「初めまして、出雲暁人です。視力が悪いので皆さんに迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
私の目の前でこの前会った彼は制服を着て軽くお辞儀をしていた。
お辞儀を終わった彼は見えない瞳でこちらを見て笑ったように見えた。
私にはそんな風に見えてしまった。
なんで彼はこの学校に現れたのだろうかそして新学期であるこの時期に転校してきたのだろうかと疑問が私の頭を悩ませた。
そして彼がやってきたことで私の放課後まで変わろうとしていた。
私と友奈ちゃんが勇者部に向かうと部屋から風先輩の話声が聞こえてきた、私たちは樹ちゃんと何かを話しているのかと思いながらも挨拶しながら部室に入ると彼は風先輩と樹ちゃんと談笑していた。
「友奈に東郷来たわね」
風先輩は私たちが来るのを待っていたようだ。
「今日からこの部に入る新入部員を紹介しよう!」
そんな風先輩の言葉と共に少しだけ空気が寒くなったと感じた。
「まぁ、紹介って言っても一人は前から参加してたから分かるけど私の可愛い妹、犬吠埼樹だ!」
そう紹介された樹ちゃんは少しだけ顔を赤らめて挨拶しながら頭を下げた。
「もう一人は今日転校してきた謎のイケメン転校生の出雲暁人」
「お二人はクラスが同じなので省略しますがこれからもお願いしますね」
そう言って微笑んだ彼は謎だらけで怪しいと思うのは私だけだった。
この日から彼も勇者部の一員として部活動に参加をしているが目が見えない彼の仕事はあまりないと思ったのだが彼に相談にのってほしい生徒が多くて彼は毎日誰かの相談を聞いていた。
「雰囲気が違うわね」
彼がいない場所で風先輩はそう口にした。
「何が雰囲気なんですか風先輩」
友奈ちゃんはそんな風先輩の呟きに反応した。
「暁人のことよ、彼の持っている雰囲気って周りの同年代男子より大人びてるのよね」
その言葉に樹ちゃんは力強く頷いていた。
「まぁ、そのおかげで彼の相談室は人気なんだけど」
私はここでやっと口を開いた。
「それでもあれほどの人気は以上ですよ」
「そうですね、僕も一人であれほどの人の相談を聞くのは大変ですから」
「そうよね、暁人の言う通りよね……って! いつからそこにいるの!」
いつの間にか彼は私たちの会話に参加していた。
「霊を見たような反応をしないで下さいよ、今日の相談が終わったので皆さんに差し入れを持ってきたんですよ」
彼はそう言って左腕を少し上げるとビニール袋を持っていた。
「春とはいえ暑いと思いましたのでスポーツドリンクです」
彼はそう言って私たちにドリンクを手渡していく。
「暁人を見てたら本当に見えてないのか疑いたくなるよ」
風先輩は冗談交じりで彼にそう言ったが彼はにこやかに笑いながら返す。
「見えませんよ」
そう言って彼はポケットから携帯を取り出して耳に当てて頷いてポケットにしまって笑顔でいう。
「迎えが来たみたいなので自分は今日はここで失礼します」
そう言って彼は杖を突きながら門の方に歩いていく。
車に乗った暁人だが車の中には誰も乗っていない。
彼はとある病室の中に居た。
「準備は順調かないずさん」
ベットに寝ている園子は隣に座っている小学生の暁人に話しかける。
「そうだね、彼女達との繋がりは出来たしアレが来たら彼女も讃州中学に送り込む」
「惨劇が起きる前に僕たちの精霊で夢の世界に閉じ込める」
「そこで選択をしてもらう」
「彼女たちの選択を僕は楽しみにするよ」
そう言って暁人は姿を消した。
静寂が支配する病室の中で園子はぽつりとつぶやいた。
「ごめんね」
その言葉が誰に向けて言ったのかは分からないが園子は涙をそっと流す。