わたくし簾木健はですね9月の1か月の間、実習に行くことになりまして・・・・1か月ほど投稿が出来ないことになってしまいました・・・・・・
楽しみにしてくださっている読者の皆様本当に申し訳ないです。
ただ1か月の間もちょくちょく息抜きで書こうとは思っていますので絶対に1か月後には投稿します!!ですから楽しみに待っていてください!!!
今後とも『無のメティス』をよろしくお願いします!!!!!
簾木 健
keizi side------
「ここよ」
琴羽に案内されながら夜の学校に入っていく。校舎の西側に回ると鉄格子に囲まれた簡素な扉がある。でもその鉄格子の戸は開けており、簡単にその扉に近づくことができる。扉を開けると、そこには非常用と思われる階段が続いていた。これを登っていくしかないわけか。それを登っていくと各階の扉はしっかりと施錠されていて校舎内に入ることはできなかったが、屋上の扉だけは開いていた。校舎の屋上にはガラス張りの屋内プールがあった。照明の類はさすがに点いていないが、今日はずいぶんと月が明るいので暗闇に足をとられることはない。
「来たみたいだな」
その声にタラリと背中に汗が流れるのを感じる。聞き慣れたはずの声が全く別物のように聞こえた。
makoto side--------
「来たみたいだな」
おれのその声に二人の顔が引きつる。
「悪いな。二人ともわざわざこんなところに来てもらって」
おれは二人にお茶のペットボトルを渡す。
「あ、ああ。ありがとう」
2人が茫然としながらそれを受け取る。おれはプールの飛び込み台に腰かけた。
「さてなにからはなそうか・・・・」
「真」
「なんだ沖原?」
「全部話してくれるの?今まで言い淀んでことも・・・・」
「もちろんだ。話すよ」
「・・・・わかった」
おれはふうっと息を吐き始めた。
「まずはおれのメティスについて話した方がいいな。おれのメティス・・・そのメティスネームは『ゼロ』じゃない」
「「・・・・えっ!?」」
2人が目を見開く。
「『ゼロ』はおれのメティスのテンプレートだ。ホントのメティスネームは・・・・・『フィーネ』」
「『フィーネ』?」
慶司が繰り返す。沖原は真剣な表情でおれを見てる。おれは一つ頷いてから続けた。
「そう。それがおれのメティスネーム。能力は・・・・・」
おれは一度言葉を切る。ここから先は完全に機密事項だ。
「能力は・・・・メティスパサーを破壊すること。ようは殺す能力だ」
「えっ!?」
慶司が驚きの声を出し沖原は目を見開く。
「その能力におれと菜緒さんがいた研究所を繋いだんだ」
「どういう・・・こと?」
「おれはメティスが発言する前、アメリカに住んでいた。家族と一緒にね」
この話はアメリカに居た時にしか自分ではしたことない。日本に来るときや来てからは菜緒さんや薫子さんが話を付けてくれたし・・・
「そういえば真の家族は?」
沖原が聞いてくる。なんとなく察しているのだろう。慶司も一緒らしく顔をしかめている。
「おれの家族は・・・・殺されたよ。メティスパサーに」
おれは自分の中にあるパンドラの箱を開ける。
「そしておれは・・・・そのメティスパサーを殺したんんだ。『フィーネ』を使ってな」
「「なっ!?」」
「おれは捕まって収容された。そしてメティスパサーってことで別の研究施設に連れていかれた」
懐かしい。思い出すのは本当に久方ぶりだ。
「そこでおれはモルモットにされていたんだよ。この辺の話はしたっけな・・・・」
おれはフウと一つため息つく。二人は黙ったままだ。さすがに二人は黙ったままだ。そりゃそうか目の前にいる同級生が人殺しだってことだもんな。
「さらにおれはそこで何度もメティスを使った。ただその時にはだいぶんメティスをコントロール出来ていてな、人を殺してしまうことはなかった。でもある日・・・・おれは・・・・過度のストレスと過労により・・・・オーバーコンセントレーションを起こした」
彼女のことが頭に過る。あの安心したような笑顔が・・・・・
「そしておれはまた一人の女の子の命を奪った。それは・・・・それは・・・・・」
おれはおれのブラックボックスの中にある最悪の記憶を掘り起こした。
「シルヴィアっていうおれの初恋の女の子だった」
沖原が口に手を当て息を呑む。慶司はさらに目を見開く。
「今でも忘れない。動くなる前におれを見て彼女が安心したように笑ったことを・・・・涙は枯れてしまったのにそれは消えない」
おれの目から一筋の水が垂れる。
「ただ彼女はおれと違って、かなりヤバい実験を何度もされていてシルビィアが日に日に追い込まれていたのは薄々わかっていたんだ。だからそれから解放されて彼女が安心して笑ったってことも・・・・・でもおれは彼女に生きてほしかった」
今でもうまく説明できない。こんな風になんだか感情を漏らすみたいになってしまう。自分の不器用さにむかっ腹が立つ。
「っ!!!!!」
そんなおれを沖原は突然抱きしめた
「真・・・・もういいよ・・・・」
その声は涙声。でもその中には芯のあるのがわかる。
「ああ。そういえばあの子もこんな子だった」
おれの初恋の女の子・・・・・ずっとおれが思い出すのをやめていた女の子・・・・シルヴィアはこんな風な女の子だったな。おれはそのまま少しの間沖原の肩を濡らし続けてた。
「ごめんな。沖原」
「いいよ。珍しい真も見れたことだし」
「っ・・・・・」
そういえばすごく恥ずかしいこと見られたな・・・・・そしてゆっくりと沖原から離れる。ちょっと名残惜しいが・・・・・
「真、いくつか質問していいか?」
慶司がおれが離れたのを見計らって手を上げた。
「ああ。構わないよ」
おれは涙を拭う。
「まずオーバーコンセントレーションってのはメティスが暴走することでいいんだよな?」
「まだ授業じゃ出てきてなかったっけ?まぁ簡単に言えばそういうことだ。極度にメティスに集中してしまい意識のすべてをメティスに支配される状態のことだ」
慶司はおれの答えになるほどと頷く。
「今は完全にメティスをコントロールしてるんだよな?」
「ああ。めちゃくちゃにメティスを使いまくらない限りは大丈夫なはずだ」
というかメティスのコントロールはその時から出来ていたんだよ。でもあの日はなぜかめちゃくちゃに酷使されたからな。
「次に真はその感じだといつ近濠先輩が言ったみたいな修行をしたんだ?」
「シルヴィアの事件前と後だな。おれのいた研究所におれの師匠に当たる人が尋ねてきたんだ。おれはその人に武術を仕込まれたんだ」
「その人は今は?」
「わからないんだ。たぶん生きてはいるんだけど放浪癖があってどこにいるかはさっぱり」
「真の師匠ってことは真より強いの?」
沖原がそこで口をはさむ。
「ああ。正直勝てる気がしない。てか戦うだけ無駄だ」
「そ、そんなに強いんだ・・・・・」
「あらゆる武術を修めていて、全く隙がない。下手したら世界最強かもってすら言われたし」
「すっごいヤバいこと言われてるんだけど真の動きを一回見てるからなんか納得できる自分が怖いよ」
「本当に納得」
二人の反応におれも苦笑いを浮かべる。
「てか二人ともいいのか?」
おれはそこで真剣な表情に戻る。
「えっ?」
「なにが?」
「いや・・・・おれのメティス怖くないの?」
おれの言葉に2人は顔を見合わせて笑った。
「大丈夫。真のこと信用してるから」
慶司が笑って頷く。
「絶対はないんだぞ?」
「いいよ。だって真だから・・・・信じてる」
沖原は笑いながらも真剣な口調でそう言う。
「・・・・・・そっか」
自然と笑みが零れてしまった。
「そういえばだけど琴羽のメティスはどんなものなんだ?琴羽もメティスパサーなんだろ?」
「あたしの?・・・・えっとじゃちょっとそっち向いてて」
「えっ!?なんで?」
「沖原のメティスはちょっと特殊なんだよ。いいからそっち向いといてやれ」
「ああ・・・・わかった」
おれと慶司が沖原から反対の方を見ている。するするとちょっとドキドキする音がした後ポチャンという音がした。
「えっ!?」
慶司もポチャンという音には気づいたようで振り返る。
「今プールに入らなかったか?」
「入ったな。でも大丈夫だよ。沖原だから」
「えっ?」
「5分くらい待ちなよ」
「5分!?。いくら琴羽でもそれは無理なんじゃ・・・・・」
「それが出来るんだよ。沖原にはな」
「まさか・・・それが・・・・」
「そう。沖原のメティス『マーメイド』だよ」
「そんなメティスもあるんだな・・・・」
「まぁな。ただおれのメティスと一緒で条件がそろわないと使えないから使い勝手良いメティスとは言えないよ」
おれと慶司はそんなことを話ながら沖原が泳ぎ続けるプールを見つめていた。
「さて、あたしのことを聞きたいんでしょ?慶司」
ひとしきり泳いだ後沖原は水から出て飛び込み台のところに座った。沖原の水着姿はとても素敵で濡れた髪が月明かりでキラキラと光っていおり神秘的なオーラすら感じる。
「・・・・・・髪重くないか?」
「そこからか!」
慶司もいつもとは違う沖原の姿に動揺しているようでその言葉一つ一つにはいつもような余裕がないのがおれにもわかるほどだった。
「ああ。まずそのメティスは・・・・『マーメイド』はそういうことができるメティスってことか?」
「真からメティスネームは聞いたんだ。そう、あたしの『マーメイド』は水中呼吸や身体にかかる水圧の軽減、水中での温度調整、果ては体に接触した水流の操作も可能な優れもの。メティスが発動し続ける限り、装備なしで深海潜行も可能。いいでしょ?」
「いいでしょって・・・・っていや、すごいけど」
「まぁ地上では大して役に立たないけど。そうね、タオル無しでも身体に付着した水分乾かしたり、逆にいつまでも水分を保って潤いを保つとか。しかもメティス使っているかどうかはMWI値でも測る機械でもない限りわからないの。こういうメティスでは珍しいことではないんだけどね」
「なるほど・・・・それが水泳をやめた理由?」
「うん。一回はそれでやめた・・・・まぁ今はもう復帰したけどね」
「え?また水泳部に入ってるのか?」
「ううん。入ってないよ。でも今だって泳いでたでしょ?」
「どういうことだ?」
「ほらあたしは負けず嫌いじゃん。だから、泳ぎだって誰にも負けたくないと思ってた。でも水泳強豪の西森館学園に行ってみてなんか違和感があったんだよね・・・・・なんか狭いなって」
狭い。沖原らしい言葉だと思った。慶司はさっきのおれの話と同じように黙って真剣な顔で沖原の話を聞いていた。
「そして私は『マーメイド』に目覚めてね。最初なんの冗談かと思った。・・・・・誰にも負けない能力を持つってことは誰とも競い合えないってことだったんだよ」
ああ。懐かしい。この辺からおれも知っているというか関わっている・・・・・てかこの話の感じだと・・・あの話するのか!?
「沖原・・・まさか・・・・」
「ごめんね真」
沖原が意地悪な笑顔を浮かべた。こいつ話すつもりかよ
「そんな時、私は薫子先生が来たの」
「汀さんが・・・・」
「うん。あたし自身が求めたものを実現するために、メティスは私の中に芽生えたんだって。だからこのことを皮肉に思わないでって。あたしが本当に求めたものが実現するのはこれからで、まだ結果は出てないんだからって。それを聞いて私は西森館はやめて澄之江にくることにしたんだけど・・・・・」
「うー」
なぜかそれを聞くと慶司が顔をしかめる。
「どうした慶司?」
「いや、琴羽が言いたいことは分かる。でもなんか釈然としない」
「慶司・・・?」
「だってそうだろ?確かに、琴羽が求めたものは本当は違うのかもしれない。でも、それでもだ・・・・それが水泳をやめる理由にはならないだろ?・・・・どうせならすべての記録を塗り替えて『あたしは誰の挑戦でも受ける』って高笑いしている琴羽が見たかった」
「ぷ」
「はは」
「なんだよ二人とも・・・・」
「ぷはははははっ。ちょっちょっと待って。慶司の中のあたしのキャラってそんなんなの?」
「ははははは。慶司の中の沖原、完全にキャラ崩壊してんじゃん」
「いや、高笑いは言い過ぎだとしても、琴羽は基本的に負けず嫌いだったじゃんか」
「確かに負けず嫌いだけは思うけどねー」
「そうだな。沖原はかなりの負けず嫌いだな」
「だろ?」
「でも残念。あたしはそうしなかったのよ」
沖原が遠い目で空をみていた。まるで昔を懐かしむような表情だ。
「で、私は澄之江に来たんだけど・・・・水泳を諦めきれずにいてね・・・・よくここに忍び込んでたの」
あーーやっぱりその話するのか・・・・・
「そしたらある人がここにやってきたの。私はいつもみたいに水の中で隠れてたんだけど・・・・その人、水の中にいるはずのあたしに気付いてね。出てこいって。それであたしが出ていったらそこには制服を着た男子が立ってたの」
おれの方を沖原が見る。慶司も気づいたようでおれのほうを見ていた。
「『気持ち良さそうに泳ぐな』ってその人は笑ってた。でもその時のあたしはまだ水泳をやめたことが引っかかっててね、そんなこと言われてつい頭に血が上っちゃってね。その人にめちゃくちゃ言っちゃったの。でもその人はそんな私に向かって言ったの。『ほんとに競うだけが水泳なのか?おれは今みたいに気持ち良く泳ぐのも水泳だと思う。てかそっちが本当なんじゃない?おれはさっき泳いでた君を少し見てたけどすごくきれいで見惚れたよ。たぶんだけど君にはそっちのほうが似合ってるよ』って」
「うわーーーー」
おれは頭を抱える。おれ初対面の人にこんなこと言うなんてどうかしてるだろ!?
「真、これマジなの?」
「たぶん・・・・」
「すっごいくっさいよね」
沖原がケラケラ笑い、慶司が苦笑いを浮かべる。
「もう嫌だ。死にたい」
おれは手で顔を覆い身悶える。
「でも、あたしはその言葉にすごく救われたの」
「そうなのか?」
「うん。そういう考え方もあるんだなって、しかも確かに私にはそっちのほうが合ってるなってさ。だからあたしは水泳で競うのはやめたの。今はどれだけ気持ちよく泳げるかのほうが大事かな」
「気持ち良くねぇ・・・・・」
「たまにはこっそり海でも泳いでたり・・・・・・」
「海!?もう寒いだろ!?いや、メティスで体温調整もできるって話だったな」
「うん。慶司と真にしか言ってないから風花にも内緒ね」
「はぁぁぁ・・・・真にしか言ってないって姫川を心配させたくないってのは分かるけどよ・・・・」
その時、フッと視界に光が写った。
「「っ」」
おれと沖原の顔に緊張が走る。
「どうした二人とも」
「見回りだ」
「真、今日言ってなかったの?」
「ああ。やばいな」
「普段はどうしてるんだよ?」
「おれは別に大丈夫だから、沖原には水中に隠れてもらって・・・・・」
おれはそこで気づく。そうだ、慶司のメティスは・・・・ただそれには確証はない。でも・・・・・
「沖原、慶司・・・・・水に入れ」
「「なっ!?」」
「たぶん、慶司なら大丈夫だ。おれも出来るだけ早く見回りを追い払うから」
「わかった」
「慶司!?」
「正直、時間ないだろ?真を信じよう」
そんな話をしている間にもだんだんと光は近づいてくる。慶司は完全に覚悟を決めたようで水の中にゆっくりと入っていく。沖原がおれと目をあわせ頷く、おれもそれに対して頷き返すと沖原も水の中に入っていった。おれは警備員からすぐにはわからない位置に移動を行う。
「バチャン」
慶司と沖原が水に入った音が響く。慶司は服を着ている状態でしかも急ぎながらでは音なく入水は出来なかったか。
「なんだ!!」
警備員がプールに駆け寄ってくる。さて慶司のメティスはこれではっきりするだろう。おれは気配と足音を消し警備員の死角に入りそこから軽く駆け出し警備員に声をかけた。
「どうかしましか?水の音がしましたけど」
「あっ神野さん。お疲れ様です。あれ?今日は入ってなかったですよね?」
「ええ。でもちょっと散歩がしたくて・・・・そんな感じでさっき見回りに入ったんです。それでさっきの水の音は?」
「いや、自分もよくわからないんですがもしかしたら誰かがプールに入っているのかもしれません」
無理に話を逸らすのは無理そうだな。どうっすか・・・・
「おれが気配探ってみましょうか?」
「そういえば、神野さんにはそれがありましたね。先輩に聞いたんですけど相当すごいらしいですね。じゃあよろしくお願いします」
よかった。この人おれの特技知ってるみたいだな。
「わかりました」
おれは目を閉じてマジで気配を探る。水の中に気配を感じるのだが・・・・
「・・・・・どうやらなにもいないみたいですね」
「本当ですか?」
「ええ。気配を感じません・・・・・もしかすると」
「・・・・マジですか?」
おれはコクリと頷くと警備員が青い顔になる。
「・・・・こっちのほうで調べておくのでこれは伏せといてください。噂になると色々問題なので」
「わかりました。お願いします」
「はい。では見回り頑張ってください」
警備員の人が会釈をし来たのとは逆の方に歩いていった。するとポチャと音がして二人が上がってきた。
「行った?」
「ああ」
「てか慶司すごいね。かなり息もつね。慶司こそ水泳部入りなよ」
「あ、おう」
おれは慶司の反応を見て確信した。
「慶司のメティスはメティスをコピーするメティスで間違いないな」
・・・・・おれのメティスは絶対コピーさせるわけにはいかない、こんな悲しみしか生まないメティスもコピーさせるわけにはいかないんだよ。おれは月を仰いだ。
感想、質問などじゃんじゃん募集しています。
例え忙しくても感想のお返事は返そうと思っていますのでよろしくお願いします!!
ではまた!!