カミカゼエクスプローラー 無のメティス   作:簾木健

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遅くなってすみません。かなり最近忙しいもので・・・・・


でも絶対投稿はするのでよろしければのんびりと楽しみに待っていてください!!


学園初日 1

ジリリリリリ・・・・・・・

 

聞き覚えのない。目覚まし時計の音・・・・

 

「航平・・・・目覚まし変えたのか?」

 

おれは目を開けずに聞く。

 

「悪い真、俺の目覚ましだ」

 

聞き慣れてない声・・・・そういや、慶司が転入してきたんだった。

 

「いや、てことはそろそろ準備する時間ってことだろ・・・・航平は・・・・・」

 

「ぐがー・・・・・・」

 

このいびきは非常に聞き慣れている。

 

「・・・・おい、起きろ航平。朝だぞ、起きてくれ」

 

「ぐ・・・・・ぐがー・・・・・」

 

慶司ががんばっておこそうとするが航平は一向に起きない。

 

「慶司あんまり起きないなら起こさなくても・・・・・」

 

「おっぱいが!?」

 

「いや、おっぱいってどこから出てきた・・・・」

 

跳ね起きた航平が、きょとんとした顔で慶司の顔を見ている。

 

「だ、誰?なんで真以外の人がここに・・・」

 

「昨夜、おまえと真のルームメイトになった速瀬慶司だよ。おはよう」

 

慣れてないとそうなるんだよな・・・・おれも入ったばっかのとき航平に言われたし。

 

「お、おお・・・ルームメイト・・・・おおお・・・・」

 

ただ航平は思い出せないのか、まだキョトンとして慶司を見ていた。

 

「・・・・思い出せないなら、おれがぶん殴ってやろうか?」

 

「うおっそれは大丈夫だ真!慶司、覚えてる!おはよう、心の友よ!!」

 

「おまえ本気で忘れてただろ!」

 

慶司が激しく突っ込む。・・・うん、おれもそういえば最初激しく突っ込んだよな・・・・

 

「ち、違う!夢のせいなんだ!急におっぱいが規制されるって聞いて、俺はもう気が気じゃなくてっ・・・・」

 

何言ってんだこいつ・・・・ああ、航平だから仕方ないか・・・・おれはあきらめて準備に取り掛かる。

 

「おっぱいが青少年の健全な育成を阻害するなんておかしいだろう!?むしろ、おっぱいなくして青少年が健全に育つはずがないっ!!立ち上がれ若者よ!!おっぱいをその手につかむのだ!!おっぱいの自由を侵害されてはならぬ!!」

 

「落ち着け、航平。それはおまえの夢の中の話だ」

 

慶司が航平を宥める。慶司本当に優しいな。おれなら確実に放置だな。

 

「お、おお・・・・そうか・・・ふぅ・・・」

 

「航平落ち着いたのならはやく準備しろ。慶司はここでははじめての朝だ。色々教えてやらないといけない」

 

「そうだったな。よしわかった、俺と真ですべてレクチャーしてやろう」

 

「うん。二人ともよろしく頼む」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

------keizi side

 

真と航平の案内で寮の食堂で朝飯を済ませたりしつつ、まだ着慣れない新しい制服に着替えて学園にやってきた。今日は転校初日なので教室には向かわず、職員室で朝比奈先生と落ち合う。

 

「そういえば、昨日さっそく一騒動起こしたと聞いたが」

 

「ま、巻き込まれただけです・・・」

 

「ハハハ、騒動結構。私は大人しくしてるヤツより、活動してるヤツの方が好きだね」

 

「活動と騒動は一緒にしない方がいいんじゃ・・・」

 

「細かいことを気にするヤツだな。早く老けるぞ?」

 

「ほっといてください」

 

 

――――ガラガラ

 

「静かに。委員長、号令」

 

「起立、礼」

 

おっ姫川の声だ。

 

「「「「「おはようございます」」」」」

 

「着席」

 

「うん、おはよう――――もう知ってい者もいると思うが、今日から我が2年A組に新しい仲間が加わる―――速瀬、入れ」

 

「はい」

 

ドアを開けて教室に入っていくと、好奇に溢れた視線が俺に集中した。すでに俺を知っている航平がなぜか自慢げな顔をしていたり、姫川がにこにこしながら小さく手を振っていたりする。よく見れば琴羽もヤレヤレと言った様子で苦笑しているな・・・・そこでもう一人の知り合いがいないことに気付く。一緒に寮を出たはずなのになぜか教室にはいない。同じクラスって言ってたよな?

 

「えー、彼が転入生の―――」

 

「浜北航平ですっ!!」

 

朝比奈先生の紹介を遮って、航平がしゃっきりと立ち上がった。宣誓するかのようにピシリと片手をあげたままの航平の元へ、無言で朝比奈先生が近寄り、そっとその額に手を触れる。

 

「いだだだだだだだだだだだだだだだだっ、あ゛あ゛あ゛あ゛、アイアンクローはっ、アイアンクローはぁっ!」

 

「反省したか?浜北」

 

「反省しましたっ、反省してますっ、ギブっ、ギブっ」

 

そこで朝比奈先生が手を緩める。まぁ自業自得だよな・・・

 

「はぁっ、はぁっはぁっはぁっはぁっ・・・・・」

 

「転入生の紹介の邪魔をするな」

 

「は、はい・・・・つい、出番が来たかと、思ってしまいまして・・・・」

 

「思うな。おまえの出番じゃない。いいか?お・ま・えの出番じゃないぞ?わかったか?」

 

「・・・・ち、貧乳が」

 

「ぬがががががががががががっ、あ゛あ゛、あ、アイアンクローはっ、アイアンクローはぁっ!」

 

バカがいる・・・・・

 

「ふぅ・・・すまないな、騒がしいクラスで」

 

航平がドサッと崩れ落ちる。そりゃそうだろ・・・・

 

「では改めて彼が転入生だ。自己紹介をお願いできるか?」

 

「はい・・・え――・・・」

 

俺が自己紹介をしようとしたその時、ガラガラとドアがあいた。

 

「あれ?慶司の紹介まだ終わってないの?」

 

キョトンとした目で俺を見据えているのは今日一緒に寮を出たルームメイトだった。

 

「おお、神野。風紀委員の事情聴取は終わったのか?」

 

朝比奈先生は事前に聞いていたようで入ってきた真に何事もなかったかのように話しかける。

 

「ええ・・・って航平のやつまたなにかしたんですか?」

 

「まぁな・・・・・正しい犠牲だ」

 

「どうせまた先生の胸の話でもしたんでしょう?」

 

真が苦笑する。

 

「ふん・・・・胸が小さいからってなんなんだ・・・」

 

ああ・・・・朝比奈先生拗ねてるし・・・こうなると長いんじゃ?すると真が俺を見てニヤリと笑った。

 

「おれは小さい胸もすごくいいと思いますよ?」

 

「本当か!?」

 

朝比奈先生が真を素早く見る。

 

「ええ。その良さに気付かない航平がくそなだけです。ですから先生そんなにへこまないでください」

 

・・・・手馴れてやがる。俺は真を見ながらそう思った。

 

「ハハハ!!そうだろ!!!!しかも言われたのがあの神野だと説得力が違うな」

 

「あの神野?」

 

おれはその言葉が引っ掛かる。真のやつなんかしたのか?

 

「航平のことなんかよりとりあえず慶司の紹介しないと・・・慶司頼む」

 

「あ、ああ。」

 

なんか朝比奈先生よりよっぽど真のやつが先生みたいだ。

 

「えー、今日からこのクラスでお世話になります―――浜北航平です」

 

「俺かよ!!!―――あだだだだだだだだだだっ!ちょっ、まっ!慶司がっ、慶司がボケたから、俺はっ!あだだだだだだだだっ」

 

「ごめん。なんか流れ的にボケたほうがいい気がして・・・・せっかくだし・・・」

 

「うむ、お心遣い痛み入る――あだだだだっ!痛い痛いっ、も、もう黙りますから!マジで黙りこくりますからっ!」

 

ドサッと音を立てて航平がまた崩れる。

 

「今回はルームメイトに免じてこんなもんで許してやろう。ふぅ・・・手が疲れた」

 

朝比奈先生、案外航平はお気に入りの生徒だったりして、航平にしてもこうなるのがわかっていてやってるようだし、あの真の止め方もいつも通りということだろう。―――ただ航平だけはそこまでやられるのが『おいしい』と思っている可能性が高いが。

 

「では改めまして、速瀬慶司です。よろしくお願いいたします。以前の学校では――」

 

俺は気を取り直して、いかにもで無難な転入生の挨拶をし、拍手をもらった。オイシイところは航平が持っていった感が否めないが、別に目立ちたいわけでもない。こんなところで充分だろう。

 

「ご苦労。座席はクラス委員の姫川の隣だ。ちなみに偶然とか運命の糸などではなく、世話を焼くヤツの近くの方が都合がいいだろうという配慮だ」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・?」

 

いや、ぶっちゃけそこまで言わなくてもいいのでは。見れば姫川は全く気にした様子もなく、こっちこっちと笑顔で手招きしていた。・・・・・まぁ、いいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

「転入生もいることだし、今日のメティス概論は簡単なおさらいとしよう。姫川、速瀬に教科書を見せてやってくれ」

 

姫川が慶司の机に自分の机をくっ付ける。これはなかなか・・・

 

「慶司のやつ完璧にデレデレね」

 

おれの隣・・・・沖原がおれだけ聞こえるように言ってくる。

 

「まぁ仕方ないんじゃないか?大体知ってるんだろ?」

 

「まぁ・・・そうなのよね・・・・」

 

沖原はおれがなにを言いたいのかわかったらしく苦笑している。

 

「《メティス》とはかつて一括りに超能力と呼ばれていたものの一つだと考えてもらっていい」

 

そんな中、洋子さんの授業が始まる。この人の授業かなり良いんだよな・・・おれの好きな授業の一つだし、たぶん学園でも洋子さんほどわかりやすい授業をする先生は少ないと思う・・・・本当にいい先生なんだけどな・・・・

 

「その名の由来はギリシア神話の知恵の神でな、意思の力と能力の発言に深い関わりがあるとわかった頃からこの名が広まった。いまだ詳しいことはわかっていないが、発言する《メティス》の種類も、個人個人の意思に応じていると考えられている。一番有力な説は『欲求』だな。たとえば去年の卒業生の中には、自分の周囲を無音にする《クワイエチュード》というメティスを使う者がいたが、メティスに目覚めるまでは不眠症に悩まされていたそうだ」

 

おれはそこで改めて二人を見た。そうそこがおれの一番今気になっている部分だ。姫川のメティス・・・《アイギス》は姫川の持つ強い意思・・・・大切ななにかを守りたいというもので発現したメティスだ。確かに慶司はあの状況でみんなを守りたいと強く思ったかもしれない・・・・でもそれだけで《アイギス》が手に入るなら、紛争地域にいるメティスパサーの何割かは《アイギス》を発現することになっていたはずだろう。でも現在《アイギス》を使えるのは全世界で姫川風花ただ一人。ほかに盾を生み出すメティスパサーは多くいるが《アイギス》はたった一人だ。先生が言ったようにメティスは欲求によって発現するというのが一番有力なのだからそうなることは必然のはず。一言に守りたいと言ってもそれは人それぞれで多種多彩な意味を持つ。それが形成されるのだから一人一人異なる《メティス》になる。でも慶司は違った。確かに《アイギス》を使ったのだ。

 

「正直可能性が低いだけであり得ないことではないのかもしれない」

 

ほかに事例がないだけであり得るのかもな・・・・今度菜緒さんに頼んで資料か論文か持ってきてもらおう。でももし別に《メティス》だったなら慶司の《メティス》はどんなものなんだ?慶司の《メティス》の条件・・・・姫川の《アイギス》を使えるような能力ということだ・・・・そうなってくると《アイギス》は空気を圧縮して盾を作る能力だから、空気を操るメティス、もしくは・・・・・いや、こっちはありえないな・・・・でも・・・おれは慶司が航平の手を取って言っていたこと思い出した。

 

「こっちのほうが府に落ちるんだよな・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----keizi side

 

 

メティスネームか・・・・どうやらそれのおかげでメティスパサーは能力の制御を行っているらしい。

 

「俺のメティスネーム・・・・・」

 

俺はあの時確かに『アイギス』と叫んで、《アイギス》を使った。だが、なんだろう。俺の持つメティスは《アイギス》ではないように思う。俺があの時《アイギス》を使えた理由と、今《アイギス》を使えない理由がそこにある気がする。姫川の《アイギス》、祐天寺の《プロミネンス》、宇佐美先輩の《アンブラ》、江坂の《ダビデ・ストーン》、海老名の《パペット・イン・ザ・ミラー》、そして真の《ゼロ》――――じゃあ、俺の能力は?俺の《メティス》は一体・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

その時ふと、指先でシャープペンシルをくるくるとまわす琴羽の姿が目に入った。そういえば、あいつも《メティスパサー》なんだろうか。俺が知っている限りでは琴羽は水泳の実力が認められて、水泳の強豪校・再森館学園に推薦入学したはずだ。それが確かなら、琴羽もまた澄之江には途中編入してきたことになる。

 

「聞いてない?澄之江学園って普通の人でも入学できるけど、基本的には途中編入受け入れてないの。例外は、『メティスパサーと認められて学園側からの勧誘を受けた人』・・・・・」

 

姫川の言った言葉・・・・つまり、琴羽は『メティスに目覚めたので、水泳をやめて澄之江に来た』と考えるべきか。負けず嫌いなあいつのことだ。そのことにコンプレックスを持っているのかもしれない。まぁ想像で考えても仕方ないか。琴羽はあの時なにも言わずに行ってしまったから、西森館学園云々はあとから琴羽のおばさんとかに聞いた話だしな・・・・。今度、琴羽に直接聞いてみるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----makoto side

 

 

「さぁって、おっひる、おっひる~♪」

 

姫川のやつかなりご機嫌だな・・・・あいつそんなにお昼楽しみにしてるようなやつだっけ?

 

「速瀬くん、一緒に学食行く?」

 

「お、そりゃあ助かるな。うん、是非」

 

「フフ、よかった」

 

こりゃ・・・おれの助けはいらないな。それなら航平と・・・・

 

「慶司~、学食行こうぜ~!」

 

「なっ!?」

 

「風花~、お昼~」

 

「ななっ!?」

 

・・・・あいつら本当にすごいな。おれにはあの二人の空気には割って入れない。でもまぁとりあえずおれも航平と沖原に便乗しとくか

 

「慶司、おれも一緒に飯行っていいか?」

 

「おお、もちろん・・・・てかなんで航平はこんなにおびえてるんだ?」

 

「それは当事者に説明してもらえよ。な、沖原」

 

「ちょっ、真!!あれはあたしは悪くないでしょ?」

 

「まぁ確かにあれは航平が悪いが・・・・あそこまですることはないだろう・・・・・」

 

おれは遠い目で思い出す。あれを見ていた男子の全員があそこを押さえたのは懐かしい。

 

「前にね、浜北くんがふざけてセクハラ発言してぇ・・・・琴羽ちゃんが蹴りばしちゃったの?」

 

誰も説明しないので姫川が説明してくれるさすが委員長。

 

「ちょっと風花。その説明じゃ、あたしが単なる暴力女みたいじゃない。だいあたいあってるけど」

 

「そうだぞ、いいんちょ。だいたい俺がしたのはセクハラ発言なんかじゃない。ちょっとそのでかいおっぱいを揉んでみたいと言っただけだ!」

 

「立派なセクハラ発言だろ」

 

「だよね!?その上、なんか手をわきわきしながらジリジリにじり寄ってくるから、思わず―――股間を蹴り上げちゃって・・・・・」

 

「あぁ・・・・」

 

慶司がなんか納得したようにうなずく。

 

「あれは見ていた全員が股間を押さえたよ」

 

「確かに琴羽の蹴りを見たらそうなりそうだな・・・・・」

 

「違うんだ。俺は紳士だから、本当に触るつもりなんかなかったんだ。ちょっとしたお茶目のつもりだったんだ。だが・・・それは結果として、二週間に及ぶ不能状態を俺にもたらすことに・・・・・それ以来、俺の身体は勝手に沖原を避けるようになってしまってな、決して沖原を嫌うつもりはないのだが、無理だ。半径2m以内には入り込めない」

 

「なんだ。それじゃ琴羽はむしろ安全になったってことじゃないか」

 

確かに・・・・慶司うまいこと言うな。沖原もそう思ったようで笑顔を浮かべた。

 

「なるほど、そういう考え方もできるか。蹴り上げた甲斐があったね」

 

「うむ」

 

「うむじゃないっ!くそうっ、仲いいな幼なじみめっ!」

 

なんか慶司が来ていいな。さらに周り明るくなった・・・・・ただ次の言葉でその空気が氷ついた。

 

「・・・・不能状態って、なにが不能だったの?」

 

「「「えっ!?」」」」

 

姫川のやつ・・・・さすがにそれは・・・・・

 

「さて姫川、学食に連れていってくれるんだろう?行こうぜ」

 

慶司のやつナイス。

 

「そうだな。姫川そろそろ腹減ったよ」

 

「んじゃあたしも一緒に。ほらほら風花、行こ行こ」

 

「う、うん、でもなにが」

 

「いいから」

 

沖原強引に姫川を連れていった。

 

「航平はどうする?沖原も一緒になってしまったが・・・・・」

 

「うむ、いいんちょにさらに質問されても困るので、今日は遠慮しておこう。真は行くのか?」

 

「ああ。悪いな航平・・・」

 

「いいよ。うんじゃ慶司もまた今度な」

 

「おう」

 

そういうと航平も言ってしまった。

 

「うんじゃ慶司おれたちも行こうか」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

----keizi side

 

「おお、結構広いな」

 

「だろ?それに結構おいしいんだ」

 

「へー」

 

「あ、沖原先輩、こんにちは~」

 

「こんにちは~」

 

「ん、こんにちは。今日はなにがおいしかったかな?」

 

俺はは目を見開いて驚いた顔でそれを見ていた。

 

「・・・・な、なにごと」

 

「昨日もちょっと言ったけど、琴羽ちゃん人気者だから・・・それに今日はそれだけじゃなくて・・・・」

 

「それに?」

 

「あっ!神野先輩。こんにちわ!!」

 

「おう。こんにちは」

 

「神野先輩!!今日は学食ですか?」

 

「ああ。なんかボリュームがあるものなかった?」

 

「ありましたよ・・・・えっと・・・・」

 

「こっちもなのか?」

 

「うん。神野君もすごく人気者でね・・・・」

 

「人気者って言ってもこれは・・・・」

 

本人の聞こえないところで、噂をされているようなレベルを遥かに超えてるじゃないか。琴羽と話していた下級生の女の子も真と話していた男の子の下級生も二人がはなれていくのを羨望のまなざしで見送っている。二人ともそんなキャラだっけか?特に琴羽はそんなキャラじゃないだろ?

 

「ごめんごめん。待たせちゃったね」

 

「こっちも悪い。待たせた」

 

「・・・・・・」

 

「ん?」

 

「どうした慶司?」

 

でも、まぁ確かに・・・・胸も大きくなったし、髪も長くなったし顔立ちって以前より―――真ほ方は顔は普通だ。たぶん多くの人が可もなく不可もなくと答えるだろう。でも真は身に纏ってる雰囲気が正直普通じゃない。なんというか周りを圧倒してしまうものがあるし、それに憧れる人も確かに分かるなぁ・・・・

 

「なによ、慶司」

 

「本当だぞ。どうした?」

 

「い、いやっ」

 

「その人気ぶりを見て、琴羽ちゃんのかわいさと神野くんの凄さを見直す速瀬くんなのであった」

 

「あ、なるほど。あたし、結構かわいくなったでしょ?」

 

「ばっ、なに言ってんだ。・・・・確かに胸は大きくなったけど、それは昨日も言ったか」

 

「そこだけ!?もっとこう、色々あるでしょ?」

 

「ねーよ。それより真、俺真がこんなに人気者だって知らなかったんだけど?」

 

「そんなことはないぞ。ただ色々あって少し有名になっただけだ」

 

「色々?」

 

「神野くんが《メティス狩り》って言われてるときにね、メティス使われて困っている人を助けたんだってそれで神野くんはメティスを持ってない子たちの憧れの的になってるの」

 

姫川の言葉に真は恥ずかしそうに頬を掻いた。なんか真が照れてるところって新鮮だな。

 

「いやいや・・・・ただ・・・・」

 

『あーあー、マイクテス、マイクテス。12:20、放送室占領完了。繰り返す12:20、放送室占拠完了』

 

「は?なんだ?」

 

「本当だな・・・・でも今のは菜緒さんの声だ」

 

「そういえば真昨日もその人の名前を出してな。誰なんだ?」

 

昨日、速瀬くんもちらっとだけど会ってるよ?近濠菜緒先輩。ほら、祐天寺さんと一緒にいた」

 

「・・・・・ああ、あのちっちゃい先輩」

 

「慶司・・・それ絶対本人の前で言うなよ。あの人怒らせるとヤバい相手だからな」

 

「お、おう」

 

真の目が完全にマジだ。あの人そんなにヤバい相手なのか?

 

「放送室を占拠ってからには、なんかやるのかな。ゲリラライブとか?」

 

「バンドとかやるタイプには見えなかったが・・・・」

 

「確かに菜緒さんはそんなことやってなかったと思うが・・・・・」

 

『お嬢様、どうぞ』

 

『生徒諸君、わたしは1年B組の祐天寺美汐です。みなさんの貴重なお昼の時間ではありますが、ほんの少し、わたしの言葉に耳を傾けていただければ、と思います。さっそくですがみなさんは、この澄之江での学園生活をどのようにお過ごしでしょうか。不安や、悩み、誰にも言えない困りごとを抱えていませんか?誰だって一つや二つの悩み事は抱えているものです。本来ならばそんな悩みは、自分や自分の周りの人たちで解決し、乗り越えていくものなのかもしれません。ですが、我々が生活の場としているのは、数多くの《メティスパサー》がいる澄之江学園です。《メティス》は素晴らしい力ですが、それが力である以上、使い方を誤れば大変な事態になりかねません。その悩みも《メティス》が関わることにより、自分や自分の周りの人たちだけでは、解決しきれないような事態になってしまうこともあるでしょう。我々は先日、ある二人の《メティスパサー》同士のケンカを仲裁いたしました。ただのケンカであれば我々が出ていくまでもなかったと思います。ですが、彼らは自らの《メティス》を用いて、大きな破壊行為に繋がることも辞さずにそれを行いました。我々はなんとかケンカを仲裁することができましたが、結果として、建設現場の一部が破壊されるという事態を食い止めることはできませんでした。事態が起きてからでは遅いのです!我々はそれを未然に防ぎたい!だから、そのための組織を設立することにいたしました。みなさんの不安、悩み、困りごと・・・・なんでも構いません。我々に解決のお手伝いをさせてください。この活動は、みなさんの学園生活をよりよいものにしていくことに繋がるでしょう。そしてそれは、この澄之江学園が目指す、《メティスパサー》の健全育成にももちろん繋がるはずです・・・・・・・《アルゴノート》。我々はこの組織をこう呼称することにいたしました。みなさんの悩みを教えてください。我々が必ず解決して見せます。みなさんの”金羊毛”は我々《アルゴノート》が見出すことを約束いたします!以上』

 

祐天寺さんたちの放送が終わると、学食内は騒然となった。おそらくは学園中が同じような状態になっているだろう。

 

「祐天寺ってあの祐天寺でしょう?お嬢様の気まぐれってヤツ?」

 

「でも、昨日ケンカしてた男の子たちって、先生たちもずいぶん手を焼いてたらしいよ」

 

「そうそう、その前もね、カツアゲとかしてた人たち懲らしめたって」

 

「そういえば昔の映画であったよね。お金持ちが道楽で正義の味方始めるやつ」

 

「本人が道楽でもさ、正義の味方になってくれる人がいるのってよくない?」

 

「そうだよね、困るのは悪いことする人だけだもんね」

 

学食内のあらゆるテーブルから、そんな会話が聞こえてくる。祐天寺のお嬢様に訝しむ声もあるが、自分には関係ないから『あってもいい』と考えている人が多そうな気配だ。

 

「はぁ、それにしてもびっくりしたね」

 

「沙織先輩、また怒ってるんじゃないの?」

 

「完全に怒ってるだろうな・・・・・」

 

そんな話をしながらそれぞれ買った昼飯を持って空いていた席に着く。

 

「こういうことが頻繁にあるってわけじゃないのか」

 

「アハハ、さすがにこんなことはそんなにないよ~。昨日みたいな危ないこともね」

 

「あんなのしょっちゅうあったら人死に出るって」

 

「まったく洒落になってないな・・・・」

 

それに頷きながら真は買ってきたラーメンを食べている・・・・しかもその横には炒飯とトンカツにご飯が置いてある。真・・・・どんだけ食べるんだよ・・・・

 

「そういえばさ、さっき祐天寺さんが言っていた『ごーるでんふりーす』ってなに?」

 

「ああ、《アルゴノート》って言ってたから、それに引っかけたんだな。アルゴノートってのは、ギリシア神話に登場するイアソン率いるアルゴー船の乗組員のことでさ、時の映雄たちがわんさかいたんだ。んで、そのアルゴー船の旅の目的っていうのが、コルキスにあるとういう金の羊毛、つまりGoldenFleeceを手に入れてくるって話」

 

「へぇ~。アルゴー船っていうのは私も聞いたことあるかも」

 

「慶司はそういうの詳しいよね?」

 

「う~ん、そうでもない。雑学程度に表層だけ知ってる感じかな。特にアルゴー船の話は、細かいエピソードとか、どの英雄がどこでどうしたって方が重要なはずだし」

 

「詳しいよ慶司。補足するとその乗り込んだ英雄たちはアルゴナウタイって言われてて、有名なのはヘラクレースとかだな」

 

「真・・・なんでそんなこと知ってるのよ」

 

琴羽があきれ顔で真を見る。

 

「昔色々と本を読んだからな。結構詳しいぞ」

 

「あ、そうそう、思い出した。アルゴー船って、昔星座だったんだけど、大きすぎてバラバラになっちゃったヤツだ」

 

「なにそれ?」

 

「あのね、帆座とか羅針盤座とか・・・・・あとなんだっけ?なんか四つくらいに分けてんだって」

 

「あとは竜骨座と艫座かな。姫川、よくそんなの知ってたな」

 

「ほんとだ。普通そんなこと知らないぞ」

 

「授業で星座の話やった時に、先生がすっごく楽しそうにそんな話してた」

 

「・・・・そういう先生いるけどさ、普通覚えてないよね。そういう話ってテスト出ないし」

 

「琴羽ちゃんは授業中に寝てるから、先生の話覚えてないでしょ。ダメだよ、人のノート写すだけじゃ・・・」

 

「はっ、本当に申し訳ありません」

 

「仲良いな、おまえら」

 

おかげで祐天寺さんたちの話も、あっさり流れていった。大方、他のテーブルの生徒たちも同じような状況なのだろう。いそいそと食器を片づけていたり、午後の授業の話題も聞こえてきている。まぁ、『自分には関係ない』というのがやはり大きいのだろうな。

 

 

 

 

 

 

だが――――もちろん無関係ではない人間は、この事件を適当に流してしまうことなどできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ・・・・・

 

 

「で、放送の件で風紀委員から話があると?」

 

教頭先生が言う。

 

「そうです、こんな勝手が許されていいんですかっ!?」

 

これは沙織先輩だ。

 

「祐天寺美汐、近郷菜緒、景浦智の三名に対する懲罰が必要です!」

 

「うーん、宇佐美さんの気持ちはわかるけど、ほら、うちの学園はちょっと特別でしょ?《メティス》には《メティス》が一番っていうか」

 

これは風紀委員会の委員長である

 

「だから風紀委員に《特別取締班》があるんじゃないですか!」

 

「でもほら、人手は多い方がいいっていうしさぁ。生徒同士でトラブル解決ができればそれにこしたことないし」

 

「それでは、一般生徒に風紀委員会と同じ権限を与えることになります。だいたいどうしてこの緊急時に委員長がここにいないんですか!?」

 

「いやぁ、今日は商店街でポイント3倍のタイムッサービスがある日だから♪」

 

「うぅぅぅぅぅ・・・・・全然やる気ないじゃない・・・・」

 

そこにいままで黙って聞いていた朝比奈先生が口を開いた。

 

「ふむ・・・つまり宇佐美は、警察力は風紀委員だけが持つべき、と言いたいのか?」

 

「当たり前です。どうしてもトラブルを解決したいのなら、風紀委員会に入ればいいじゃないですか。それに校則にも結社を禁じるって書いてあります!」

 

「なるほど」

 

「ならクラブ活動としてならどうだね?」

 

そこで今度は教頭先生が思いがけないことを言った。

 

「はっ!?」

 

「いや、実はな宇佐美くん。新規クラブ活動としての申請が出ているんだ。登録名称《学園都市調査研究会》。活動内容は『学園都市内にある各種問題を調査し、可能な限りこれを解決する』だそうだ。依頼の内容も学園の規則に抵触しないものであることなど細かく決められているみたいだな」

 

「《学園都市調査研究会》ですか。なぁんだ、それならすべて解決じゃないですか」

 

「そ、そんな・・・・!。!?クラブ!クラブ活動というなら、顧問の先生が必要なはず!そんなクラブに顧問の先生なんて――――――」

 

「・・・・・すまない。近濠に頼まれて、顧問を引き受けることになった」

 

「朝比奈先生!?せ、先生はさきほど、私の考えになるほどとうなずいてくれたじゃないですか!」

 

「ん?ああ、確かになるほどとは言ったが、『なるほど、宇佐美の考えはそういうことか』と思っただけだぞ?」

 

「~~~~~~~ッ!!」

 

「だが、放送室の占領はやり過ぎだな。顧問として、厳重に注意しておこう」

 

「で、でしたら委員長、彼らが校則をちゃんと守って活動できるか、《特別取締班》に監視させてください!」

 

「ああ、それくらいは宇佐美の顔を立ててやらないとな」

 

「うん、先生がいいなら僕はそれでも」

 

「それでは今回の件はこれにて。宇佐美くんもくれぐれも穏便にな。熱心なのはいいが、君は少しやり過ぎるきらいがあるようだ」

 

「・・・・わ、わかりました」

 

こうして《アルゴノート》は監視されることになった。

 

 

 

 




今回も多いなぁ・・・・・しかも真が活躍しないなぁ・・・・


みなさん、ご意見、ご感想心よりお待ちしております

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