名探偵コナン~選ばれた二人の物語~   作:雪夏

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バレンタインデーネタ。今回は高校三年生編です。
短いです。

一言:ひっそり

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先にそちらをご覧ください


EXTRA FILE20 Vの真実 高校三年編

 

 

 

 

 

「それで?」

 

「それでって?」

 

 乙女のイベント――バレンタインデーから一夜明けた月曜日。帝丹高校三年A組の教室にて、歩美が哀を問い詰めていた。

 

「バ・レ・ン・タ・イ・ン。歩美たちと違って、私立はセンター利用で決めてたし、当然あま~いデートをしたんでしょ?」

 

 哀は詰め寄ってくる親友に、呆れたとため息を吐く。それと同時に、自由登校にも関わらず登校しろと連絡があったのはこの為なのかと納得する。

 この時期、他の三年生たちはあと数日後に迫った私立入試に向けて追い込みをかけているのだが、目の前の親友はそれより色恋沙汰が大事らしい。最も歩美の場合、受験する大学の試験日までに余裕があることと、合格判定でAを取っていることから余裕があるのであろう。幸い、教室にいる生徒は推薦等で早くに大学を決めたものばかりである為、勉強の邪魔をするということはなさそうである。

 

「そんなに気になるの?」

 

「だって、今年は皆受験でそれどころじゃないって感じだしね。バレンタイン当日とか前後が試験って子が多いから仕方ないんだけどさ。その点、哀とコナン君は余裕あるから、期待できるじゃない?」

 

「まぁ、別に昨日のことくらい話をしてもいいんだけど……終わったらちゃんと勉強しなさいよ?」

 

「了解!」

 

 おどけて敬礼する歩美に、一瞬イラッとした哀だったが仕方ないと口を開く。

 

「とは言っても、あなたが期待しているような展開とは程遠いんじゃないかしら」

 

「そんなことはないでしょ。やっぱり、映画とかに行ってレストランでディナー? それとも……今の時期、動物園は寒そうだから~水族館? 二人だったら美術館も似合いそうだしなぁ。あ、そうそう、今年こそチョコ渡したよね?」

 

 哀が何かを語る前に、自身の予想を告げていく歩美。付き合いだしてから初めてのバレンタイン――と歩美は思っている――なのだから、当然デートをしてチョコを渡しただろうと。最も、その予想はすぐ様哀によって否定されることになる。

 

「あなたたちが追い込みしているのに、外に遊びに行くわけないでしょ? それに昨日は雨降ってたし」

 

 絶対、雨が理由で遊びに行かなかっただけだと歩美は思ったが、そこはグッと堪えることに成功する。目の前の親友とは十年以上の付き合いなのだ。基本外出をしないことも知っているし、雨の日はまったりとするのが好きなのも知っている。天気予報で雨と分かった時から、予想していたことではないかと。

 何とか叫びを堪えた歩美は、哀にもう一つの方――本命のチョコについて確認する。

 

「チョコ? 渡していないわよ?」

 

 叫びださなかった自分を褒めてやりたいと歩美は思った。正直、予想していたから堪えれていたが、そこは予想を裏切って欲しかった。結局、甘い話なんて期待するだけ無駄だったのだろうかと、落ち込みかけていた歩美であったが、次の哀の言葉でその気持ちは急速に浮上するのであった。

 

「毎年彼にはレモンパイを焼いてるしね」

 

「き」

 

「き?」

 

「キターーー!!」

 

 

 

 叫び声をあげて怒られた歩美であったが、哀の所に戻ってくるなり、詳細を聞いてくる。

 

「で、毎年レモンパイ焼いてコナン君にあげてるのね? ……毎年?」

 

「ええ、毎年。もう十年以上になるわね」

 

 その言葉に固まる歩美を不思議に思いながら哀は話を続ける。

 

「ほら、彼ってレモンパイが好きじゃない? で、私も好きだからバレンタインとか関係なく作ったの。で、それを摘んだ彼が来年もチョコよりレモンパイがいいって言うから」

 

「……だから、今までチョコあげてなかったの?」

 

「ええ。確か昔にも言ったわよね。彼がチョコはいらないって言ったって」

 

「……うん。そうだったね」

 

 確かに言っていたと思い出す歩美。そのときは、コナンが照れくさくて突っぱねてしまったのだと思っていたが、こうなると話は別である。寧ろ、かなり素直に哀に伝えていたことになる。

 

(じゃあ何? あの頃からチョコじゃないだけで、バレンタインイベントはこなしていたってこと? じゃ、今まで歩美たちは空回りしてただけなの!?)

 

 内心ではこれまでのことを振り返り驚愕していた歩美であったが、今は哀の話を聞くのが先だと話に集中する。そんな歩美の様子を気にかけることなく、哀は淡々と昨日の出来事を話していく。

 

「それで、今年も焼いたんだけど、今年は珍しく彼が手伝ってくれて。今までそんなことなかったから、どうしたのか聞いたら何となくだって。おかげでいつもより時間がかかってしまったわ」

 

 そう苦笑しながら告げる哀に、歩美はご馳走様ですといいたくなった。何故なら、哀の顔があまりにも優しかったからである。

 

(二人で共同作業とか、毎年コナン君の前で作ってるのかとか、言いたいことはいろいろあるけど……その顔は反則だよ、哀)

 

 

 

 その後も哀は淡々と昨日の出来事を語っていくが、歩美は途中から気恥ずかしそうにしていた。何故なら、哀は何でもないことのように語っているが、その内容は普段二人が歩美たちに見せない日常の姿なのである。デートとは違い生活臭漂うその話は、幼馴染として知っているはずの二人の知らない一面を知るのと同時に、歩美を他人の夫婦生活を覗き見ているような感覚に陥れるのであった。

 

(もう勘弁してください)

 

 

 

 




 またまたこっそり更新。入試日程に関して突っ込みはなしの方向で。
 
 哀がレモンパイを好き。
 これらは拙作内の設定です。

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