今日も目立たず地味に日銭を稼ぐ   作:商売繁盛

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第10話

 

建物の屋根辺りから、落ちてきたと思われる、美少女をキャッチした。お姫さま抱っこで。

 

当然、すぐに逃げ出した。しかし、逃げ込んだ場所がバレて、あっさり見つかった。

 

感謝の意味を込めて、夕食をご馳走になることになった。

 

そして、今、夕方の時間帯で美少女……、ディアナと並んで歩いてる。

 

つい先ほど、宿屋で待機していたフレンを、ディアナは夕御飯の用意が出来たと言って迎えに来た。

 

フレンは、すぐ横を歩くディアナをチラ見して観察する。

 

(……年齢は、俺より1つか2つ、下くらいか?、身長は俺の肩の位置だから、160くらいかな?、長く、ふんわりとウェーブのかかった栗色の髪、瞳の色はブラウン。幼さの中にも凛々しさが見える。整った綺麗な顔立ちは、十分過ぎる程に魅力的だろう…)

隣を歩くディアナに視線を向けていると、ふと、ディアナと目が合う…。ディアナは恥ずかしそうに照れながら聞いてくる。

 

「あ、あの…、フレン?。わたしの顔に何か付いてる?」

 

……貴女を観察してました。っとは言えない。誤魔化すためにも、フレンは話題をすり替える。

 

「疑問に思っていることがあるんだが…、そもそも、なんで、あの時、落ちてきたんだ?」

 

「あー、えっと…。実は、雨漏りがするから屋根の修理をしようと思って……」

 

最後まで聞かずとも、オチが見えた…。フレンは思う。

 

「この子はアホの子なのか?…」

 

「む~、わたしはアホの子じゃないよ!」

 

フレンの心の声は、口に出ていたようだ。咄嗟に口に手を当てたが、時既に遅し。隣で、唸りながらも弁解するディアナを微笑ましく見る。

 

「ん?、口に出てたか?、悪かったよ。つい言葉がこぼれたんだ…。クククッ。いや、無事でよかったよ、ククッ…」

 

わざとらしく語る。フレンは反省などしてない。むしろ笑いを堪えている。自身がこぼした心の声が原因なのに…。

 

「もう、フレン!。いつまで笑ってるの!。む~、フレンのバカ!」

 

歩きながらも、フレンを見上げて、怒っているディアナだが、当然、本気ではない。なんとなく、二人とも楽しくなってきている。

 

そんな二人を暖かく見守る周囲の方々。夕方とはいえ、人通りのある場所では、イチャついてるようにしか見えない。

 

周囲の視線に気付かないまま、二人は歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、入って。フレン!」

 

「あぁ、お邪魔するよ…」

 

フレンが訪れたのは、ディアナの家…。今日の昼間に、屋根から人が落下するという出来事が起きた現場でもある。

 

フレンからすれば、アレは、ある意味、事件であり、ディアナからすれば、事故なのだろう。しかし…。

 

ディアナに促され、夕御飯の準備が出来るまで宿の一室で待機をしていた時に、フレンは、今回のイベントについて考えていた。

 

もし、あの時、俺があの場所を通らなければ、ディアナは、落下しなかったのではないか?、っと疑問に思ったのだ。

 

ディアナが落下したのには、当然、原因がある。まずは、雨漏りの修理をするため、屋根に上がる。そこで足を滑らせたのだろう…。屋根から落下した。不安定な足場。滑りやすい足元。だから、足を滑らせてた。そこに偶然はない。当然である。原因があるからこそ、事故が、起きた。必然である。

 

ディアナ視点、もしくは第三者視点で、事故の背景を見れば、明らかに原因と結果が浮かび上がる。これは、起こるべくして起きた。

 

だが、フレンは、もちろん納得してない。これまで連日発生していた異世界イベント。転生者視点で見れば、不審に思わざるを得ない。

 

そもそも、異世界イベント(女性が絡まれる的なやつ)は、フレンが意識的にスルーすれば、その後は、誰かしら、何かしらの仲裁が入り、こともなく安全に終了してるのだ。だからこそ、フレンは対応できていたのだ。

 

だが、今回は仲裁なんてもんは、すっ飛ばして、いきなりだ。スルーも出来た。頭上からの落下だ、避けることも可能だったはず。だからこそ、強制ではなく、半強制的なのだ。

 

フレンからすれば、たとえ、選択肢があったとしても、腕を伸ばし、手を広げて受け止めるしか出来ない。実際に体験したからこそ、実質、この一択しかないと思っていた。

 

録に考える時間も与えずに執拗に答えを求める。これが、この世界の進み方だとしたら、実に嫌味ったらしい、やり方だ。

 

ディアナは、フレンが通り掛かったことで、美少女イベントにエントリーさせられた…。その可能性は、捨てきれないだろう。

 

もし、フレンが、避けてスルーしたとしても、たいして怪我を負わなかったとも思われる。イベント発生から終了まで、そういう安全な優しさは、流れの中で、確かにあったのだ。

 

もし転生者(フレン)が、通り掛からなければ美少女(ディアナ)は落下しなかったのか…。疑問は尽きないが、答えも出ないだろう。こちらからの、そんな疑問は求めてない。向こうからの選択肢に答えるだけ。そういう世界だとしたら…。

 

実に恐ろしい…。

 

フレンは、この世界と自分自身を改めて認識する。

 

この世界を俯瞰(ふかん)的に見れる、以前の知識を持つフレン。自身の行動次第で関わった人の、その未来が変わるかもしれない。そんな考えが思いつく。

 

 

だが、フレンは…。

 

 

(知ったことかよぉぉぉぉ~。そんなとこまで責任もてるか!、こっちだって、人為的なミスで、いっぺん死んでんだ!。だいたい、人と関わって、なんやかんやあれば未来や人生が変わんのはフツーだろ!。俺という存分は特殊であっても特別じゃあねぇ!)

 

…キレた。

 

(異世界イベント?、ハンッ、そういうこともあるよね?、ってことだろ?、日常だよ、日常!。面倒事にクビ突っ込むつもりは、ねぇけどなぁ!)

 

こんな思考に陥っていた時に、ディアナが迎えに来た。やさぐれたフレンの心を癒すような、優しい笑顔で…。

 

そして、今はディアナの家。

 

「ほら、フレンは、そこの椅子に座って!」

 

そう言って、キッチンから、次々と料理をテーブルに運ぶ、ディアナ。

 

「あいよ。……ディアナ、変なこと聞くが、この家に1人か?」

 

そう、この家にはディアナとフレンの、2人以外の気配がない。

 

「あ、うん。両親は亡くなってるの…」

 

「そうか、つらいことを聞いたな、すまない…」

 

「気にしないで、もう、立ち直ってるわ」

 

笑顔で返事をかえす、ディアナ。フレンも、それ以上の追及はしない。

 

そんな中、テーブルには、たくさんの料理が並べられた。どれも美味しそうだと、フレンは思った。

 

「さあ、腕によりをかけた自信作よ、全部、食べていってね!」

 

「全部って…。まぁ、食うけどさ。いただきます!」

 

料理は、軽く4、5人前はある。ディアナの重い冗談を受け止めたか、どうかは判らないが、早速、フレンは食べ始める。

 

 

 

「これも、ウマイな、こっちもウマイ。てゆーか、どれも、ウマイな!」

 

「ふふふ、ありがと」

 

見た目よし、味よしの料理に、ご満悦で上機嫌なフレン。次から次へと料理を胃袋におさめていく。

 

そんなフレンを見て、ディアナは嬉しく思っている。

 

食事の最中だが、ディアナも気になった事を聞いてみることにした。

 

「ねぇ、フレン?、1つ聞いてもいい?」

 

「おぅ、なんだ」モグモグ、ゴックン

 

フレンは食べながらでも平気で喋る。

ディアナも別に気にしない。

 

「わたしが迎えに行った時、フレン、凄い真剣に考え事してたでしょ。あれってなに考えてたの?」

 

(異世界イベントについてなんだが…。とてもじゃないが、話せないな。っとなれば…)

 

「この世界の仕組みについてな。ちょっと真面目に考えてたんだ」モグモグ

 

「えっ?、世界の仕組み?。意味が解らないけど…」

 

(そりゃそうだ。君は美少女イベントにエントリーさせられたかもしれないんだよ。って言っても解らないだろうなぁ…)

 

「まぁ、なんつーか、世の中、上手くいかねぇなぁって思ってたんだ…」ゴックン

 

「ふ~ん、よく解らないわ…」

 

「俺もだよ…」モグモグ

 

  「?」

 

(異世界イベントについては、なるようにしかならん…)

 

強制的なイベントの発生があったら、それは、もう、フレンには、どうにも出来ない。それは間違いないだろう…。

 

そう思っていたら、食事中のはずなのに胃が痛くなってきたので思考を中断する。

 

「それなら、次の質問。フレンって、冒険者なの?」

 

聞きたいことは、1つじゃないんだな…、っとフレンは思ったが…。

 

パクパク、モグモグ、ゴックン「冒険者だよ。今は、外してるけど、革鎧を装備してたし、宿で見ただろ?」

 

今のフレンは、丈夫な旅人の服の格好。革鎧も剣もリュックも宿に置いてきたのだ。

 

女性に食事の誘いを受けたから、不粋な装備品は外してきたのだが、この世界の人達からすれば、冒険者のはずなのに…。っと不思議に思ったりするのかもしれない。

 

「冒険者の人達って寝泊まりしているトコ以外は、完全装備してると思っていたわ…」

 

(やはり、その認識だったか…)

 

「俺は、活動してる昼間以外は、外してるんだ…」ガツガツ、モグモグ、ゴックン

 

必ずしも、そうではないが、テキトーに返事をする。この辺は、フレンの素だ。悪気はない。

 

「そうなの?、それなら次は……」

 

それからも、ディアナの質問攻撃は続いた。

お互いの年齢。

フレンは20と答え。ディアナは19と答えた。

お互いの家族。

フレンは、いないと答え。ディアナは、3年前、街道で両親2人が魔物に襲われてしまい、亡くなったと答えた。

少し空気が重くなった。

お互いの活動

フレンは、冒険者と既に言ってるので、地下洞窟に挑戦してると、付け加えた。ディアナは、装飾品の店で働いていると答えた。

 

「それでね、店番もするけど、装飾品の細工とかもするの!。結構、上手なのよ!」

 

ディアナの、マシンガントークが止まらない。それほど苦痛に感じないフレンは、食事をとりながら、相槌をうつ。

 

「手先が器用なのか?、俺にはムリだな。細かい作業は苦手だ…」モグモグ、ゴックン

 

「うふふ、確かにフレンは、不器用そうね♪」

 

二人の会話は、その後も続いた。

 

そして…。

 

「ふぅ~、食った、食った。ご馳走様、美味しかったよ」

 

「すご~い、本当に全部、食べてくれたのね。凄く嬉しいわ!」

 

見事に完食したフレン。実は、大食いなので、余裕だったりする。

 

「食後のお茶を出すわね、ちょっと待ってて♪」

 

「食器、片付けようか?、なんだったら、洗っていくぞ…」

 

社交辞令ではなく、本音の言葉。ディアナな料理は、ホントに旨かった。その感謝の意味を込めてなのだが…。

 

「ふふ、フレンは、お客様なんだから、いいのよ♪。はい、お茶。どうぞ♪」

 

やんわりと断られた。フレンは、お茶を啜りながら、一息つく。その間、ディアナはテーブルの食器を片付け、キッチンに運んでいる。

 

そして、片付け終わったディアナもフレンの対面に座り、お茶を啜っている。

 

お茶を飲み終えたところで、フレンは立ち上がり…。

 

「さて、そろそろ、帰るとするよ…」

 

「えっ、もっと、ゆっくりしてても平気よ?」

 

ディアナは、そんな言葉を掛けてくれるが…。

 

「今さらだが、若い女性の家に、男が、いつまでも居座るのは、マズイだろ?」

 

「ふふ、本当に今さらね♪、わかったわ」

 

そう言って、フレンを玄関まで見送るディアナ。

 

「んじゃ、ご馳走さん。旨かったよ」

 

「こちらこそ、今日は本当にありがとう♪」

 

またね♪っと、手をふるディアナ。フレンも片手を挙げて応えると踵を返し宿に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿の部屋に戻ったフレン。今日も、色々あったな…。っと一息ついた。

 

(ディアナも、この部屋に初めて来た時より、だいぶ話し方が砕けていたな…)

 

最初は、よそよそしく話していたが、食事中は、かなり素で喋っていたのだろう…。

 

(しっかし、異世界イベントにも困ったもんだな…)

 

新たな疑問と可能性…。

 

(まぁ、やることは変わらねぇ…)

 

最終的な判断は、その時、その場で。だな。っとフレンは思うことにした。

 

「休日のはずなのに、疲れた…。明日は色々、吹っ切るために頑張ろう…」

 

今日のゴタゴタを明日の魔石獸に、八つ当たりするつもりだ…。

 

「風呂に入って、さっさと寝ちまおう…」

 

フレンの、この世界で初の休日は、こうして幕を閉じるのであった…。             

 


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