注意:映画を視聴済であること前提で、所々省略しています。
未視聴の方には厳しいかもしれません。また、独自設定も含まれています。
独自設定はFile00 独自設定を参照ください。史実との矛盾点なども含まれます。
――世紀末の魔術師
夏美が覚えていた言葉は、奇しくもキッドの予告状に書かれていた言葉であった。奇妙な一致に驚く小五郎。コナンは本当に偶然なのかと疑うが、今はそのことより優先すべきことがある。セルゲイが入力し始めたのだ。
「
すると、振動と歯車が動く音と同時に床がズレ、地下へと続く階段が現れる。コナンたちは慎重に中へと進むのであった……
一方その頃、城の外から別の入口を探索していた少年探偵団の面々は、城の中への入口が見つからずイライラし始めていた。
「ここもダメです……」「くそっ、何で見つかんねぇんだよ!」
そんな探偵団を博士と見守っていた哀は、ふと視界に階段を見つける。それは、城の裏手の位置している為見つけにくく、その階段の先には塔が立っているだけであった。その塔も城からは見えない高さである為、階段を見つけなければ塔の存在に気づくことはないのではないだろうか。
哀がその塔へと階段を下りていくと、阿笠から何処へ行くのかと問う声が。哀は足を止めずに、阿笠に塔を見てくるとだけ告げる。うろたえる阿笠と、こちらへ駆けてくる子供たちの気配を感じながら、哀は塔へと思いを馳せる。
(あの塔……。城からの死角になってるってことは、非常口の役割を持ってるのかも。位置関係からして、城の地下と繋がって……)
塔の入口へと辿り着いた哀は、階段が塔から更に下へと向かって伸びているのを確認すると中へと入る。先に入った子供たちは、塔に何もないのを確認すると文句を言っていた。それに、適当に返答しながら哀は塔の内部を見回す。塔内部は、塔の上部へと登る階段と塔の壁面を切り抜いて作った窓があるだけで、他の部屋に繋がるドアや、棚や荷物などもない為、倉庫として使われていたわけでもないようだ。
(ドアはなし。隠し扉があるとしたら……海側以外の塔側面。もしくは……下。ま、怪しいけどここまでね。隠し通路を見つけても、子供たちを中へ連れてくわけにも……)
哀が塔から出ようかと外を見ると、阿笠が必死の顔で駆けてくる。その顔に呆気にとられていた哀は、塔の外から音が聞こえた瞬間、浮遊感を覚える。そのまま、哀と子供たちは突如開いた床に吸い込まれていくのであった。
疲労した阿笠が、息を整える為に思わず手を突いた塔の壁面。その壁面を押し込むことが、仕掛けのスイッチであった。
悲鳴をあげながら滑り落ちていく子供たち。滑り台のようになっている為、中々とまることがない。その内、平坦な所へと辿り着くが、勢いを殺しきれずに元太、光彦、歩美は更にその先へと落下する。何とかとまることが出来た哀は、慌てて下を覗き込む。そこには、二メートルほど下で重なりあう子供たちの姿が。哀は自分も下へと飛び込むと、子供たちの容態を確認する。
「あなた達、大丈夫!?」
「元太君のおかげで」「柔らかいお腹で助かったわ」
「オレも大丈夫だけど……いてーぞ、お前たち」
どうやら、怪我はないようで、元太が掴んでいたロープを蛇と勘違いし騒ぎ立てている。
哀はポケットから腕時計型ライトを取り出すと、ロープを照らし子供たちの勘違いを正す。その後、周囲を照らし元の場所へと戻れないことを確認すると、携帯を取り出す。
(圏外……。ここから声をあげても届かないでしょうね。助けが来るまで待つ?でも、ロープなんて車には積んでないから時間がかかるわね。それまで、この子たちが大人しくしているとも限らないし、子供たちに助けが何時来るか分からない状態で待てってのは酷でしょうね。となると……)
哀が照らすその先。そこには、奥へと続く道が。
(助けが来るまで、探索して気を紛らわすべき。ただ、あの道は城へと繋がっている筈。城まで行かず、気を紛らわす程度に探索をコントロール、助けが来る頃を見計らって戻る。……できるかしら?)
哀は探索することを決断する。待つには子供たちが幼く、精神が耐えられるかが分からない為である。気分を紛らわす為にも、探索が必要だと。そして、哀は努めて不敵な笑みを浮かべて告げる。
「さて、このまま待つのもなんだし……。探索してみましょうか」
その言葉に顔を見合わせる子供たちは、笑みを浮かべて伝える。
「勿論……」
「「「レッツゴー」」」
「ふふっ、じゃ先へ行きましょうか」
その言葉で哀を先頭に一同は進むのであった……
コナンたち一行は、ライトを持つ白鳥を先頭に通路を進んでいた。ライトを持つのは、白鳥の他はセルゲイと乾。コナンも腕時計型麻酔銃のライトで、小五郎はライターに火を点け周囲を照らす。
道中、セルゲイが夏美にパスワードが”世紀末の魔術師”であったことに心あたりはないか尋ねる。夏美は、喜市が”世紀末の魔術師”と呼ばれていたのではと語る。喜市は一九〇〇年、パリ万博に絡繰人形を出展後、ロシアへと渡ったらしい。そのパリ万博で付けられた異名ではないかと。
その後も、一同は先へと歩き続ける。小五郎はまだ先があるのかとややうんざりしている。
その時、コナンの耳にかすかな物音が聞こえる。その方向へとライトを照らすと、横道が……
「どうしたの?コナン君」
「今、あっちから物音が……」
「何!スコーピオンか!?」
一同に緊張が走る。コナンは走りだすがすぐに振り返り白鳥に告げる。
「白鳥警部も一緒に来て!勘違いかもしれないけど……」
「ああ、いいよ。皆さんは此処で待っていてください。後はお願いします、毛利さん」
駆けていく二人を一同は見送る。静かに抜け出した人物と、それを追っていった乾の姿に気づくことなく……
しばらくして、コナンと白鳥が戻ってくる。子供たちを連れて……
一同は一気に賑やかになる。子供たちが嬉しそうに歌を歌っているからだ。小五郎は子供たちに不安を覚えるが、夏美に賑やかでいいと言われると口をつぐむ。
そんな一行の中で、哀はコナンと小声で会話する。
「で?」
「怒らないの。事故なんだから……。城の裏手に塔があって、その床が抜けたと思ったらここに落ちてきたんだから」
「……ハァ。世紀末の魔術師なんて呼ばれた喜市さんが建てた城だもんな。抜け道があって当然……か」
「世紀末の魔術師?キッドの予告の?」
「ああ。多分キッドは知ってたんだろうぜ。エッグを作ったのが喜市さんで、世紀末の魔術師って呼ばれてたのもな」
「ふ~ん」
「何か機嫌がいいな?」
「別に?(子供たちの面倒をあなたに……なんて言えないわよ)」
しばらく歩くと、一同は行き止まりに辿り着く。道を間違えたのかとも考えられたが、道は一本道であり、唯一の別れ道も哀たちが来た道であった。壁を観察すると、そこにはたくさんの鷲が描かれており、中央には双頭の鷲の姿が。双頭の鷲の頭上には王冠とその後ろに太陽が描かれている。
「双頭の鷲……皇帝の紋章ね」
「ああ、王冠の後ろは太陽か?太陽……光……光!!」
考え込むコナンを見つめる三つの視線。一つは夏美、二つ目は哀、そして最後の一つは蘭。それぞれの視線に込められた感情は違うものであるが、一つだけ共通しているものがある。それは、期待。コナンならという期待が、程度の差はあれど込められていた。
「白鳥警部!!あの王冠に光を集中させて当ててみて!」
「分かった!」
コナンに言われた白鳥は、光の太さを王冠に当たるように調整しながら王冠を照らす。
すると、地鳴りと共に床の一部が下がりだす。下がった先には入口が見える。
「そうか……光度計か。うわっ」
白鳥が仕掛けに感心していると、白鳥が立っている床が左右に分かれていく。完全に物音が止まった時、そこには階段と部屋の入口が現れるのであった。
一同が入口から中に入ると、そこにはドーム状の空間が広がっていた。ドームの中央には台座があり、その中央には穴があいている。小五郎がロウソクに火を灯すと、棺のようなものが奥にあることが分かった。その棺には双頭の鷲が描かれていた。
「また、鳥の絵か……造りは西洋風だが、桐でできてるな。それにしても、でかい錠だな」
小五郎の言葉を聞いたコナンが、すかさず夏美に言う。
「夏美さん、鍵!」
「そ、そっか!」
夏美がバッグから鍵を取り出し、錠の鍵穴に差し込み回す。カチッと言う音とともに開錠され、棺の蓋を白鳥と小五郎とで開ける。
中には、白骨化した遺体と、その遺体が抱くように持つエッグがあった。
「エッグだ……。夏美さん、この遺体は喜市さんですか?」
「いえ、おそらく曾祖母です。ロシア人ということで先祖代々の墓に入れなかったのでしょう」
小五郎の疑問に夏美が回答する。そこに、セルゲイと青蘭が近づいてくる。
「夏美さん、エッグを見せて頂いたても……?」
「あ、どうぞ」
夏美からエッグを受け取ったセルゲイは、エッグを観察する。エッグは赤を基調に金で装飾されており、所々ダイヤがついていた。また、底には小さな穴があいている。セルゲイが中を確認しようと、エッグをあけると……
「ない!空っぽだ……」
エッグの中身はなかった。どういう事かと一同が考えていると、歩美がマトリョーシカなのかと聞いてくる。
「マトリョーシカって……あのロシアの民芸品の?まさか……!!」
「……そうかもしれません。見てください」
歩美の言葉に、一同にある考えが浮かぶ。もう一つのエッグが中に入るのではないかと言う考えが……。それを確証付けるかのようにセルゲイがエッグの中を見せる。
「中に溝が……。エッグを固定するものかもしれません」
「くそっ!ここにエッグがあれば、すぐに分かるってのに……。仕方ない、明日にでも鈴木会長に話を……」
確認したくても、もう一つのエッグが手元にない以上どうしようもない。小五郎が鈴木会長に話をつけるという事で、地上へ戻ろうと提案しようとしたその時……
「ありますよ。ここに……エッグ」
白鳥がこんなこともあろうかと、バッグからエッグを取り出す。白鳥は鈴木会長から借りてきていたそうだ。
白鳥からエッグを受け取ったセルゲイは、発見したエッグの中へ収める。それは、溝にピッタリとハマる。これで、喜市が製作したエッグは、二つ別々のエッグではなく、二個で一個のエッグであったことが判明した。
二個で一個というエッグの発見に一同が騒ぐ中、釈然としない顔をするコナン。そんなコナンに気づいた哀が問いかける。
「不満そうね」
「ああ。二個で一個のエッグ……。確かに素晴らしい……だが」
「まだ何かある……と?」
「ああ。それこそ“世紀末の魔術師”に相応しい何かが……」
「何か……ね」
そう呟き見つめる先。エッグをよく見ようと集まった一団では、小五郎がエッグの宝石類に目を向けていた。
「ほう、大きなダイヤですな……」
「いえ、それはガラスみたいですよ。ほら、この上に付いてる大きなヤツも含めて、全部そうみたいです」
その夏美の言葉にコナンは、中のエッグも蓋の部分にガラスが付いていたことを思い出す。
(ガラス……?まてよ?喜市さんの部屋の写真、魔鏡、光の仕掛け……それに)
コナンはドーム中央へと振り返る。
(あの台座の穴……!!そうか、そういうことか)
確信に満ちたコナンの顔を見た哀は、コナンに問いかける。
「その顔は……隠された仕掛けでも分かったみたいね」
「ああ。オレの考えが正しければ……いいものが見れるぜ!世紀末の魔術師の真の仕掛けがな!」
そう告げるとコナンはセルゲイの元へと駆けていく。それを見送る哀は、コナンが走り去る前に見せた顔に、知らず微笑みを浮かべていた。
(いいものって……。まぁ、興味はあるけど……。私にはその顔で十分……なんて、絶対に言わないけど)
セルゲイの元に辿り着いたコナンは、セルゲイにエッグを借りると白鳥を連れドーム中央へと向かう。
「この台座の穴に、ライトの光を細くして入れてくれる?」
「ああ。……これでいいかい?」
「ありがと。だれか!ロウソクの火を消して!それと、他の明かりも!」
これまでの活躍もあってかコナンの発言に従う一同。小五郎だけは何をするつもりか教えないコナンに、不満そうであったが。
コナンは一同が台座近くに近づいて来たことを確認していると、隣りに来た哀がコナンに問いかける。
「それで?何を見せてもらえるのかしら?」
その言葉にコナンはフッと笑うと、台座の中央から天井に向かって伸びる光の上にエッグを置く。
「まぁ、見てなって」
コナンが光の上にエッグを置いた為、あたりは暗闇に染まる。すると、しばらくしてエッグの内部が透け、中のエッグの皇帝一家の模型の仕掛けがせり上がっていく。
「なんで……?ネジも巻いていないのに」
「……エッグに光度計が組み込まれているんですよ」
蘭の疑問の声に、白鳥が答える。その間にも模型は動き続け、ソファーに座る皇帝が本を開きだしていた。そして、本が開き終わったその時――
エッグの頂点に設置されたガラスから光が溢れ出す。ドームの上方はエッグから溢れた光で照らされ、その光はドームの壁に沿うように等間隔であるものを写しだしていた。
「こ、皇帝一家の写真です……!!」
「そ、そうか……ソファーで眺めていた本は」
「アルバム……だったのね」
セルゲイが感動したかのように告げる。
「もし、皇帝一家が殺害されずこのエッグを手にしていたら……これほど素晴らしい贈り物はなかったでしょう……」
「夏美さん。あなたの曽祖父、喜市さんはまさに……“世紀末の魔術師”だったんですな」
「これが、“世紀末の魔術師”の真の仕掛け……」
思わず呟いた哀にコナンは、悪戯が成功した子供のような笑みを向ける。
「どうだ?いいものだったろ?」
「……ええ。それにしても、よくわかったわね」
哀の疑問にコナンは両手を頭の後ろで組みながら答える。その顔は、つまらそうな口調とは裏腹に、明るいものであった。
「まぁ、中のエッグを見てたからな。あのエッグは蓋にガラスが付いてたんだ。それに、この部屋に入る為の光度計の仕掛けや、喜市さんの部屋の写真を思い出してな。この城への手がかりも魔鏡だったし、ガラスに何か仕込んでる可能性を考えたんだ」
「それで……。だけど、これでもう一つ謎が解けたわね。なんでメモリーズだったのかの」
「ああ……。ずっと疑問だったけど……これで納得出来た」
そこまで言うとコナンは、哀に告げるのであった。
――確かにこれは“メモリーズ”……思い出だよ
ようやくエッグ発見しました。この章も終盤。
透けるエッグの謎は、謎のままです。理屈が分かりません。
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