「…ふむ」
どうやら、俺は死んだようだ。
建物の中、その一室で女性と向かい合って座っている。
「誠に、申し訳ございません」
女性が頭を下げ、謝罪しているが、いまいち意味が解らない。
とりあえず、ここに至るまで何があったか思い出してみよう。
気が付いたら、360度、お花畑に囲まれた建物(古い感じの村役場?)の前でポケ~っとしていたら、建物の中から女性が出てきた。
女性に手を引かれて建物の中の応接室?へ移動。
現状説明と謝罪を受けている。
「つまり、死んだ。と、いうことだな?」
「……はい」
すでに聞いてはいたが、確認の為にも再度聞いてみる。
なんでも、俺に該当するデータが、ぶっ飛んだらしい。
そんなのが、あるんだな。
目の前の女性は女神様?的な役職らしい。
役目を終えた魂を管理、導いてる、とのこと。
生死に関わる重要書類も多く、ここ数千年はミスもなく作業していたのだが…
何事にも例外はあるらしい。
被害者は俺。加害者は女神?的な役職の女性
「困るねぇ」
呆れながら言葉を吐き、そのまま続ける。
「なんで、こんなことになったんだ?」
目の前の女性に問いかける。
「人為的なミスです…、申し訳ありません」
このまま責任問題を、どーこー言っても、ままならないな。
「とりあえず、頭を上げて下さい。起こったことは、仕方ない。今回のことは教訓にして再発防止に繋げて下さい」
「……はい」
うーん、めっちゃ落ち込んでるな。まぁ、被害が出ちまったからな、仕方ないだろ、とりあえずは……。
「それで、俺は、どうしたらいい?」
今後の自身について聞いてみる。
「あ、はい!。そうですね、この度の件はこちらの失態ですので、救済措置を採らせて頂きたいと思います」
「救済措置?」
彼女の言葉を聞き返す。
「あなた様には異世界への転生を準備させて頂いております」
異世界転生…。小説で有名な展開だな。俺が、それを体験するとは思わなかったが……。
「それと異世界で、不自由いただかないように、各種、特典をご用意させて頂いてます」
これまた王道。ピンチをチャンスに!、ってことかい……。
「こちらに、特典一覧表が御座います。ご参考までに、お読み下さい」
用意がいいな。でも、全部くれる訳じゃないんだよな……。
「得られる特典は、こちらで設定されています、容量を越えなければ、いくつでもお持ち頂けます、〔詰め込み式〕とさせて頂きます」
「詰め込み式」ってなんやねん……。まぁ、色々と決まり事があるんだろうな……。
「強力な特典には多くのキャパシティが含みます、ごゆっくり選考下さい」
つまりは、上手に買い物出来るかな?的な事だろう……。千円持って駄菓子を買い込む。高いのもあれば安いのもある…。量より質か、質より量か、最終的にはバランスよくまとめるのがベストかな…。
「ご質問があれば、いつでもおっしゃって下さい」
「んじゃ、早速質問。一覧表には書かれてないけど、これから行く異世界の情報が欲しい。文化、風習、その世界の人間なら大抵は知っている常識やその他。今、この場で貰えるか?」
情報は大事だよな。フライングゲット上等だよ!。
「あ、はい!。大丈夫です、それでは実行します」
一瞬、目の前が光ったと思ったら、激しい頭痛に襲われる。
うぉぉぉ、めっちゃアタマいてー!、つーか、マジ痛い!、いや、ほんとイタイ!。
「はい、終わりました、ご気分はいかがですか?」
最悪だよ……。頼んだのは俺だけど、まじキツかった。
「異世界情報の特典は全体の15%を占めさせていただきます」
おぉ、そんなもんか、意外と安かったな。
情報は、かなり価値が高いと思ったんだが、そうでもないのか?
まあ、どのみちその世界に行くんだから、先でも後でも構わないとか、そんな感じか…。情報は先にあった方が便利だと思うけど…。
「残りの特典はお決まりですか?」
「ちょっと待ってくれ、今、考えをまとめてるから…」
なるほど、この異世界、かなり王道とみた。複数の大陸に幾つかの王国家。王族に貴族、平民に冒険者、ギルドまである。
この事前情報を元に人生設計するべきだな。だが、その前に聞かなければならないことがあったな…。
「お姉さん、質問。転生した時って赤ん坊からのスタート?」
「いえ、お好きな年齢で大丈夫です」
好都合だな。下手に若いと、あっさり死にそうだ。ある程度の年齢は欲しい。
「それじゃあ、今の二十歳の年齢で転生させてほしい」
「承りました!。容姿などの変更も可能ですが、いかが致しますか?」
なるほど!。失念していた。これは重要な案件だな…。
「容姿は現地の方に紛れても問題ないように変更しておいて下さい」
「承りました、容姿はわたくしの方で変更しておきます」
よし!これであとは、どう、日常を送るかだな。特典の容量はまだ残っている。ここからは慎重にいかなければ…。
「少し時間が掛かるから、お姉さんはのんびりしてていいよ!」
「えっ、そうですか?。では、お茶を淹れますね」
お姉さん、だいぶ表情が明るくなったな、今回の失敗は次にいかしてもらいたいものだ。
さて、どの特典にするか…。取り敢えず一覧表だな、確認しよう。
ふむ、王族や貴族になる特典もあるようだ。衣食住には困らなそうだな。だが、柵(しがらみ)がありそうだ、俺には無理だな、パスしよう。
それなら、平民で冒険者か?。このパターンは人気だもんなぁ。成り上がり的なヤツだが…、目立ちたくないんだよなぁ。地味に生きるにしても自身の安全は最低限必要だし、ある程度の強さは持たないと…。方針としては、目立たず地味にレベルを上げて日銭を稼ぐ!。一攫千金はノーセンキュウで!。こんな感じか…?
「粗茶ですが、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「どうですか、特典はお決まりになりそうですか?」
「方針は決定しましたので、これから煮詰めていきます」
「ごゆっくりで構いませんよ」
「はは、どうもです」
よーっしゃあ!んじゃ、煮詰めていきますか!。まずあちらの世界には魔法がある。だが、全ての人間が行使出来る訳じゃない。20人に1人、そのぐらいの認識だ。希少といえば希少だが、いるっちゃいる。軍でも冒険者パーティーでもいてくれりぁ助かる、そんな感じだな。魔法は魅力的だ、目立ちたくないが、うまく誤魔化しながら仕事の役にたってもらおう。
そんな訳で魔法の特典だが…、なるほど、4属性ね、火力特化の火属性、補助特化の水属性、錬金術に長けた土属性、攻防バランス型の風属性、特典の容量を気にしないなら土属性なんだが、聞いてみるか…。
「お姉さん、質問です。土属性の錬金術でゴーレム無双したいんだけど、容量は足りる?」
「残念ながら、足りません。丁度、異世界情報の分が被ってしまってます」
「おおぅ、まあ、それなら仕方ないか…。それなら風属性魔法を特典でください。チートじゃなくても平気なんで」
「承りました」
よし!まずは魔法ゲットだな。火は目立ちそうだから却下、水は弱そうだから却下、必然的に風にしたんだが、まぁ、悪くはないだろう。
「あとは、この3つの特典を詰め込めますか?」
「えーと、魔力消費量減少、魔法効果増加、ステータス隠蔽・偽造ですね。はい、問題ありません」
よし!ステータス隠蔽・偽造はどうしても欲しかった、ギルドで冒険者登録する際にこちらのステータスを読み取ってギルドカードを発行する登録水晶は厄介でしかない、目立ちたくないんだ、許してや水晶ちゃん!。
「それでは、これより、あなた様を異世界へと転生させて頂きます、最終確認は御座いますか?」
「特典の容量が余ってるようなら、その分で、あちらの世界のお金を数日分、貰えないかな?」
「承りました」
完璧だな…。最初は、どーなるかと思ったが、蓋を開けてみれば異世界転生にワクワクしてるんだから、現金なものだな…。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
視界が光に包まれる。
さーて、目立たず地味に異世界生活を堪能しますかぁ!。