名探偵コナン~選ばれた二人の物語~   作:雪夏

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ピスコ事件はスルー。基本同じと言うことで。時系列は原作25巻のキャンプ前。原作と違い季節は冬ですが。

一言:ようやくの本編更新


第5章 蘇る探偵
File01 前日の二人


 

 

 

 

 

「しっかし、こんな時期にキャンプって…」

 

「本当にね。こんな寒い時期にわざわざ外に泊まるなんて……バカじゃないの?」

 

 阿笠邸のリビングでは、明日に迫ったキャンプについて愚痴をこぼすコナンと哀の姿があった。

 

「そう愚痴をこぼすでない。それに、寒い中のキャンプもまた夏場と違って楽しいと思うぞ? いろいろ道具も買ったし、子供たちも喜ぶじゃろうて」

 

 阿笠が二人をなだめるが、二人はジト目を向けるばかり。そんな視線に耐えられなくなったのか、阿笠はそそくさと退散することに決める。

 

「あ、明日も早いことじゃし……ワシは客間で先に寝るとするかのぉ。二人もあまり遅くまで起きとらんで、早く寝るんじゃぞ?」

 

 そう言うと客間へと退散する阿笠。彼が客間に引っ込んだことで、リビングにはコナンと哀の二人となる。彼らは互いに苦笑いを浮かべると、哀がコーヒーを淹れる為に席を立つ。その後ろ姿を見送りながらコナンは、三週間ほど前に起きた事件のことを考えていた。

 

 

 

 今から三週間ほど前。コナンと哀は、黒の組織とコナンが呼んでいる組織と接触した。コナンが切望していた出来事(それ)は、コナンにとって組織の危険性を再認識させると共に、哀を危険に晒したことへの後悔をもたらしていた。

 

 11月という早い時期に降った雪。

 

 その純白の中に倒れ血を流す宮野志保(灰原哀)の姿。

 

 ピスコに銃を突きつけられ、命を奪われそうになった哀の姿。

 

 その二つの光景は、コナンにとって忘れられない光景であった。何せ、コナンが哀とはぐれさえしなければ、避けられた事態なのだから。そして、全てが終わったあと彼女が言った言葉。

 

『安心して、明日にでも出て行ってあげるから……』

 

 自分たちを危険から遠ざける為の言葉(決意)。コナンは、その言葉からジンたちの思考を推測し、安全だと判断した。しかし、同時に寂しい気持ちにもなっていた。哀にとって、今の場所は一時の仮宿に過ぎない……何かあれば捨てることが出来る場所だと言われたようで。

 

 そんな思考を振り払うかのように頭を振ったコナンは、キッチンから漂うコーヒーの匂いに安心する。哀が生きているということに。そして、自分たちと共にいるということに。

 

(アレから約三週間。怪我は大丈夫そうだな……。ったく、博士も灰原の怪我を考えろってんだよ。幾ら急所は撃たれなかったとは言え、簡単に癒える傷じゃないってのに……)

 

「難しい顔して……そんなにキャンプが嫌なの?」

 

 哀がコナンの前にカップを置きながら尋ねる。それに対し、そんな訳ではとコナンが答えると、哀はそうと一言呟きコナンの向かいに腰を下ろす。そのまま、数秒沈黙が訪れるが、それを破ったのは哀であった。

 

「コーヒー。冷めるわ」

 

「……ああ」

 

「で、何を難しい顔してたのかしら?」

 

「いや、博士もキャンプなんかより、もっと優先することがあるんじゃねーかってさ」

 

 問われたコナンは、まさか哀のことを考えていましたとは言えず、話題を阿笠のことへと移す。

 

「優先すること?」

 

「ああ。ほら、“イチョウの木の下さん”さ」

 

 哀が話に興味を持ったことで、コナンは話題を更に広げる。コナン自身気になっており、独自に調査を進めていたのでスラスラと言葉を紡いでいく。

 

「実は、彼女を十年前にも見てんだよ。あの場所で、蘭と話をしていたとこを」

 

「それで?」

 

「で、その時のことを蘭に確認してみたら、蘭のやつこう言ったんだ。あの人は、フサエ・キャンベルに違いないって。何でもその時、大きくなったらバッグかアクセサリーを買うと約束したそうだ。その人がデザインしたイチョウが目印のヤツをさ。彼女が日本に住んでいた時期も、一致するし……まず間違いないだろう」

 

「ふ~ん。で、彼女の正体を突き止めた探偵さんは、彼女のこと博士に教えないの?」

 

 哀に問われたコナンは、コーヒーを一口飲むと視線を両手に持ったコーヒーカップに落としたまま、語りだす。哀は、その姿からコナンが何処か迷いを抱えていることを感じ取っていた。

 

「問題はそこなんだよな。フサエ・キャンベルに結婚歴がないということは……だ。あの時の主人と言う言葉は、オレたちを博士の孫と勘違いした結果の言葉という可能性が高いと思う。もしかしたら、彼女は博士のことを想い続けていたのかもしれない……」

 

 そこで言葉を切り黙り込むコナンに、哀はコーヒーを飲みながらコナンが続きを語るのを待つ。次にコナンが口を開いたのは、彼が黙ってから十秒程経ったあとであった。

 コナンは、その手にもったコーヒーカップに視線を落としたまま話しだす。

 

「……再会するだけなら、もっと早く出来たんだ。実家が引っ越したとは言っても、博士本人はずっとこの街で暮らしていたから、足跡を辿るのは難しいことじゃない。でも、彼女は博士を探すことなく、約束した日に再会することにこだわった。博士も一緒さ。暗号の解読なんて、父さんに頼めば良かったんだからな」

 

「確かに、再会することだけが目的だったのなら、優作さんに頼めばすぐだったでしょうね。アナタと違って、余計な場所に行くこともなかったでしょうしね」

 

「アレはオレのせいじゃねーっての。ま、さっきは“優先すること”なんて偉そうなこと言ったが……博士にとっては、彼女との約束を果たすことこそが重要だったのかもしれない」

 

「それは博士に直接確かめるしかないんじゃない? まぁ、私としては彼女の誤解はといてあげたいけどね」

 

 哀の言葉に、目でどういうことだと問いかけるコナン。そんなコナンに、哀は一つため息を吐くと話し出す。

 

「アナタの推測通りだとしたら、彼女は四十年もの間、初恋の人を想い続けていたのよ? 

約束を忘れられているかもしれない。今年も来ないかもしれない。既に結婚しているかもしれない。そんな不安を抱えながら、それでも約束の場所に来てくれるのを信じて待ち続けた。でも、ようやく約束の場所に現れたその人は……五人も孫を連れていた。相当ショックだったと思うわよ。誤解を解いたって、その時受けたショックは無くならないけど……せめて、ね」

 

 哀の言葉に納得するコナン。コナンの予想通り、フサエ・キャンベルが阿笠をずっと想い続けていたかは分からない。それでも、彼女が阿笠を待ち続けていたという事実は変わらないのだから。その終わりが、誤解というのは悲しい。

 

「……だな。彼女や博士がお互いをどう思っているのか、実際のところはわからねー。二人の誤解を解いたところで、この先二人の関係が変わることはないかもしれない。それでも、ずっと誤解したままより、真実を知った方がいいよな」

 

 そこまで言うと、コナンはカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干す。そして、哀に向かってスッキリした表情を見せながら、口を開くのであった。

 

「何かスッキリした。ありがとな、灰原。キャンプの後にでも、博士に伝えてみるよ。彼女の方は、父さんに頼めばいけるだろう。色々と顔がきくし。じゃ、おやすみ!」

 

 そう言って、部屋へと駆けていくコナン。その姿を見送ると哀も、就寝する準備を始めるのであった。

 

「発明家とデザイナー、四十年ぶりの再会から始まる恋……。有希子さんの好きそうな話題ね。ま、全ては彼の言うようにキャンプの後ね」

 

 

 

 彼らは知らない。そのキャンプで、彼らの身に起こることを。

 

 それによって、当分の間阿笠にフサエの話をするどころではなくなることを。

 

 

 何より、試練の時が近づいていることを

 

 

 

 

 

 

  バーーン!!

 

 

 

「手術!? ただの怪我じゃ」

 

「撃たれたのよ。弾は貫通してるけど、腎損傷の可能性もあり極めて危険……だそうよ」

 

「コナン君! しっかりして! もうちょっとの辛抱だから」

 

 

 

 

 その時は――近い

 

 

 




 と言う訳で、秋編とピスコ編は回想方式? になりました。エピソードは25巻のキャンプ前。つまり、アレです。ここからは大きく改変されていきます。多分。

 キャンプの時期が冬。ピスコ事件が11月。
 これらは作中設定です。

 関連活動報告は【コナン】。
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