訪問以外の話の方が多かった気が……
「ねぇ?コナン君?先生これから灰原さんの家に家庭訪問しに行くから一緒に何処かにいくことはできないのよ?わかってる?ねぇ?」
コナンに手を引かれていた小林先生は探偵事務所から十数メートル離れた場所でようやく意味のある言葉を話しかける。まだ落ち着いていないのか早口であるが。
そんな小林先生にコナンは苦笑とともに振り返る。
小林先生にはその顔には落ち着けと確かに書いてあるように思えた。
(本当にこの子は大人よね。灰原さんといいこっちが子供みたい)
そんなことを思われているとは思っていないコナンは、小林先生の様子から落ち着いたと判断したのか、今度は笑顔で先の質問に答える。
「あのね、先生?今僕たちが向かってるのが灰原さんが暮らしている阿笠博士の家だよ?」
「え?そうなの?五丁目から二丁目ってこの道使うのね。
地図で確認しただけだからわからなかったわ」
「で、僕がなんで阿笠博士の家に行くのかは分かる?ヒントはこのランドセル」
「あっ、分かったわ。宿題を一緒にするんでしょ?ってことは元太君たちもいるの?」
「あ~そっちを考えちゃったか……。
違うよ、元太も光彦も歩美ちゃんも来ないよ」
「そうなの?じゃ二人で宿題するの?」
「いや、宿題を一緒にってのが違うんだよ。大体宿題は先生が来る前に終わったし」
「ええっ!早いわね!今日の宿題は算数ドリルだから時間かかると思っていたのに……。
ん?じゃあ何で灰原さんのところに?遊びに行くならランドセルいらないし。
お泊まりでも着替えなんて持ってないし」
「正解はお泊まりだよ。今日はおじさんも仕事で出かけるからね。
着替えは向こうにもうあるんだ」
「あら、そうなの?確か毛利さんには高校生のお嬢さんがいたわよね?彼女はいないの?」
「部活の遠征で今日からいないんだ。関東大会も近いからって」
「へぇ、そうなの。で、灰原さんの家にね~。仲いいのね~」
「博士は僕の親戚だから前からよく泊まってたんだ」
「そっか、だからあなた達仲がいいのね。転校前から知ってたんだ」
「いや、知り合ったのは転校後だよ……。あっ先生、携帯持ってる?
ちょっと博士に電話したいんだけど……」
「ええ、はい。後で先生にも代わってくれる?このままだと少し遅れそうだし」
「うん、分かったよ先生。ありがとう」
コナンに携帯を渡した小林先生は肩の力が抜けていることに気づく。
小五郎との話は和やかに進んだが、やはりどこか緊張していたらしい。
コナンとのクイズは緊張をほぐすのに役立ったようだった。
(まさか、これが狙いでクイズをだしたとか?それに今だって考えようによっては、
阿笠さんに取り次いでくれるってことよね……。考えすぎか……)
「はい!先生!」
「ありがとう、コナン君。もしもし、私帝丹小学校一年B組担任の小林と申します。
……いえ、こちらこそ。はい、それで少々遅れそうでして。……はい。分かりました。
任せてください。コナン君が余計な買い物をしないようにですね。
……はい、はいそれでは失礼します」
「先生、僕買い物していくから先に行ってて!」
「あら、ダメよ?コナン君。先生、阿笠さんに頼まれたんだから、お菓子とか買わないようにちゃんと連れてきてくださいって」
「ええ~(……ったくいくら緊張をほぐすためって言ってもこの演技はツライぜ)」
「ほら、行くわよコナン君(やっぱり子供ね~)」
先程までとは逆にコナンの手を引く小林先生。コナン相手に教師らしいことができて嬉しいのか、その顔は笑顔である。
手を引かれるコナンの顔はというと……子供らしくない疲れきった表情が浮かんでいる。
阿笠邸までの約十分の間その光景が変わることは無かった。
「ごめんください、帝丹小学校一年「博士~先生きたよ!」……こら、コナン君」
「おお~これはこれはワシが哀君の保護者をしております、阿笠博士です。
コナン君もよく来たの。ランドセルを置いてくるといい」
「わかった。おい、灰原!先生きたぞ!」
「叫ばなくとも分かってるわよ。先生、こんにちは」
「はい、こんにちは。それじゃ早速ですが家庭訪問を始めさせていただきます」
コナンが荷物を置きに奥へと向かい、それとすれ違うように哀が玄関に向かう。
その後挨拶をかわしたあとに家庭訪問が開始される。
「……大体こんなところですね。阿笠さんの方で他に知りたいことなどありますか?」
「そうですのぉ……。じゃ「博士~これ何~」……ちょっとお待ちいただけますかの?
……なんじゃ、えっ?……ああ、それはあとで教えてやろう……。お待たせしました。
で、他にでしたかの?特にないですのぉ、学校での哀君の様子もよく分かりましたし。
いや~小林先生はお話がお上手ですのぉ」
「いえ、そんな。ありがとうございます。
それで他にないようでしたらこれで終わりとしたいのですが」
「ああ、構いませんよ。ほれ、コナン君、哀君。先生が帰られるそうじゃぞ」
「それじゃこれで失礼いたします。灰原さん、コナン君また明日」
「今日はありがとうございました。お気を付けて」
「先生、さよなら。また明日」
「……さよなら」
玄関から小林先生が出て行く。見送る阿笠たちに何度か振り返りながら小学校へと向かう。
阿笠たちから見えなくなると深い息を一つ吐く。あとは学校に資料を戻して終わり、これで家庭訪問の日程がすべて終了したのだ。
「ふー。何とか終わったわね。保護者の方たちもみんないい人だったしよかったわ。
結局コナン君と灰原さんのとこが一番スムーズに終わったわね。
引き止められなかったし。あっ光彦君の所もそうだったか。
でも、あそこは両親が教師だからなぁ」
終わった安堵からか独り言をこぼす小林先生。最後に阿笠に褒められたこともあってか
足取りも心なしか軽く感じる。
「さぁて、明日からは学芸会の準備か~。頑張るぞー!
……って光彦君が張り切ってるって言ってたわね。気を付けないと……」
~おまけ~
これは小林先生と話をしていた博士がコナンに呼ばれたときに起こったこと。
哀とコナンはリビングのソファーで並んで本を読んでいた。
コナンは当然推理小説で哀はファッション雑誌だ。
横目で先生と阿笠のやり取りを見ていた哀がコナンに話しかける。
「ねぇ、博士が」
「あん?ったくしょうがないなぁ。博士~これ何~」
「ふふっ、お上手」
「オメェな「なんじゃ?」……博士今引きとめようとしたか?」
「えっ?いや、先生の方が他にって聞いてきたから……」
「それは切り上げる時のお決まりの文句だよ。あとはお礼言って帰りたいんだ」
「そうね。それに先生さっきから時計をよくみてるし、何より十五分経ってるしね」
「……そうなの?じゃあさっさと帰ってもらった方がいいのかのぉ」
「ああ。それと最後に先生を褒めるのもいいかもな」
「そうね。褒められて悪く思う人もいないでしょうし、気苦労が絶えない教師の仕事をしてるのだから最後は気持ちよく終わって欲しいしね」
「ああ、分かった。それでは待たせても悪いしの……ああ、それはあとで教えてやろう」
小声での密談が終わると阿笠が小芝居を挟みながら先生のところに戻っていく。
それを見送ったコナンは哀に問いかける。
「また、ファッション雑誌かよ。子供がそんなの読むなよな」
「あら、知らないの?最近の子供は結構読んでるのよ?小学生向けのファッション雑誌だってあるし、小学の読モだっているんだから」
「へぇ、そうなの。だったら変に思われることもない……か?」
「まぁ、これは大人向けだけどね」
「おい」
家庭訪問編終了。まぁ訪問内容は秘密ですが。
……考えてないって訳じゃないですよ?
次話はこの日の夜の阿笠邸で。
残っている2章の内容はプロットをみるとこんな感じです
日常 学芸会準備編
事件編 託された真相解明(アニメだと本庁刑事恋物語2ってやつの再構成です)
日常 学芸会本番
日常 キャンプリベンジ
事件編 世紀末の魔術師
どこまでやるかは未定ですが。