名探偵コナン~選ばれた二人の物語~   作:雪夏

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ホワイトデーシリーズ。
時間軸は小学五年の三月。

EF01~03から続くホワイトデー話。

※“EXTRA FILEについて”に閲覧時の注意事項があります。
先にそちらをご覧ください




EXTRA FILE09 ホワイトデー 翌日

 

 

 

 

 

三月一五日、水曜日。

 

帝丹小学校五年B組の教室では、一昨日と同様に昼休みにも関わらずクラスの半数を超える男子が残っていた。彼らは、談笑しながらも窓際の少女をチラチラと見ていた。

 

「おい、誰か渡せたか?」

「光彦と元太」

「馬鹿!アイツらはいいんだよ。あと、江戸川も」

「あ、でも元太達が渡すとき、コナンは渡してなかったぜ?」

「「「「何!?」」」」

 

意外な真実に集まっていた男子は驚愕する。誰もがコナンも渡していると思っていたからだ。そこに一人の男子が、光彦と元太を呼んでこいと言う。数人の男子がその場を離れ、探しに行ったのを確認すると、話を再開する。

 

「待てよ。歩美にも渡してないんじゃないか?」

「いや、渡してたぞ?」

「じゃあ、江戸川の本命は吉田ってことか?」

 

その言葉にうなだれる者、その逆にガッツポーズをとる者と反応は様々である。おそらく、うなだれる者が歩美狙いで、ガッツポーズをとった者は哀狙いなのだろう。彼らが、コナンと歩美、哀の仲の良さを知っているからこその反応である。

 

そのちょっとした混沌(カオス)は、元太たちが到着するまでに、更にその度合いを増していくのであった。

 

 

 

 

 

「それで、何ですか?緊急事態とかで呼ばれてきたんですが……この状況は……?」

「おう、わざわざサッカーを切り上げて来てやったん……だ……ぜ?」

 

サッカーを中断して来た光彦たちは、男子たちの姿に戸惑う。机に突っ伏すものの横で、奇妙な踊りを踊っているものがいるのだから、当然の反応だろう。他の男子たちも、それに劣らぬ珍妙さを見せているのが拍車をかけている。

 

そんな彼らは正気に戻ると同時に、元太たちに真実を確認する。

 

 

「はぁ……。コナン君が歩美ちゃんにだけ渡したのは本当です」

「ああ。灰原からチョコ貰ってないって言ってたしな」

 

その言葉で、一度は収まった混沌(カオス)が再度、教室に展開されることとなる。その規模は、先程までの比ではない。不確定情報であの状況だったのだから、確定したとなればこうなるのは当然である。しかも、哀はコナンにチョコを渡していなかったとなれば尚更である。

 

光彦と元太と共に、教室に戻ってきた男子たちも取り込み、混沌(カオス)は拡大していくのであった。

 

 

 

 

 

そんな彼らを奇妙なモノを見る目で見ているのは、教室で昨日のことについて話していた女子たちである。

 

「何アレ」

「気持ち悪い……」

「これだから男子は……」

 

一通り男子を貶すと、そんな事よりと一人の少女に目を向ける。

 

「「「それで!歩美!」」」

 

「は、はい!」

 

その少女――歩美――は、男子たちの奇行で中断された尋問がまた始まることに、その身を固くする。歩美は、男子たちの奇行の一因――コナンのお返し――について質問されていたのだ。

 

「もう一度聞くわ。……コナン君はアナタにお返しをあげたのね。“灰原さんと一緒のとき”に」

 

「う、うん。昨日の放課後、教室で。……酷いよね、コナン君。いくら哀ちゃんから貰えなかったからって、当てつけみたいに」

 

「そうね。いくらなんでも、デリカシーが……」

「滅べばいいのに……」

「暗に、お前はくれなかっただろって言ってるわよね……」

 

彼女たちの中では、コナンが哀の目の前でお返しを渡したことは、哀に対する当てつけと取られている。彼女たちは、コナンは本当は哀のチョコが欲しかったと誤解している為であるが、コナンにそんな気持ちはなく、哀も一切気にしていない。

 

「しかも……ね?そのあと、二人が用事があるって言ってたから、もしかしたら何かあるかもと思って……帰った振りして歩美たち、あとを追ってたんだけど……。コナン君ったら、哀ちゃんに他の子にも渡してくるから待ってろって……」

 

「ええ!!」

「デリカシーって言葉知らないんじゃないの!?」

「滅べ!」

「二人で帰ろうって時にそれはないわ……」

 

「それで、しばらくしたらコナン君が戻ってきて……。それから、本屋に寄って終わりだった」

 

「用事って、それだけ……?」

 

「……みたい。分かってたことだけどさ、全くコナン君って……ば……?」

 

歩美が急に静かになったことを疑問に思い周囲を見渡すと、少女たちは揃って下を向きブツブツと呟いていた。男子の方は相変わらず奇行に走っているだけに、この静かさは怖い。

 

歩美がどうしたのかと問いかけようか迷っていると、少女たちの内、普段はお調子者として知られる少女が顔をあげる。その顔は、人形のように無表情であった。その普段との違いに、怖さを感じる歩美であったが勇気を出し問いかける。

 

「ど、どうしたの?皆も」

 

「フフフ……」

「ケケケ……」

 

「ちょ、本当にどうしたの!?」

 

「「「「フフフ……」」」」

 

歩美の問いかけに答えず、静かに笑い続けるクラスメイトたち。どうやら、コナンのあんまりな行動に我慢していた何かが外れたようである。歩美は助けを呼ぼうと周囲を見渡す。

 

廊下側には奇行に走る男子たちと、それを呆然と見ている光彦と元太、ついでにたくま。彼らは役に立たないと見た歩美は、他を探す。

 

窓側の前方――歩美たちがいる場所だが――は、静かに笑う女子たち。ここに正気を保っている子はいないかと探すが、見当たらない。

 

廊下から誰か来ないかと、教室の入口を見るが開く様子はない。昼休みも始まったばかりで、先生がくることも期待できない。図書室に行ったマリアが帰って来ても、どうにかできるとは思えない。

 

歩美は最後の手段として、哀に助けを求めようと教室の後方に目を向ける。そこには、いつ戻ってきたのかは知らないいが、楽しそうに談笑する哀とコナンの姿が……

 

 

 

――何かに目覚めそうになった歩美であった。

 

 

 

 

歩美がそんな事になっているなど露程も知らない二人――コナンと哀――は、構わず話を続ける。

 

「さっきから何やってんだ?男子(アイツ)ら。女子も変になってきたし」

 

「さぁ。私ずっと外見てたから」

 

「ま、いっか……。それより、サンキュな」

 

「何が?お礼言われるようなことしたかしら?」

 

「昨日のアレだよ。おかげで昨日は助かったよ」

 

「昨日?昨日のことなら……私がお礼を言う方じゃない?あんな素敵なディナーに招待して貰った訳だし」

 

「だから、ソレは父さんが用意したって言ったろ?」

 

「でも、連れて行ってくれたのはアナタじゃない?それに……素敵なプレゼントも貰えたし」

 

その言葉と同時に微笑む哀に、コナンは照れくさそうに笑う。しかし、本題からズレていることに気づき、話を戻す。

 

「いや、喜んでくれたのはいいんだけどな?アレってのは、ほら、お返しのことだよ」

 

「お返し?……ああ、一昨日買った?……いいのよ。毎年のことだし、そうでもしないと可哀想だもの」

 

「可哀想って……」

 

哀の言いように、多少思うところがあるのか言いよどむコナン。

 

「だって、私が一緒に用意しないとアナタ忘れるじゃない。全く……何度言っても忘れるし、自分ではろくなもの買わないし……」

 

「だから、助かったって言ってるだろ?(わざとなんて言えるかよ……)」

 

コナンがお礼を言っていたのは、哀が用意してくれたお返しについてだった。

 

 

哀はホワイトデーが近づくと、いつもお返しを用意しろとコナンに言い続けてきた。自分の気持ちを伝えることが、どんなに勇気のいることかを身をもって知っている哀は、いくら相手が小学生と言え、お返しを用意することが誠意と思っているからである。だからこそ、無理やりコナンを引き連れお返しを用意させるのだ。

本当はコナンだけで選ぶのが一番なのだが、コナンはセンスがない……というより、デリカシーがないのか任せるとコンビニで飴を買ってくるのだ。それも袋売りのモノを。

 

 

以来、哀はコナンに同行しお返しを用意しているのだ。新一の頃は蘭も苦労しただろうと思いながら……

 

 

 

 

 

しかし、哀は知らない。新一だった頃は、きちんとお返しをしていたことを。それも、蘭には気づかれないようにしていたことを……

 

コナンは有希子に育てられただけあって、センスはいい方である。しかも、女性に優しくと両親に躾けられている為、その辺りはきちんとしていたのだ。

確かに、小学低学年の頃は蘭に用意してもらった。これは、コナンの正体を蘭がしらないのだから仕方がない。それ以降、蘭にはバレンタインのチョコを貰ってないと言って誤魔化していた。

 

では、何故それ以降お返しを自分で用意しないのか。相手が小学生だから?……そうではない。

 

 

コナンが哀にどう思われるかを気にしたのだ。

 

 

哀が小学生相手に、変な誤解はしないことは分かっている。しかし、コナンは恐れたのだ。哀が不快に思って嫉妬したりすることを……いや、これは正しくはない。

 

 

哀が何とも思わないところを、コナンのことなど気にしていないと言う反応をされることこそを恐れていたのだ。本心からそう思っているかなどは関係ない。それを示されることを恐れた。

 

 

だから、あえて用意しなかった。反応を見たくなかったから。冗談でも、あの子と……など言われたくなかったから。

 

 

そして同時に、他の奴など興味ないと、オレはお前にしか渡さないと示す為にも。

 

 

しかし、哀は用意しろと言う。哀との差を示す為に、コンビニで買ってきても、それはダメだと言う。そこでコナンは言ったのだ。じゃあ、お前が選べよと。

 

 

 

それ以降、コナンは自分で用意せず哀に任せることにしている。それなら、哀の反応を気にしなくてもいいし、哀と他の人は違うのだと示せることに気づいたからである。

 

 

勿論、今は哀が自分に対し無反応であっても、内心は違うことは知っている。必死に悟られないようにしているだけで、嫉妬することもあることを。それに、お返し程度で変な誤解をしないことも。

 

 

では、何故当初はともかく、今も自分で用意しないのか。それは……

 

「デートしたいから……なんて言えるかよ」

 

「何か言った?」

 

 

 

 

帝丹小学校五年B組。男子が奇行を繰り広げ、女子が静かに笑う。それを脇目に談笑を続ける二人。

 

“ホワイトデーの狂気!?踊る男子!嗤う女子!あの噂の二人が原因か!?”

 

帝小新聞にこんな見出しで掲載されるまで……あと五日。

 

 

 




ホワイトデー話の続き。中途半端な終わりですが。

後半の話は、実はコナンの方が臆病だったという話。

・コナンが蘭を好きだったことを知っている
・コナンが哀を恨んでいるのではと哀が思っている
・コナンにとって自分はそういう対象にはならないと哀が思っている

などがある為のコナンの恐怖とでも思って頂ければ……


当日の話いります?
明日以降になりそうですが……いや、考えてはいるんですよ?
ただ、コナンのお返しが思いつかないだけで……

活動報告にてリクエスト受付中。まだまだ募集中です。気軽にどうぞ。

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