カミカゼエクスプローラー 無のメティス   作:簾木健

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うーん・・・・文才がないのがすごく悔しいですね。これできちんと表現できているかなと不安ばかり・・・・・

でも、早いタイミングで投稿できてよかった。

今回も楽しんで読んでいただけるうれしいです。

簾木 健


想い

makoto side―――――

 

「久しぶりだな神野。お前にこんな風に呼び出されるなんて」

 

「まぁ、確かにそうだな。学園に入ってからは一度もなかったからな」

 

おれはそう言ってコップに入ったジュース(?)を一口煽った。

 

「で?なにがあったんだ?神野?」

 

「・・・なにかないとこんな風に呼び出したらダメなのか?洋子ちゃん」

 

おれと一緒にいたのは朝比奈洋子。おれがアメリカから日本に来てからずっと関わってきた人。

 

「いや・・・別に構わないが・・・・お前がなにもないのに私を居酒屋に呼ぶことはないだろ?」

 

「・・・・・偶にならいいだろ?」

 

理由はある。でも、それを話しすか、どうか・・・・そんな風に悩んでいると洋子ちゃんはビールを一気に飲み言った。

 

「・・・・・そういえば、あの話は近濠から聞いたぞ」

 

「えっ!?」

 

「お前がなんのためにあの研究所にいて、あとはシルヴィアのことだ」

 

「っ!・・・あの人は・・・」

 

なに新たな傷口を風評してんだよ。

 

「で?そのことなんだろ?」

 

洋子ちゃんがフッと笑う。この人は本当に・・・・・

 

「・・・・ハァ」

 

おれは一つ諦めるためにため息をついた。そしてまたジュース(?)を煽る。

 

「・・・・・おれはどうしたらいいんですかね?」

 

「・・・・・フフ」

 

おれの質問に洋子ちゃんはなぜか笑みをこぼした。ちょっとイラッとする。

 

「なんで笑ってるんですか?」

 

「いやなに、お前がこんなにも年相応なことを悩んでいるとはと思ってな」

 

「なっ!?」

 

「出会ってからいままで一番といっていいほど、年相応な悩みだな」

 

「・・・いつもはどんな風に思われてんだよおれ」

 

おれはグラスを開けて店員さんにまた同じものを頼む。

 

「普段のお前は達観しすぎなんだ。先生たちも扱いに困っているぞ」

 

「それ本人にいいますか?」

 

おれは串を一本頬張る。この居酒屋は串がうまいんだよな。

 

「まぁお前にならいいだろ。・・・それで?どうするかだったな」

 

洋子ちゃんが話を本題に戻す。

 

「・・・・しるか」

 

でも、本題は一瞬でぶった切られた。

 

「そこはお前の自由だ。お前がどうすか決めて行動する以外に答えはない」

 

「・・・・・自由」

 

それが最もおれが望んではいけないものだとおれはずっと思っている。二つの事件の裏からもそうだと改めて思ったばかりだったのに・・・・・

 

「神野。お前は自分には自由に生きてはいけない存在なんて思ってるんだろ?」

 

洋子ちゃんがまたビールを一気に煽る。この人このペースで大丈夫なのか?

 

「ああ。おれが自由に生きたとしたらだれか・・・・」

 

「そこが違う」

 

洋子ちゃんがおれ向かって串を突き刺す。

 

「年長者としていいことを教えてやる。神野、この世で自由に生きるということは誰かに迷惑をかけるということだ。そしてそれは時に人を不幸にする」

 

「ならやっぱり駄目じゃないですか?」

 

だれも不幸になんかしたくない・・・・それが自分の大切な人ならなおさらだ。

 

「・・・・・お前は馬鹿か」

 

おれの考えはまたぶった切られる。

 

「誰が人に迷惑をかけることが間違っていると言った。だれが人を不幸にすることがいけないことだと言った」

 

「なっ!!そんなの当たり前でしょ!!!人に迷惑をかけることも不幸にすることもしてはいけないことだ!!」

 

おれが少し声を荒げ睨む。それを洋子ちゃんは少し笑って受け止めた。

 

「では、聞くが、もし仮にお前があの日シルヴィアを殺さずいたとする。そうするとどうなったと思う?」

 

「え?」

 

その仮定がどんな意味を持つのか・・・・おれにはわからなかった。黙ったおれに代わって洋子ちゃんが続ける。

 

「たぶん、シルヴィアがクローンだということはいずれバレたはずだ。するとなにが起こるか・・・・まず確実にシルヴィアは処分されるか、モルモットとして各国にたらい回しにされるだろう。そして、次にシルヴィアを作った化研究者たちは全員殺されるだろう。そしてお前はこんな風に学園に通うことは絶対に出来なかっただろう。研究所にいたときと同じようにモルモットとして生きていくことになったはずだ。下手をしたら感情を消され戦争の道具になっていたかもしれない。さて聞こう。この君は幸せか?」

 

「・・・・・今より最悪ですね」

 

洋子ちゃんの仮説はたぶん、その通りになっていただろう。ただ・・・・

 

「それがどうしたんですか?」

 

この仮説を行った意味はうまくおれには伝わらなかった。仮説は仮説なのだ。現実ではない。

 

「この仮説はお前がシルヴィアを殺した・・・いや、殺すことを強要されたことで防がれた不幸だ。しかし、それでも完全に不幸を消すことができない。ではそれをどうするか・・・・・それは神野に背負わせる。これが研究者たちが最もいい策だとしたものだろう」

 

洋子ちゃんの目はおれを見ている。でもそれはおれという人間そのものを見ている・・・おれの外側ではなく内側を見ている気がした。

 

「私も神野にすべてを押し付けた研究者たちは間違っていると思う。でもな、神野。これから大なり小なりこういったことはもっと起こるぞ」

 

「っ!!!!」

 

「お前は特別な力を持っている。それも特別な人の中でもさらに特別な力をな。そういった力を持った人間がふつうの人生を送ることができた例は少ない。多くものが人とは違う人生を送ることになっている。それはよく才能の代償とか言われているがな。たぶんお前の人生もその類なんだろう。そしてそういった人生に関わると普通の人は傷つけられ、潰れてしまうことが多い。これも世の常だな」

 

「・・・・ならおれはどうしていけばいいんですか?おれはこれからも多くの人を傷つけ、潰しながら生きていくしかないんですか?」

 

おれにはそれができる気がしない・・・・人生の半ばでどうかしてしまいそうだ。洋子ちゃんがビールを今度はちょっと飲み言った。

 

「でも、それはな普通の人通しでも起こることでもあるんだ」

 

「・・・・・はぁ?」

 

「よく言うだろ?人は人と関わることで人を傷つけて生きているんだと。結局その通りなんだよ」

 

洋子ちゃんが空になったビールジョッキを少し弄びながら静かに続けた。

 

「人に人を不幸にしないや迷惑をかけないということ絶対に無理なんだ。だから、そうやって生きている以上は人は人を不幸にし迷惑をかけ生きていくしかない。でもな神野・・・・・この世には幸福もあるんだよ」

 

おれの目から涙がこぼれる。洋子ちゃんはそんなおれにやさしげに笑いかける。

 

「お前は特別な分、不幸も大きいだろう。人を普通の人より傷つけるし不幸にもするだろう・・・・・・でもお前は特別な分人よりも大きい幸福を人に与えることができる。だから・・・・」

 

洋子ちゃんはっきりと言った。

 

「お前はもっと自分の心に正直に生きたらどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い・・・・」

 

次の日おれは頭を抱えていた。昨日はあの後洋子ちゃんを寮に送り届け、沙織先輩の説教にされ、部屋に帰って慶司と航平の話もろくに聞かず風呂に入って寝たのだ。でもやっぱりジュース(?)の飲みすぎはキツイ。

 

「真大丈夫か?」

 

慶司が心配して声を掛けてくる。今は登校中だ。航平は朝練らしくもう出ていなかったのでおれと慶司二人だ。

 

「ああ。それより、慶司昨日はなにかわかったか?」

 

「うっ!!」

 

慶司がとても複雑な顔をする・・・・なにかあったみたいだな。

 

「なんかあったのなら早めに解決しとけよ」

 

「わかってる。今日の昼休みにでも説明にいくよ」

 

「ああ」

 

・・・・・・おれも早めに解決しないとな。と一人で心の中で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

「おはよー」

 

おれと慶司が教室に入っていく教室がザワッとして、クラスみんながおれの周りを取り囲んだ。

 

「真やっぱりそうだったんじゃないか。なにが違うだよ」

「やっぱりお似合いだもんね」

「うんうん。二人なら納得だよ」

「でも、いいよね。神野みたいのがそうだったら」

 

「ちょちょっと待て」

 

おれがクラスのメンバーを静かにさせる。

 

「なにがどうなってるんだ?てかなにがあった?」

 

おれのその質問にクラス中が一瞬キョトンとして、そして笑った。

 

「なにって真と沖原が付き合ってることだよ」

 

「・・・・はぁ??」

 

おれと琴羽が付き合ってる?なってないはずだ。おれはまだ答えが出てない。勇気もない。なんでそんなことに・・・・

 

「神野くんこれ!」

 

そんな風におれが考えていると姫川がおれに一枚の紙を渡してきた。そこには、おれと琴羽が寮の前で話している写真と熱愛発覚というデカデカとした文字が書かれていた。

 

「・・・・・なんだよこれ」

 

「今日朝から新聞部が号外って配ってたの」

 

この写真、夜だな。こんな風に話してたことって・・・・・一昨日、まなみが来た夜のことを思い出した。あの時そういえば琴羽と名前の呼ぶとかいう話をしたとき・・・・あの時の写真か。

 

「・・・・・姫川、琴羽は?」

 

「まだ、来てないよ。いつもギリギリだし・・・・」

 

そこでホールルーム開始を告げるチャイムが鳴った。

 

「あれ?琴羽ちゃん来ないね・・・・」

 

―――――――ガラガラ

 

「ホームルームを始めるぞ」

 

「えっと・・・・みんな席について・・・」

 

おれの隣の席は空いている。あいつなにしてんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホームルームはこれで終わりだ。それと神野ちょっと来い」

 

「え?」

 

ホームルームが終わったところで朝比奈先生から呼び出された。なんだ?おれは朝比奈先生のところに行く。すると小声で話しかけられた。

 

「ここではなんだ。場所を変えるぞ」

 

おれは朝比奈先生について教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?なにがあったんですか?」

 

おれは朝比奈先生に連れられて、理事長室にやってきた。でも中には理事長はおらず中にいたのは薫子さんだった。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょっとね・・・・とりあえずこれを見て頂戴」

 

そういって薫子さんがおれにパソコンの画面を向けた。

 

「これがあなた宛で届いたの」

 

「はぁ?」

 

おれがそう言ってそのパソコンの画面にあった映像を再生する。そこにはある場所に縛られて横たわる琴羽が映っていた。というか・・・・この場所・・・・・・

 

「なっ!?」

 

驚いたおれにさらに追い打ちをかける言葉が流れてくる。

 

「オキハラコトハハアズカッタ。カエシテホシケレバコノバショニカミノマコトヒトリデコイ」

 

「・・・・・ということなの」

 

薫子さんがその言葉が終わると静かに言った。

 

「どうだ神野。この場所わかるか?」

 

洋子ちゃんがおれに聞いてくる。おれはもう一度この映像を再生してみる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

ちょっと耳を澄まして聞いてみると、後ろから聞こえてくるのは波の音・・・・そしてこの場所・・・・

 

「・・・・・・ああ」

 

おれの中でピースがキッチリはまった。

 

「わかったのか!!」

 

洋子ちゃんが叫ぶ。やっぱりこの人なんだかんだでいい先生なんだよな。

 

「わかりました。まぁ大丈夫ですよ。おれが一人で行ってきます」

 

「・・・・本当に大丈夫なの?」

 

薫子さんが怪訝そうに聞く。そうだよな・・・こんなものが急に送られてきたら誰だって心配になる。

 

「大丈夫ですよ。・・・・・というか犯人もわかりました」

 

「「えっ!?」」

 

たぶん、おれの想像であってるだろ。ということはもう答えを待ってはくれないんですね。

 

「ということで行ってきます。午後には琴羽を連れて戻ってくるんでよろしくお願いします」

 

おれは理事長室から出て行こうとする。

 

「待て、神野」

 

洋子ちゃんが出て行こうとするおれを止めた。おれは首だけで振り返った。

 

「なんですか?」

 

「・・・・犯人がわかったと言ったな」

 

「ええ」

 

「なら、私も行こう。もしくは誰か協力者を・・・・・」

 

「おれ一人でいいですよ」

 

おれはハッキリと告げた。

 

「・・・・なぜだ?」

 

洋子ちゃんがおれを睨む。さすがに一人では行かせられないとのことだろ。

 

「・・・・これを送った来た人はたぶんおれに求めてるものがあるんですよ。だからおれはそれに答えないといけないんです。今回は逃げることができないようにこんな形にしたんでしょうけど・・・・・おれも今回は逃げるつもりはありません。きちんと決着をつけます。・・・・・・昨日言ってたじゃないですか、ちょっと好きにさせてもらいます」

 

「・・・・そうか」

 

「洋子!?」

 

「薫子いかせてやろう」

 

洋子ちゃんが薫子さんに向かいなおる。

 

「ここはどうやら見守るところみたいだ」

 

「でも・・・」

 

「大丈夫だ。いざとなれば私が責任を取ろう」

 

「洋子ちゃん・・・・」

 

「神野行け。沖原と一緒に帰ってこい」

 

「・・・・・はい」

 

おれは理事長室を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・本当に大丈夫なの?」

 

「どうした?」

 

「もし、真が無事に帰って来なかったら・・・・・」

 

「・・・・・それが答えということだろ」

 

「でも!!」

 

「なに熱くなるな。らしくもない。大丈夫だ。神野は絶対に帰ってくるよ」

 

「・・・・・・負けたわ」

 

「どうした?」

 

「母親らしいところみんな持っていかれたなって」

 

「ふふ。私も薫子に勝てるところがあったな」

 

「そうみたいね・・・・・・わかったわ。信じて待ちましょう」

 

「ああ。それも親の務めというやつだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おれはまず、一度寮に帰ってから自分の武器を取った。これを持っていくのは久しぶりだ。普段は学園に置いてある、刃引きされた訓練ようのものしか使ってないためか少し重さに誤差があるが、なんだか手にはよくなじむ。それを持って寮から出ておれは走った。場所はわかっている。たぶん間違いないだろう。だってあの映像に映し出された場所はおれは思い入れがある。忘れるはずがない。そして犯人。あの場所を知っているのはおれともう一人だけ。それならもうわかったようなものだ。

 

「まぁ行けばはっきりするし、とりあえず向かいますかね」

 

おれはさらに足に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

澄之江学園近郊には多くの廃墟が存在する。それは海面の上昇を受けて使われなくなったものがほとんどだ。そしてそれは予算の問題か多くものが取り壊されていない。海面ビルなんかもそのせいで生き残っているものの代表格だろう。おれはそんな廃墟群に来ていた。近頃はあまり来なくなったが、前はよく来ていた。

 

「なんせここが拠点だったし・・・・」

 

おれが『メティス喰い』と呼ばれ、最も活動が活発だったときここを拠点に活動していたのだ。ここの廃墟群は同じような建物が多くあり、道も入り組んでいる。正直慣れるまでは道に迷って辿りつけないこともあった。でも、なんでも通ったここは忘れることはないだろう。

 

「ここだ」

 

おれは廃墟群の中一つで立ち止まる。たぶん、ここに犯人と琴羽がいる。

 

「ここに入ればおれは答えを出すことになる・・・・・」

 

マイナスな思考・・・・・おれは扉の前で一つ深呼吸をして、そんな思考を切った。

 

「もう決めたんだ。たとえどんな未来でも・・・・・」

 

おれは扉をゆっくりと開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――ガラガラ

 

 

扉がゆっくりと開いていく。中では二人の人が椅子に座っており、おれのことを見ている。建物の中には少し大きいパソコンやホワイトボードなんかが置いてあり、さながら秘密基地のようになっている。ああ。本当に久しぶりだ。おれはそんなことを思いながらそこに入っていき扉を閉めた。

 

「来たか真。思ったより早かったな」

 

犯人がそんなことをいう。

 

「いえいえ。あの映像を見たら一瞬でここだとわかりましたから。さすがにわかりやすいですよ」

 

「ふふ。私としてはもっと悩んでくれると思ったのだがな」

 

「昨日話したままだったらそうなってたと思います。まぁ生憎あの後で洋子ちゃんに色々と言われましたからそうはありませんでしたけど」

 

「そうか。洋子のやつなかなかやるな」

 

「ええ。本当にいい先生ですよ」

 

犯人とおれは笑いあう。

 

「さて、ということは答えは決まったようだな。聞かせてもらおうか、その答えを」

 

「ええ。いいですよ・・・・・・菜緒さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

kotoha side―――――

 

「フーン♪」

 

鼻歌交じりに朝の用意。今日も学園楽しみだなぁ・・・・

 

「でも昨日・・・・・」

 

昨日のことで少し憂鬱になってしまう。昨日は放課後馬淵たちと一緒に寄り道をして、色々と詮索されたのだ。なんとか誤魔化したものの・・・・

 

「さすがにあたしの気持ちには気づいてるぽかったしな・・・・そんなにわかりやすいかな」

 

鏡を見ながら自分の顔を確認してみる。

 

「結構隠し事うまいと思ってたんだけどな・・・・・うわぁ!やばい!!行かなきゃ!!!」

 

時間を確認するとかなりギリギリ。走らないと間に合わないな。あたしは急いで寮から出て、走ろうとして・・・

 

「沖原琴羽」

 

呼び止められた。振り返るとそこには菜緒先輩がいた。

 

「菜緒先輩おはようございます。どうしたんですか?」

 

「いや、少しお前にようがあってな。・・・・・今から時間とれるか?」

 

「えっ?今からですか?」

 

もう学園が始まってしまう時間にかなり近いここで時間を取ってしまうと完全に遅刻になってしまう。

 

「えっと・・・今からはちょっと・・・って菜緒先輩こそ学園はいいんですか?」

 

「・・・・今日はいいだろ」

 

「えっ!?」

 

「それより、頼むが時間を取ってくれ」

 

菜緒先輩の言葉に少し違和感がある。なんというからしくない。もっと強引ではっきりした人だと思っていた。でも今日はなんだが弱い。

 

「・・・・なんの話なんですか?」

 

あたしは菜緒さんがそこまでする理由が気になり聞いた。すると菜緒さんはフーっとため息を一つつき静かに言った。

 

「真のことだ」

 

その瞬間あたしの中を電流が駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは菜緒先輩に連れられて廃墟群に来ていた。どれもあまり似ているため自分がいまどこにいるのかがわからなくなってくる。

 

「菜緒先輩どこまで行くんですか?」

 

歩いている間は菜緒先輩が無言だったためなにも話してなかったが、ここまでさすがに疑問になってくる。

 

「・・・・・・ここはな、『メティス喰い』の巣だ」

 

「えっ?」

 

その二つ名は・・・・

 

「真に『メティス喰い』をさせたのは私なんだ」

 

「なっ!?」

 

「来年お嬢様が入学することは決まっており、お嬢様の目的のためには盤石な地盤がいると私は思っていた。そこで優秀なメティスパサーをお嬢様より一年早く入学させその地盤を作ろうとした。そのときに白羽の矢が立ったのが神野真だったんだよ」

 

菜緒先輩が一つの廃墟の前で立ち止まりその扉を開けた。そこは秘密結社の基地のようにコンピューターやホワイトボード、地図なんかおいてあり、ソファーなど寛げるようになっていた。

 

「さて悪いが沖原少し写真を撮らせてくれ」

 

「えっ?」

 

菜緒先輩が突然あたしの体を縄で軽く縛る。

 

「えっ?えっ?」

 

菜緒先輩の行動が理解出来ずにあたしは困惑したまま、されるがままに縛られていった。

 

「そこで一度寝てくれ。汚いかもしれないが悪いな」

 

「い、いえ・・・・」

 

あたしは言われるがままにそこに寝ると菜緒先輩が一枚写真を撮る。

 

「悪いな。もう解いていい」

 

「あっはい」

 

あたしはその縄を自分で解く。

 

「ここは真が『メティス喰い』をしていたとき拠点としていた場所だ」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ。私はここで真に指示を出してそういった活動をサポートしていた。あいつはあまり活動に協力的ではなかった。でもな、唯一私が指示を出していないのに動いたことがある」

 

「えっ?」

 

菜緒先輩の話では真は菜緒先輩の指示で『メティス喰い』の活動をしていた。しかもやっぱり真は協力的ではなかったようだ。ではいつ・・・・・

 

「それがあの文化祭のときだ」

 

「っ!!」

 

「私はここにいたんだが、真から連絡が来たとき驚いたもんだよ」

 

文化祭・・・・あの日があたしが真に惚れた中心の出来事。

 

「その時に思ったんだよ。沖原琴羽は真にとって大切な人間になったんだなと」

 

「・・・・・そうなんですか?」

 

「ああ。あいつは大切なもの以外は自分から守ろうとしないからな。なぜかわかるか?」

 

「・・・・・真の昔の話は少し聞きましたから」

 

「そうか。ならわかるな」

 

「はい」

 

「まぁそれなら話は早い。昨日な・・・・・」

 

そこで菜緒先輩から語られたのは真のこれまで人生。真がどんな風に生かされてきたのかだった。あたしは一切の口を挟むことなく、その話を聞いていた。その話はとても恐ろしいものだった。神野真という人間がこれまで生きてきた意味をすべて否定するような話だった。

 

「さて・・・これがあの神野真の生涯だ。これを聞いて沖原琴羽お前はどうする?」

 

「どうするってどういうことですか?」

 

あたしはそう質問すると菜緒先輩はニヤリと笑った。

 

「好きなんだろ?真のことが」

 

「へっ!?」

 

不意に図星を刺されあたしの顔が赤くなる。

 

「大体見ていたらわかる」

 

そう皮肉気味に笑った後、菜緒先輩は続ける。

 

「それで?お前はこんな生き方を強要されたこの悲劇の男と生きる覚悟があるか?・・・もちろん真の人生に巻き込まれるだろう。下手をしたら死ぬ。あいつはそんな男だ。それでもあいつのことが好きだといえるか?」

 

菜緒先輩が鋭い目でそう問う。あまりにも鋭い目に一瞬ひるむ。でもあたしの心には迷いのかけらは一切ない。答えは決まっていた。だからそれも菜緒先輩に告げる。

 

「あたしは・・・・・」

 

――――――ガラガラ

 

そこで扉は開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

makoto side―――――

 

「・・・・・おれにはまだ正直自信はありません」

 

おれの言葉を紡ぐ。

 

「たぶん、これからもおれは多くの人を傷つけて生きていくんでしょう。その中で被害を最も強く受けるのはおれの一番近くにいる人でしょう。その人を傷つけて生きていく覚悟はまだできない。できれば傷つけたくない。でも・・・」

 

ああ。その通りなんだ。

 

「でも、それは絶対に無理なことなんだと昨日気づかされました。だってそれはおれだけじゃない、すべての人間が等しく抱えて生きているものだんだって。おれはまだまだ自分しか見えていないガキなんだって」

 

おれは大人ではない。周りからはよく大人だと言われるが社会のことなんてなにも知らない井戸の中の蛙の子。

 

「だから、おれもそれを抱えて生きます。そして努力します。おれの一番側にいる人が傷つかないように」

 

おれははっきりとそう告げる。そんなおれを菜緒さんは優しい目で見つめていた。

 

「そうか。わかった・・・・ならそれを今告げるべきだろ?それをお前が告げたいのは私ではないんだろ?」

 

「・・・・・・はい」

 

「そうか。では私は邪魔だな。帰ることにしよう」

 

菜緒さんはその優しい笑顔のままおれの歩いてくる。

 

「・・・・・すみません」

 

おれは菜緒さんとすれ違うときそう呟く。でも菜緒さんは止まることなく、おれの後ろの扉を開けてここから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

nao side―――――

 

「ふう・・・・」

 

廃墟群を抜けて海に出る。

 

「・・・・真」

 

さっきまで、目の前で私を見ていた弟のような存在。でも・・・・・

 

「ふん。私がやっぱり一番のペテン師か」

 

もう誰も見てないここは人通りも少ないし誰かに見られることもないだろう。そんなことを思った瞬間、今まで溜めていたものは決壊した。

 

「う、ぐす・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

止めようのない。静かな嗚咽が波の音に飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

makoto side―――――

 

 

「琴羽、一応だけど怪我はないか?」

 

おれは一応聞く。まぁあの菜緒さんが危害を加えることなんてないだろうけど。

 

「うん。大丈夫よ」

 

「そっか。ならよかった」

 

琴羽の言葉に一安心しふうと一つ息をついた。

 

「それでな琴・・・「ちょっと待って」・えっ?」

 

思いきって言おうとしたところで琴羽に遮られる。

 

「真、あたしは傷つかないようにされるだけなんて嫌だよ」

 

「・・・・えっ!?」

 

それって・・・・・おれではダメってこと?ここまで来ておれは・・・なんて思っているとおれの表情でおれの言いたいことわかったのか琴羽は、ハッとして否定をする。

 

「そういうことじゃなくて・・・・あたしも真が傷つかないようにするから」

 

「・・・・・えっ?」

 

「あたしだけ傷つかないようにする真はするつもりなんでしょ?真自身を犠牲してでも。でもあたしはそんなの嫌。真とそれならあたしも一緒に傷ついていきたい。だって・・・・・」

 

そこで琴羽は恥ずかしそうに顔を伏せる。でも言葉ははっきりとおれに届いた。

 

「真があたしのために傷つくとあたしも同じように傷つくんだからね」

 

「っ!!!!!」

 

・・・・やばい。かわいい。どうしよう。もうここまま抱きしめて・・・・・いや、まだこらえろおれ!!

 

「・・・・・わかった。さっき続きいいか?」

 

なんとか搾り出した声は少し上ずっていた。

 

「うん」

 

琴羽は顔を伏せたままコクリと頷く。

 

「琴羽・・・・・おれはお前が好きだ」

 

まずははっきりとそう告げた。そして一つ置いてから続ける。

 

「これから、たぶんいろんなことがあると思う。おれは陰謀や策略に巻き込まれるかもしれない。そして利用されるかもしれない・・・・・そんなおれでも・・・・・・・」

 

おれは最後までいうことは出来なかった・・・・琴羽がおれに抱きついてきたからだ。

 

「はい。どんなことがあってもあたしは真の側にいるよ。だから・・・・・」

 

琴羽が上目使いでおれを見る。そして・・・・・・笑った。

 

「あたしをどんなときも離さないでね」

 

その言葉に答えるようにおれは視線の距離がゆっくりと近づけていく。琴羽はそれに対して目を閉じる。おれも目を閉じてから呟いた。

 

「当たり前だよ」

 




どうでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?

ついについに、成立した!!!!!

ここまで続けられて本当にうれしいです!!

これもみなさんの応援のおかげです。本当にありがとうございます。

次回から数話は二人のイチャイチャ回をお送りしたいと思っています。その後からラストに向けてもう一山・・・・・です。うまく表現できるように頑張りますのでこれからも応援よろしくお願いします。

今回も感想、批評、評価のほうドンドン募集していますので、よろしければ送っていただけると嬉しいです。

今回の更新後、活動報告でアンケートを実施したいと思うのでよろしければそちらのほうもよろしくお願いします。

ではまた次回会いましょう!

簾木 健

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