今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

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第13話

 

早朝、いつも通りに目を覚ましたフレン。僅かに部屋内の空気に違和感を覚えた。ベッドから起き上がり、部屋の木窓を開ける。

 

木窓を開放したことで、部屋内に外気が取り込まれる。入れ換えられる空気の中には、湿った空気が含まれていた。

 

「雨っすか……」

 

本日の天気は雨のようだ。太陽は登り始めているのに、雨雲に覆われているせいか、日の光が遮られて、なんとも薄暗い。

 

「はぁ、仕事…、行きたくねぇなぁ…」

 

早朝から、起き抜けに鬱発言…。しかし、フレンの仕事も職場も雨天中止の概念は無いのだ。日銭を稼ぎたきゃ仕事しろ!。…そういうことなのだ。

 

なんだかんだ言いつつも、出勤準備をするフレンは“あること”に気が付いた。

 

「雨具…、持ってねぇよ…」

 

職場まで、ずぶ濡れで出勤するのは、さすがに嫌だったのだろう…、フレンの行動は早かった。宿屋の店主を探し、見つけ出すと、すぐさま交渉開始。

 

目論見どおりに、宿屋の店主から、お古の雨具を買い取った。だが、この雨具…。かなりの上等品らしく、買い取り額は1万ガルもした。

 

商魂たくましい宿屋の店主に、フレンは苦笑いを浮かべながらも、しょうがないと心の中でため息を吐く…。

 

雨具を羽織って出勤する。フレンが羽織っている雨具は、いわゆるフード付きマントだ…。だが、そこらのマントと思うことなかれ、上質素材の上等品なのだ。1万ガルもしたのだ、足元みられた訳ではない。

 

丈夫な旅人の服に、革鎧をかさね、小剣を腰に掛け、リュックを背負い、その上からフード付きマントを羽織る…。フレンは思う…。

 

(コスプレ……、っじゃないよな!?。現実だよな?、大丈夫なんだよな?)

 

突然、何かに怯えるフレン。彼の中では、常に何かが何かと戦ってるのだ。

 

雨の城下町を歩くフレンは、この景観を眺めて感慨にふける。この世界に来て、初の雨景色なのだ。取得済みの情報では分からない、色や匂いは、新鮮さを感じる。それと同時に、どこの世界でも変わらないんだな…。っとも感じたようだ。

 

職場(地下洞窟)へ向かう前に、お弁当屋で朝と昼の弁当と飲み物を購入したところで、同じ様に、客として来ていた、知らない冒険者がフレンに声を掛けてきた…。

 

「よぉ、にぃちゃん!。1人か?」

 

突然、話し掛けられて困惑したが、冷静に返事をする。

 

「はい、1人ですが…、それが何か?」

 

言外に、話し掛けるなオーラを放つフレン。しかし……。

 

「俺たち、パーティーメンバーを探してるんだよ、にぃちゃん、入んねぇか?」

 

かまわず話し掛けてくる上に、勧誘のようだ。フレンは、関わりたくない度MAXの状況に、早々の離脱を余儀無くされた。

 

「スイマセン、既に組むパーティーは決まってるんですよ…。それでは、急ぎますので失礼します…」

 

そう言って、その場を立ち去る。背後からは、くそ、また断られた!。などと聞こえたが気にしない。適当な言葉で誤魔化したフレン。組むパーティーなど決まってないのに…。

 

(面倒くせ~なぁ、いつも、いつも、ほっといてくれよ、まったく……)

 

地下洞窟に、挑戦を始めてからここ数日。フレンはよく勧誘されていた。そのたびに、同じ様なセリフであしらっているのだが、それでも勧誘があとを断たない。

 

(レベルが上がり始めた途端に、これだよ……。悪意を感じるな、くそったれ!)

 

フレンは、この一連の流れを異世界イベント絡みではないかと疑っている。

 

(…異世界イベント。そんなもんがホントに在るのかは判らんが、俺に有る、以前の知識と実際に起きた前例があるからなぁ…)

 

静かにフェードアウトしてスルーを繰り返す。今はこれで済んでいるが……。別件の前例も、これと似たような状況が続き、そのあとには…………。

 

(コワイわぁ…、この状況に陥ると、前例が伏線にも思えてきた…)

 

自身の思考に疑心暗鬼を覚えたが、頭を振り払い、切り替えた…。

 

 

 

 

 

職場(地下洞窟)に到着したフレン。常駐スタッフにサクッと挨拶…。地下奥深くへと進んで行く。

 

今日の予定も隠し部屋…。味をしめたフレンは、そこ以外に行く気はない…。

 

目当ての場所までは、滅多に魔石獸と遭遇することはない…。周囲を警戒はするが、張り詰める程ではない。

 

そうやって、少しずつ、確実に進む。そして………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食用の弁当…サンドイッチを食べながら歩き続けて、ようやく隠し部屋に辿り着いたフレン。

 

早速、準備に取り掛かる。前回の反省をいかして、この時点で魔力回復の薬草を水筒に入れて、よくかき混ぜ、溶かしておく。

 

水筒に付いてる紐を、フレンの腰ベルトに巻き付け固定し準備完了…。多少、違和感があるが、じきに気にしなくなるだろうと結論づけた。

 

「んじゃ、行くべ…」

 

そう言って、隠し部屋の転移魔法陣の上に乗る。向かうは、ボーナス・ステージの会場である広間だ…。

 

無事に転移すると、周囲を確認してヤツラを待つ。

 

程なく、四方の壁際の地面から、いつもの魔石獸が湧き出て、這い出る。

 

「よし、いつものパターンみたいだな、再挑戦だと、これに新種が混ざるのかな?…。これも、今日、確認しよう…」

 

念のため、別パターンも想定していたが、杞憂だったようだ。

 

フレンは夢のボーナス・ステージを開始する…。狂喜乱舞の蜂の巣タイムだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合計50体で、戦利品の魔石が5つ、レベルは変化なし…っと。」

 

フレンの、一方的な蜂の巣タイムによる蹂躙で、早々にカタをつけ一息…。

 

 

「おそらく50体ってのは固定なんだろうな…。毎回一緒だし。しかし、レベルが上がんなかったな…。再挑戦に期待すっか…」

 

そう言って、広間の中央にある転移魔法陣の上に乗り、再び、隠し部屋に戻った。

 

すぐに再挑戦はしない…。せまい隠し部屋で、その場に座り込むと小休憩をとる。

 

(さっきの戦闘で確認できて良かった…。レベルアップの恩恵だな…)

 

フレンは、先ほどのボーナス・ステージで、自身の風魔法を幾つか試していた。このあとに、出現する可能性がある新種に使うためだ…。

 

「さて、そんじゃヤるか!」

 

気合いを入れて立ち上がり、隠し部屋から広間へと再び転移する。再挑戦だ…。

 

 

ボーナス・ステージの第2弾が開幕した…。

 

前回同様に新種の魔石獸が各方向より1体ずつ、計4体出現した。それ以外に変わったことは無いかと確認するフレン。

 

「OK、昨日と一緒だな…。それなら……」

 

そう言って、足止めの突風魔法を展開する。フレンを中心に、その身体から勢いよく吹き荒れる突風は、いままでの足止め突風魔法より強力になっていた。

 

「レベルアップの恩恵で、今の俺は、まるで台風だな…クククッ」

 

レベルアップしてきたことで、フレンの風属性魔法の能力は全体的に底上げされていた。その威力が、その効果が上がっている…。

 

自身を台風と称したことも理由はある。何故なら、この20メートル四方の広間が暴風域と化しているのだから…。

 

いままでの足止め突風でも、十分に台風並みの威力と効果があったのだが…。

 

フレンは自重しない…。

 

「動けねぇか?、動けねぇだろう?、そうだろうなぁ……、そうしてるんだからなぁ!!。あーはっはっは!」

 

ワルい顔……っと言うより、もう完全に悪役になってるフレン…。

 

この暴風域では、通常の魔石獸は足止めどころか、壁際まで押し戻され、その壁に磔(はりつけ)にされているようだ…。

 

新種の魔石獸は、後退こそしないが、動けない。絶賛足止め中だ…。

 

「さぁ、始めよう…。スーパー蜂の巣タイムだぁ~~!!」

 

フレンの暴風域は万能とは言えない…。制限時間があるだろう…、っとフレンは考えていた。暴風域は、その威力と効果に伴い、魔力消費量がハンパないのだった。テストした結果、長時間の使用は無理だと、結論づけていたのだ。

 

だが、新種の魔石獸を倒してしまえば、あとは、通常の、いつもの魔石獸だけ…。

 

「クククッ、これで新種どもはカタづいた…。では、暴風域を解除してやろう…」

 

動けない新種の魔石獸は、ただのデカい的(まと)に過ぎなかった。狙われたそばから、改良型・突風の弾丸で蜂の巣…。為す術無く、霧散、消滅していった…。

 

そして、暴風域を解除したフレン…。いままでの足止め突風を展開…。磔(はりつけ)から解放され、一瞬だけ動いた通常の魔石獸たち…。しかしすぐに、絶賛足止め状態に逆戻り…。

 

フレンは魔力回復の水筒を取り出し、飲み干す。身体が軽くなるような感覚を味わい、魔力が回復したことを実感する。

 

「ここからは、通常の蜂の巣タイムだね。あは(ハート)」

 

ワルい顔で、蜂の巣タイムを実施するフレン…。再挑戦も、時期に終わるだろう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新種4体と通常46体、合わせて50体で戦利品の魔石が5つ、レベルは1つ上がって18…。」

 

再挑戦の結果内容だ…。

 

「う~ん、レベルの上がりが物足りないなぁ…。ブレーキ早すぎないか?。まぁ、いっかぁ……」

 

一瞬ボヤいたが、あっさり切り替えた…。さっさと転移魔法陣で広間から隠し部屋まで移動し、休憩…。今度は昼食をとる。

 

(ここで、さらにボーナス・ステージ再々挑戦だ…、っとは言わないし、やらない。なんか、失敗しそうな気がするから…)

 

現状では、おそらく再三の挑戦は可能だろうと、フレンは思ったが、何かを感じ取って思いとどまる…。

 

(とりあえず、もう少しだけ再挑戦までにして、経験値と魔石を集めよう…)

 

(この、さらに先の挑戦は、もっと準備してからだ…)

 

 

 

 

たっぷり休憩をとり、いい感じの時間だと判断したフレンは、地上に帰るために隠し部屋を出て、地下洞窟の通路を戻って行く…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(はい、完璧な時間帯!。自分が恐ろしくなる程に正確だ…)

 

いつも通り、夕方の時間帯に地上に帰って来たフレン。早朝から降っていた雨は、すっかり上がり、美しい夕焼け空を魅せていた…。常駐スタッフにサクッとした挨拶で済まそうとしたが、声を掛けられた。

 

「やぁ、お疲れさん。あんた、毎回この位の時に戻ってくるよな?、どうして分かるんだ?」

 

 

「はい、お疲れ様です。この位の時に帰って来るのは、ただ単に、同じ位の距離を移動してるからです…。目標を距離に据えればいいんですよ…。その結果、稼ぎが出ないこともあるでしょうが…」

 

ここでも、フレンの適当な返答が炸裂…。フレンは同じ内容を繰り返すことで、結果を確認し、なんとなくで調整し、今の結果を出してるだけなのだ…。

 

「あぁ、なるほど!、そういうことか!!。そんで結果は、どうだったんだ?」

 

「ハハッ、上手いこと1つ、手にいれましたよ」

 

フレンの適当が、止まらない…。

 

「そうかぁ、1つかぁ。そりゃそうだよなぁ…」

 

「まぁ、こんなもんでしょう、この場所(地下洞窟)は…」

 

そう言って、締めくくった、フレン。

 

「引き留めて、悪かったな…、ありがとよ」

 

「かまいませんよ、それじゃ…、お先に…」

 

そして、歩き出すフレン…。先程の会話は興味本意からだろうと思い、何かを探ろうとしたモノではないと結論づけた。

 

(最近、ホント人間不信になってるな、俺…。まぁ、それも、仕方ないだろ…)

 

そう思いながらも歩く。向かうは、魔石買取専門店。今日は、どうなるか……。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ…」

 

 

「どうもです。今日も“2つ”です。お願いします」

 

カウンターの上に、魔石を2つ出して、鑑定を待つ…。

 

「はい、少々、お待ち下さい…」

 

目の前で鑑定を始めるが、それと同時に声を掛けられた…。

 

「すっかり、お持ちかえりの魔石が、少なくなってしまいましたね…」

 

鑑定に集中しろよ!、っとフレンは思ったが、仕方なく会話に付き合うことにした…。

 

「(……)祭りが終わったようです…。やはり、相当、運が良かったみたいですね」

 

事実無根のデマカセ…。フレンの警戒心は、かなり強い…。

 

「そうですか…。ちなみに、今日は、何体の魔石獸を倒しましたか?」

 

 

嫌な流れだな…、っとフレンは思った…。

 

「(……)確か、18体くらいだと……」

「お1人で、18体は、スゴいですね…」

 

チッ、食い付きが早ぇな…、っとフレンは思った…。

 

「(……)地上の魔物に比べれば、随分、倒しやすいもんです、脚も遅いし。重要なのは、いかに遭遇できるかでしょう?」

 

ここまでにしろ…。っと言外に言い放つ…。

 

「そんなこと、ありませんよ…。お1人で、地下洞窟に挑戦して、18体も倒されるのですから…」

 

フレンのプレッシャーは、察してくれなかったようだ…。

 

「(…わざと、スルーしたのか?、このたぬき親父ぃ…)・・・昨日も言った通り、上手い具合に、立ち回ればいいだけですよ。すいませんが、鑑定をお願いします。もう腹が減って仕方ないんですよ」

 

これで終わりにしろ…、っという最終勧告をつげる…。

 

「…そうでしたね、鑑定結果は出てます、中位と下位が1つずつです…」

 

結果が出てんなら、早くしろ!、っとフレンの心の叫び…。

 

「1万9000ガルですね、どうぞ、お確かめ下さい…」

 

「はい、1万9000…。確かに、それでは、お疲れ様です」

 

報酬を手に取り、さっさと店を出ようとするフレン。

 

「またの、お越しをお待ちしてます…」

 

背中越しの言葉には、一切反応せずに、そのまま店を出て、食堂に向かい歩き出す…。

 

大通りを歩くフレンの顔は、険しい…。

 

(ありゃ、なにか面倒くせーこと、言ってくるパターンじゃないか?、うぁ、ホントに面倒くせ~…)

 

そんな思考をしながら食堂に向かっていたが、ふいに、名前を呼ばれ、立ち止まると……。

 

「フ~レ~ン♪、お疲れ様♪」

 

そう言って、フレンの右腕に抱き付いて来たのは…。

 

「……。あぁ、ゴンザレスか…」

 

「誰よ!、ゴンザレスって!?」

 

ボケるフレン…。

 

「あぁ、なんだ…。ディアナだったか…」

 

「もう、なによ、その言い方!!」

 

キレるディアナ…。

 

「悪かったよ、ちょっと考え事してたから、一瞬、頭が働かなかったんだ…」

 

適当フレンは健在…。

 

「フレンは、いつも考え事してるわね…。いいわ、今回は特別に許してあげるわ…」

 

「ありがとさん…」

 

「ただし、条件付きよ♪」

 

「条件?」

 

対応に失敗した…、っとフレンは思った。

 

「そっ、夕食は一緒に食べましょ♪」

 

「………、この先の食堂で食うんだよな?」

 

「わたしが作るに決まってるじゃない♪」

 

「おいおい、一昨日も、食わしてもらったんだ…、さすがにそれはダメだ!」

 

フレンは、以前の世界で、モラルは結構しっかりしてた。その流れは、この世界でも活きている。※(一部除く)

 

「いいじゃない♪、料理作りたいのよ♪」

 

「ダメと言ったら、ダメだ…。一緒に食うなら、この先の食堂。これ一択…」

 

譲らないフレン…。

 

「もう…、わかったわ。食堂に行きましょ…」

 

渋々、承諾するディアナ…。フレンと腕を組んだまま、歩き出す。

 

そんなディアナに、引っ張られて歩くフレン…。

 

「~~~♪♪」

 

なにやらご機嫌なディアナ…。前にも似たようなことがあったな…。っとフレンは思い出し、自然に離れることを待つことにして、食堂へと歩く、二人…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ディアナとの食事を済ませ、食堂前で別れ、二人それぞれ帰路についていた。

 

フレンは宿に戻ると、風呂に入り、1日の疲れを癒す…。自室にかえると、恒例の反省会である…。

 

 

 

 

反省会スタート…。

 

(最近、激増してるパーティーへの勧誘については…)

 

知らん…。関わりたくない…。ほっといてくれ…。

 

うぁ~ぁ~、面倒くせ~…。これは、あんのかどうかわからん異世界イベントが、絡んでる可能性があるんだよなぁ…。

 

とりあえず、スルーするしかねぇんだよなぁ…。まいったなぁ…。ほんと…。

 

(地下洞窟での、仕事については…)

 

これは、順調!。つーか、もう安定路線じゃね?、新種の魔石獸は対策できたし、解決した!。明日も継続で問題なし!。

 

(鑑定店主……に…、ついては…)

 

今日の感じだと、なんか押し付けようとしてる意思が、ビシビシ伝わったよ…。相手にしたらダメだな…。幸い、ステータスの隠蔽と偽造は、こちらの切り札として十分に利用できる。上手くあしらって誤魔化そう…。

 

「はぁ~、疲れる…。何で、日銭を稼ぐだけで、ここまで精神的に苦労せにゃならんのだ…」

 

(いっそ、別の国に行ってみるか?…、真面目に考えた方がよさそうだな…)

 

 

別の国に行くとしたら、もう少しレベルを上げてぇな…。ここ最近、周りがキナ臭いし、前向き検討するようにしよう…。

 

反省会終了…。

 

 

「……………」

 

 

「寝るか……」

 

 

(おやすみ…)

          

 


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