前話の次の授業時間です。
帝丹小学校 音楽室
先程まで算数の問題に夢中になっていた子供たちは今、校歌を一生懸命歌っている。
「灰原さん?もう少し元気よく歌えないかしら。せっかく歌上手なんだし、ね?あと少しだけでいいの」
今、小林先生に注意された少女は灰原哀。かつて黒の組織で研究をしていた女性。
「そうだぜ、灰原。コナンは音痴でも頑張ってるんだから、おめぇも元気よく歌えよ」
「げ、元太君?コナン君のこと悪く言うのはよしましょうね。」
「だけどよ、先生。ホントのことじゃんかよ」
「お、音痴は頑張れば直せるのよ。音痴でもきっと‥‥‥きっとコナン君でも。が、頑張りましょうね?コナン君」
「は~い。……ハァ」
「ふふっ 名探偵さんにも苦手なものはあったようね?」
「そういうお前は随分とお上手なことで」
「別に普通よ。これくらい」
誰が想像できるのかしら。この超絶音痴な小学生が実は高校生だなんて。
巷では平成のシャーロック・ホームズとか日本警察のメシア‥‥‥だったかしら?
そんな名探偵殿が音痴なことを小学生に騒がれて不機嫌顔しているなんて。
小林先生も頑張ってフォローしていたけれど、彼の音痴は小学校の授業程度でどうにかなるとは思えない。事実を言うのも時には必要だと思うのだけれど。
……担任教師がいうのは流石にまずいわね。
「コナン君頑張ろう?ね?きっと……きっと音痴直してみせるから」
そのいい方もまずいのではないかしら……?
それにしても彼は本当に魅力的な観察対象だ。
私を除いたら幼児化している唯一の人間ということを抜きにしても・・・・・・だ。
彼の観察をしていると流石に噂の名探偵というだけあって、推理するための能力は非常に高い。
私もそれなりに記憶力はいいほうだが、彼は日常の瑣末な出来事まで記憶しており、瞬間記憶能力者ではないかと疑うほどだ。
容疑者の些細な仕草、言動から事件解決の糸口を見つける洞察力、現場の状況などから情報を得る観察力もある。
‥‥‥競技場爆破予告事件のときなんて犯人の出方を探る為とはいえ、警察無線の盗聴するなんて馬鹿げた行動力もあったわね。
それが今は音痴を小学生にいじられ、ヤケになったのか大声で校歌を歌っている。
原因の1つである私が言うのもなんだけど、彼は元々小学生だったのではないかと勘違いしそうなほど子供たちと自然に馴染んでいる。
小学校での彼はガキという言葉が本当にピッタリなのだ。
体育の授業時間が近くなればそわそわするし、始まれば盛大に楽しむ。給食でレーズンが出てきた時は顔がひきつっているし、好物は美味しそうに食べる。
推理小説にケチをつければムキになるし、ホームズの話をするときなんて‥‥‥ああいうのを満面の笑みというのだろう。
さっきの算数の時間も本について興味津々に聞いてきたり、本の内容が分かれば呆れ顔をし、私が相手をする気がないと分かれば途端に不満顔になる。
とにかく彼は感情をその身で表現するのだ。
小学生としての“彼”と探偵としての“彼”
どちらの“彼”も興味深い観察対象だ。何より“彼”は今まで私の周りにいなかったタイプの人間だ。
未知について探求し、新しいものを構築する人間。それが研究者である。
今の私には“彼”以上の研究題材はない。
それに……彼について考察していれば余計なことを考えないですむ。
お姉ちゃん。私はお姉ちゃんが言っていた不思議な“彼”と今いるわ。
「は~い、みんなそこまで。コナン君もヤケになって歌わないの。じゃあ時間もないことだし最後にもう一度みんなでうたいましょう。ね?」
「「「は~い」」」
「よろしい。灰原さんももっと元気よく歌いましょうね」
「……はい」
……ホント退屈しないわ。
コナンといえば音痴。ということで音楽の授業での哀ちゃんです。
コナンたちが騒いでいる間我関せずと考え事をしている哀ちゃんを想像してもらえるとありがたいです。
まだまだコナン君も哀ちゃんもお互いを観察しているところです。
この物語はゆっくりと進行していきます。お付き合いいただけると幸いです。
最後にご意見・ご感想等ありましたら感想の方にいただけると幸いです。