今回短いです。
月曜日の朝、帝丹小学校の職員室に光彦、元太、歩美の姿があった。
ランドセルを背負ったままなところを見ると、教室によらず直接来たようである。
「み、光彦君?もう一度言ってもらえるかな?先生聞こえなかったみたい」
「ですから、学芸会の演目を刑事物にしたいって言っているんです!
ほら、台本も此処に。いや、大変でしたよ。昨日コレを作るのは」
「そうだぜ、先生!」
「歩美たち頑張ったんだから!」
職員室に光彦が来た時点で厄介なことになる予感はしていた。しかし、これは予想外だ。
てっきり、台本を変更したとか、登場人物とか小物のことでの要望とかだと思っていたのだ。まさか、演目を変更したいなどと言い出すとは……
生徒達の要望を出来るだけ聞いてあげたい気持ちはある。あるのだが、こればかりは認める訳にはいかない。幸いといっていいのか、物分りのいい子たちだ。きちんと諭せば理解してくれるだろう。
「聞き間違えじゃなかったみたいね……。いい?あなた達?」
「何ですか?早くコピーしないと朝の会に間に合いませんよ?」
「この台本はコピーしません。というか、演目の変更なんてできません」
「ええ!?なんでですか!?」
「そうだ!そうだ!横暴だぞ!」
「先生ひどい!」
「ハァ……。いい?君たちが言ってることの方が……」
「ああ!コナン君ですね!僕たちが演目を変えようとしているのに気づいて、自分が主役じゃなくなるのが嫌で」
「そうか!それで先回りして小林先生に演目を変えるなって……。
コナンの野郎……」
「今日はコナン君たちより先に来たと思ってたけど、違ったんだ。
なんだかんだ言っても、主役やりたかったんだね」
何故かコナンのせいで変更できないということになってしまっている。濡れ衣を着せる訳にはいかないと、小林先生は急いで否定する。
「違います!大体、今日はコナン君にまだあっていません!」
「本当ですか?じゃあ、何でダメなんですか?納得いきません!」
「ふぅ……。いい?みんなに質問するわね?」
「何ですか?手短にお願いします」
「みんなで話しあって海に遊びに行くことになりました。水着や浮き輪とかも準備していました。ここまではいい?」
「はい」
「そうしたら、急に山に行こうと言い出した人がいました。しかも、その人は海に行きたいと言い出した人でした。みんなだったらそんな時、どう思う?」
「そりゃ、そいつの我が儘だって思うぜ」
「私もそうかな……?もう準備しちゃってるのに、どうして今言うのって」
「僕も同意見です。自分が発案しておいて急に他の意見を通そうだなんて……。
他の人たちに迷惑をかけていまいますし、海を楽しみにしていた人が可愛そうです」
「そうね……(そこまで考えれるのに……大人びていても子供ってことか)」
「それで?今の質問が何か?」
「あなた達が言ってたことに似てない?」
「……あ」
「分かってくれたかしら?演目を変更できないってことが」
「はい、すみませんでした」
「「ごめんなさい」」
「いいのよ、分かってくれたのなら。みんなには期待してるからね」
「はい、任せてください。この円谷光彦、全身全霊を賭してやってみせます!」
「歩美も頑張る!」
「お、俺だってジャガイモ魔人頑張るぞ!」
「ふふっ、頼もしいわね。さ、もうすぐ朝の会よ。行きなさい」
「「「は~い。失礼しました~」」」
子供たちを見送った後、一つため息を吐く。何とか分かってもらえて良かった、と。
元々、聞き分けの良い優しい子たちだからこそ、ここまで早く説得できたのだろう。
同時に疑問に思う。この土日に一体何があったのだろうか、と。休み前にあれだけ熱を上げていた光彦が、急に刑事物をしたいなど言い出したのだ。よほどインパクトの強い出来事があったのではないだろうか。あとでコナンにでも聞いてみようと決意する小林先生であった。
「小林先生、職員朝礼始めますよ」
「は、はい」
「まず、学芸会に関連してですが、体育館で練習する時間は先週話し合った通り……」
光彦達が職員室を後にしたその頃、教室ではコナンと哀が話していた。
「まだ教室に来てないみたいね、あの子達。荷物がないわ」
「みてぇだな。下駄箱に靴があったってことは……職員室か?」
「さぁ?学校には来てるんだから、気にしなくてもいいんじゃない?」
「それもそうだな。しかし、昨日はアレから大変だったぜ」
「探偵事務所の彼女に、家庭訪問や学芸会のことを根掘り葉掘り聞かれたのよね?
通学中も聞いたわよ」
「いや、それもなんだけどさ……。
学芸会の様子をビデオ取って親に送ってやるって、おっちゃんが」
「親って江戸川コナンの?連絡先知らないんじゃなかったの?」
「俺も知らないって言ったら、まだ連絡してこないのかって不審に思われてよ。
とりあえず博士に連絡なかったか聞いとくってことで、その場は誤魔化したんだけど」
「どうにかしないとマズイでしょうね。
ま、江戸川コナンに親なんて存在しないんだし、博士と好きに設定しちゃえば?」
「そういうの得意じゃねぇんだけどな……。ま、そういうことだからよろしく!」
「何がよろしく、なのかしら?」
「オメェも知恵貸してくれよ。帰ったら博士の家行くからさ」
「アナタね、何で「「「おはよう(ございます)」」」たしが……」
「おう、オメェら」
哀が言葉を発しようとし瞬間、教室のドアが勢いよく開き光彦達が挨拶してくる。
それに対しコナンは軽く手を上げ挨拶を返すと、哀に小声で話しかける。
「わりぃ、続きはあとで」
「……ハァ」
この日から帝丹小学校は本格的に学芸会の準備に入る。
午後の授業は準備に当てられ、学芸会の会場となる体育館での練習も始まる。
もちろん、コナンたち一年B組も例外ではない。特に気合の入っている歩美、光彦、元太の三人が主導し、準備に励むのだった。
「それでは、残り一週間と少し。みんなで力を合わせて最高の劇にしますよ!!」
「「「「お~!」」」」
「み、光彦君?それは先生のセリフかなって……。いや、いいんだけどね?
でも、そういうの憧れてたっていうか……」
準備編は終わりです。多分。
あと3、4話で事件編に突入したいです。
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