「はい、やって参りました異世界!」
(つーか、何処だよ、ここ…。いや、こんな時の為の事前情報。抜かりはないぜよ)
「うーん、あれが街道かな?。こっちに森と、遠くに特徴的な山が見えるから、この配置、この景色なら、あっちがアルファス王国かな?」
(事前情報マジ便利!知らない土地でも迷子にならない!素敵すぎる!)
だだっ広い平原にポツンと1人。やたらテンションが高い人物は次の目的地に向かうべく移動を開始する。
「ほぅ~、事前情報と現実を照らし合わせると、変な感じだな。昔からこの辺にいたような感覚があるもんなぁ」
事前情報と現実の何ともいえない感覚を噛み締めながら、街道に入ると、一路、アルファス王国へ歩みを進める。
(ここからなら、二時間位で到着できるな)
歩きながらも冷静に距離と時間を測れるくらいになって、高いテンションも抑まり、ようやく自分の格好に気が付く。
「ん?、なんだこの格好?」
今の格好は、本来なら遠慮したい、コスプレのような衣装。
「あぁ、この世界での旅人の服か…。商人の人も似たような服だもんな、全然、可笑しくないぞ、うん!」
しかし、それはそれ。着馴れない服を着て、内心、恥ずかしがっているのは、ご愛嬌だろう。
歩くこと一時間、馴れない移動に、早速、疲れ始め、あっさりと休憩をとる、この男。街道を少し離れ、周りを警戒しつつも、林の手前で座り込み。考える。
「この世界、魔物とか、いるんだよなぁ」
「面倒事は、嫌だなぁ」
「そういや、魔法があったんだ!。なんだ楽勝じゃん!」
「あれ?、魔法って、どーすれば使えるんだ?」
「お、落ち着け、俺!こんな時の為の事前情報だ!」
「……………」
「あれ?、わかんねぇな…。ひょっとして、魔法技能は、この世界の常識には含まれてないのか?」
致命的である。
「うあぁ、シクったな、まぁ、危機的な状況で気が付かなかっただけマシと思おう」
「まぁ、いざって時は全力で逃げればいいか!」
「しかし、魔法の使い方が解らんとは困ったな。とりあえず歩きながらでも考えるべ!」
休憩というなの、問題発覚から再び街道に戻り歩き出す。
(魔法の素養はあるんだよな。あとは、それをどう使うか。なんだよな)
「こういうのは、あれか?。体内にある魔力をどーのこーので、イメージをなんたらかんたらで、そんな感じか?」
(物は試しだ、やってみるか)
右腕を伸ばし、手のひらを正面の景色に向ける。
(えーと、体内の魔力を打ち出す感じで…)
(俺は風属性魔法が使えるハズだから…)
「イメージは、そよ風かな?。オラ、風よ、吹け!」
その時、彼の正面に風が吹いた。そよ風どころか突風であったが!
「え、マジで?」
素直に驚いた彼は再度、試してみる。
「…オラッ!」
二度目も突風が吹いた。
(ふーむ、流石は特典魔法。優しさ補正が標準装備か?)
「何はともあれ魔法は成功だ、こいつを利用して金を稼ごう!」
彼の目立たず地味に日銭を稼ぐ。そんな薔薇色の人生の第一歩となった瞬間である。
魔法成功イベントから一時間。ようやく、目的地、アルファス王国にたどり着いた。
(城下町に入んのに、検問的なことすると思ったけど、簡単な荷物検査で済んだな)
(というか、武器も手荷物もないんだけどね!)
「あの、門兵の呆れた顔には、笑いそうになったな…」
武器無し、手荷物無しで、決して安全ではない街道を歩いてきたこの男を門兵は呆れつつ怪しんだ。が、特に異常がないため城下への進入を許可したのだ。
(さて、のんびり観光と洒落込みたいが、腹へったし、疲れたんだよねぇ)
(あのお姉さんも約束通り、数日分のお金をポケットの中に入れてくれてたし)
「ここは、酒場か宿屋に行くっきゃないでしょ!」
初めて来た場所なのに、迷う事なく酒場に到着
(やっぱ便利だな、事前情報!)
貴重な特典の価値に感謝しつつ酒場に入り、ウェイトレス?のお姉ちゃんに案内されカウンター席に座る。
「いらっしゃいませ!、ご注文はお決まりですか?」
カウンターの奥にある厨房から女将さん?が出てきて注文を聞いてくる。
「オススメ定食でお願いします!」
「はい、ありがとうございます!。少々、お待ちください」
無難に料理を注文して、手持ちのお金を確認する。
(50万ガルか…、あの女神なお姉さん、奮発してくれたのか?。)
約束では、数日分だったハズだが、まさかの数ヶ月分!。
(まぁ、助かるから嬉しいんだけど…。大金持ってると落ち着かねぇ!)
この男、貧乏性である。
(俺が大金を持ってることを周囲にバレるな!。ポーカーフェイスだ!。クールにいけ~!)
食事の会計を済ませて、無事に店を出る。(なんのイベントもありません)次に向かうは宿屋である。
「ふぁ~、食った食った!。さあ、今日はもう休もう。なんか、えらい疲れた!」
足取りは宿屋へ向かい最短ルートで到着。
「いらっしゃいませ!。本日は当店をご利用ですか?」
「はい、とりあえず3日分、前払いします」
「ありがとうございます。お部屋は三階で御座います、こちら、部屋の鍵に御座います」
宿屋の店主?から部屋の鍵を受け取ると、通路脇にある階段へ。そのまま三階まで進んで部屋番号を確認する。
「あった!。この部屋だ」
鍵を開けて部屋の中に入ると、机とベッドがあるシンプルな室内がある。
そのままベッドに腰掛けると、大きく息を吐く。
(ふぅ~、ようやく一段落だな)
「本格的な活動は明日にしよう。今日はもう寝る!」
ここまで貴重な体験をした、この男も、流石に疲れたようだ。
(現状報告に謝罪、異世界転生か…。よくもまぁ、ここまで来たもんだ)
己の身に起きたことを思い出し、くくっ、と笑う。
「まっ、せいぜい楽しい人生にさせてもらいましょ」
腰掛けていたベッドに横になる
(おやすみ~)
外はまだ明るいが、この男が眠りにつくまで、そう時間は掛からなかった。