今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

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第15話

 

習慣なのだろう…。いつも通り、早朝に目を覚ました…、が、今日は休日。いつもの仕事はお休みである。

 

とりあえず、二度寝…。大切な休日の儀式といっても、差し支えない。今日の目的は情報収集である。早朝から活動する必要はない。だから二度寝…。

 

ようやくベッドから起き上がる…。陽は、すっかりあがり、外は、にわかに騒がしくなり始めてる。

 

宿の一室…。その部屋の木窓を開けて、外気を取り込み、空気を入れ換える。天気は快晴。爽やかな朝の風が、なんとも心地いいみたいだ。

 

まずは朝の支度だ。早速、準備を始める。顔を洗い、歯を磨き、トイレを済ませて、ラフな部屋着から外出用の旅人の服に着替える。鎧と剣は装備しない。面倒なのだろう…。

 

冒険者を生業(なりわい)としてるとは思えない発想だが、無警戒という訳ではない。無頓着なのだ。型に嵌(は)まらない…、っというより嵌まれない。この男は、いまだに現実に現実感を持てないでいた…。

 

装備品をはずし、リュックを背負った男、その格好は完全に若い商人を彷彿させる。宿を出ると食堂へ向かった。まずは朝食のようだ。

 

程なく、朝食を済ませて食堂を出ると、目的の場所……、目的の人物たちの元へ歩を進める。

 

城下町市場…。売り買いする人たちで賑わう、この場所こそ目的地。そして目的の人物たち…。行商人を捜す。

 

行商人は、自前の店を持たない、渡り歩きで流通商売をする商人。他国にも行き来する人たちなら、ベイタスク王国について、色々と知っているだろう。情報収集するには、もってこいだ…。

 

(おっ、見つけた!)

 

フレンの視線の先には、料理などに用いる調味料関係を扱う一軒の店に、自ら持ち込んだ商品を売り込んでいる中年の男性を発見した。

 

(交渉中みたいだな、商売の邪魔は出来ないし、話し終わるまで待とう…)

 

そう思ったフレンは、商談交渉中の二人を視界から外し、他の行商人を捜してみる。情報は、いくつあっても構わない、現役行商人からの情報なら、金銭を払ってでも欲しいと思っているのだ。

 

市場大通りの一角に数人の行商人らしき人たちを見つけた、身振り手振りを交えて話し合っている。

 

丁度その頃、調味料品店で商談交渉をしていた行商人が、移動を始めた。商談は成立したのだろう。いくつかの木箱を店に置いていった。そして、その行商人は先程見つけた、数人の行商人らしき人たちが集まっている一角に向かっている。

 

どうやら、商人同士で交流があるのだろう。フレンにとっては、まとめて話しを聞ける、絶好の好機。迷うことなく、商人グループに近づき話し掛ける。

 

「お疲れ様です。お話し中のところ、申し訳ありません。少しよろしいですか?」

 

なるべく、丁寧な態度で接触する。

 

「ん?、なんだい、私たちに何か用かね?」

 

4人いる商人グループの1人が返事をした。フレンは率直に言葉を紡ぐ。

 

「はい、皆様は行商人の方々でよろしいですか?、お訊きしたい事があるのです…」

 

相手を不快にさせないように慎重に言葉を選ぶ。商人グループの1人が代表となって、フレンと話す。

 

「その通り、私たちは行商に携(たずさ)わっているが、訊きたいこと、とは何かね?」

 

相手も、真摯な態度で向き合ってくれた。フレンは直球で質問を投げ掛ける。

 

「実はですね…、近々、ベイタスク王国へ行こうと思っているのですが、お恥ずかしい事に知識が乏しく、二の足を踏んでいるのです。よろしければ、皆様から助言などを頂戴したく思い、お声を掛けさせて頂きました」

 

フレンの柔らかい物腰に、気を良くしたのか…、行商人たちの代表が言葉を続けてくれる。

 

「なるほどね。君は随分若いようだが、行商の仕事は、始めたばかりなのかい?」

 

どうやらフレンを同業者と勘違いしてるようだ。

 

「すいません、こんな格好をしてますが、冒険者なんですよ。いきなり全身装備の者が話し掛けたら、警戒してしまうと思いまして…」

 

ハハハッ、っと苦笑いしてみせるフレン。行商人たちも、笑顔をこぼした。少なからず、警戒していたのだろう…。

 

「わははは、そうだったか。いや、勘違いして、すまないね。それにしても、冒険者には横暴な輩が多くいるのだが、君は好感が持てるね」

 

以前の世界での知識と経験が、こちらの世界では高評価なんだな…っとフレンは思った。

 

「まぁ、冒険者の中にも、変わったヤツはいますよ、ワタシも、その1人ですけどね」

 

自虐ネタで笑いを取りつつ、距離を縮めて打ち解けようと試(こころ)みる、フレン。

 

「くく、そう自分を下卑することはない。少なくとも、我々からすれば、君は真っ当な部類だよ…。そうそう、ベイタスク王国の話しだったか?、具体的に何が訊きたいのかね?」

 

フレンは、ようやく本題に入れた事に、心の中で歓喜をあげた。

 

「はい、ズバリ移動について、ですね。ベイタスク王国へ向かう上で、オススメの道程など、皆様の視点からで構いませんので、何か御座いましたら、ご教授頂きたいのです」

 

フレンの中での懸念事項は、ベイタスク王国までのルート選びだ。長い日数を掛けて移動するのだから、なるべく失敗はしたくない。

 

「うむ、なるほどな。計画性を重視するか…。若いのにしっかりしてるな。見どころがある、どうだ?、いっそ行商人になってみないか?。私の助手ないし、弟子という形で!」

 

あれあれ…?、っとフレンは思ったが、すぐに切り替えた。

 

「折角のお誘いですが、今は冒険者として生計を立てておりますので、申し訳ありませんが……」

 

一瞬だけ、嫌な予感(イベントか…?)がしたが、商人なら別に悪くはないよな…、っとも思った。だが、その前に、軍資金は必要なため、まずは、計画を立ててから、今後を考えることにした。

 

「ふむ、そうか。残念だが仕方ない。いや、突然すまなかったな…」

 

ガックリと肩を落とす行商人さん。逆にフレンが気まずくなっていた。

 

「いえ、とんでも御座いません。お誘いは大変うれしく思いました、ありがとうございます」

 

フレンなりの軌道修正。先程から、話しが進んでないのだ。一旦、無理矢理でも会話を完結させる。

 

「こらこら、さっきから話しが進んでないでしょ、まずはソッチを片付けなさいな」

 

フレンと話しをしていた行商人が、ポンコツに成り掛けたのを見兼ねて、うしろで静観していた、3人の内の1人、中年女性の行商人さんが、助け船を出してくれた。

 

(ナイスフォローです!!)

 

フレンは心の中で女性行商人に賛辞を送った。

 

「ん?、ああ、そうだったな。ベイタスク王国までの移動だったか?、そこは、やはり港町のシーズビントからだな…」

 

復活したポンコ…、行商人から、情報を聞き出した。だが、いまいち、要領を得ない。

 

フレンは港町シーズビントを、実感なき記憶こと、『事前情報』から引っ張り揚げる。

 

「港町シーズビントというと、このアルファス王国領のシーズビントですよね?。確か、ここからだと南に位置してるんでしたか?」

 

フレンは『事前情報』の記憶を頼りに、話しに食い付く。

 

「ああ、そうだ。我々、行商人は命の危機に直面することがある。故に、安全な方法で流通商売をしている」

 

そう言って、力強くフレンを見抜く行商人。まるで、この意味が解るか?…、っと問われてるみたいにフレンは感じた。

 

「陸上移動ではなく、海から船で回り込むんですか?」

 

行商人、港町、をヒントに、フレンは、パッと思い付いたことを、そのまま口にした。

 

行商人たちが、うんうんっと揃って頷いた。

 

「正解だ。やはり君は賢いな。つまりはこういうことだ。陸上移動は30日以上の日数が掛かる上に、山を越えたり、魔物やら盗賊やらの襲撃に怯えながらの移動になる」

 

そこで、一旦、話しを切る。続きを促されている…、っと感じたフレンは…。

 

「港町のシーズビントから海上に出て、ベイタスク王国領内に入るわけですね……。なるほど、海上には魔物はいませんでしたね…」

 

フレンは『事前情報』を活用して答えていく。キーワードがあれば、なんとか情報を引っ張り揚げることが出来るが、完全ではないようだ…。

 

「そういうことだ。アルファス王国領の港町シーズビントと、ベイタスク王国領の港町ソルギートの間で定期船が運航してる。それに乗るのさ。しかも、ソルギートからは、馬車なら1日で王都ベイタスクに到着できる。日数も安全も陸上移動より、遥かに軽減できるってわけだ」

 

これは良い情報を聞けたと、フレンは思った。

 

「貴重な情報、ありがとうございます。海上移動は盲点でした…、アルファス王国から北側に位置する、ベイタスク王国に行くのに、逆方向の南に進んでから、船で回り込む発想はなかったですね」

 

素直に心境を語る。行商人も笑顔で語る。

 

「意外と、みな気付かないのさ。その方角、その方向にあるのだから、ソッチに行けばいい…、っとな」

 

(確かに、それはあるかもなぁ…)

 

「ここから、シーズビントまで馬車便が出ている。1日で行けるぞ、シーズビントからソルギートまでは、海次第だが8日ぐらいだな、王都ベイタスクを目指すなら、さらに1日。こんなとこだな。我々のオススメの道程は…」

 

(移動日数まで聞けた!。十分すぎる情報だ。これは、現実味を帯びてきたかな?)

 

「重ね重ね(かさねがさね)、貴重な情報、感謝します、大変、勉強になりました」

 

そう言って、頭を下げるフレン。

 

「それでは、我々は仕事があるのでな、これで失礼するぞ」

 

行商人たちは、そう言ってフレンの前から立ち去る。フレンも感謝の言葉を述べて、再度、頭を下げる。

 

あとに残されたフレンは、その場で立ち尽くしている。どうやら思考モードに入ってるようだ。

 

(まだまだ、聞き足りないのが本音だが、これ以上、時間をとらせることも出来なかったからな…。仕方ない。しかし、良い情報だ。これからの行動が、かなり楽になった)

 

ここでフレンは、一旦、思考モードから浮かび上がる。

 

(落ち着いて考えられる場所に移動しよう…、広場でいっか。露店もあるし…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広場に着くと、露店でスパイシー串焼きと果汁水を注文し、店の脇に設置されたテーブルとイスを有効利用させてもらう。フレンは、好物を食しながら、再び思考モードに入る。

 

(う~ん、あと欲しい情報は費用かな?。今の手持ちは、17万ガルしかないんだよな…。この軍資金で行けるなら、行っちまおう…。もたもたしてると、何に巻き込まれるか、わかったもんじゃない…)

 

 

フレンの“巻き込まれる”には、色々な意味が含まれている。

 

 

(馬車と船の運賃を調べたいな…。海上ルートは賛成だし、安全が、お金で買えるなら、多少の出費もやぶさかではない…)

 

方針を決めたフレンは立ち上がり、皿とコップを返却する。そのあしで、まずは城下町南門へと向かう。

 

(港町シーズビント行きの馬車便が運行してると行商人さんが言ってたし、南門なら何か情報を聞けるハズ…)

 

 

 

 

 

 

南門付近に到着したフレン…。周囲を見回したが、馬車便に関するような建物は見当たらない。

 

作戦変更。フレンは南門の中年門兵に丁寧に話し掛ける。

 

「お仕事中、すいません…。お話し、よろしいですか?」

 

口調も相まって、見た目、青年商人風のフレン。中年門兵が返事をする。

 

「何用だ?…」

 

その返事は、フレンを警戒するものが含まれている。フレンもそれを感じ取り、さっさと用件を済ませる。

 

「港町シーズビント行きの馬車便が運行してるはずなんですが、どちらに行けばいいか、ご存知ですか?」

 

 

簡潔にまとめて問いかける。

 

「この先、馬車の看板が掛けられた建物だ…」

 

中年門兵が指を差し、フレンに教える。

 

「ありがとうございました」

 

頭を下げて、礼を述べるフレン。踵を返し、教えられた方向へ歩き出す。

 

そして、馬車の看板が掛けられた建物を発見すると、早速、中に入る。

 

建物の中には、数人の従業員らしき人が書類作業をしていた。フレンはそのまま進み、カウンター越しにいる、受付の壮年男性に声を掛ける。

 

「こんにちは。シーズビント行きの馬車便についてなんですが…」

 

「いらっしゃい、今日の便は、もう出たよ。明日も太陽が上がって、外が明るくなったら、出発です」

 

「分かりました、ちなみに運賃は?…」

 

「シーズビントまで1人、1万5000ガルです」

 

「はい、ありがとうございます。ついでに聞きますが、シーズビントからソルギートまでの船代ってご存知ですか?」

 

欲しい情報のため、何と無く聞いてみたフレン…。特に期待してなかったのだが……。

 

「ああ、確か1人、8万ガルだったと思います…」

 

「えっ?、ホントですか!?」

 

思わず聞き返したフレン…。意外な場所で、欲しい情報を得た。

 

「ああ、先日、うち(馬車便)を利用した商人たちが、そんなことを話していたよ」

 

 

フレンは、一瞬呆然としたが、すぐに回復し、また来ます…、っと受付の壮年男性に告げると、建物を出て、歩き出す。

 

南門付近にあった、ベンチに腰掛け、一息つく。

 

(まさか、ここで船代の情報を得られるとは…。でも行商の人達は、馬車便とか船とかを、よく利用するみたいだし。あってもおかしくないのかな…)

 

 

フレンは、なんとなく納得することにした。

 

(とりあえず、これで大まかな情報は手に入れたな…。あとは、細かいところを調べてぇな…。いっぺんシーズビント行った方が早いか?、いやそれは早計だな…。もう少し、聞き込みをしよう)

 

ベンチに座り、考え込んでいたフレンだが、気合いを入れて立ち上がり、再度、聞き込みのため市場に向かうようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方の時間帯、フレンの聞き込みは細部に至るところまで順調に情報を集めていた。声を掛けた行商人たちも協力的だった。フレンの対人対応スキルが、かつてないほどの輝きを魅せていた。

 

(カンペキだ……。非の打ち所がないほどに、完璧だよ…)

 

完全に自分に酔っている、この男…。だが、確かに今回の調査は大成功と言えるだろう。それだけの情報が得られたのだから…。

 

フレンは今、食堂を目指して歩いているのだが、前方に、こちらに向かって手招きをしている、知り合いの女性を発見した。

 

「こんばんは、フレン。お疲れ様♪」

 

近づいたところで、声を掛けられた。

 

「よぉ、ディアナ。お疲れさん」

 

このあとに、満面笑顔の彼女が、何を言ってくるのか…、なんとなく分かってしまうフレン。

 

「それじゃあ、夕食にしましょ♪」

 

思った通りのコメントだよ!…、っとフレンは心の中でツッコンだ。

 

ディアナは、そんなフレンの心境など知ったことか!…、っと言わんばかりに、フレンの手を握り、引っ張って行く。

 

フレンの目指した。食堂とは逆方向に…。

 

目の前にあったゴール(食堂)が突然、背後にまわる。強引な“まわれ右”に、フレンも抗議する。

 

「待て、マテ、まて、ディアナ。俺は食堂でメシを食う予定なんだよ!。ほら、すぐソコの!。すぐソコの食堂!」

 

無情にも離れていく食堂…。手を引かれたまま、歩みを止めることも出来ず、必死に抗議する。フレン…。

 

フレンの必死な抗議(願い事)が届いたのか…。ディアナは足を止めて振り返り、フレンを笑顔で見つめると……。

 

「食堂は前回の時に行ったでしょ♪。今日は、わたしの料理の番じゃない」

 

 

なに言ってるの?…、っみたいな感じで発言するディアナ。手料理を振る舞うのが大好きな彼女は、大食いのフレンを家に招待する気満々だ…。

 

そして困惑するフレン。慣れ親しんだ食堂の方が、フレン的には気兼ねなく食事がとれるのだ。故にフレンは、起死回生の打開策を打ち出す…。

 

「いや、今日は“良いこと”があったから、お祝いしようと思ってんだよ。具体的には、お酒だな!。ディアナの家に、お酒は無いだろ?、だから、食堂に行かないとダメなんだよ!」

 

必死なフレン…。この男は気付いてない…。別にダメというわけではない。お酒が無いなら、買って行けばいい。それだけのことだ。お酒問題は、安易なフレンの発言で、発生したと同時に解決してる…。フレンは気付いていない…。

 

ディアナの手料理を食べるのは、別に嫌というわけではない。ただ、目の前まで来た食堂に、どうしても行かなければ…、っという、訳の分からない義務感を覚えているのだ。

 

もっと言ってしまえば、ここまで来て、引き返すのは面倒だ…、っとフレンは思っているのだった。それを言葉に出来ず、安易に適当に誤魔化してるのだ。

 

「……………」

※ディアナ

 

「……………」

※フレン

 

笑顔のディアナ。

苦笑いのフレン。

 

 

 

 

 

「わかったわよ、もう……。そこまで言うなら食堂にしましょ…」

 

先に折れたのは、やはり、ディアナだった。

 

フレンは、その言葉を聞き……。

 

「ありがとうございます!!」

 

全力でお礼を述べていた。

 

「もう、やめてよ♪。ほら、早く行きましょ♪」

 

再び、フレンの手を引くディアナ…。今度は、ちゃんと食堂に向かって歩ていく。

 

そして、これが、悪夢の酒宴(うたげ)となることを、二人(フレン)は知らない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂で夕食をとっていた、フレンとディアナ…。その場しのぎの、不用意な発言をして、別に呑むつもりはなかった、お酒を注文し、二人で夕食と一緒にお酒を呑むことになった。

 

フレンは時々、この食堂で夕食ついでに呑んでいたので、特に問題はないのだが……。

 

 

「……………」

※フレン

 

「うふふふふふふふふふ♪♪」

※ディアナ

 

 

 

 

誤算だった…。フレンは率直にそう思った。あらかた食べ終えて、腹を十分に満たし、悪酔いしないように配慮したつもりだった…。

 

しかし、出来上がったのは、予期せぬ事態…。

 

お酒を飲む前、ディアナは、お酒を呑んだことが無いと、フレンに話した。

 

フレンも、それなら、呑まなくてもいんじゃね?…、っとディアナに告げた。

 

でも、折角だから…、っとディアナは好奇心につられた。

 

そして、おぼれた……………。

 

 

 

「♪ ねぇ~、フレン~、ちゃんと、聞いてる~♪。うふふふふふ♪」

 

 

お酒初心者のディアナは、最初は嗜(たしな)む程度だったが………、気が付けば、三杯を呑み干していた。

 

これに慌てたフレンは、すぐさま、四杯目を取り上げた…。

 

そんなフレンに、ディアナはジトーッと見つめると……、泣き出した。

 

またもや慌てることになるフレン。

 

ディアナは、お酒を返せと、泣きながら訴える。

 

周りの客に冷やかされ、フレンは渋々、ディアナにお酒を返すことにした。

 

お酒を受け取ったディアナは、笑顔で呑み始める。

 

それほど呑んでる訳ではない、お酒に免疫の無い、ディアナが、単に弱すぎる。冷や汗の止まらないフレンは、そう結論付けた。

 

フレンは、ディアナに、そろそろ帰ろうと告げる。ディアナは、『…ヤダ!』っと反発。

 

フレンは諦めない。ディアナは、明日も仕事があることを語っている。真面目な性格の彼女に、その辺りのことを材料にして、やんわりと説得していく。

 

そして、無事に説得を果たし、食堂の会計を済まして、いざ、帰ろうとしたが、ディアナの足元が覚束ない。

 

頭を抱えるフレン。仕方なしに、ディアナの腰に手を回し、倒れないように支えると、食堂からなんとか出る。

 

目指すは、ななめ向かいの自身が利用してる宿屋。

 

このまま、彼女の家に連れて行っても、明日の朝、ちゃんと起きれるか不安だったのだ。

 

ディアナの、この状態には、少なからずフレンにも責任がある。てきとー主義なフレンだが、変に真面目な部分もあったりするようだ。

 

ディアナには、宿屋に泊まって貰って、夜明けに起こすつもりでいるのだ。

 

ディアナを支えて、宿に戻ると、店主が驚いた顔を見せるが、次の瞬間には笑顔になり、ウンウンと頷いて、何か納得している。

 

そんな店主に呆れながら、フレンは店主に奥さんである、女将さんを呼んで来てもらう。

 

店主に呼ばれた女将さんに事情を話して、ディアナの部屋をとり、夜明け頃に女将さんに、彼女を起こしてほしい…、っとフレンはお願いした。

 

その提案に、女将さんも二つ返事で了承し、フレンはディアナを抱きかかえて、彼女用の部屋まで運び、ベッドに寝かしつけた。

 

そして、フレンも宿の自室に戻った。

 

ベッドに腰掛け、深い溜め息を吐く。ここまで、随分、長い道のりだった…。

 

情報収集で、輝きを魅せた、フレンの対人対応スキルは、お酒の入ったディアナの前では、何の役にも立たず、また、集めまくった完璧な情報という成果に、酔いしれた自身もいたが…。そんなもんは、とうに吹き飛んでいた。

 

本来なら、ここで反省会をするのだが、限界だったようだ、座っていた、ベッドに倒れ込む。

 

(魔石獣と戦ってる方が、ずっと楽に思えてしまうのは、なぜだろう……)

 

(おやす…み~) 

 


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