名探偵コナン~選ばれた二人の物語~   作:雪夏

67 / 82
本編の反動なのか筆が進みます

時間軸は小学五年の二月。

※“EXTRA FILEについて”に閲覧時の注意事項があります。
先にそちらをご覧ください




EXTRA FILE06 来襲

 

 

 

 

阿笠邸のリビングにはソファーで本を読むコナンと哀の姿があった。

 

コナンは推理小説、哀はファッション雑誌。

 

彼らの間に会話はなく、穏やかな食後のひと時を過ごしていた。

 

その穏やかな静寂を破ったのは、哀であった。

 

「これ、博士のことじゃない?」

 

コナンはその言葉に体を起こす。後頭部で感じる心地よい感触から離れたくはなかったが、このままでは読めないのだから仕方ない。

 

「どれ?」

 

哀はコナンが体を起こし始めたので、髪を撫でていた右手を引き戻す。そのまま、雑誌を両手で持ち直すと、二人で読みやすいようにとコナンに自らの体を寄せる。

 

「ほら、この記事に書いてある初恋の人って」

 

哀が指差した記事は、フサエブランドのインタビュー記事。その中で、フサエ社長がイチョウのマークにまつわる思い出話の一旦として、初恋の話をしていた。

 

――イチョウのデザインはどのようにして生まれたのでしょうか

 

もともとイチョウは好きだったんですが、ブランドデザインになったのは偶然なんです。小学生の頃、転校する時に初恋の人に“十年後に再会しよう”って手紙を出したんです。その再会場所がイチョウの木の下だったんです。そして、十年後……

 

――再会できたんですね。それで、その思い出のイチョウをマークに?

 

いいえ。来なかったんです。それで、来なかった彼のことばかりを考えていた時に、無意識に描いていたのがイチョウのデザインだったんです。それが、評判がよくて……そのままブランドデザインにしたんです。

 

――そうなんですか。その方とは結局?

 

実は再会出来たんです。約束したイチョウの木の下で。時間は掛かってしまいましたが

 

――まさに、運命の人と言う訳ですね?

 

 

 

 

 

その後も様々なインタビューが記事には掲載されていた。イチョウデザインは何処かにいる運命の人への密かなメッセージだったとか。そもそも、イチョウを好きになったのも、その彼の一言がきっかけだとか。インタビュー記事の半分が運命の人――博士――についてだったが。

 

「博士がすぐにあの暗号を解読できていたら……イチョウのデザインは誕生しなかったのかもしれねぇな」

 

「さぁ、それはどうかしら。その場合は、“初恋の人との思い出”にきっかけが変わるだけかもしれないわよ?」

 

「ま、仮定の話をしてもしょうがないか……。ただ……」

 

「ただ?」

 

「結局、二人が出会わなければ生まれなかっただろうなって。きっと、あの二人は出逢うべくして出逢ったんだろうなって」

 

「運命の二人ってこと?アナタがロマンチックなこと言うなんて……」

 

「悪いかよ?」

 

「別に?」

 

そこまで言うと、二人は顔を見合わせて笑う。そんな二人に背後から声がかかる。

 

「あ~ら。仲良しさんね、お二人さん?」

 

突如かけられた声に二人が振り向く。そこには、満面の笑みで二人を見つめる男女の姿が……

 

「か、母さん!?父さんまで……。い、いつから?」

「有希子さん!?優作さんも!?……え?なんで?」

 

驚愕の声をあげるコナンと哀。二人の驚く姿を満足げに見ていた男女――優作と有希子――は、一通り二人の驚く姿を堪能した後、口を開く。

 

「いつからって……。哀ちゃんが“博士のことじゃない?”って言うちょっと前からかな?」

 

「気がつかないとは……お前もまだまだだな」

 

「あら、しょうがないわよ。二人ともお互いのことしか頭にないんですもの。二人はラヴラヴだものね」

 

「ああ。それなら、仕方がないな。全く……見せつけてくれる」

 

コナンと哀は否定をしようと口を開くのだが、開いた口からは意味ある言葉が出てこない。

 

「大丈夫。哀ちゃんは見えてたけど、コナンちゃんはソファーで見えてないから。膝枕してたとしても見えてないから!」

 

「まぁ、お前が体を起こす姿を見れば、どんな体勢だったか予測はつくがな」

 

コナンと哀は絶句する。決定的な場面は見られていない……が、見られたも同然だ。コナンは話題を変えることにする。

 

「で?連絡もなしに来て、何の用だよ?」

 

「残念ながら、コナンちゃんに用はないのよね。今日の目的は哀ちゃん」

 

「私……ですか?」

 

「そ。バレンタインのプレゼントを贈ってくれたでしょ?そのお礼をしにね」

 

「そんな……。毎年言ってますが、そういうつもりで贈った訳じゃ……」

 

来日の理由を聞くと、バレンタインのお礼に来たと答える有希子と、それを断る哀。毎年繰り返されるやり取りではあるのだが、今年は違う点があった。

 

「いつもホワイトデーに合わせてプレゼント贈ってくるじゃねぇか。しかも、今は二月の終わり。プレゼントのお礼をするには早すぎじゃねぇか」

 

「ああ、それはね?これ!」

 

そう言うと、有希子はカバンから包みを取り出すと哀に渡す。コナンと哀が包みを見ると、それはフサエブランドのものであった。

 

「あっちで先行販売してたヤツ。私とお揃いのお財布なのよ~。それで、こっちが……」

 

有希子がもう一つ包みを哀に差し出す。先と違うのは、コナンにも包みが差し出されていることだ。

 

「これは、私からのバレンタインプレゼント。中身は色違いのハンカチと優作の新作」

 

「父さんの新作がバレンタインプレゼントって……。いや、嬉しいけどさ」

 

「私だけ二つも……。それにお揃いなんて」

 

「いいのよ。哀ちゃんのはバレンタインとホワイトデーの二回分だもの。だから、この時期に来たのよ」

 

バレンタインとホワイトデーの両方のプレゼントを渡す為に、二月末に来たのだと語る有希子。

 

そんな母親にコナンは呆れた目を向けた後、優作と話を始める。

 

 

「で、父さんまでこっちに来て大丈夫なのかよ。新作がここにあるってことは、多少余裕あるんだろうけどさ」

 

「実は……なんてな。次回作の構想の為と言ってあるし大丈夫だろう。それより……」

 

優作はそう言い有希子と哀が話し込んでいるのを確認すると、二人に聞こえないようにコナンに話かける。

 

「邪魔をしたみたいだな」

 

「……いや、まぁ」

 

「まぁ、許せ。有希子もお前たちに会うのを楽しみにしてたんだ」

 

「いや、別に怒ってないけどさ」

 

「そうか。で、これなんだが」

 

優作はコナンに白い封筒を差し出す。受け取ったコナンが中身を確認すると声をあげる。

 

「これって、高級ホテルのディナー招待券じゃねぇか!!しかも、ホワイトデー特別って……」

 

「哀君と行ってくるといい。安心しろ、話は通してある。私の息子と嫁が行くとな」

 

「よ、嫁って……。それに息子ってのも。何より小学生が行けるか!!」

 

「ハハハ、冗談だ。私のファンの子達に一夜の夢を与えたくてと言ってある。小学生二人で行くこともな」

 

「それならいいけど……。いや、いいのか……?」

 

状況を把握しきれず悩むコナンに、優作が笑いながら話を続ける。

 

「そこでホワイトデーのプレゼントを渡せばいいじゃないか。私からのバレンタインプレゼントだよ。勿論、哀君には内緒にしておくさ。有希子にも、な。サプライズは女性に喜ばれるからな」

 

「ありがたいんだが……。プレゼントのハードルが……。これで、下手なヤツは贈れなくなっちまったな」

 

「ハハハ、悩め。金が必要なら融資してやってもいいぞ?」

 

明るく朗らかに笑う優作と、真剣に悩み考え込むコナン。対照的な親子の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

コナンと優作が二人で会話を始めた頃、有希子と哀も二人に聞こえないように会話していた。

 

「優作とコナンちゃんの会話……気になる?」

 

「いえ。それより、私なんかとお揃いっていいんですか?……それに先行販売してた財布って高かった記憶が……」

 

「ああ、いいのいいの。気に入っちゃたんだもの。それに娘とお揃いって憧れだったのよね~」

 

「む、娘って……」

 

有希子の言葉に照れる哀。娘の様に接してくれているのは承知のことだが、面と向かって言われるのは未だ慣れていないのだ。

そんな哀の様子を可愛いと思いながら、有希子は話を続ける。

 

「それより、ごめんなさいね?」

 

「何がですか?」

 

「コナンちゃんからのお返しが霞んじゃうかなって。ホワイトデーの時、がっかりしないでね?」

 

「まだ先のことを心配しても……。それに彼がくれるものなら……」

 

そこまで言うと、頬を朱に染める哀。その姿を見た有希子は、我慢できずに哀に飛びつく。

 

「可愛いー!!やっぱり、可愛いわ!!」

 

「ちょ、苦しいです!有希子さん!」

 

「あら、ごめんなさい。……って、優作もコナンちゃんも盛り上がってるわね~。優作ったらあんなに笑って」

 

「本当ですね。それにしても、何を考え込んでいるのかしら?」

 

哀は笑う優作と悩むコナンを見る。笑う優作も気になるが、考え込むコナンの方が哀には気になった。

 

(何かしらの暗号でも出されたのかしら?本当、謎が好きな親子ね)

 

コナンたちを見ていた哀は、何か言いたげな有希子の視線に気づく。

 

「どうかしましたか?」

 

「面白いなって」

 

「確かに、あの光景は面白いですけど……」

 

「ううん、そうじゃなくて。私と哀ちゃんであの光景を見ても、視界の中心っていうか……考えの中心?まぁ、そういうのが違うんだなって」

 

「はぁ」

 

「私はあの光景を見て、優作が笑っている理由について考えていたわ。けど、哀ちゃんはコナンちゃんが、何で考え込んでいるかを気にしたじゃない?」

 

有希子は、哀に笑顔を向けて続ける。

 

 

 

――私と違ってコナンちゃんを中心に考えたんだなぁって

 

 

 

 

 

阿笠邸のリビングでは、カラカラと笑う工藤夫婦と考え込むコナン、顔を朱に染め俯く哀の姿がしばらく見られるのであった。

 

 

 

 




工藤夫婦来襲でした。

作中にイチョウ関連のネタは模造設定です。
有希子たちが新一ではなく、コナンと呼ぶ理由は本編で明かされる筈です。

活動報告にてこっそりリクエスト受付中。気軽にどうぞ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。