名探偵コナン~選ばれた二人の物語~   作:雪夏

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大阪攻防戦後半戦。

キッドとの対決……のハズ。

注意:映画を視聴済であること前提で、所々省略しています。
未視聴の方には厳しいかもしれません。また、独自設定も含まれています。
   独自設定はFile00 独自設定を参照ください。史実との矛盾点なども含まれます。


File05 大阪決戦

 

 

――Ladies and Gentlemen! さぁ、ショーの始まりだぜ!

 

 

 

 

キッドの開戦宣言より遡ること二時間。

 

 

 

美術館へと向かう途中のコナンに携帯が着信を知らせる。

平次と会話を中断したコナンは、表示された名前に顔を綻ばす。

 

「もしもし?」

 

『私』

 

「で、どうだった?」

 

電話の相手――哀――にすぐに尋ねるコナン。平次は電話越しに聞こえた女性の声に相手が誰か気になるようある。

 

『時間が無かったから、軽くしか調べていないけど文句は言わないでよ?』

 

「ああ、それはこっちも「おい、誰からや?」分かってる」

 

『……誰?』

 

突如割り込んできた平次の声に、電話の向こうの哀が疑問の声をあげる。

コナンは目で少し黙ってろと平次に告げると、哀に説明する。

 

「は、服部だよ!ほら、話したことあんだろ?」

 

『ああ、“西の高校生探偵”ね。アナタのドジで正体がバレた』

 

「……そうだよ。で、エッグのことは?」

 

『いい?調べたところ……』

 

 

 

 

「そうか……。サンキュ」

 

『前に言ったキーケースにプラスしてもう一つね』

 

「じゃ!!」

 

哀からの調査報告を受けたコナンは、そう言って電話を切った。

キーケースの約束を忘れていた為、強引に会話を切り上げたのだが……。

冗談だと思いたいが、そうでない可能性が出てきたと頭を抱え込むコナンであった。

 

 

頭を抱え悩み出したコナンに、平次が電話のことについて尋ねる。コナンもこのことを一旦棚上げすることにして、平次に哀との電話の内容を伝える。

 

 

コナンが哀に頼んでいたのは、メモリーズ・エッグ以外のインペリアル・イースター・エッグについてであった。キッドが狙う理由が分かるかもしれないと、哀に調査を頼んでいたのだ。

 

 

哀の話によると、そもそも、最初のエッグは白い卵といったシンプルな外見で、宝石も大きな物は使われていなかったらしい。仕掛けも中に金のめんどりと戴冠の模型が入っているだけらしい。その後、徐々に華美になり、宝石もたくさん使われるようになったようである。

 

そして、地味だと思っていたメモリーズ・エッグだったが、そこまで地味と言うわけでもないらしい。宝石の有無の違いこそあるが、デザインとしては似たようなエッグもあるとのことだ。

 

中身の仕掛けにいたっては、むしろ凝っている方になるらしい。他のエッグは中から模型が出てくるなどの仕掛けはあるが、模型が動くものは少ない。勿論、中に入っている模型はどれも繊細な細工がされていたり、宝石が使用されていたりと豪華ではあるが、メモリーズ・エッグの模型は全部金で出来ている為、十分に豪華である。

 

そして、宝石の有無に関してだが、確かに他のエッグには贅沢に使用されていたりする。中にはダイヤを散りばめたものもあるらしい。

 

ただ、宝石に関しては製作時期が時期だけに用意出来なかった可能性もあるらしい。

そもそも、皇帝に贈られなかった可能性もあるらしい。

 

「贈られてへん?」

 

「ああ、資料には製作年と思われる数字が書いてあった」

 

「ああ、確か……1917年。って、ロシア革命か」

 

「そう、1917年はロシア革命の年だ。そして皇帝ニコライ二世は三月に退位し翌年七月に暗殺されている」

 

「確かに、その間に贈られたちゅーのは考え難い話しやな」

 

「そうなると、宝石じゃなくガラスなのにも説明はつくんだ。その年にファベルゼが亡命しているからな」

 

「亡命する時に、宝石を売り払ったちゅーことやな?」

 

「ああ。宝石については納得出来たんだが……。結局、キッドが狙う理由が分かんねぇ。宝石はないし、宝石目当てなら他のエッグを狙った方がいいし……。実は贈られなかったエッグだとしたら“幻のエッグ“として貴重になるかもしれないが……」

 

「まぁ、何にせよ今は腹ごしらえが先や。ここがオレのオススメの串カツ屋や」

 

そう言うと、平次は店へと入り、コナンもそれに続く。

その後店を出てきた二人は美術館へと向かう。その顔は非常に満足した顔であった。

 

 

 

 

串カツ屋を後にした二人は美術館へと向かう。

 

「今が、六時半か……。美術館に着くのは七時過ぎくらいか?」

 

「ああ、そんなもんや。ところで……さっきの電話の相手が、灰原っちゅう姉ちゃんか?なんや、冷たい声っちゅうか雰囲気やな」

 

美術館への到着時間を平時に尋ねるコナン。思いのほか串カツ屋で時間を使ったようだ。

コナンの問いかけに答えると、平次は先の電話の相手について尋ねる。

 

「確かに灰原だけど……。冷たい?そんなことないと思うけど……」

 

「感じや、感じ。ま、仲ようやってんのならいいんや。その姉ちゃんには、お前らしか頼れるヤツはおらへんのやろ?頼るもんのないヤツは、何するか分からんからな。お前がしっかり支えたらな、な?」

 

「分かってるよ。ったく、母さんと父さんにも言われてんのに。その上、お前からもかよ」

 

「ま、何にせよ、や。その姉ちゃんとは仲ようやれや。協力者になる訳やしな。それこそ、対立してお前のことを売られでもしたら……「そんなことしねぇよ」……なんでや?」

 

「俺たちを売るようなヤツじゃないってのは、オレが保証するさ。それに、アイツが組織に戻ることもねぇさ。誰かを人質に取られでもしない限りは、な。ま、そんなことはオレがさせねぇけどな」

 

「お前がそうまでいうんやったら、俺も信じたる。その姉ちゃんのことをな。にしても、自身満々で言うやんけ。まだ、会ってからそんな経ってへんやろ?」

 

「アイツ、学校を楽しんでんだ。オレからしたら、うんざりするだけの学校をさ。それに、分かり難いけど、優しいんだ。それに……」

 

「それに?」

 

「何でもない(隠れて、明美さんを思って泣いてるあの涙は……演技なんかじゃない)それに、お前の周辺も変わりなかっただろ?」

 

「そうやな」

 

それっきり、黙ったコナンを平次は見る。ここではない何処かを想うコナンの姿に、平次は自分の考えを実行することを決めた。

 

平次は電話では哀のことを聞いていた。しかし、それだけで彼女と話した訳でも、直接、彼女と接した訳でもない。だからこそ、捨てきれないのだ。彼女が騙しているのではないかと言う疑いを。

 

情に訴えられている可能性は、コナンも考えただろう。そんなコナンが保証するとまで言ったのだ。それなりの根拠もあるのだろう。それに、そんなことを言うということは、彼女とは上手く交流できているのだろう。しかし、それがイコール安心となるかと言うと、そうはならない。

 

もし、万が一にも騙されていた場合を考えた時、組織に売るのはそれなりの信頼を勝ち得た時の方が確実だ。相手は世間で知られた探偵なのだ。その警戒を解かなければならない。それに協力者の洗い出しにも時間がかかる。

 

コナンが平次に連絡したのには、そう言うことを確認する意味合いもあったのだ。哀に平次のことを伝え、その後の平次の周辺の動きを確認したのだ。結局、不審な影は無かった訳だが。

 

どちらにせよ、今のコナンを見る限り警戒はないようだ。彼女もそれは感じているだろう。つまり、今なら彼女も上手くいってるという油断で、尻尾を出すかもしれない。

 

コナンに内緒で調査するには好都合である。

 

(とりあえず、一度調査する必要があるやろな。十一月か十二月って所かいな。工藤の親父さん達が今月にきとるから、それくらいやろ。ま、気にしすぎちゅうのが一番やな。工藤も頼りにしとるみたいやし、話も合うみたいやしな。ただ……)

 

そこで、平次は再度コナンを見る。

 

(工藤。お前……)

 

 

 

 

 

鈴木近代美術館の入口門にコナンと平次が戻ってくる。ゲート付近では会長秘書の西野が女性と老人の相手をしていた。

 

「私、香坂夏美と申します。こちらは執事の沢部です。このパンフレットのことで……」

 

聞こえ漏れた内容は、エッグの写真が違うと言うものであった。コナンも平次も多少気になったが、まずは会長室へと足を進める。そこで、時間を確認した平次が告げる。

 

「お、これはオモロイで。“L”が三時のことなら、今は“へ”や」

 

「“へ”?」

 

ああ、と言いながら平次は、腕時計の文字盤がコナンにも見えるように腕を向ける。

文字盤が示す時間は七時十三分。

 

「な、七時二十分になれば“へ”に見えるやろ?」

 

その時、コナンの脳裏に予告状の言葉が……

 

(“黄昏の獅子から暁の乙女へ”……十二番目の文字は“へ”!!)

 

「服部!キッドの予告時間は七時二十分だ!くそっ、大阪城に行くには時間がねぇ!!」

 

「十二番目ってそう言う意味やったんか!!……ん?雨か?……雨?」

 

今から、大阪城に向かうには時間が足りず、苛立つコナンがどうするかを考えていると、服部が声をあげる。

 

「そうか!大阪城やない、“通天閣”や!」

 

「通天閣?」

 

「ああ、通天閣のてっぺんはな“光の天気予報”言われてんのや!」

 

 

 

 

コナンと平次が正解にたどり着いたその時、通天閣の頂上に立つ人影がその両手を大きく広げ、不敵な笑みと共に宣言する。

 

 

――Ladies and Gentlemen! さぁ、ショーの始まりだぜ!

 

 

キッドの手による開催の花火が大阪城から上がりだす。今この瞬間、探偵と怪盗のショーが開催したのだ。

 

(さぁ、どうする?探偵君。今からでは此処までは来れないだろう?そして……)

 

不敵な笑はそのままにキッドは次の仕掛けを作動させる。

 

 

 

 

突然の花火に目を向けるコナンと平次。周りの警察官達が花火に注目する中、コナンが通天閣の場所を尋ねる。

 

「花火!?それより、通天閣はどっちだ!!」

 

「あっちや!!……向こうは上がってへんな。

大阪城に目向けさせて、目立たなくする為か……?」

 

「おそらくは……でも、何で通天閣なんだ?」

 

「それより、今から行っても間に合わへんで!?ここで向かい打つか!?」

 

「ああ……。西野さんエッグは今どこに!?」

 

西野にエッグの在処を尋ねると、エッグは中森警部が秘密の隠し場所に持っていったという言葉が……。キッドを向かい打つにもエッグの場所が分からないという事態に、愕然とするコナンと平次。

 

(この情報をヤツが掴んでたとして……。ヤツは場所をどうやって特定するつもりだ?それとも、やはり掴んでなくて此処に来るのか?くそっ、どっちだ!!)

 

考え込むコナンと平次。その直後、辺りは闇に包まれる。

 

「停電!?こんな時に……そうか!!」

 

何かに感づいたコナンは持っていたスケボーに乗り、通天閣がある方向へと走り出した。

 

 

 

 

 

闇に包まれた街をキッドは通天閣から単眼鏡で眺めていた。その視線が向かう先には、次々と自家発電へと切り替わる建物が……

 

「……病院。……あれも、違う。……ビ~ンゴ」

 

そう呟くと、キッドはその身を闇へと投じる。

 

 

 

 

スケボーで走り出したコナンは、キッドを見つけることには成功した。しかし、知らない大阪の土地では容易に追いつくことが出来ない。そこに、バイクで追いかけて来た平次が合流する。そして、キッドを追いながら、計画の全貌を平次に伝え始める。

 

「何らかの方法でヤツは、本物のエッグが移動した情報を手に入れてたんだ。そして、その場所を特定する為に街を停電させ、自家発電に切り替えさせたんだ!」

 

「なるほど。通天閣からなら、病院やホテル以外であかりが点くであろう、そのエッグの隠し場所を見つけられるちゅうこっちゃな!!」

 

「しかもその場所は、おそらく外部からは気づかれないようにと……」

 

「「警備は手薄」」

 

「キッドのヤツ、やるやないか!!」

 

二人は暗闇の中、キッドを追い続ける。そして、キッドがある建物に入るのを確認すると、そこへ急行するのであった。

 

ようやくたどり着いた建物へ平次をその場に待機させ、コナンが入る。

コナンが明かりの点いている部屋へ入ると、眠っている中森警部とその部下……そして、窓に足をかけているキッドの姿があった。

 

「待て!!」

 

「遅かったな、探偵君」

 

その言葉と共にトランプ銃を放つキッド。放たれたトランプは床に刺さると煙を吹き出す。

その隙にキッドは再び闇の中へとその身を投じるのだった。

 

 

 

 

 

ハングライダーを使い飛翔しながらキッドは、今回の計画について考えていた。

 

(ふぅ、あっぶねぇ……ったく、中森警部も面倒なことをしてくれたぜ)

 

当初の計画では、用意した自家発電付きの建物に警部とエッグを誘導するつもりであった。そうした上で、花火を使い大阪城に目を向けさせ、通天閣から目をそらす。そして、変電所を爆破し、暗闇でその身を隠しながら建物の明かりを目印に飛ぶ。その後、大阪湾から逃亡する手筈だった。

 

しかし、仕込みの段階で中森警部が自分で隠し場所を決めると言い出したのだ。このままでは、場所が分からない上に、自家発電装置がない場所に隠れられてしまう可能性も出てくる。

 

なので、しつこいくらいに自家発電装置がある建物を選ぶよう念押しした後で、地図を贈ったのだ。この地図をご活用ください、と言う文章と共に。

 

その地図には、鈴木近代美術館から見て、大阪湾方面にある自家発電付きの建物がピックアップされている。しかも、それらの建物は通天閣から見渡せる一方向に限ってあるのだ。

 

これで、場所の問題はクリア出来たのだが……

 

(あと一秒でも、点灯が遅れてたら捕まってたかも……)

 

 

 

 

あと僅かというところでキッドを逃がしたコナンは今、一人で追跡を続けていた。

 

何故一人なのかというと、追跡中に高度を下げ始めたキッドに気を取られ、バイクが転倒した為である。

コナンはその身を空中に投げ出されたが、同じく空中に投げ出されていたスケボーに上手く乗ることが出来た為、怪我はなかった。

平次も幸いなことに、重傷ではなかったようでコナンに追跡するよう告げると、集まった人に救急車を呼ぶよう告げると、自分は警察に連絡をしだした。

 

コナンが追跡を続けていると、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。平次が連絡してキッドを追ってきたのだろう。だが、距離はまだありそうだし、停電で混乱している街中を抜けるのに時間がかかるだろう。結局、コナン一人での追跡を続けるしかないようである。

 

その内、キッドが着地する為であろうか、更に高度を下げ始める。

 

その瞬間に捕まえてやると意気込むコナンの他にその様子を伺う人物がいた。

 

 

 

その人物は歩道橋の上で、スコープ越しにキッドを覗く。

そして、キッドが自分に向けて照射されるポインタに気づいたのか、顔をその人物へと向け、ポインタとキッドのモノクルに覆われた右目が合致したその瞬間――

 

 

 

――パシュ

 

 

 

静かに引き金を引いた

 

 

 




大阪攻防編後半戦。

平次君は色々考えていますが、全て杞憂です。

ここまでで映画でいうと約三十分経過した所です。
あと、約一時間と思うと先はなかなか長いですね。

ご意見・ご感想等頂けましたら幸いです。

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