決して思いつかないわけではないですよ?
阿笠邸のリビングでは少年探偵団の面々が、テレビの前に陣取っていた。
「博士、まだ~?」
「そう急かすでない。……これじゃったかの?」
子供たちが振り返ると複数のディスクを相手に首を傾げている阿笠の姿が。
今日は、先日の帝丹小学校の学芸会のビデオ上映会の日なのである。阿笠が撮影した映像は昨夜の内にBDへとダビングしていたのだが、肝心のディスクにラベルを貼っていなかった為に、どれが目当てのディスクかわからなくなったようだ。
「それにしても、家族で観るのも良かったですが、こうやって皆で観るのもいいですね。
結構、評判よかったですしね」
「俺も家で父ちゃんが撮ったの観たけど、なかなかの出来だったって言ってたぜ」
「あ、歩美もお家で観たよ?歩美のアップばかりでちょっと恥ずかしかったなぁ」
子供たちは既に各々の家庭で上映会をしていたようで、口々に家族からの評判や、撮影された自分の姿などについて感想を述べあっている。
そんな子供たちをリビングのソファーから眺める瞳が四つ。コナンと哀の二人である。
二人は上映会など関係ないとばかりに本を片手にコーヒーを飲んでいる。
「わざわざ皆で上映会しなくてもいいだろうに……。
博士もノリノリで準備しちまってるし」
「あら、いいんじゃない?皆で観るってことに意味があるのよ、きっと」
「そんなもんかねぇ……。ま、アイツらも楽しめるのはガキのうちだけだろうよ」
「あら、どうして?」
「どうしてって、ガキの時の映像なんてもんは、でかくなると恥ずかしくて見れたもんじゃねぇって。確かに懐かしいんだけど、昔の失敗とかも思い出すしな。」
「そういうものなの?」
「そりゃ、人によるかもしれねぇけど……。オメェは違うみてぇだな」
「私、小さい頃の映像も写真も見たことないから。そう言えば、お姉ちゃんも小さい頃の写真は懐かしいけど恥ずかしいって。そう……そういうものなのね」
「……まぁ、アレだ。アイツ等も見返す時は……そう、アレ」
哀の言葉に返す言葉をコナンは上手く紡げなかった。
哀の表情に、納得の感情しか見えなかったからだ。自分の写真などを見たことがないことに対しての悲しみも寂しさも、他の人に対する羨望の感情もないのだ。
ただ、疑問に対しての答えを得た、それだけだったのだ。
それが、コナンには哀が懐かしむ過去を持っていないように感じて悲しかった。
“やっぱり、普通の人は写真を見て懐かしいと感じるのね”
“私には懐かしむ過去なんてないけど、普通はあるものなのね”
そう言われた気がしたのだ。そして、コナンの脳裏の哀は続けて言うのだ。
“やっぱり私は普通じゃない”
コナンがあたふたしている間に、阿笠はようやく目当てのディスクを見つけたようであった。プレイヤーにディスクをセットし上映が始まろうとしていた。
「それでは、上映会といこうかのぉ。再生するぞ」
「待ってました!」
「やっとかよ。もうお菓子半分くれぇ食っちまったぞ」
「元太君食べるの早すぎだよ」
コナンの様子を不思議そうに見ていた哀だったが、上映会が始まりそうになった為、自分からコナンに話しかける。
「ようやく始まるようね」
「へ? あ、ああ」
「? アナタ少し変よ?そんなに見るの恥ずかしいの?」
「バ、バーローんなんじゃねぇよ!……いや、恥ずかしいけどさ」
「一体どっちなのよ」
「だって、高校生が必殺技や変身ポーズとかしてんだぜ?」
「あら、可愛らしいじゃない。それに好評だったそうよ?」
「好評って……博士にか?」
哀の言う“好評”という言葉に思わず、両親のことを思い浮かべるコナン。
しかし、そんな筈はないと自分に言い聞かせる。両親は知らない筈だ、と。
つい先日、優作から事件について電話が来たときも、彼らが知っている素振りはなかったではないか、と。
阿笠には感想を言われたし、その場に居た哀がそのことを伝聞で言う筈がないことを分かっていても……
しかし、このコナンの希望は哀の言葉で崩れることとなる。
「博士は直接アナタに感想言ってたじゃない。……アナタのご両親よ」
……その瞬間、コナンは崩れ落ちた。
今回も短いです。
学芸会のその後ということで、阿笠邸でのビデオ上映会です。
劇の内容にはほとんど触れません。ヤイバーの設定しらないからです。
ええ、逃げ道です。
上映会の様子を交えながら、学芸会編の裏で動いていたことについて触れて行く予定です、
その後編が終わるといよいよ蘭ちゃんが本格的に登場する予定です。