名探偵コナン~選ばれた二人の物語~   作:雪夏

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ホワイトデーシリーズ。
時間軸は小学五年の三月。

EF01~03から続くホワイトデー話。

※“EXTRA FILEについて”に閲覧時の注意事項があります。
先にそちらをご覧ください


EXTRA FILE10 ホワイトデー 真相解明

 

 

 

 

 

「じゃあね~コナン君、哀ちゃん!!」

「また明日な!」

「お二人とも、また明日」

 

「おう、またな」

「また明日」

 

教室の入口でコナンと哀の二人と別れの挨拶をしているのは、歩美、光彦、元太の三人である。彼らは用事があるという二人と別れて、教室から出ると階段へと向かう。そして、そのまま階段を下り……ず、背後の二人――コナンと哀――の様子を伺う。

 

「なぁ、これ意味あんのか?」

「静かに!……二人の声が聞こえないでしょ!?」

 

元太は疑問に思うが、歩美と光彦に押さえ込まれてしまう。そんな彼らに気づいているのかいないのか、コナンと哀は会話をしながらこちらに歩いてくる。慌てて階段を上ると、再び様子を伺うのであった。

 

 

 

「じゃ、最後の一人にも渡してくるから」

 

「ええ。早く行ってあげなさい」

 

「じゃ、昇降口でな。それとも一緒に来るか?」

 

「バカ言わないの。……早く行きなさい」

 

「ハハハ……。じゃ、行ってくるな!!」

 

 

 

 

どうやら、コナンはバレンタインにチョコを贈ってくれた女子のお返しを返しに行くようである。その会話を影で聞いていた歩美と光彦は目を合わせると小声で話し出す。

 

「わざわざ言わなくとも良かったんじゃ……?」

「ついてくるかって……。本当デリカシーないなぁ。よく哀ちゃんも怒らないよ……」

 

哀が階段を下り始めた為、あとを追う。コナンが言っていた通りにするなら、哀は昇降口へ向かう筈である。後ろからくるコナンに見つかることを避けるには、素早くかつ慎重に移動しなければならない。時折背後を気にかけながら、歩美達は追いかけていく。やがて、昇降口に着くと、靴箱の影に隠れる。

 

「哀ちゃん普通に靴履き替えたね」

「ええ。待つ気はあるんでしょうか?」

「でもよ、いつもより歩くの遅くなかったか?」

 

元太に言われ哀の様子を思い出す二人。言われて見れば、普段よりのんびり歩いていたような気がしてくる。

 

「……そうだとしたら……!!二人とも隠れますよ!!」

「え?でも、哀ちゃんからは見えないとこにいるよ?」

 

「違います!!コナン君がきますよ!!」

 

三人が隠れた場所は哀からは見えないが、廊下から誰かが来ればすぐ分かる場所であった。勿論、哀の様子を確認したあとに隠れなおすつもりであった。コナンが来るにはまだ時間があると思っていたが、哀が普段より時間をかけて歩いていたのだとしたら、猶予は残されていないと光彦は判断したのだ。

 

そして、その判断は正しかった。光彦が二人を促し隠れ直した直後、廊下にコナンの姿が現れたのだ。そのまま、コナンは三人に気づくことなく哀の元へと向かう。

 

合流したコナンと哀は言葉を交わすことなく、歩いていく。その二人を見失わないように、慎重に歩美達は後をつけていく。

 

「それにしても……。哀ちゃんは分かってたのかな?コナン君が来る時間」

「おそらく。大体の到着時間を予想していたのではないでしょうか。だから、歩くスピードを調整したんでしょう」

「そうか?昇降口で待ちたくなかっただけじゃねーの?」

 

 

 

 

 

その後も二人を尾行する三人。その内、書店に二人が消えると外で待つことを選択する。

書店から二人が出てくるまで、彼らは普段と違うところがないかを議論するのだが、無駄なことはわかっていた。コナンと哀。彼らは至っていつも通りだったからだ。

 

「なんかいつも通りだね」

「ええ。ホワイトデーに二人で用事なんて、てっきりデートかと思ったのですが……」

「用事って本買うだけだったりしてな」

 

その元太の言葉に、歩美と光彦は顔を見合わせる。こんなこと(尾行)までしておいて、それはないと信じたい自分と、その通りなのではないかと疑う自分。どちらが正しいかはその数分後に分かることとなる。

 

 

 

 

 

一方、書店に入った二人は、それぞれ目当ての本を手に取ったところであった。

コナンが手に取ったのはミステリーの新刊……ではなく、スポーツ雑誌。哀が手にしているのは、レシピ本であった。

 

「あら、今日はミステリーじゃないのね」

「そう言うお前もレシピ本なんて珍しいじゃねぇか」

 

お互いに相手が手にしている本が気になったようである。

 

「オレは今月がサッカー特集だから……。それにミステリーは……」

「昨日発売。それに、ちゃんと買ったものね。私が」

「……その節はどうも。……で、なんでレシピ本なんだ?」

 

「……中華、作ってみようかなって。たまには食べてみたいって言っていたじゃない?」

 

恥ずかしいのか、コナンから視線をそらし、頬を染めながら答える哀。コナンはそんな哀から顔を背けると、視線を彷徨わせたあと店の外へと向ける。注意深く見れば、その頬が朱に染まっているのが分かったであろう。

 

「……にしても、何でアイツらはオレたちを尾行し()てるんだ?」

「さぁ?」

 

コナンと哀には三人の尾行はお見通しであった。

 

 

 

 

書店から出てきたコナンと哀を尾行し続ける歩美たち。このあと、デートをするのだと信じて。しかし、コナンと哀はそのまま帰宅してしまう。歩美たちは、尾行の意味を考えながら――無駄だと分かっていたが――帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

コナンと哀が帰宅し、歩美たちが尾行を切り上げてから一時間が経過した頃。阿笠邸には、外出の準備を整えたコナンと哀の姿があった。彼らはそれぞれフォーマルな装いに身を包んでおり、普段はコナンが恥ずかしがって使っていない色違いのコートを手にもっていた。

 

「じゃ、準備も出来たことだし……そろそろ行くか?」

 

「ええ、それは構わないのだけど……どこに連れて行く気?こんな格好までさせて……。それに、そのコート……有希子さんから貰ったのに好みじゃないって使わなかった奴じゃ」

 

「そんなこと言ったか?普段から使うにはって言っただけさ。運動には向いてないだろ?(恥ずかしいんだよ……色違い)」

 

「そう。……で、どこに行くの?てっきりファミレスだと思ってたんだけど……」

 

「まぁ、その時まで秘密ってことで。じゃ、連絡してくるから」

 

そう告げるとコナンは哀に聞こえないように離れて電話をかけ始める。現在、阿笠は日本にはいないので、タクシーでも呼んでいるのだろうと哀は予想する。

 

(本当、秘密が好きなんだから……。こんな格好をさせるってことは、ホテルかレストラン……それも、気軽には入れない格式高いところ。流石に、料亭……なんてことはないでしょうし。お金は……まぁ、どうにかするのでしょうけど。私たちの年で入れるとこなんて。あの財閥のお嬢様の口利きかしら……?)

 

哀が目的地について考えこんでいると、電話を終えたコナンが呼びに来る。

 

「そんなに考えんなよ……。どうせ、もうすぐ分かるからさ」

 

「……そうね。それで、これからどうすれば?ここで待ってればいいのかしら?」

 

「ああ。すぐに迎えがくるってさ」

 

コナンの言葉から数分後。阿笠邸にインターホンの音が響く。コナンと連れ立って玄関に哀が向かうと、予想していたタクシーではなく、一台のリムジンと運転手の姿が。呆気に取られている哀を他所に、コナンは明るく運転手に挨拶すると哀の手をとり社内へと乗り込む。そのまま、リムジンは静かに夜の街を進む。

 

 

「しかし、送迎ありますってリムジンだったのか……」

 

「アナタも知らなかったの……?」

 

「ああ。少し驚いちまったが……。まぁ、父さんだし」

 

「父さん?……成程。優作さんが準備したのね……」

 

コナンが小さく呟いた言葉に哀が反応する。運転席との間は仕切られており、防音性に優れている為、小さな声でも聞こえるのだ。優作のことがバレたコナンは少しバツが悪そうな顔をしながら、説明しだす。

 

「まぁ、いつまでも秘密にすることでもなかったんだけどさ。今回のは父さんが用意してくれたんだ。ホワイトデーのプレゼントってことでさ。話も通してくれてるらしいし、遠慮せずに楽しめよ?」

 

「そうなの……。後でお礼を言わないとね」

 

 

 

 

 

しばらくすると、ホテルの前に停車する。リムジンを降りると、案内されるままにエレベーターへ。そのまま、ホテル最上階にあるレストランへと通される。用意された席は、窓際の二人席。夜景を眺めながら食事するには、絶好の場所である。これには、コナンも予想外だったのか、かなり驚いていた。

 

「こちらへどうぞ」

 

ギャルソンに促されるまま席につく二人。ドリンクのオーダーを済ませると、ギャルソンは一礼したあと去っていく。その姿を見送ったあと、コナンが口を開く。

 

「まさか、こんないい席だとは思わなかったぜ……」

 

「そうね。いくら優作さんが準備したと言っても……」

 

本当にいいのだろうかと悩む二人。元の姿ならともかく、今は小学生の体なのだ。ホワイトデーと言うイベント日に、小学生が使うには豪勢すぎるのではと考えているのだ。

 

そこに、一人の男性が声をかける。

 

「失礼します。私、このレストランのオーナーです。この度は当レストランをご利用頂きありがとうございます」

 

男性の名乗りに頭を下げる二人。その顔は、何故オーナーが挨拶に来るのかという疑問で溢れていた。

 

「君たちのことは、工藤先生からうかがっております」

 

「そうなんですか……」

 

「何でも、熱心なファンの少年とその恋人に一夜の夢をと……。当レストランが、そのお手伝いをできることを光栄に思っております。どうか、存分にご堪能ください」

 

オーナーからの言葉に揃ってありがとうございますと感謝を告げる二人。その顔は、恋人と言う言葉を聞いた時から、朱に染まっている。そんな様子を微笑みながら見ていたオーナーは、コースの説明、料理のサーブ形式をどうするかなどを聞くと、最後にと前置きをして言葉を紡ぐ。

 

「可愛らしい恋人たちに、お土産も用意しております。もうすぐ、料理もこちらへ運ばれることでしょう。料理は一品ずつサーブしますが、マナーなんて気にせず、楽しくお食事を。それでは、私はこれで……」

 

最後に、笑顔を浮かべオーナーは去っていく。すると、オーナーと入れ替わりにオードブルが運ばれてくる。

どうやら、料理が来るまでの時間潰しと、マナーを知らないであろう二人にいろいろと説明とフォローをしに来たようであった。見た目小学生なコナンと哀に、コース料理は初めてで緊張するのではと気を使ったのだ。

 

 

 

 

 

コナンと哀の二人は、時折会話を交えながら食事を進めていく。その姿は、小学生とは思えないほど堂々としたものであった。

 

デザートを残すだけとなった頃、コナンがポケットから長方形の箱を取り出す。それは綺麗に包装されており、大きさは縦二十センチほどであった。それを、哀へと差し出しながら、コナンは口を開く。

 

「プレゼント」

 

一言だけであったが。そんなコナンに若干呆れた目を向けた後、そのプレゼントを受け取る哀。

 

「ありがと。開けても?」

 

「ああ。中見ても文句言うなよ?母さんや父さんに比べたら、大したことないし」

 

「……バカね」

 

「なんだと!?」

 

「アナタが私にくれる物なら、何であれ一番嬉しいに決まってるじゃない」

 

そのまま、沈黙が訪れる。二人とも恥ずかしさで、お互いの顔を見ることも出来ないようである。

 

 

 

やがて、沈黙に耐え兼ねたコナンが、開けないのかと声をかける。その声に促された哀は、丁寧に包装を解いていく。現れた箱を開けると、中にはペンダントが。ペンダントトップは四葉のクローバーの形をしており、葉の部分はホワイトゴールドで出来ている。そして、中央には小さな紫色の石がはめ込まれていた。

 

ペンダントに見蕩れている哀に、コナンが言葉を紡ぐ。

 

「どうだ?気に入ってくれたら嬉しいんだが……」

 

「ええ。気に入ったわ。……それに、言ったでしょ?アナタからのが一番だって」

 

微笑みながら言う哀に、コナンも微笑む。穏やかな時間が流れる中、哀が口を開く。

 

「つけても?」

 

「是非」

 

許可を貰った哀がペンダントをつけると、コナンに向かって微笑む。言葉はないが、その瞳は似合っているかをコナンに問いかけていた。予想以上に哀に似合っていたことと、その微笑みに見蕩れ、コナンが言葉を発するまで少々時間がかかったが。

 

「似合ってるよ」

 

「ありがと」

 

お互いに微笑むその姿は、窓越しの夜景もあって大変絵になる光景であった。その光景を見かけたギャルソンによって、その光景は語られることになるが、今は置いておこう。

 

 

 

 

 

「……本当は誕生石を使った指輪を、なんて考えたんだけどさ。まだ早いかなって」

 

「……ええ、それは小学生には早いでしょうね。目立つしね」

 

「まだ、成長するもんな」

 

「……そうね」

 

哀は小学生で指輪――誕生石の――は早いのではと思って答えたのだが、どうやらコナンはまだ指が成長することを考えてやめたらしい。指輪を贈る意味を考えて……ではなく。

 

そのことに思い至った哀は、頬をまた朱に染める。

 

コナンの中では、哀に指輪を贈ることは自然なことなのだ。まだ早い、言い換えればいつかは哀に贈るという事だ。

 

そして、哀もまだ早いと答えた。それは、哀が指輪を貰う相手はコナンだと無意識に思っていたのではないか。

 

二人の中で“その時”は確定しているのだ。

 

 

 

 

そんなことを哀が考えているとは知らないコナンは、ペンダントトップのクローバーの中央にある石について哀に言う。それは、アメジストであり宝石言葉を知っているかと。

 

アメジストの宝石言葉は、【誠実、愛情、冷静、高貴、献身】などである。

 

コナン曰く、アメジストを見た時に、宝石言葉を思い出したそうだ。それが、常に冷静で献身的であり、クラスメイトに誠実に対応する哀に相応しいのではないかと思ったそうだ。

それに、紫色とは高貴さの象徴である。これ以上、哀に相応しい宝石はないと購入したそうだ。

 

それを聞いている哀は、顔を真っ赤に染めている。このまま、聞き続けるのは精神の安定上好ましくないと哀は、コナンを止める。コナンも自分が何を言っていたのかに気づくなり、真っ赤になって固まる。どうやら、気恥かしさを紛らわす為に、アメジストの宝石言葉を言ったのだが、そのまま言うつもりのなかったことまで言ってしまったらしい。

 

 

 

 

 

そのまま沈黙が続いたが、二人はデザートが来たことで食事を再開する。食べ終える頃には、先の事などなかったかのように普段通りの二人に戻っていた。

 

食事を終えたのを見計らって再びオーナーが二人のもとに訪れる。その手には袋を持っており、それがお土産なのだろうと二人は考えた。その通りであったようで、オーナーは二人に袋を差し出しながら中身の説明をする。

 

「ご堪能頂けましたでしょうか。可愛らしい恋人たちにご満足頂けたのなら幸いです。それで、こちらがお土産なのですが……。中身は、当レストランで販売しております焼き菓子の詰め合わせになります」

 

「「ありがとうございます」」

 

「最後に、宜しければお写真を一枚如何ですか?後日、他の写真(・・・・)と一緒に郵送させていただきますが……」

 

その言葉に顔を見合わせるコナンと哀だったが、折角だからと撮影を頼むことにする。夜景を背に微笑む二人の姿を撮影した後、オーナー自ら見送りを申しでる。遠慮したい二人であったが、断るのも失礼かとそのままレストランを後にする。驚いた事に、オーナーはホテルの外まで見送ってくれた。何でも、二人をきちんと送り届けるまでがサービスであると。

 

「尊敬する工藤先生のお役にも立てましたし、可愛らしい恋人たちの思い出を彩ることができ嬉しかったです。……それでは、またのご来店お待ちしております」

 

その言葉は、社交辞令とは二人には思えなかった。オーナーはコナンと哀が再び訪れることを微塵も疑っていないようであった。

 

 

 

 

 

行きと同じようにリムジンに乗った二人は、言葉を紡ぐことなくただ静かに寄り添う。それは、阿笠邸に着くまで続いたのであった。

 

 

 

 

 

―――おまけ―――

 

数日後、哀がポストを覗くとあのレストランからの封書が届いていた。帰り際に撮影した写真が出来上がったのだろうと、ソファーに座っていたコナンを呼び寄せると二人で中身を確認する。そして、その中から出てきた複数の(・・・)写真と一枚の便箋に固まるのであった。

 

「なっ……!!」

 

そこには、食事をする二人の姿や、微笑み合う姿が。そして、便箋にはこう書かれていた。

 

 

 

――工藤先生からの依頼でお食事中も撮影させていただきました。また、この写真は工藤先生にも送付しております。

 

当レストランのご利用を心からお待ちしております。

 

 

 




長いことお待たせしてしまいました。ホワイトデー話これにて完結であります。
一週間遅れは何とか避けることができましたが……本当に申し訳ないです。

前半は前話の尾行話。後半がコ哀編です。

衣装はご想像にお任せ致します。服にあまり興味ないのが此処で仇になるとは……

コナンのお返しはこんなことに。きっと中学とかはもっとスゴイ。

アメジストがもつ複数の意味の中で、贈る理由になりそうなのをピックアップして、強引に意味付けしてます。深く突っ込まないでくれるとありがたいです。

活動報告にてリクエスト受付中。まだまだ募集中です。気軽にどうぞ。

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