今回は始めはゆっくりと後半は激動です。
たぶんすごくコメントが荒れる気がする・・・・・でも、これが『真相』です。
最後まで読んでいただければ幸いです。
簾木 健
makoto side――――
今日はとてもいい日だった。すごくいい日だった。朝からみんなで学校に登校しここ最近では珍しく何もなく一日が終わろうとしていた。そんなホームルーム前だった。おれは帰る用意をしてそこで今日までに提出するためのプリントを見つけ、それを記入している最中だった。おれは机に出していたペンを一つ落としてしまった。横に座っているのは琴羽。おれは当たり前のようにこう言った。
「悪い琴羽。それとって」
「え?うん。はい。真」
「おお。ありがとう」
そんなやり取りをし終わるとクラス中がシンと静まり返っていた。さっきまでホームルーム前でかなり煩かったんだけどな・・・・・・
「あれ?みんなどうしたの?」
琴羽もクラスの異変?に気づきクラスを見渡す。
「・・・・・・沖原と神野って」
そこで話しかけてきたのは、馬淵、クラスではけっこうお銚子者なんだが、かなり真剣は面持だった。
「なに?」
おれが聞く。
「なによ?」
琴羽もいつもと違う馬淵の雰囲気に何かあると察したらしく真剣な表情になる。
「付き合ってんの?」
その一言でおれたちは完全に固まってしまった。
「いやーーさっきの二人の雰囲気。正直かなり自然なんだけど、もうそういう関係にしか見えなくてさ・・・・・」
そういわれたところでおれは復活もした。
「い、いや、付き合ってないよ。ただ琴羽がきの・・・・・・」
「うわーーーーーーーー!!!!!!!!!」
沖原が叫びおれの言葉を遮る。どうしたんだよ?
「なに言おうとしてんのよ真!?」
「いやここはしっかりと説明しとくべきじゃないか?だっておれこれからも琴羽のこと『琴羽』って呼ぶからぜ」
「・・・・・っ!?」
おおおおーーーーとクラスが盛り上がる。そしてその発言に琴羽は真っ赤になっていた。
「琴羽どうした?」
「・・・・・真ってズルいね」
「っ!!!!!!」
琴羽が少し諦めたように笑う。その笑顔はおれの胸を撃った。
「うん。わかった。ただ・・・・」
馬淵はふふっと少しいたずらっぽく笑った。
「沖原は今日ちょっと時間作ってね」
「あぁぁぁぁぁ・・・・・なんでこんなものが!?」
沙織先輩が叫ぶ。なんか申し訳ない。おれは菜緒さんから呼び出されて菜緒さんと話しているところに沙織先輩がやってきた。そこで菜緒さんはあることを沙織先輩に言ったのだ。
「なんでと言われてもな・・・・・我々《アルゴノート》は正式に澄之江学園の部活動と認められた。であれば、それに付随する権利も当然得られる。自明のことだと思うが?」
菜緒さん完全に煽りだしたな。
「ううっ、生徒会までこんな怪しげな集団の魔手に――」
「いかに強権を振るっていても風紀は風紀、生徒会とは管轄が違ったと言ったところか。おあいにく様だな。フフフッ」
「菜緒、私を悔しがらせるためだけにやってない?」
「・・・・正解」
おれがポツリと漏らす。
「真も沙織も心外だな。『だけ』などということはないぞ?」
聞こえてるし・・・・・
「悔しくなんてないから!」
「それは残念、私は沙織の悔しがる顔が大好きだからな。ずっと見ていたくらいだ。卒業まであと半年弱、いいルームメイトでいよう」
「ぜんぜん悔しくないっ!それにぜんぜんいいルームメイトじゃないし!」
「フフフ・・・それでも沙織はルームメイトの変更を申請したりしないのだな」
「それは・・・・・」
・・・・前のルームメイトとは色々あったんだよな。それならおれも少しは知ってる。
「それは・・・私の前のルームメイトに関係しているのか?」
菜緒さんが核心に触れる。その言葉に沙織先輩の顔が強張る。少し菜緒さんと沙織先輩は向いあったあと、笑った。
「・・・・なんのこと?」
「私としたことが少し先走ったようだ。この話はここまでにしよう」
「うん・・・」
沙織先輩・・・・あの時と同じ表情。それを見ておれは顔を少し伏せる。もっとうまく止める手段があったんじゃないかと思うが・・・・
「あの時はああするしか出来なかったんだよな」
「では、私はこれから部活だ。沙織も風紀の活動があるのだろう?がんばってくれ」
「・・・・私の活動はアナタたちの監視だもん。いくら公認された部活でも、校則違反があったらすぐに取り締まるから!」
「フフ、結構」
そういって菜緒さんは歩いていく。
「沙織先輩」
「・・・・もう祐天寺機関のクセに。神野君はあんまりはまらないでね」
「・・・ええ」
おれはそういって歩いていった沙織先輩を見送った。
keizi side―――
「それで景浦、俺たちはどこに連れていかれるんだ?」
「それは着いてのお楽しみです」
さっきからこの調子だ。
「なんだろうね?」
姫川も少し困惑している。
「ともかく、今日のところは放課後訓練はできそうにないかな」
「そうだねぇ。部活があると時間取りにくいのか・・・・ちょっと考えないと」
今日約束した訓練だが今日はできそうにない。それにしても・・・・・
「今日の真と琴羽には驚いたな」
「そういえばそうだね・・・・」
今日の真の名前呼びには本当にクラス中が驚いていた。
「そもそも神野くんと琴羽ちゃんは前から色々あったんだよね」
「うん?そうなのか?」
「うん。あれ?神野くんから聞いてない?」
「うん」
「そうなんだ。当時学園にいた人たちはみんな知ってる話なんだけどね・・・・・」
「そんなに有名な話なのか!?」
「すごく強烈だったから」
「こちらです、速瀬さん、姫川先輩」
そんなところで景浦がある部屋の前で立ち止まって、ドアを開けた。
makoto side――――
「おお、これは・・・・」
と感嘆の声を漏らしながら、慶司と姫川が入ってくる。するとおれや菜緒さんと一緒に先に中にいた祐天寺が手を広げて二人を向い入れた。
「ようこそ!ここがわたしたち《アルゴノート》の部室よ!」
「わぁっ!部室っ」
姫川はすごくうれしそうに笑う。
「そんなものもらえたんだ。すごいすごい。ってか、もういろいろ揃ってんだな」
慶司もかなり驚いた様子で中をグルリと見渡す。
「フッ・・・・。智に一晩でやらせた」
慶司の発言に菜緒さんが自慢げに笑いながらそういった。
「一晩というか、放課後だけです・・・・。さすがに苦労したんですが、神野さんの協力もあってなんとか・・・」
「なんでそこで近濠先輩が偉そうにするんだ・・・・ってか真も手伝ったのか?」
「ああ。でも、配置を決めただけだ。あとは景浦がやった」
「そこまで手伝ってもらうのは悪いですから。あと、それだけと神野さんは言いますがすごく助かりました」
「その上ぽちは今日のお弁当も用意していたのよ。すごいでしょう」
「祐天寺、おまえもか」
「そうだぞ。いくら従者と言ってもあんまり働かしすぎだぞ」
「お二人ともいいんですよ。これが祐天寺の従者のつとめですから」
景浦は少し苦笑いを浮かべそう言う。本当ならもっと誇ってもいいことなんだが・・・・そこが景浦の良いところか。
「智ちゃんがんばったね。いい子いい子」
そんな景浦を姫川が背伸びをして撫で、景浦は律儀に腰をかがめて姫川が撫でやすい高さに頭を持っていった。
「恐縮です・・・・・はふぅっ・・・・・」
・・・・どうやら律儀に腰を落としたわけではなく、単に気持ちよかったらしい。
「今後はここが作戦司令室になるわ。《アルゴノート》のメンバーは放課後にこの部室に集合のこと。いいわね?」
「はい」
祐天寺の言葉に全員でうなずく。おれもなるべくは来ることにしよう。
「これで放課後、祐天寺たちが俺たちの教室に来ることもなくなるわけだな」
「そうだな。まぁ上級生の教室は行きにくいだろうし、景浦よかったな」
「ええ。正直助かります」
景浦がおれと慶司の言葉に本当によかったというように息をついた。いままでは何か連絡や依頼があると景浦がおれたちの教室まで連絡に来てくれていたからな。本当に入りにくそうにしてたし。
「まぁ、今後も智が連絡に走りまわるのは変わらないが」
「はぅっ」
どうやら景浦の苦労はまだまだ序の口のようだ。
「よしよし」
「はふぅ・・・・・っ」
でも、こんな風に姫川が癒してくれるだろうしいい塩梅なのかもしれないなどと思ってしまうおれは少し笑ってしまった。
「それで祐天寺。今日はどうするんだ?」
慶司が尋ねる。
「そうだな。今日は依頼が来てるのか?」
おれも気を締めなおす。
「ええ。調査依頼が一つ来ているわ。ただ・・・・」
「ただ?」
「何かあったのか?」
おれと慶司が聞き返す。それ対し、少し間を開け意を決したように祐天寺が言った。
「・・・・・速瀬に神野。あなたたち・・・・・幽霊の存在を信じる?」
「はぁ?」
その質問におれはポカンとしてしまった。
「幽霊?・・・・今まではあんまり信じてなかったけど、最近はあり得るかもと考え直した」
慶司が答える。
「あり得る、ね。その理由を聞かせてもらってもいいかしら」
祐天寺の顔が強張る。もしかして・・・・・慶司はそれに気づいてないな
「理由は単純。宇佐美先輩のメティスのせいだよ。影に実体を与えるなんてことができるなら、原理的に不可能じゃない気がしてきた。《イドロイド》について宇佐美先輩から簡単に聞いたけど、あれは残留思念ってものにかなり近いなぁと」
沙織先輩のメティス《アンブラ》は影を操るメティスだ。沙織先輩は影に実体をもたせて、《イドロイド》、メティスによって作られた簡易的な自我をもった疑似生命体を操ることを得意としている。そして《イドロイド》の自我はそれを生み出した《メティスパサー》の意思が一部簡易コピーされると言われているのだ。たぶんそういったことを慶司は沙織先輩に聞いたんだろうな。今日の昼休み沙織先輩のところに行ったって姫川が言ってたし。まぁそれはどうでもいいが、それから幽霊の今の説明に繋がったんだろう。実に慶司らしい考えだと思う。
「あはは・・・・動きはかわいいんだけど、ちょっとおばけみたいだよね。コミカル怖い感じ・・・」
「確かにあのウサギの影はそんな感じだよな」
おれも姫川の考えに頷く。ついでに沙織先輩の《イドロイド》はうさぎの形をしている・・・・・・それを何体も作り出すメティスコントロール。それに関しては学園でも右に出るものはいないだろう。
「・・・神野はどう思うの?」
「・・・・:・いるだろ」
「「ひっ!」」
おれの発言に祐天寺と姫川が顔を真っ青にして悲鳴を漏らす。
「二人とも大丈夫か?」
まぁなんとなく察してはいたけどよ。そういうことなのか?
「だ、だだ大丈夫よ。で?その理由は?」
なんとか祐天寺が立ち直って聞き返すが声がうわずっている。こりゃ・・・・・
「だって、いたほうがおもしろくないか?・・・・確かに、慶司が言ったようにメティスによって生み出されたものとして原理的にいるかもっていうのもあるんだが、なによりそうじゃない本当のオカルトとしておれはいてほしいと思う」
ちょっと昔のようにポルターガイストや幽霊が超常現象とされたいた時のほうが今みたいになんでも《メティス》という存在一つで片づけられるより好感がもてるしおもしろい。
「・・・・で?そんなことより今日は幽霊なのか?」
おれが祐天寺に聞く。
「ええ・・・・出たんですって・・・・幽霊・・・・」
祐天寺はノックアウト寸前だ。
「ゆ、ゆうれいが・・・・・」
姫川も完全に顔をこわばらせ笑う。
「姫川は、幽霊が怖いの?」
「こ、怖くないよ?」
「別に強がることはないわ。怖いなら怖いってはっきり言いなさい」
目の前ですごい見栄の張り合いが開始される。なんだこれ・・・・
「で、で、でもっ・・・・・私、クラス委員だしっ」
それは関係なくないか?
「怖いんでしょ!?怖いって言ってよ!」
祐天寺頼んじゃってるし・・・・
「あ、俺、それなりに怖い」
そこが助け舟を出す。すると二人は我先にとそれに乗り込んだ。
「速瀬くんが怖いなら、私なんてもっと怖いよっ!!」
「ごめんなさい!わたしも怖いの・・・・っ!よ、よかった、怖がってるわたしだけじゃなくて・・・・」
「それで怖いって言わせたかったのか・・・・」
「だって、にゃおが怖い話いっぱいするのよ!?速瀬だって原理的に不可能じゃいないとか言いだすし、神野にいたってはいるって肯定するし・・・いないって言ってよ!信じないって言ってよ!!」
「お嬢様」
「!――コホン」
やっぱりそっちが素か。
「そういうわけで、幽霊が出たという噂があってね。その真相を調べてほしいっていう依頼なの」
「なるほど、面白そうだ。なかなかそれらしい依頼じゃないか」
「だな。楽しそうだ」
おれと慶司は一気にやる気になる。そりゃこんな依頼でテンション上がらなければ男ではない。
「ふぇ!?速瀬くんさっき怖いって言ってたのに!?」
「それなりに、な?少しくらい怖くないと、調査のし甲斐もないって言うか・・・・なぁ真」
「ああ。すごく楽しみになってきた」
おれはウキウキと答える。いい依頼だ。
「ずるい!そんなの全然怖がってなっ!速瀬くんの卑怯者っ!」
「そうよ、ずるいわ!恥を知りなさい!」
この二人はもうあてに出来ないな。そういえば・・・・・
「景浦はどうなんだ?」
菜緒さんがそういうのを怖がらないのは知っているが景浦に聞いてみる。
「おいおい真。私には聞かないのか?」
「菜緒さんは幽霊なんか怖いわけないって前に言ってたじゃないですか。ですから大丈夫でしょう?」
「そうだったな」
菜緒さんは可笑しそうに笑う。ああ今のでなんかわかった。
「まぁでも景浦は怖くないよな?そんなんじゃないと護衛なんて勤まらないだろうし」
次は慶司は聞く。ああ・・・失敗した。
「いませんから」
「はい?」
「いませんから。いないものは怖れようがありまえせん。ですのでなんの問題もありません」
「そ、そうか。いないよな、うん、いない」
そこで慶司も自分が地雷を踏んだことを悟ったらしい。まぁ最後にお約束して確認くらいはしとくか。
「じゃ景浦。今お前の後ろに見えているも――――」
言葉が言い終わる前に景浦の刀が抜き打たれなにもない後ろを薙いだ。
「はーっ、はーっ・・・な、なにもいませんよ?ほら、いないんです。怖くなど・・・・・怖れる必要はなにも、まったく、ないんですっ」
ただ、そのやり取りで備え付けられた本棚にきれいに切れ込みが入ってしまった・・・
「うん。なんかごめん」
おれはなんとなく謝る。本棚本当にごめん。
「べ、別に謝られることは・・・・なにも・・・ふぅっ・・・」
「ああ」
「くくくく・・・・くーっくふっ、ひっ、くふっ・・・おか、おかしい・・・っ・・・お、おなか痛いぃっ、ひっ」
おれたちがそんなやり取りをしている横で菜緒さんはお腹を抱えて笑っていた。この人わかっててこの依頼持ってきたな。
「そ、それで・・・・本当にそれ、調べるの・・・・?」
姫川が意を決して聞く。
「調べるしかないわね・・・・怖いけど」
祐天寺も本当に嫌そうだ。
「大丈夫ですよ、お嬢様。きっと柳が揺れたのを見間違えたとか、そういった類です。間違いありません」
景浦は二人よりも重傷だな。
「そ、そうよね」
それ肯定したらダメだろ。さすがに寮に柳はないし。
「速瀬、真そういうわけだ。今回はおまえたちが・・・特に速瀬を中心で調査を進めてくれ。この通り、おまえたち以外はどうも役に立ちそうもない」
「うん?おれが中心ですか?真は?あと近濠先輩は?」
「私ももちろん調査を進めるが、私と真は別行動をしよと思う。だから速瀬にはお嬢様を連れて、目撃現場の調査と周辺の聞き込みをしてもらいたい」
おれは菜緒さんとチームか。となるとなにか特別なスキルを使うものだな。
「なるほど。まぁ妥当なところかもしれないですね。で、その目撃現場はどの辺なんですか?」
「速瀬、今のうちに誤っておくわ。ごめんなさい」
「はい?」
「目撃現場は、常若寮だ。よろしく頼んだぞ、速瀬。・・・・・ぷっ、くくっ」
「え?常若寮って・・・・」
「私たちが住んでる女子寮・・・・だねぇ」
・・・・菜緒さんが楽しそうに話してたから察してけどそういうことか。
「ちょっ!?待ってくれ!それじゃあ俺、入れないって!」
「ハッハッハ、どうするかなんて決まっているだろう?」
「本当に、ごめんなさい・・・・・」
「待て祐天寺!なんだその手にしたカツラは!?」
「少し肩は狭いかもしれなせんが、丈はあうと思います」
「なんの丈だよ!!っていうかそれ、女子の制服だろ!?」
「姫川、入り口で《アイギス》を展開。速瀬を逃がすな!あと真、速瀬を助けたら・・・・・わかってるな」
ちょっと可哀そうだし《ゼロ》を使おうとしていたおれは菜緒さんの言葉に完全に停止させられる・・・・・おれだって女装は絶対に嫌だ。これは仕方ないだろ。
「速瀬くん・・・・・ごめんっ!《アイギス》っ」
これでチェックメイト。
「ちょっ・・・まっ・・・・・アッ~~~~~~~~~~!!」
この瞬間慶司のなにか大切なものは一つ失われた。
「こ、これは・・・・・」
さっきから少し時間をおいて慶司の女装は完成した。
「か、かわいい」
「いけますね・・・・とてもかわいらしいと思います」
「うん。航平くらいなら誑かせそうだ」
「ひーっ、ひーっ、速瀬、速瀬、あははははっ!ひっ!ひっ」
ただそんな褒め言葉?とは裏腹に慶司はがっくりと項垂れる。
「も、もうお婿にいけない・・・・」
「じゃあじゃあ私がお嫁さんにもらってあげる~♪」
「いえっ、それならわたしがおむ―――」
おい。姫川はともかく、祐天寺何言おうとしてんだよ。
「コホン、わたしがお小遣いで養ってあげてもいいわよ?」
「お嬢様、それではヒモの人です・・・・」
「景浦・・・・それは・・・・」
確かに完全にヒモだな・・・・それはまずいだろ・・・・
「まぁ、ヒモの一人や二人養うくらいなら本家も大目にみてくれるだろう。よかったな、速瀬・・・・ぷっ」
いいのかよ・・・・てか菜緒さん確信犯なのもう隠すつもりないな。
「ヒモにも嫁にも、なる気ないからっ!!」
「「えー」」
「えー、じゃありません!」
なんか慶司ってこの中で景浦以上に苦労しそうな気がするな。
「っていうか、よく考えたら、近濠先輩と真のどっちかが女子寮の方調べてくれればいいじゃないですか。俺がその別行動の方やりますよ」
「おいっ!しれっとおれを女装させようとするな」
「ほぉ、よほど自信があると見えるが・・・つまり速瀬はCSCのセキュリティを破って、監視カメラの映像を入手できるというわけだな?」
「へ?」
菜緒さんの発言に慶司が言葉を失う。やっぱりそういうことやるんだ・・・・
「だいたいの目撃地点も目撃時刻もわかってるんだ。その近辺で監視カメラがなにかを捉えていても不思議ではあるまい。私たちはそれを入手するために動くんだよ。いや知らなかった。速瀬にそんなハッキングの技術があったとは」
菜緒さんも意地悪だな・・・というかこういうのが好きなのか・・・・昔こんな感じだもんなぁ・・・・
「・・・すみません。ありません」
「なら、キマリだな」
「キマリね」
「ご愁傷様です」
「まぁ、危なくなったらすぐに逃げろよ」
「大丈夫だよ、速瀬くん。かわいいよ♪」
姫川・・・・そういう問題ではないよな。
「で?菜緒さんどこでやるんですか?」
慶司たちは常若寮に行ってしまい、部室にはおれと菜緒さんが残された。
「プっ、くくく。そんなことより速瀬の女装面白かったな」
そう言って菜緒さんは椅子に座る。
「そんなことよりって・・・・・まさか・・・・」
おれは一つの答えにたどり着く。
「もう、すべてが終わってるんですね」
「ふふ・・・・やっぱり真はさすがだな」
菜緒さんがニヤリとする。この人は本当に・・・・
「で?おれを残した理由なんですか?」
おれは菜緒さんと向いあうようにして椅子に座った。
「ああ。二つある。一つは真、お前自身のことだ。そしてもう一つは沙織とお前、そして淡島エリのことだ」
「・・・・・なるほど」
そのことか・・・・だから今日放課後あんなところにおれを呼んだのか。
「・・・・どちらか聞きますか?」
「そうだな。では後ろのほうから聞くことにしよう。そっちはすぐすむだろうからな」
この人はおれの答えがわかっているのだろう。まぁその通りに答えるんだけど・・・・
「・・・・・なにが遭ったのか話してくれないか?」
菜緒さんの目が鋭くなる。その目から何か大事なピースになっているのがわかるが、でも・・・・
「沙織先輩が言ったようにお話しできることは何もありません」
これが今のおれの答え。
「・・・・そうか」
菜緒さんはわかっていたようで、少し諦めたように笑った。
「じゃあ、次だ。真、いつまでそうしてるつもりだ?」
「そうしてる?どういうことですか?」
おれの言葉に菜緒さんは優しげに笑った。
「沖原琴羽」
「っ!!!」
「真、どっちにも気づいてるんだろう?お前ほどやつが気づいてない訳ないからな」
「・・・・・・」
どっちにも気づいている。その言葉はおれの胸を、強く刺した。
「・・・・・真。今日すべてを話そう」
「・・・・・えっ?」
どういうこと?おれがそう続けようとしたが、菜緒さんは間髪を入れずに続ける。
「シルヴィア。フルネームはシルヴィア・G・トラスト・・・・そしてまたの名を・・・・試作7号機」
「なっ!?」
「シルヴィアは作られた存在だ。我々人間の手によってな」
おれは言葉が出なかった。シルヴィアが作られた存在・・・・嘘だと思いたい。でも、菜緒さんの目にはそれを嘘だと思わせない強い意志があった。
「さて、ではどうしてシルヴィアは作られたのか。なにがシルヴィアという存在を生み出したのか」
菜緒さんがゆっくりと目を閉じる。
「それは、一つの事件が切っ掛けだ。それはある住宅街で起きた。メティスパサーによる虐殺事件だ。そのとき、そのメティスパサーは自らのメティスを用い13人の命を奪った・・・そして14人目の命を奪おうとして、そいつは14人目に選んだ子どもによって殺された。その子どもが発現させたメティスによって」
今でも覚えている。両親の逃げろという声。でも足は全く動かない。猟奇的な笑い声。動かなくなった両親に大量の血。向いあったときに返り血で真っ赤に染まったシャツ。裂けるほど笑った男。・・・・その向かい合った子どもが強く願った思い。そして急に倒れたその男。そしてやっと聞こえてくるパトカーと救急車の音。
「その子どもが発現したメティス。そのメティスは最強のメティスとして、そして使い手の子どもは最強のメティスパサーとしてメティスの研究所に保護された。そこでその子どもは最強のメティスパサーとして英才教育を受けた。武術、学問など色々なものをその子どもは教えられそしてそれを吸収していった。ただ、成長していく過程で研究者はあることに気付いた」
菜緒さんが話しているのは、おれが最も知っている物語のはずがどこかのお伽噺のようだった。そしてここからはおれも知らない物語。
「その子どもは人間であるということだった。人というのは感情がある。今まで普通に育ってきたこの子どもではメティスを用いた戦争が起きた時、躊躇してメティスを使わない怖れがあるということに。この子どもは研究者がこれに気付いた時にはもう普通の人としての倫理を持っていた。洗脳をしようにもメティスパサーの脳を弄ってもしこのメティスが失われてしまったら・・・・それは最悪の事態となる。ではどうするか・・・・・そこである空論が一つ浮かび上がった」
ここまで来ればおれもその研究者がなにを考えたのかわかった。でもそれを信じたくなかった・・・・だってそうなのなら・・・・・
「メティスパサーのクローンを作れば、同じメティスを保有するのではないか」
「っ!?」
でもその予想はやはり外れなかった。
「そして倫理を無視した実験は始められた。一人目は形になる前に死んだ。二人目も一人目と同じ。三人目は人として生まれることはできたが成長せずに死んだ。四人目も同じところで。五人目、ここである研究者が性別を変えてみることを提案した。そしてオリジナルとは逆の性別で作られ始める。すると五人目はオリジナルと同じ歳まで急速に成長を促すカプセルの中で成長することに成功したが、メティスの発現する可能性が限りなく低いものだったので処分。六人目も同じ結果。そして七人目・・・・・彼女はメティスの発現する可能性を持ちオリジナルと同じ歳まで急速に成長を促すカプセルで成長し産み落とされた。そして彼女はオリジナルに因んだ姓と名前を与えられてオリジナルや他のメティスパサーの子どもたちと一緒に育てられることになった」
・・・・・溺れているようで苦しい。おれの人生とは、おれが生きている意味とはなんなのかわからなくなってくる。
「そして、少しして彼女はメティスを発現した。でもそれは研究者たちの期待を異なりオリジナルとは異なるメティスを保有した。そして畳み掛けるようにある論文を出された。その論文の名は『メティスの発現と感情の関係性について』という論文だ。そこにはメティスは感情によって生み出されるもので遺伝子などは関係が薄く、同じ人でももし状況が違えば異なるメティスを発現する可能性があると書かれたものであった。それにより研究者たちは自らがやった実験が完全に無駄であったことを知った。でも、これまでの実験や彼女のことを知られれば自らは重い罪に問われる。そこで研究者たちが考えたのはあるメティスを使った、その実験の抹消だった。そのメティスは特殊な超音波によってメティスパサーのみ発達している脳を破壊しメティスパサーを破壊したり、効力を弱めメティスパサーを無効化する力だった。それを《オーバーコンセントレーション》させることでこの実験を抹消する。そしてそれは実行された。研究者の狙い通り実験の内容は抹消された。彼女も死に証拠はなにもなくなったはずだった。しかし、大きな事件ではありそれを起こした研究者たちの多くは捕まりそして、やっとこの間、その研究者の一人が獄中で研究所でなにがあったのかを語ったんだ」
「・・・・・・そうですか」
これが真相。これが答えかよ。
「どうだ真。これがお前がそして私が探していた答えだそうだ」
自嘲気味笑う菜緒さん。
「・・・・その顔はおれがなにを言いたいかを理解してるでしょ?」
「・・・・ああ」
「で?なにが言いたいんですか?それと琴羽のことがどう関係しているんですか?」
「真、お前はどうするんだ?一応これが真相だったわけだ・・・・」
菜緒さんは答えがわかっている。全部わかってきいているんだ。
「そんなもん決まってますよ。今まで通りです」
たぶん琴羽はおれに好意を寄せてくれている。でもおれは・・・・
「おれと深く関わる人はみんな不幸になりますから・・・・菜緒さんもそうだったでしょ?」
「・・・・・」
菜緒さんは表情一つ変えない。でも、あの時の菜緒さんを知っているおれには関係ない。その沈黙は肯定でしかない。
「では、菜緒さん。おれは帰りますね」
そう言っておれは椅子から立ち上がり、部室を出た。
nao side――――――
「真・・・・・」
確かにあいつと深く関わったものは今まで全員不幸になっている。私もその一人なのかもしれない・・・・あの薬は真のメティスが切っ掛けだったわけだしな。でも・・・・救ってくれたのもあいつなのだ。
「私は不幸だなんて思ってないぞ」
唇を噛む。少し血が垂れる。
「どうしたら良いんだ・・・・・どうするのが正解なんだ・・・・・」
何度も考えてきた。でも解は出ない。当たり前だ。この問答に解がないことを私自身は知っている。
「・・・・・私にできることはなんだ・・・・・なんなんだ」
また問答を始める。解はない。
「くそっ!!!何が天才だ!!」
机を殴りつける。でも、少しも心は晴れない。
「もう、そうするしかないのか・・・・・」
実は一つ策がある。でもそれをすれば・・・・
「私は決定的に真から遠ざけられるかもしれない・・・・」
それが嫌でこれは考えないのようにしてきた。でも・・・・・
「もうあいつが苦しむところを見てられない」
私はゆっくりと立ち上がり部室のドアを開け部室から出る。
静かになにかが動きだした。
どうでしたか?
今回から個別ルートに入りました。真のルートです。
ここからどうなっていくのかまだまだ未定な部分が多いですが、楽しみに待っていただければ幸いです。
感想、批評、メッセージ、評価はどんどん募集しているのでよろしくお願いします。
ではまた。次回会いましょう
簾木 健