟について、数百年前から調査している。

 

(だが、真相は解明されず、ってトコかな……)

 

(俺から言わせれば、異世界だから、ファンタジーだからで解決するんだがな………)

 

王国から派遣された調査員が聞いたらガックリと膝をつきそうな考えが思い浮かぶ。フレン。

 

これ以上、存在理由を思考しても意味ないな…。っと歩みを進めると……。

 

「おっ、規制区域の検問だな?…、ギルドカードがあるから大丈夫です!」

 

見えてきた検問所に感想を一言。訪れた際にも検問官の冒険者にギルドカードを見せ、冒険者であることを示すと問題なく通過できた。

さらに歩いて、ようやく地下洞窟の入口に着いた。周囲には警備係の冒険者やギルドの職員がいる。

 

(何かあった時の為に常駐してるんだろうなぁ…)

 

雨風をしのげる簡易型のテント。そこに机と椅子が置かれており、椅子に座る職員にギルドカードを提示する。

 

「見かけない顔だね…、地下洞窟に行くのかい?、仲間はいないのか?」

 

ギルド職員の男性が話し掛けてきた。

 

(来訪履歴は無いから適当に言葉を返そう…)

 

「最近、冒険者になったんですよ。仲間は今んとこ、いないですね…」

 

「大丈夫か?、地下洞窟にはアレがいるんだぞ!」

 

「今回は危険をおかしませんよ。では、行ってきます!」

 

問答が面倒な為、フレンは、さっさと地下洞窟に入っていく。

 

 

 

 

 

 

 

地下へと続く道を歩いていく。太陽の光が届かないため洞窟内には光を灯す魔道具が設置され周囲を照らしている。

 

 

「電気がないから魔道具が使われてんだろうけど、なんか…腑に落ちない……」

 

 

なんとなく、この世界の不思議アイテムに愚痴りそうになる。

 

 

(いや、魔道具があるからこそ、この地下洞窟にも来た意味があるんだ)

 

 

魔道具には、魔石と呼ばれるモノが使われいる。魔力を帯びた石。その石がココ、地下洞窟で手に入れることができ、それをお金に換金できるのだ。

 

 

「手に入れるには、条件付きだけどな…」

 

 

かなりの距離を歩いたところで広いスペースがある場所に辿り着いた。先客と思わしき冒険者が数人いる。

 

 

「よぅ、アンタ1人なのか?」

 

 

冒険者の1人が話し掛けてきた。

 

 

「えぇ、1人ですけど、どうかしましたか?」

 

 

「ん?、いや魔石獸相手に、その装備で平気なのかと思ってよ」

 

 

一瞬、警戒したフレンだが、どうやら心配してくれたようだ。

 

 

「ご心配、有り難う御座います。こんな装備でもガンバリますよ!」

 

 

やんわりと言葉を返す。

 

 

「う~む、まぁ無茶はするなよ、オレらはもう行くからな、じゃあな!」

 

 

パーティーを組んでいると思われる冒険者達はそう言うと、この広いスペースから先に、幾つかある通路の一つに進んで行った。

 

 

(軽装備の戦士とかに思われたかな?、実は、魔法を使うんだけどね!)

 

 

魔法使いは、冒険者パーティーに勧誘されやすい。面倒事を避けたいフレンはソロ活動を望んでいるのだ。

 

 

(安全にレベルを上げるならパーティー組んだ方がいいんだけど、地上で魔物討伐する!。っとか言われそうだからなぁ……)

 

 

魔物討伐は危険だが、魅力的である。ギルドからの討伐依頼なら、達成すれば成功報酬が貰えて、尚且つ、討伐した魔物は素材として各部位を売りに出せる。命懸けになるが、その分、報酬がデカイ。

 

 

(そしてそんな魔物討伐に有効的なのが魔法だからなぁ…)

 

 

冒険者パーティーが進んで行った通路を見ながら物思いふける。

 

 

「んじゃ、俺も行きますかぁ!」

 

 

先ほどの冒険者パーティーが進んで行った通路とは違う通路をフレンは進む。

 

 

(他の冒険者とは被らないようにしてぇからな…)

 

 

この地下洞窟で魔石を手に入れる方法は魔石獸を倒すこと。

 

 

倒された魔石獸は塵となり霧散し消滅する。その際に低確率だが魔石を残す。

 

 

(どういう理論だが知らねぇが死体が出ねぇのは助かるな!)

 

 

この世界には不思議がたくさんなのだ。いちいち反応してたら疲れる。これはフレン、だからこそ、の本音なのだ。

 

 

(魔石獸は地上の魔物よりは弱い。レベルアップと日銭を稼ぐには、丁度いい…)

 

 

そんな思考をしながら進む。地下洞窟内を徘徊する魔石獸を見つけ倒す為に。

 

 

 

 

 

「どうしよう、魔石獸が全然いねぇよ……」

 

 

早速、予想していた問題が浮上した。

 

 

「覚悟はしてたが、やっぱりか……」

 

 

魔石獸は突然、ポン!っと出てくるわけではない。この地下洞窟内を徘徊しているのだ。

 

 

(冒険者ギルドを再訪問した時に、このことは聞いてたからなぁ…)

 

 

この地下洞窟は冒険者ギルドによって管理されている。故に、ある程度の内情は把握しているのだ。

 

 

「では、地図の出番ですな!」

 

 

冒険者ギルドでは、地下洞窟の地図が販売されている。かつて派遣された調査員が詳細にまとめた物だ。だが、この地図は未完成。この地下洞窟はあまりにも広大で、未だにその全容が掴めないままである。

 

 

(この地図を見ると、このまま奥に行けるんだけど、帰りのことを考えると、あまり進めねぇんだよなぁ…)

 

 

太陽が見えない為、まず時間的なものが分からない。出入口は一つしかないのだから、地上に帰るには進んだ分、戻らなければならない。

 

 

この地下洞窟へ来る冒険者は、ほとんどがパーティーを組んでいて、数日間は泊まりで挑んでいる。見張りを置き交代で睡眠をとり奥へと進む。

 

 

だが、そんな挑戦も全て報われるわけではない。何日間も懸けて挑んだのに、たいして報酬がない時も有るのだ。魔石獸を倒しても魔石が得られなければ、換金できない。結果、赤字でした!。っということもある。そんな理由もあり、地下洞窟の挑戦は不人気だったりする。

 

 

「目立ちたくないから、人が少ないのは有り難いんだけどねぇ、最低限、日銭は稼ぎたいものだ…」

 

 

フレンは呟きながらも通路を進む。

 

 

(ここで頼りになるのは、腹時計だな!)

 

 

自らの空腹具合を頼りにフレンは時間を計ることにするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、どれくらいの距離を歩いただろう…。未だに魔石獸とは遭遇しない。流石にフレンも焦ってくる。

 

 

「おいおい、マジかよ……、想像していたのと、だいぶ違うぞ……」

 

 

ココまで来るのに唯一、驚き、感動したのが、何故かトイレがあったことだ!

 

 

(まぁ、地図にも載ってるから在るんだとは思ってたけど、実際に見ると、ホントに腑に落ちないよ!)

 

 

不思議ワールドに全力のツッコミを喰らわせてヤりたいフレンだが、ギリギリのとこで我慢する。

 

 

(うーん、そろそろ昼メシ位かなぁ?)

 

 

フレンは立ち止まると背負ってたリュックを降ろし、中から事前に用意していた包み紙を取り出す。

 

 

「実は、ちょーお気に入り!、スパイシー串焼き!、アンド果汁水が入った木製水筒!」

 

 

先日、広場の露店で食べたものだが、かなり好きになっていた。

 

 

「これがあるから、生きていける!」

 

 

フレンにとっては結構重要らしい……。串焼きを食べ歩きしていたら前方に何かが見えた。

 

 

「キタッ!。魔石獸だ!!」

 

 

 

魔石獸………。地下洞窟内を徘徊するケモノの姿をしたナニか…。

 

 

「教えられた通りの特徴だな…」

 

 

デカイ図体、二足歩行、鋭利な爪と牙。魔石獸の特徴である。

 

 

「どっかで見たことがある様な気がするが、ツッコンだら負けだ!」

 

 

気持ちを切り替え、小剣を鞘から抜き右手に持つ。左手は魔石獸に向ける。

 

 

「ヤツの脚は遅い、まずは遠距離魔法だ!」

 

 

瞬間、フレンから撃ち出されるように魔法が放たれた。

 

遠距離からの突風弾は魔石獸の顔面に当たる!

 

 

「よし!、このまま距離をとって撃ちまくってやんぜ!」

 

 

一方的な魔法攻撃は吸い込まれる様に魔石獸に当たっていく。

 

フレンは確かな手応えを感じていた。

 

元々、脚の遅い魔石獸が、さらに遅くなったのだ。

 

 

 

次の瞬間、魔石獸の身体は崩れ落ち、塵のようになると霧散して消滅した。

 

 

「ヨッシャアァ!。完全勝利!」

 

 

フレンは2戦目にして、実戦初勝利を挙げた。

 

 

(結構あっさり倒せたな、これぐらいならイケる!)

 

「やはり魔法は効果的だな、今のレベルでも十分通用する…」

 

 

これなら、接近戦で一撃離脱しなくても、安全に戦闘を進めることができる。

 

レベルを上げるためにも戦闘経験は必要。だが危険は避けたい!。

 

そんな我が儘なフレンには今回の結果は好都合だと思っていた。

 

 

「魔石は落ちてないな、残念……」

 

 

魔石獸が消滅した場所まで来たが魔石は無かった。

 

 

(とりあえず、次だな!)

 

 

 

 

そう思ったのも束の間、新たな魔石獸が向かって来ていた。しかも………。

 

 

「えぇぇ、3体同時って…。逃げようかな?」

 

 

真っ先に、全力逃走を思い付いたが、レベルアップと日銭の為にも、ヤらなければと思い直し、切り換える。

 

まだ距離があるためフレンからも近付いて行く

 

中距離まで詰めると一度止まり深呼吸。ヤツらの脚は遅い。集中する。

 

フレンは小剣を右手で握ると居合の構えをとる。

 

鞘から抜き、横に一閃。斬撃を撃ち飛ばす。その後も右から左へ、左から右へ。魔法と剣による混合技能。

 

続けて撃ち飛ばした斬撃が魔石獸を退けぞらせる。

 

 

「効果ありッ、まだまだいくぞ!」

 

 

再び集中すると同じように3連閃。そして、さらに3連閃

 

ここで3体の内、2体が消滅。最後の1体に左手で突風弾を放ち、それがトドメとなり消滅した。

 

 

(はぁぁ~、良かった、上手くいった…)

 

 

3体の同時撃破を終わらせ、一息つく。

 

 

「剣を触媒とした魔法、練習しといて正解だったな」

 

 

実戦での初挑戦となる魔法技能は不安だったが効果的と結果がでた。

 

 

「おッ、やった、魔石だ!」

 

魔石獸を消滅させた場所まで行くと、黒っぽく鈍く光る、小さな石が落ちていた。

 

初の戦利品を手にしてご満悦のフレン。

 

 

(これ、いくらの値打ちが付くのかなぁ?)

 

 

「まぁ、もう少しガンバるか!」

 

 

身体に魔力的な疲れが無いことを確認し、フレンは再び地下洞窟の奥へと進む。

 

 

 

(結構、魔法使ったけど、まだ余裕があることを、感覚としてわかる…)

 

「流石、魔力消費量減少の特典…、隠蔽してるけどな……」

 

 

魔法を使う側としては便利な特殊能力に分類される。

 

 

(これが利用されないように、気を付けないとな…)

 

 

フレンは目立たず、地味な暮らしを望んでいる。その為にも、より一層の注意が必要だと改めて理解する。

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の魔石獸との戦闘から随分な時間が経過したと思われる。

 

その後も順調に地下洞窟を探索していた。

 

どうやら、この辺りは魔石獸が結構、徘徊していたようだ。

 

現在、倒した魔石獸は12体。手に入れた魔石も3つ。

 

ここらが潮時と考えて、フレンは来た道を戻り出す。

 

戻ってる途中にも、幾つかの分岐路があったが魔石獸や他の冒険者と遭遇することはなかった。

 

そして地上へと続くゆるやかな登り道を進む。

 

視界の先に太陽の光が見える。どうやら日暮れの時間帯のようだ。そして…。

 

 

 

 

 

「ふぅ、我ながら素晴らしい腹時計だ」

 

 

無事に地上へ帰って来たフレンは、計算通りな時間帯に自画自賛した。

 

そして常駐している、ギルド職員がいるテントに向けて手をあげて無事を知らせる。

 

職員も手をあげて応える。会話は必要ない。それだけで十分なのだ。

 

早速、食事をとるために城下町の中心部を目指す。手に入れた魔石は、明日にでも専門店に持って行けば、買い取ってもらえる。

 

 

「あぁ~、腹へった、早く食堂に行こう」

 

 

 

 

 

 

 

食事を済ませて宿に戻り、風呂に入って疲れを癒したフレン。部屋でくつろぎ、今日、1日を思い返す。

 

「内容は悪くなかった…。魔石の買い取り額によっては結果も付いてくるだろう」

 

(実戦も、魔法の使い方も、今日だけで、かなり進歩した)

 

「ひとまず、これを続けることだな…」

 

(明日もガンバろう)

 

「おやすみ~」       


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