コナンと哀に届いた差出人のない招待状……
中には手紙と二枚の航空券が……
一言:旅行行きたいなぁ
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コナンと哀、光彦が受験した東都大学の合格発表翌日。コナンと哀の二人の姿は、羽田発―ロサンゼルス行の飛行機の中にあった。
「これで、あと数時間後にはロスか……」
「そうね。これも戸籍を用意してくれた
「まぁ、海外に行く為に用意して貰った訳じゃないが……助かってるよな」
江戸川コナンと灰原哀。昔の名を工藤新一と宮野志保。彼らは、組織との対決において知り合ったFBI捜査官たちの協力で、新しい戸籍を手に入れていた。証人保護プログラム
コナンと哀の真実を知るFBIとしては、その情報の危険性、組織と共に戦った仲間であることを考慮した結果である。
「向こうであうことがあったら、お礼をしないとな」
「アナタのお礼ねぇ……。事件の解決とか言わないでよ?」
「それもいいかもな……。でも、今回はパスだ。折角の旅行だぜ?母さんたちも、ずっと一緒ってわけじゃないだろうし……。二人だけの思い出ってヤツ?作らないとな」
「私は別に有希子さんたちが一緒でも構わないけど……。買い物も楽しみだしね。それに、二人だけの思い出って……その」
「何だよ?」
急に口篭る哀に、疑問を含んだ視線を向けるコナン。哀が口篭る姿を愛らしいと思うコナンは、改めて自分が哀に参っていると感じていた。
その様にコナンが考えているとは、思っていないであろう哀は、静かにゆっくりと口を開く。
「その、改めて言われると……恥ずかしい」
頬を染め俯くその姿と見たコナンは、一人悶えていた。
(やっべー。可愛すぎだろ、コイツ)
「それにしても……昨日は忙しかったわね」
「ああ、そうだな」
あと、三時間ほどで目的地に着くという時、哀が思い出したかのように昨日のことを語る。コナンもその時のことを思い出すと、同意する。
彼らの感覚では一昨日――日付としては昨日のこと。つまり、合格発表当日のことである。
「ほら、三人とも!!早く!!」
東都大学、合格発表の会場前に歩美の元気な声が響く。結局、暇であった元太と共に、合格発表の場について来たのだ。今は、ネットで合格が確認できるのだが、コナンたちは翌日からロスへ行くことになっている。その為、合格していた場合、その足で事務室へ行き今日中に書類を提出しよう決めたのだ。
「わりぃな、光彦。俺たちに付き合わせて……」
「別に構いませんよ。実は、私立の方の入学手続きをしてましてね。することないんですよ」
「おいおい、まだ不合格って決まったわけじゃないってのに」
「前から分かってましたよ。……ここだけの話ですが、解答用紙に名前書き忘れてたんですよ」
光彦の言葉に驚くコナン。だが、同時に光彦があれ程落ち込んでいた理由がそれだったのだと気づく。つまらないミス……それが、名前の書き忘れだったのだと。
「だから、ここに来た理由は歩美ちゃんたちと一緒です。自慢の親友たちが合格するのを見に来たんですよ」
「こりゃ、合格してなかったらことだな」
コナンと光彦が笑いあう中、掲示板に合格者の受験番号が張り出される。
歓喜に沸く人、沈み込む人。様々な感情が渦巻く場所に、歩美と元太の歓声があがるのはそれからしばらく後のことであった。
「やっぱり、コナン君と哀は合格してたね!!」
入学手続きの為に必要な書類を受け取ったコナンと哀を囲みながら、帰路につく探偵団の面々。その話題はやはり、これからの大学生活のことだった。
「でも、光彦は残念だったな。ま、オレたちと同じ大学も悪くないって!!」
「いや、悪くないって……。お前らが行く米花大学も、レベル高くて名門って言われてんだぞ?」
「そうですよ、元太君。君はスポーツ特待生ですから、気づいてないのかもしれませんが……」
「まぁ、何にしても……だ。これで、オレとこいつが同じ大学。お前ら三人が同じ大学ってことか……」
「そうだね。今までも、いつも一緒ってわけじゃなかったけど……。これからは大学が違ったり、学部が違ったり……。こうして、みんなで会うのがますます難しくなっちゃうんだろうね。あんまり実感ないけど」
コナンの言葉に、歩美が同意する。それぞれ大学生活を思い描くが、今まで一緒にいたメンバーが欠けるというのは、想像しにくいようである。
「ま、暇をみつけて遊べばいいんじゃない?皆実家から通うんだし。それより、入学までの間のことを考えましょ」
「そうだね!これで、皆あとは入学を待つだけなんだし。今の内に、予定を決めて旅行に行ったり、買い物に行ったり色々しようね!まぁ、そうは言っても明日から、哀とコナン君は婚前旅行に行くんだけどね……」
哀の言葉で、休みの間のことを考え始めた歩美であったが、哀とコナンが翌日から不在となることを聞いている為、哀にからかいの言葉をかける。
「あら、羨ましい?あなたたちも早く相手を見つければ?」
最も、哀に強烈なカウンターをもらうことになったのだが。
「うう……。いいのよ、大学にいけばきっと……」
心臓の辺りを抑えながら呟く歩美。その姿は、誰の影響か演技じみている。その横では、元太と光彦が顔を寄せて会話している。
「“たち“って……オレらのこともいってんだろうな」
「ええ。おそらく。まぁ、それが出来れば苦労はしないんですけどね……」
「だよな……。アイツら見てると、こう理想って言うか……高くなるよな。色々」
「そうですね……」
その後は、休みの間に何をするのか、何をしたいのかを会話しながら歩いていく。阿笠邸の前まで来ると、歩美たちと別れることになる。コナンたちはこの後、書類手続きがある為である。
「それじゃ、二人とも。明日からの旅行楽しんできてね!お土産と写真楽しみにしてるから」
「ああ」「ええ」
「それと、私たちこれから休みの計画を立てるから、決まったら二人に連絡するね。行こっ!二人とも!」
「おう!じゃ、またな、コナン!灰原!」
「お気をつけて!!」
そう言って駆けていく三人の姿は、小学生の頃から変わらぬ姿であった。
「それから、書類書いて、入学金を振り込みにいって……夜は、休みの計画に意見を言って」
「その前に、博士とフサエさんが合格祝いだって、張り切って料理を準備して……」
昨日の出来事を指折り数えていた二人は、その時のことを思い浮かべて苦笑する。一つ一つであれば、それほど大変ではなかったであろう。しかし、全てを一日で消化するのは、流石に大変であったようである。
それでも、その顔に笑みが浮かんでいるのは……やはり、嬉しかったのであろう。
我が事のように喜んでくれた博士とフサエ。
大学が別れても、変わらずいようという歩美たち。
学部は違えど、同じ大学内に愛する人がいるということが。
「しかし……。この旅行から帰ったら、すぐアイツらと次の旅行か……。アイツらの行動力は、相変わらずだな」
「いいんじゃない?私たちも暇になったんだし……。後は、誰かさんが事件を呼ばないことを祈るだけね」
「お前なぁ。ま、そうそう事件なんて起きやしないって」
「そうね。アナタと飛行機に乗ると50%の確率で事件に遭遇するなんて……気のせいよね」
「……ああ、気の……せいだぜ?」
自分で答えながら、不安になるコナン。飛行機内での事件といえば、今回と似たシチュエーションで遭遇した事件と、墜落しかけた事件が思い浮かぶ。それ以外でも、飛行機には搭乗している筈なのだが……思い浮かぶのはどれも事件絡みの時ばかり。
哀が言う確率というのは、あながち間違いではないのではないか。コナンが真剣に考え出したとき、その顔を観察していた哀が笑って告げる。
「冗談よ。まだ、飛行機関連での事件の遭遇率は40%しかないわよ。船だと大体、60%くらいだけどね」
「……え?計算してんの?……マジで?」
「さぁ?」
着陸まで、あと二時間ちょっと。彼らが事件に遭遇したかどうかは、また別の話である。
冬 鈴音様提供ネタ。冬 鈴音様ありがとうございます。
海外旅行について何も知らないので、あれこれ考えるのに時間を取られすぎてしまいました。しかも結局、ロスに着くとこまでという。本編はこのシリーズが落ち着いてから更新します。
コナンと哀の戸籍については証人保護プログラムの流用で。FBIの人たちが危ない橋を渡ってくれました。特例事項です。本来の使い方ではありませんので。
※証人保護プログラム――重大事件の証人が犯人やその関係者によって不利益を受けないようにアメリカ合衆国政府が、一定期間内またはその生涯に渡って証人を保護するプログラム。全ての個人情報を別のものに変更し、期間内は全くの別人として、政府が用意した居住地で生活することになる。また、内通者による所在の発覚を防ぐ為、証人の保護に関わった最低限の人物にのみ情報が公開される。適用中、政府への貢献度で金額は上下するが、生活に不自由しない金銭が支給される。
活動報告にてリクエスト受付中。まだまだ募集中です。気軽にどうぞ。