後は三章が始まる前に完結させたい。
あの日、シンと輝く真っ白な木蓮の木の下で、彼に出会ってしまったから私は彼の為の作家になった。
私はその日は母に連れられてとある家に来ていた。
その家は広くてお昼寝するとっておきの場所があった。
でもその日は先客が居た。
木蓮の木の下で小説を読んでいる男の子がいた。
その姿はとても絵になるように綺麗だった。
でもそれは一瞬の出来事だった。
彼は読んでいた小説の端を千切って切れ端を口に含んだのだった。
その出来事に茫然としたがなんだか知れないけど一緒にお話をしたくなってしまった。
「あれれ~知らない人がいる~」
私はふざけた様に彼に近づいた。
「……」
彼は一瞬だけこちらを見たがすぐに本に視線を戻した。
「私の名前は乃木園子だよ~あなたは?」
「出雲暁人」
彼は素気なくそう答えた。
「じゃ、いずさんだね」
「でも、今日から上里暁人になった」
それだけだった彼との会話はこれで終わってしまった。
「暁人様、こちらにいらしたのですね」
そう言って仮面を付けた人が現れた。
「屋敷の中でも動き回れたら困ります」
「分かった」
彼はそう言って立ち上がり横を通り過ぎるときに呟て言った。
「見たでしょ」
たった、数分未満の邂逅だった。
それだけで私は最初に見た彼の光景が頭から離れなくなった。
異性なのに綺麗で切なげで触れてしまえば壊れてしまいそうに見えた。
だからこそまた話をしたいと思ってしまった。
彼に会うためにはお母さんを説得しないといけない。
「お母さん、また上里家に行きたいな~」
お母さんはにっこりと笑みを崩さずにそうねと言ってくれた。
会うのが楽しみだ。
でも、彼の瞳は悲しみにあふれていた。
私を見る目は憐れんでいるようだった。
彼の瞳には私はどのように写っているのか気になる。
だから私は彼に会いに行った。
「やっほーいずさん」
いずさんの部屋に入るといずさんは部屋の隅で呟いていた。
「赤の花は摘み取られ、青の花は芽に戻り、紫の花は散る」
その言葉は嫌な感じがした。
「それは何の詩?」
私の言葉を聞いたいずさんは静かに振り替えり答えた。
「回避することができない未来」
意味が分かんないよ。
「上里は巫女の家系で神託を聞くことができるけど僕はぼやけた映像と声を聞くことができる」
「じゃ、さっきの詩は神託なの?」
「そうだ、僕は文字でその神託を書くのが苦手だから詩になる」
彼はそう言って手に持っている本のページの端を破いて口に含んだ。
「美味しくない」
本は美味しくないと思うのだけど彼の顔にはページに味がついているような様子だった。
「何を不思議がっている昨日も見ただろ」
そう言って彼は冷めた目でこちらを見てくる。
「でも、本は食べ物じゃないよ」
「出雲家は大赦の書物を管理してきた一族でその中では僕みたいに本を食べる者もいる」
「ページには書き手の気持ちやその時の文章によって味も変わるし管理の仕方も変わる」
「じゃ、ご飯はそれだけ?」
「あぁ、毎日同じ文章で変わらない味を食べている」
だからその言葉を聞いたときに私は思った。
「じゃ、私が物語を書くね」
彼だけの書き手になりたいと思った。