今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

17 / 17
第17話

 

もうじき、夜が明ける…。今はそんな時間帯。

 

アルファス王国・城下町南門にて、港町シーズビント行きの馬車便が出る。

 

こんな朝早くから、人が集まるものなのかと思うところだが、意外と利用者がいるようだ。

 

馬車便運営をしてるとおぼしき人物が、四頭の馬で編成された馬車を用意していた。

 

大人数にも対応出来る、大きく、頑丈な馬車である。

 

利用者は前払いで代金を払い、馬車に乗り込んでいく。大人も子供も関係なく、一人あたりの運賃は1万5000ガル。この金額が妥当なのかどうかは定かではない。

 

今日の利用者は11人。男性9人、女性2人。大荷物を持っていることから、全員が大人の商人と思われるのだが…。

 

そんな中に一人。冒険者を生業(なりわい)としてるハズの男が、素知らぬ顔で乗車している。…というよりフレンである。

 

冒険者には荒くれ者が多い…、っと先日に聞き込みした際に商人が話していたことを思い出し、警戒されないように、フレンなりに対処しているようだ。

 

本来なら、服の上に装着する革鎧を、隠すようにして肌着の上に装着し、その上に、旅人の服を重ねている。いつもとは、着る(装着する)順番を変えて、カモフラージュし、大きめのリュックを持参してることから、見た目、商人風を装っているのだ。

 

これにより意味もなく嫌われ、疎まれることなく、シーズビントまで行ける…、っとフレンは考えたのだ。

 

この偽装工作は成功だった。今のフレンは完全に商人と化していた。港町シーズビントに向けて動き出した馬車の中で、普通に周囲の人達と違和感なく溶け込んでいた。

 

数回の休憩を挟みながら、目的地シーズビントを目指す。順調にいけば、今日の夜までには、到着できるとのことだ。

 

馬車の中では、これといった会話はないが、時折、話し掛けられたり、話し掛けたりと、ほんわか雰囲気で和やかに進んでいった。

 

 

 

 

 

 

そして、辺りも薄暗くなり始めた頃、馬車は、ようやく港町シーズビントに到着した。

 

 

町の入口付近で馬車が止まり、乗客達が次々と下車する。

 

フレンも馬車から降りると、身体を伸ばしたり、腰を回したりと軽く柔軟体操をして、自身の身体を労った。

 

(ふぅい~、ようやく着いたか…。ずっと座りっぱなしだったから、ケツがいてぇ~なぁ)

 

柔軟体操を終えて、辺りを見回しながら、町の中へと歩き出す。

 

(まずは、港に行ってみるか…)

 

フレンの目的地は、王都ベイタスク。このシーズビントから、隣国、ベイタスク王国領の港町ソルギートとの間で定期船が運航しているのは調べてある。

 

さらに、馬車の中でも情報を集めていたこともあり、すんなりと行動に移せるのだった。

 

まっすぐ港に向かい、船の絵が描かれた建物を見つけた。

 

定期船を運航、管理している事務所のようなものだろう。船の利用客は、まずここに訪れ、事前に乗船チケットを購入する。

 

フレンと同様に、馬車便でシーズビントに訪れた他の乗客達も、皆、同じ目的地のようだ。同じ建物の中に入っていく。

 

建物の中に入ると、順番待ちをして、乗船チケット購入。

 

大人も子供も関係なく、一人あたり8万ガル。船内の広間に全員が雑魚寝するスタイルである。個別の部屋もあるが、別途料金が上乗せとなる。

 

フレンは雑魚寝でも、まったく気にならないので追加料金なしで問題無い。

 

また、およそ8日間という船旅であるが、乗船中は三食の食事付きである。

 

これで8万ガル…。妥当な料金かどうかは定かではない。

 

無事に乗船チケットを購入したフレンだが、出港は上手い具合に、ちょうど明日早朝に出港するとのことだった。

 

(運が良いな…、定期船といっても毎日運航してるわけじゃないのに明日だからな…)

 

実際その通りだった。明日を逃せば、次は10日後の出港となっている。

 

(幸先いいねぇ~、気分の良いところで、メシにしますか)

 

フレンは町の大衆酒場に向かい、港町ならではの魚料理と酒を堪能した。

 

大満足のまま、シーズビントの宿屋に行くと早速、部屋を借り、くつろぐ…。

 

「いや~、旨かったねぇ。今夜だけなのが、もったいないくらいだ」

 

旨い食事と酒に、ちょーご機嫌なフレン。饒舌になっている。

 

「この流れなら新天地でも、期待が持てそうだな、実に楽しみだ。んじゃ、寝坊しないように、明日に備えて寝るとしますか」

 

ベッドに横になると、すぐに寝入る。フレンは、物凄く寝つきが良いようだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明くる日の早朝。フレンは港に停泊してる船の前まで来ていた。

 

「思ったよりデカイんだな…」

 

小声でぼそっと呟き、この世界の造船技術に驚いた…。

 

帆船ではあるが、結構しっかりとした造りになっている。 これだけのサイズなら、人も物も移動には重宝されるだろう。

 

そして何より注目しなければならぬことがある。

 

 

この船…、動力に魔道具を用いてることだ。

 

 

(また不思議アイテムだよ……。大方、魔石を燃料に、スクリューみたいな魔道具でも搭載してるんだろうなぁ……。)

 

フレンからしてみれば、違和感バリバリの技術発展なんだが、これが現実なのだ。

 

(帆船の意味あんのか?、沖に出たら、帆に切り換えて風をうけて進むのかなぁ…。魔石(燃料)だってタダじゃねぇしな)

 

フレンの読みは、ズバリ正解だった。この世界での船の操作は、寄港する際 、又は出港する際などの時は、微調整が必要になるため、魔道具のスクリューを使用している。フレンがこの事実に気付くのは、もう少し、先のことだ。

 

とりあえず、ツッコミを我慢して乗船するフレン。ここからは、8日間の船旅になる。

 

(次の町が楽しみだねぇ。なんか遠足みたいな気分だな)

 

船は錨を揚げて出港となる。

 

甲板に出て、その様子を見ていたフレンは、時間の経過と共に離れていく、港町シーズビントを感慨深く見つめていた。

 

フレンの次なる目的地は、ベイタスク王国領、港町ソルギート。

 

面倒事回避のため、新天地を求めたフレンの運命や如何に!?

 

(ベイタスクには、スパイシー串焼きがあるかなぁ…)

 

 

この男には、緊張感というものが欠けている……。

 

 

ー第1部ー

   完

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。