名探偵コナン~選ばれた二人の物語~   作:雪夏

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ホワイトデーシリーズ。
時間軸は小学五年の三月。

EF01~03から続くホワイトデー話。

※“EXTRA FILEについて”に閲覧時の注意事項があります。
先にそちらをご覧ください


EXTRA FILE08 ホワイトデー 前日

 

 

 

 

 

 

三月一三日、月曜日。

 

帝丹小学校五年B組の教室では、昼休みにも関わらずクラスの半数を超える男子が残っていた。彼らは、談笑しながらも窓際の少女をチラチラと見ていた。

 

「おい、お前どうすんだよ。明日」

「お前こそどうすんだよ。モロ義理だったじゃんかよ」

「皆そうだろ?で、皆は歩美には渡すだろ?で、灰原は?」

 

「オレは両方」「両方」「歩美だけ」「灰原さんだけ」「吉田だけかな」「灰原一択」

「いや、歩美は絶対だろ。直接貰ったわけだし。問題は灰原だよ」

 

どうやら話の中心は、明日に迫ったホワイトデーのプレゼントについてのようである。彼らは皆、先月のバレンタインに歩美と哀が共同製作した義理チョコを歩美からもらっている。そのお返しを灰原にも渡すかで相談しているのだ。

 

 

 

 

 

そんな男子たちに呆れた目を向ける集団。哀を除いたクラスの女子である。

 

「アイツら……。私のチョコのお返しは考えてるのか?」

「アンタのは一個二十円のチョコじゃん」

「アイツら丸聞こえって気づいてんのかな?」

「さぁ?で、灰原さんにも渡すと思う?」

「どうだろ」

 

男子たちの話を聞きながら、哀にお返しを渡す人数を口々に予測し始める。その勢いは、賭けが始まりそうなほどである。そこに、歩美が口を開く。

 

「う~ん。歩美はお返し貰えたら嬉しいから貰うけど……。哀ちゃんでしょ……?受け取らない気がするなぁ」

「あ~。分かる。手伝っただけだから、別に要らないって」

「見える、見えるよ。勇気を出したのに断られて、膝をつく男子の姿が……」

 

女子たちは容易に想像できるその光景に、苦笑いを浮かべる。そのまま視線を、窓際の自席に座り、外――校庭――を眺めている哀に向ける一同。

 

「なんか、男子が哀れに思えてきた……。それにしても、コナン君はどうするかな?」

「灰原さんからは貰えなかったもんね」

「二人とも素直になれば、明日はデートだったろうに……」

 

そのまま、哀とコナンが明日――ホワイトデー当日――どうするのかに話題はシフトしていく。彼女らの中では、コナンが照れてチョコは要らないと言った為に、哀がコナンにチョコを渡すのを躊躇ったことになっている。そして、コナンがチョコを貰えなかったことで人知れず落ち込んでいた、とも。

 

 

 

 

 

そんな誤解など知る由もない哀は、教室が騒がしいなと思いながら今日の予定について考えていた。

 

(今日は、彼が他の女に渡すお返しを選んで……。あと、夕飯の買い出し。それから……。ああ、今日はミステリーの新刊が……本屋にも寄らないと。豆も葉も切れちゃったし……。全く、同時に切れるなんて……)

 

 

 

 

 

考え事をしている哀の姿に、女子たちは声を潜めて話し合う。

 

「灰原さん、チョコ渡せなかったの気にしてるのかな……」

「そうね。いつもより考え込んでいるみたいだし……ため息も」

「でも、絵になるよね~。恋に悩む美少女って」

「そうだよね~」「灰原さん……綺麗」

 

それは誤解なのだが、訂正できるものがいない以上は彼女らにとっては真実である。彼女たちの間では、哀がチョコを渡さなかったことを悔いていることになっていく。そのように誤解が加速する中、哀が小さく微笑み校庭に向かって手を振る。彼女らは、その微笑みに見蕩れながらも、哀の視線の先に誰がいるのかを慌てて確認する。

 

校庭には、寒い中サッカーをしているコナンたちの姿があった。彼らは誰もこちら――校舎側――を見ておらず、哀も今は手を振っていない為、誰に手を振っていたのかまでは分からない。ただ、少女たちにはきっとコナンだろうと言う確信があった。

 

「見た?マリアちゃん。今の顔」

「見たで?歩美ちゃん」

「コナン君かな?」

「せやろな」「私もそう思うわ」「アタシも」「あの野郎……」

 

「あ、見て!」

 

その言葉を告げた少女が指差す先は、ゴールを決めたコナンがこちらに向かって手を突き出す姿が。少女たちが、慌てて哀の方を向くと、彼女は小さく微笑み、何かをつぶやいているようであった。

 

「灰原さん、なんて言ってんやろ?」

「”スゴイわね”?」「”ばーか”?」「”素敵!!”」「”はいはい”」「”愛してる”」

「“あと二点”」「転べ」「“オメデト”」

 

口々に哀の言葉を推測する面々。哀が言いそうなものもあれば、絶対に口にしないと思われる言葉まで様々である。そんな中、歩美が再び考え込みだした哀を見て、”我慢できない!”と声を上げ、哀に向かって歩き出す。驚いた少女たちであったが、彼女らも歩美を追うのであった。

 

 

 

 

「哀ちゃん!!」

 

急に話しかけられた哀は、驚きながら振り返る。そこには肩をいからせた歩美の姿と、その後ろについてくるクラスメイトたち。哀は、歩美を怒らせるようなことをしただろうかと、記憶をたどるが思い浮かばない。困惑する哀に、歩美は顔を近づけると告げる。

 

「なんでコナン君にチョコあげなかったの!」

 

「……はぁ?」

 

どうやら、コナンにチョコを渡さなかったことを怒っているようだが、一ヶ月も前の話だ。ますます困惑する哀に、マリアが助け舟をだす。

 

「あんな、灰原さん。さっき考え事してたやろ?」

 

「え?……ええ」

 

「灰原さんがチョコを渡してれば、明日のホワイトデーにコナン君とデートやったんやないかと考える気持ちは分かる。せやけど、そんな考え込むくらいやったら何であん時……」

 

「待って。何で放課後のことを考えてたのが、そうなってるの?」

 

哀の言葉に、マリアは口を閉じ、歩美も落ち着き始める。そんな二人の様子を気にせず、哀は疲れたように続ける。

 

「なんでそれで怒られるの……?しかも、チョコ渡していれば明日がって……」

 

「だ、だって……。明日、ホワイトデーだから……。コナン君にチョコ渡せなかったの後悔してるのかなって。それで、そんなになるんだったら何でって……」

「……明日はお返しを貰えたのにと、後悔しとるんとちゃうかと……思ってたんやけど」

 

「「違う……の?」」

 

「……違うわよ」

 

二人の勘違いに哀が呆れる。周りを見ると、クラスメイトたちもそう思っていたようだ。

 

「明日がホワイトデーだからといって、チョコを渡さなかったくらいで後悔なんてしないわよ……」

 

哀の言葉に、ようやく勘違いだったのだと気づく一同。バツの悪そうな顔で周りを見渡している。しかし、この状況を聞きたいことを聞くチャンスと考えたのか、誤魔化すためなのか、口々に質問を始める。

 

「さっき誰をみてたの?手を振ってたじゃない」

 

「ああ、彼よ。彼が手を振ってきたから……」

 

「じゃ、コナン君がゴールを決めた時、何か言ってなかった?」

 

「……そうだったかしら?見間違いじゃない?」

 

「……放課後のことを考えてたの?本当に?」

 

「ええ。紅茶とコーヒーが切れてたなぁ、とか考えていたわ」

 

「そうなんだ……。じゃあ、明日のことは気にしてないんだ」

 

「まぁ、チョコのことで気にしてるってことはないわ」

 

 

 

 

 

哀が質問に答えている間に、冷静さを完全に取り戻した歩美とマリア。周囲が質問していく様子に、自分たちも何か聞くべきかと悩みだす。しばらくして、歩美が思い切って哀に聞く。

 

「哀ちゃん……聞きたいんだけど」

 

「なに?」

 

「コナン君が、誰にお返しあげるか知ってたり……する?」

 

「大丈夫よ。アナタの分もちゃんと買う……ッ!」

 

質問攻めにあっていた哀は、思わず言ってしまった言葉に焦る。お返しを買うのは自分だと暴露してしまったと。実際はコナンと二人で買いに行くのだが、数を確認したり、品を選ぶのは哀な為、哀が買うと言っても間違いではないのだ。

 

「やっぱり、買った奴か……。ま、男の子だしね」

「“アナタの分も”ってことは、全員買ったやつなんだね」

「ま、当然だよね」

 

しかし、歩美を含めたクラスメイトたちは勘違いしていた。コナンがお返しを買うのか哀が確認したのだと。この勘違いはある意味当然のことである。誰が想像できようか。女連れでお返しを選びにいくなど。それも、お返しは女が選ぶなど。

 

結局、哀への質問は昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るまで続くのであった。

 

 

 

 

しかし、少女たちは終ぞ明日の予定を聞くことはなかった。もしかしたら、質問攻めで疲れている今ならその答えを聞けたかもしれないのに。

 

その答えとは――

 

 

 

 

――明日?彼と食事に行くわ。今年は何処に連れて行くのかしら

 

 

 




ホワイトデー話。EF01~03と同様に三話構成を検討中。
三話構成にするとしたら前日、後日、当日になると思います。

カットしましたが、実はコナンと哀の間で下のようなやりとりが行われていました。最後の哀ちゃんの言葉含め、全部口パクです。声に出して言ってはいないので、哀ちゃんは嘘をついていません。

コナンが哀に手を振る:「見てろよ、ゴール決めてやっから」

手を振り返し哀:「はいはい」

ゴールを決めたコナンが哀に:「見たか?オメェに捧げるゴールだぜ?」

それを見た哀:「ばーか」

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