作品があまりメジャーじゃないため原作のプロローグをほぼほぼ持ってきているためこの長さになってますが今回きりにするので出来れば読んでください!!!
本当にすみません!!
ただこの作品を通して多くの人に原作を知っていただきプレーしていただければ幸いです!!
「うるさい・・・・」
静かだがよく響く声。そこにいた全員が彼を見ていた。彼の顔は怒りで満ちている。
「たく・・・折角静かな場所と思ってここに来たのになんだよこのどんチャン騒ぎ。おれに恨みでもあんのか?」
その彼は全員を見据え・・・睨みつける。
「なんでお前がここにいやがる・・・・?」
そこにいた男の一人が静かに聞く。その体はわずかに震えていた。
「寺坂先輩に海老名先輩。それに沖原と姫川と見ない顔だな。さらには祐天寺たちか」
彼がそこにいる全員を見渡す。そして思案顔になってから少しして先輩と言われた二人を睨みつけた。
「なるほど。先輩たちが喧嘩かタイマンかよくわからねえがしててそれを近頃何でも屋みたいなことをしてる祐天寺たちが止めに来た。姫川たちは先輩たちの喧嘩に巻き込まれたってとこか」
彼は正確に状況を把握して先輩と呼ばれた人たちのところに歩き出す。
「ちょっと待て。祐天寺だって爆発なんか起こしていたぞ!!」
「そうだ!!おれたちだけじゃなく祐天寺も・・・」
「元はあんたたちのせいだろうがゴチャゴチャ言ってんじゃねえぞ」
彼がゆっくりと近づいていく。彼との距離が詰まると二人の体がさらに激しく震える。
「とりあえず憂さ晴らしだ。相手してやるよ先輩方!!」
彼の目は文字通り赤く染まった。
------Keizi side
上ヶ瀬市街からバスで揺られること30分。大きな橋を越えて近代的なビルが建ち並ぶ最新鋭の街、そしてその中心となる学園・・・海面上昇の影響で水没した上ヶ瀬の沿岸部を、埋め立てて作られた複合型学園都市がここ『澄之江学園都市』だ。正確な地名は『上ヶ瀬市澄之江学園都市町』となる。埋め立てられているんだから当たり前だけど、水没してたなんて面影は全くない。
「さて・・・汀さんんの話だと、お出迎えの人がいるはずなんだけど」
「あの・・・」
「あ、はい――」
声の主を振り返って、俺は言葉を詰まらせる。
「人違いならごめんなさい。もしかして、転入生の速瀬慶司さん・・・・でしょうか?」
な、なかなかかわいいじゃないか・・・・・。パッチリとした目に腰ほどまで伸びている髪・・・・しかも出るところはしっかりと出た身体。別にかわいい女の子を求めて転入を決めたわけじゃなかったけどこれはこれで価値があったっていうか――
「す、すみませんっ。人違いだったみたいですね。本当に申し訳ありませんでしたっ」
「あっ、いえいえ。私が速瀬慶司です。申し訳ありません、ぼーっとしちゃって」
相手の勢いに押されて、つい馬鹿丁寧に『私』などと言ってしまったが、どう見ても同い年くらいだよな・・・・。澄之江の制服着てるし
「よかったぁ・・・・。間違えちゃったと思いました」
女の子は大きな胸をほっと撫でおろすと、改まった様子で俺に向きなおる。
「ようこそ、澄之江学園へ!」
「私は姫川風花。速瀬くんが転入する2年A組でクラス委員をやっています。よろしくお願いしますねっ」
これ以上ないほどの爽やかな笑顔と共に右手が差し出された。同年代の(しかもかなりかわいい)女の子との握手に、一瞬気恥ずかしさを感じたが、俺はなんとかそれを隠して姫川さんの右手を取る。うわ、すべすべでやわらか――
「――っ」
「?どうかしました?」
なんだ?静電気か・・・・?姫川さんと手を繋いだ瞬間、身体中になにかが駆け抜ける感じがした。
「いや、ちょっと緊張しちゃって・・・・。これからよろしく姫川さん」
「はい、こちらこそ♪」
彼女の方は、特になにも感じてないようだ。まあ、気にしないでいいか・・・・。
「速瀬くんは荷物はそれだけなんですか?」
握手した手を放しつつ姫川さんが聞いてきた。俺は今、ミドルサイズのショルダーバッグを一つ肩にかけてるだけ。中に入っているのも、転入手続き関係の書類とハンドヘルドPC、それと読みかけの小説くらいのもので大した重さはない。
「ほとんど引っ越しの荷物と一緒に送ってしまいましたから。寮の方に届いているじゃないかと思いますよ。もっとも、そんなに大層なものは持ってきてないんですけどね」
「あはは、寮の部屋ってあんまり広くないですしね」
「ええ」
「じゃあ、このままご案内しますね。本当はまず担任の先生のところに行くべきなんですけど、急な職員会議になってしまったそうなんで」
「はい、お願いします」
そんなわけで俺は、姫川さんの後をついて澄之江学園の中に入っていった。
「校舎内はこんな感じ。まだそれなりに新しいから、結構綺麗でしょ?」
「確かに・・・・。ふ~ん、なかなかお金もかかってそうな・・・。あ、祐天寺財閥の資本が入ってるんでしたっけ?」
「うん、祐天寺の他にも武菱とかトヨハラとか・・・あ、あとCSCってところが積極的みたいですよ?」
「CSCって・・・ああ、警備会社でしたっけ?最近、CMでよく見る」
「そうそう、それです。汀先生もCSCの出向なんですって」
「へぇ・・・なるほど」
汀先生というのは、俺をこの学園に誘った汀薫子さんのことだろう。澄之江学園のエージェントだという紹介だったから、在校の生徒とはそんなに面識がないと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。
ガラガラ・・・・
「はい、ここが私たち2年A組の教室。速瀬くんは、明日から転入なんですよね?」
「その予定です」
「部屋も片づけないといけないのに大変ですよね・・・。私も手伝えるといいんだけど・・・男子寮には入れないし」
「ありがとうございます。でも、荷物も多くないんで大丈夫ですよ」
「ふふふ、同室の人とも仲良くなれるといいですね」
「そういえば二人一部屋とか言ってましたっけ・・・・。女子の寮の方も?」
「うん。そうだ、あとで私のルームメイトも紹介しますね?その子も同じクラスで、すごく仲良しなんです。速瀬くんと雰囲気ちょっと似てるし、すぐ仲よくなれるんじゃないかなって思いますよ」
「女の子と雰囲気似てるって言われても・・・・」
「あはは・・・・あ・・・・」
「ん?」
「えっと・・・今、速瀬くんっも気をつけて敬語でしゃべってますよね?もし、よかったら・・・・もう少し普通にお話ししませんか?」
「あ・・・そ、そうですね。そう言ってもらえると、こっちも助かります。最初に敬語から入っちゃうと、いつ崩していいのかなかなか難しいですよね」
「あはは、良かった――って、全然敬語のままですよ?」
「いやまぁ、急に切り替えろって言われても、それはそれで難しいっていうか・・・」
すると姫川さんは、両手の親指と人差し指で長方形の枠を作って、そこから俺を覗きはじめた。
「んー、んー、んー」
「な、なに?」
「見た感じ、普段から『私』なんて言わないよね?」
「そりゃまぁ・・・・」
「――私は、姫川風花」
「え、それはさっき――」
いや。そういうことじゃない。これは初対面の仕切り直しってことか。
「俺は、速瀬慶司」
「――うんっ、よろしくね、速瀬くん」
「よろしく、・・・・姫川」
普段の俺でも、女の子に『さん』付けはそれほどおかしなことではなかったけど、俺はあえて『さん』を付けずに苗字を呼んだ。
「うんっ」
我が意を得たりと満足げにうなずく姫川。なるほど。この子はなかなか
―――ガラガラ
「お、誰だ?日曜日の教室に・・・って姫川か」
「朝比奈先生・・・職員会議じゃなかったんですか?」
「これからだよ。学園長が遅れているらしくてね。・・・・ああ、ってことはそこにいるのが転入生ってことか」
「はい。速瀬くん、こちらが私たちの担任の朝比奈洋子先生」
担任だと紹介されたのは、二十代半ばくらいの女性だった。
「担任の朝比奈洋子だ。よろしく頼む」
「速瀬慶司です。こちらこそよろしくお願いします」
「おっと・・・もうちょっと挨拶してやりたいところだけど、聞いての通りこれから職員会議があってね。学園長のところにも挨拶しにいかなきゃならないんだが、会議の後になる。姫川、引き続き速瀬の相手を頼むよ」
顔立ちの割りに、ずいぶん男前な口調の先生だな・・・・。
「はい、大丈夫です」
「そういうわけだ速瀬、またあとでな」
「はい」
「ああ、それから・・・・姫川は学園の人気者だが、いまだ特定の彼氏はいないそうだ。転入生と案内役というアドヴァンテージを活かすなら今だぞ?」
「なにをアドバイスしてるんですかっ!!」
「ははは、それじゃあな」
―――ガラガラ
「うぅぅ、全くあの先生は・・・・」
「彼氏いないのか・・・」
「速瀬くんっ」
「はいっ、すみませんっ」
「・・・くすっ」
「ははは・・・・しかしなかなか豪快というか豪放磊落というか・・・面白い先生みたいだな」
「細かいことは気にしないタイプだけど、ものすごく熱意のある先生だよ。勉強も・・・・勉強以外も」
「・・・・勉強以外?」
「たぶん、すぐにわかると思う」
「えーっと・・・・特別教室なんかはカギかかちゃってると思うから、それは今度ね」
「ああ」
「あとは・・・・あ、学食はやってるかな」
「あ、風花!」
そこには小柄な黒髪の女の子が立っていた。姫川の存在に気が付いて、パッと明るい笑顔を見せている。印象的には下級生と言ったところか。
「あ、沙織先輩、こんにちわっ」
・・・・先輩だったらしい。姫川の背後に俺がいることに気付いて、下級生みたいな先輩の表情がキッと厳しくなった。
「確か――風花は部活動に参加してなかったはずだけど、休日の校舎になにか用でも?」
「部活はないんですけど、今日はクラス委員のお仕事で」
相手の糾弾にも笑顔を崩さずに姫川は対応する。さすが姫川とも思うが、この小さな先輩は姫川を名前で呼び捨てにしていた。勝手の知った仲、ってところか。
「そちらは?」
「こちらは、今度転入する速瀬慶司くん。今は私が校内を案内しているんんです」
「どうも、速瀬です」
「転入生・・・・・ですか」
怪訝そうな先輩の目が、俺の頭から足元までゆっくり一往復
「はじめまして、3年の宇佐美沙織です」
「よろしくお願いします」
・・・・『3年』を強調した気がしたが、まぁつっこまないでおく。
「あ、沙織先輩は風紀委員さんなの」
「なるほど」
それでさっきの値踏みするような目か。転入生なんてのは外部の者に他ならないからな。この警戒も理解できる。
「アナタが風紀を乱さずに学園生活を送ってくれたら、そうそうよろしくすることはないと思いますけど」
「ことさら風紀を乱すつもりはないですが・・・それでもよろしくお願いします、先輩後輩として」
「むむむ!?」
・・・あれ?余計に警戒させた?
「風花、速瀬君は何日付で編入されるの?」
「えっと、それは・・・・」
「一応、明日からってことに・・・・」
「なら、スリッパは生徒用ではなく来賓用を使うこと!受付の前に入校証があるからそれもちゃんとつけないとダメ!」
「え?え、え?」
「ちょっと待ってなさい!」
ピュ~~~~~という効果音が聞こえた気がするほどの速度で宇佐美先輩はどこかに行き戻ってきた。
「これをどうぞ」
来賓用のスリッパと入校証――わざわざ取ってきてくれたのか?
「今日はまだ外部の人なので大目に見ますけど、明日からはちゃんと上履きを履いてくること。それから私服で校内に入る時は受付で許可を・・・・」
「沙織先輩、そこまで厳しくしなくても」
「ダメ――転入生は最初が肝心。風花は隙が多いから気を付けてね」
「隙、ですか?」
「風花はぽわぽわしてるようでしっかりしてるけど、やっぱりぽわぽわしてるから」
「なっ、私、そんなにぽわぽわなんてしてないですよっ」
「そう?」
「そうですっ。こう見えても『うちのクラスの委員長は頼りになるなぁ』ってよく言ってもらえるんですから」
姫川は胸に手を当てて、自慢げに言う。やばいな、この子面白い・・・・・
「そう言われて、転入生のお出迎えも引き受けることになったのね?」
「・・・え、あれ?なんで知ってるんですか?」
「・・・・・・はぁっ、やっぱり。風花はいつもそうだもの」
「え?え?でもでも、別に断るようなことじゃないし・・・速瀬くん、いい人だし」
「会ったばかりでわからないでしょ!ああん、もう、本当に隙が多いんだから。女の子がそんなに誰とでも仲よくなったら危ないの!」
「・・・・それは一理ある」
「ほらね、速瀬君だってそう言ってるし・・・ってなんでここでアナタが入ってくるの!?」
「えへへへー、先輩と速瀬くんもすっかり仲良しじゃないですか」
「ううっ・・・・また風花のペースに引きずられてしまった・・・・」
図らずも隙を見せてしまった宇佐美先輩が、軽く額を押さえた。
「姫川を心配する気持ちは大変よくわかりますが、つけこもうなんて気持ちはさらさらないのでご安心ください」
俺は噴き出そうになる笑いを堪えて言う。
「姫川!?」
「あ、ええっと・・・・姫川・・・・さん」
「あ、さん付けはやめよって言ったのに」
「・・・・というわけです」
「むー・・・・」
「宇佐美先輩が姫川のことすごく心配してるってのはわかりました。俺が信頼してもらえるのは、まだ少し先かもな・・・・てことも」
「え~、そうなんですかぁ・・・・先輩、速瀬くんほんとにいい人ですよ?」
姫川はまだ納得いってないみたいだ。
「少なくとも、頭の回転が悪くなさそうなのはわかったわ。警戒レベルはさらにあがったけど」
「なんで!?」
「口の上手い男には要注意」
「ふむ・・・会話運びを褒められたと言うことにしておきます」
宇佐美先輩は俺をキッと睨み付けてきたが、俺はその視線を怖じ気づくことなく受けとめた。睨みつけてきてはいるが、怒っているというわけどもなさそうだ。転入生は最初が肝心――ってのを実践してるところか?確かに背丈やそのかわいらしい顔に似合わぬ迫力、威圧感・・・強い信念のようなものは感じる。おそらく、風紀委員としての実績もかなりあるんだろう。
「あ、あの~」
いかんいかん。ついいつもの分析癖が出てしまった。
「フッ・・・・速瀬慶司、覚えておきます。明日から
「おれも宇佐美先輩のこと覚えておきますよ」
「私のことよりも、校則を覚えてくれた方が嬉しいけど。それじゃあ、風花っも、またね」
「はい、また」
俺もぺこりと頭をさげ、宇佐美先輩を見送った。
「よかったね、速瀬くん。沙織先輩、速瀬くんのこと気に入ってくれたみたい」
「いや・・・最後まで警戒されていたように見えたけど・・・」
こっちが変に張り合ったりしなかったから、事なきを得たってところか。やっぱり試されたんだろうな。
「またまたっ。会ったばかりなのに見つめ合っちゃってたくせに~」
「あれは視線で威圧されてたんだって・・・・」
「そうかなぁ。沙織先輩が『覚えておく』なんて、校則違反の常習犯の人くらいのものなんだけど」
「・・・・それと同等って、あんまりいい意味ではないと思うぞ」
「あれ?あ、そうか・・・な?あれ?」
「そうだろうよ」
「あ、いたいた風花~!」
その時、先輩が去った方向から、姫川を呼ぶ声がした。宇佐美先輩が戻ってきたわけではなく、別の姫川の友達のようだ。それにしてもずいぶん耳馴染みの良い声―――
「あっ、琴羽ちゃ~ん。よかった、メールすぐにわかった?」
・・・・って、琴羽・・・・?
「わかったわかった。それに沙織先輩に聞いたら、今すれ違ったばかりだ――」
「・・・・琴羽が、いる」
「っ・・・・て・・・・」
「え?」
「けい・・・・じ・・・?」
「ちょっと待て。なんでここに沖原琴羽がいる?おまえ確か――」
「ひ・・・人違いですっ!!」
「あっ、琴羽ちゃん!?」
「逃げたっ!?あんにゃろ・・・っ」
咄嗟に追いかけそうになったが、ふと思いとどまった。あいつがここの生徒なら問い詰めることはまたできる。今は事実関係を確認しよう。
「姫川・・・今のは沖原琴羽で間違いないよな?」
「う、うん・・・。私のルームメイトなの・・・速瀬くんに紹介しようと思って、さっきメールで呼んでおいたんだけど・・・速瀬くん、琴羽ちゃんのこと知ってたの?」
「あいつとは、まぁ、幼なじみというか腐れ縁というか・・・だけど、澄之江にいるなんてことは知らなかったな・・・」
「わっ・・・じゃあもしかして、速瀬くんって琴羽ちゃんの元カレさん、だとか?」
「ぶっ!!」
おれは噴き出してしまう。
「元カレなんかじゃないって。まぁ、よく遊んだ仲ではあるけど・・・・うちの妹の方が俺より仲良かったかも」
「そうなの?」
「ああ」
さっき姫川、ルームメイトも同じクラスだって言ってたよな?こうなってくるといよいよ『腐れ縁』って感じだな」
「あはは。本当すごいね」
「ああ。恐ろしいもんだ」
「で?琴羽ちゃんのこと追いかけなくていいの?」
「別にいいんじゃないか?同じクラスなら、明日には嫌でも顔をあわせることになるだろうし」
「クールだねぇ・・・・・」
「う~ん、そうだな・・・・万が一、夜になっても部屋に戻ってこないなんて時には、一緒に捜すよ。そんなことはないと思うけど」
「うん。私もそんなことないと思う。ふふっ、信頼してる信頼してる」
「人となりを知ってるだけだって。なにしろ――」
「『腐れ縁』、だから?」
「そういうこと」
「ふふっ」
kotoha side--------
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・・・はふぅ~・・・・お、驚いた~・・・・はぁぁ・・・」
息を一旦整えて考える。
「なんで慶司がこんなところにいるのよ・・・。っていうか、なに?風花の言ってた転入生って慶司のことなの?よりによって一番知られたくなかったやつに・・・・あうううう・・・・」
でもそこでふと考え付く
「あ~・・・・でも・・・・クラス一緒なのか・・・・。誤魔化しようがないなぁ・・・・」
またため息を一つ。
「ふぅ・・・・すぐに帰る気にはなんないな。どこか適当にぶらついていくか・・・」
keizi side-------
「それでは失礼します」
「失礼します」
朝比奈先生と一緒に転入の挨拶を済ませ、学園長室を出る。聞くところによると、この学園の教職員は学園長も含め、土日も出勤していることが少ないらしい。教員免許を持っているとはいえ、ほとんんどの教師が同時になにかしらの研究員でもあり、学園都市内に点在する研究施設との間を行き来しているのだそうだ。
「あ、お疲れ様」
「姫川、わざわざ待っててくれたんだ」
「うん。だってまだ寮の場所とか案内してないし」
律儀なヤツだな・・・・
「なるほど。案内役としてのアドヴァンテージを活かしているわけか」
「なんのアドヴァンテージですかっ。私はただ速瀬くんが早くこの学園の生活に馴染んでくれればいいなって思ってるだけです」
「そうか。そうしてもらえると私も助かるよ」
投げたのか。転入生の世話を姫川に今丸投げしたのか。
「そういえば、今日は汀さんはいないんでしょうか。できれば挨拶しておきたいんですが」
「ああ、薫子なら今日はいないぞ?なにやらもう一人、緊急で転入させるかもしれないとか言っていた」
「えっ、もう一人転入生が来るんですか?たいへん」
「別に大変なことはないだろう?どいつもこいつもが、うちのクラスに入るわけじゃない」
「あ、そうか」
「そういう理由じゃしょうがないですね。まぁ、またいる時にでも」
「別に薫子に挨拶などしなくても、気にするタイプじゃないぞ?」
「汀さんが気にしなくても、こっちが気にします。お世話になったんだから、礼儀として挨拶くらいはしておくべきでしょう」
「・・・・フン、爺くさいやつめ」
なんで急にこんなに機嫌悪くなってるんだ・・・・?と思ったら
「朝比奈先生は汀先生を終生のライバルだと思ってるの」
姫川が気を利かせて解説してくれた。
「余計なことは言わなくていいっ」
「でっも先生、いきなり不機嫌そうにしたら、速瀬くんだって困っちゃいますよ」
まったくの正論だが、姫川も先生んい物怖じしないな。クラス委員と担任と言うことなのか、ずいぶん通じ合っているみたいだ。
「くっ・・・・そうやってみんな、薫子の味方をすればいいんだ。どいつもこいつも・・・・・ぶつぶつぶつ」
「えっと・・・・速瀬くん。じゃあ寮の方にいこっか」
「え、いいのか?」
「うん。先生、こうなったら長いから」
俺が先生を見てみるとまだぶつぶつとなにか呟いている・・・・・確かに長そうだった。
「朝比奈先生も汀先生も同じ分野で研究してて、いっつも汀先生が一歩リードしちゃうんだって」
「はぁ、なるほど」
「その上、朝比奈先生ったら身体的な部分でコンプレックス持っちゃってるから・・・・」
「身体的な部分?」
「えっと・・・女性的な、部分?」
朝比奈先生が・・・・・コンプレックス・・・外見的にはかなり美人な部類だと思うんだが・・・・・思うんだが・・・思うんだが・・・・・
「・・・・・胸?」
「・・・・・」
姫川はコクリと頷いてから、軽く額を押さえてため息をついた。
「それさえなければ、本当に良い先生なんだけど・・・・・だから、速瀬くんも、汀先生の話題と胸の話題には充分気を付けてあげてね?」
「了解」
難儀な先生だな。だけど、そうか・・・・汀さんの胸は、確かに大きかったもんな・・・・。
misio side--------
「智ちゃん。お紅茶もう一杯どう?」
「い、いえ、私は・・・・」
「お嬢様、そういった気遣いは我々に対してはなさらぬよう。もっと威厳を持って、傲慢に、そして横柄に」
「菜緒さん・・・・・いいじゃない、お茶をしている時くらい」
「ダメです。澄之江に入学して半年・・・・慣れてきた頃合いだとは思いますが、気を抜いてはなりません」
「ぶぅ・・・・」
「このラウンジには他の学園性もいるんですよ?」
「あら、本当ね。・・・・でもどうしたのかしら。あの人、なんだか憂鬱そう・・・」
「先ほどは、なんだかにやけていたみたいですよ」
「あらそうなの?じゃあ、恋人jのことでも考えているのかしら」
「あれは・・・・2年A組の沖原琴羽ですね。なかなかの有名人で2年生の中では姫川風花と並ぶ人気を誇っています」
「へぇ・・・・綺麗な人だものねぇ。人気なのもうなずける・・・けれど、笑顔ならもっと素敵だと思うわ」
「お嬢様」
「・・・はぁい。・・・・ふっ沖原琴羽ね。なかなかかわいらしい顔をしているじゃない」
「『もっとも、私の美しさには敵わないでしょうけど』までいきましょう」
「え・・・それは、ちょっと・・・・痛々しくはない・・・?」
「痛々しいまでの傲慢さが、パフォーマンスとしては有効なのです。わかりやすさ重視で」
(お嬢様をダシにして、楽しんでるだけでは・・・・・)
「智?なにか言ったか?」
「な、なんでもありません」
「・・・そうですね、私たちのことももっと見下した呼び方にしましょう」
「見下したって・・・・・呼び捨てにでもすればいいの?」
「それでは足りません。お嬢様は殿上人。我々は人間以下のものとお思いください」
「そうですね・・・・以後私のことは『にゃお』、智のことは『ぽち』とお呼びくださいませ」
「ぽち!?」
「智、なにか?」
「い、いえ・・・・・」
(ず、ずるい・・・・。『にゃお』ならまだあだ名の範囲なのに、私、『ぽち』って・・・・・・)
「にゃ、にゃお・・・?ぽち・・・・?」
「威厳を持って。あえてわがままに。傲岸不遜に」
「ふぅ・・・・」
「にゃお、ぽち」
「「はっ、お嬢様」」
「なにをしているの!紅茶にはスコーンよ!早く用意しなさいっ」
「はっ、ただいま」
「・・・・・まぁ、いいですが。できればもう少し、要求レベルを上げた方がよろしいかと」
「はぁぁ・・・わがままって、難しい・・・」
「ともかく、もう明日が本番なのですから、しっかりなさってください。お嬢様自身が選ばれた道でしょう」
「うう・・・・はい・・・・・」
「お嬢様、こちらスコーンです」
「あ、ありがとう、智ちゃん――じゃなくて・・・・・・・遅いわよ、ぽち」
「申し訳ありません」
(お嬢様もおかわいそうに。絶対菜緒さん、お嬢様で遊んでるだけなのに・・・・)
「智」
「は、はい」
「そろそろ見回りに行け。なにか起きた際の手筈は、わかっているな?」
「はい。・・・・ではお嬢様、失礼します」
「ご苦労様」
「・・・・あら、沖原さんもお店を出るみたい。少しお話ししてみたったな・・・」
「お嬢様、今日はもう少しレッスンをしておきましょうか」
「うっ」
「明日が組織の立ちあげなのですから、念を入れておくべきでしょう。ことと場合によっては、それが明日ではなく、今日になる可能性だってあるのですから」
「そんなっ!?それは明日だって――」
「もちろん、何事も起こらなければそれは明日となります。何事も、起こらなければ」
「菜緒さん――いえ、にゃお!あなた、なにかが起こると確信しているにね?」
「はい、お嬢様♪」
keizi side--------
姫川の説明を受けつつ、学生寮までの道を一緒に歩く。たまにすれ違う男たちがチラチラと視線を向けてくるのは、羨ましいとでも思われてるってことなんだろうか。
「ん?」
確かに姫川と並んで歩くってのは、男としてちょっと誇らしい気分かもしれない。ただし、これが本当にデートとかならば、だ。
「姫川、なんだが楽しそうだなって思って」
「もちろん楽しいよ?新しいお友達ができたんだもん」
などと屈託のない笑顔を向けてくる姫川。危ないところだった。俺が本気にでもなっていたら『お友達』の一言で打ちのめされるところだった・・・。
「それでね、そこにオープンカフェがあるんだけど、これが私的に結構お薦めで――あ」
「お」
「琴羽ちゃんだ」
「うわぁっ!?」
本当に偶然だったらしく、琴羽は飛び跳ねるように驚き、またしても踵を返して逃げ出した。
「待て、琴羽!!」
「速瀬くん、追っかけよ!!」
「二人でか?」
「琴羽ちゃんは私からも逃げてるからね。親友として追いかける権利があると思いますっ」
「ハハッ、いいな、姫川。そういうノリは大好きだ」
「――っ」
「じゃあ行くぞ、姫川!」
「う、うんっ!!」
琴羽を追いかけて、姫川と一緒に街を駆け抜けていく。巨額の費用を投じて埋め立てられ整備された最新技術の粋を集めた街だと聞いている。ただ、まだ建築途中と思われる区画も多く、どうにも道を覚えにくい印象があった。それを理解した上でだろう、琴羽は工事用の鉄板で囲われた区画の方へ姿を消した。
「ん~っ、琴羽ちゃん、どこ行った~?」
「こっちだ、姫川」
「わかるの?」
「単なる勘!だけど、あいつの逃げたときの行動パターンなんて、それほど変わってない気がする」
「さっすが幼なじみっ」
「茶化すなって。たぶん、あそこだ」
「らじゃっ」
『関係者以外お断り』の看板を越えてそこへ侵入すると、そこにはもう一つ校舎でも作るつもりなのか、かなり広い敷地になっていた。一部は掘り返され、一部は鉄骨が組まれ、また全体の半分以上の面積が空き地となっていて、雑然と資材が積まれている。
そして――
「――げ、なんでっ」
そんな資材のそばで琴羽が気まずそうな顔をしていた。
「はぁ、はぁ・・・・ほ、ホントに、いた・・・はぁ・・・」
「おまえの逃げるパターンなんてお見通しだっての。ほら、もう逃げんなよ」
「琴羽ちゃん?逃げたら、しばらく口聞いてあげないからね?三日くらいっ」
三日って微妙に短くないか?
「あは・・・あはははははは・・・・・・降参。お手上げ」
だが、琴羽には効果があったらしい。両手をヒラヒラさせて、琴羽の方からこちらに近づいてきた。
「で?なんで逃げたんだよ?」
「ん~・・・・恥ずかしかったから?」
「乙女心だ・・・・」
「恥ずかしいってタマじゃないだろ、おまえ・・・・」
「そんなことないって。澄之江に来てからあたしがどれだけ乙女らしく成長したか、慶司は知らないのよ」
フフンと自慢げに腰に手なんぞ当てていやがる。
・・・・でも、確かに、いろいろと――
「ふむ・・・・確かに・・・・ずいぶん胸でかくなったな」
姫川も相当なものだが、琴羽のそれはケタが違う。おれの知っている頃の琴羽もそれなりに胸はあったが、ここまでのものは備えてなかった。
「でしょう?ふっふ~ん――って、いきなり表現が直接的すぎる!」
「そうだよ速瀬くん!もっとこう『女性らしい体つきになったね』とか」
「それはそれでエロいような・・・・」
「えっ、うそ」
なんだろう、このダメそうな会話。
「そっちはさ、どうしたのよ」
「どうしたって?」
「転入」
「ああ、そのことか」
「・・・・ま、澄之江に転入してくる理由なんて一つしかないけどね」
「《メティスパサー》、なんでしょ?慶司も・・・」
琴羽の台詞に俺が少し驚いた表情をすると、姫川が補足するように言った。
「聞いてない?澄之江学園って普通の人でも入学はできるけど基本的に途中編入は受け入れてないの。例外は、『メティスパサーと認められて学園側からの勧誘を受けた人』・・・・」
「なるほど、そういうことか・・・・」
《メティス》とは、いわゆる超能力のこと。また、それを使うもののことを《メティスパサー》という。超能力などと言えば、昔は一笑に付されたそうだが、今は違う。世界規模で起こった海面上昇以後、その能力に目覚めるものが急激に増えはじめ、今では公的にも研究が進められている。年々能力者は増えてきているそうで、俺の世代では7~800人に1人程度の割合で存在するらしい。多いのか少ないのかよくわからない数字だが、少なくとも転向前の学校には《メティスパサー》の知り合いはいなかった。
「厳密には、俺はまだ《メティスパサー>じゃない。自分がその《メティス》を使えるかどうか、よくわかってないんだ」
「覚醒待ち・・・ってこと?」
「なのかな?なんとか言う値が充分に高いって、汀さんは言ってたけど」
「《MWI値》かな。MetisWaveIntensityって言って、メティスの強さに深く関わってる値なの」
「ほうほう。まぁ、一通り基本的なことは聞いてきてるんだけどな。脳波の一種なんだろ?」
《メティス波強度》という言い方の方がわかりやすい気がするが、一般に《MWI値》で広まっているらしい。
「そうそう。それがある程度高ければ、メティスが使える可能性も高いの。汀先生の言うことなら間違いないと思うよ。なにかのきっかけ一つで使えるようになっちゃいそうだね」
姫川は人懐っこい笑みで言う。
「まぁ、俺としてはどっちでもいいけどな。俺自身が使えるかどうかより、《メティス》ってヤツ自体がどういうものなのか、それをこの目で見たかっただけだから」
「それを見てどうするのよ」
「面白そうじゃないか。そんな力があるってだけでワクワクするし、どんな風に応用できるだろうなんて考えだしたらもう果てがない」
「ふふっ、速瀬くんは好奇心旺盛なんだね」
「はぁ・・・・ちっとも変わらないね、慶司は」
「ほっとけ。っていうか琴羽や姫川はどうなんだ?《メティス》、使えるのか?」
「それは・・・・」
「うん、私、使えるよっ」
言い淀む琴羽を差し置いて、姫川が右手をビシッと挙げた。
「おお」
「実演してあげられればいいんだけど、私の能力ってちょっと見えにくいから・・・・実習の時にでも見せてあげるね」
「見えにくい・・・・?」
姿が消える、とか?いや、それならばむしろ実演しやすいか。今見えているものが見えなくなるのは、見えやすい能力ってわけだな。すると――
ドーン!!!!!!!!!
「きゃあっ!?」
「うわっ!?」
「な、なんだっ!?」
突然の轟音が耳をつんざいた。立ち上がる土煙、鼻腔を突く灼けた匂い。爆発物・・・・?工事現場にあるなにかの資材が引火でもしたかのか?いや、鉱山じゃないんだ。資材に火薬なんてあるはずが――
「海老名ァッ!!逃げるんじゃねぇっ!!」
「そんなもん喰らってられるか!!」
ドーンとまた一つ爆発が起きる。
「けほっ、けほっけほっ・・・・」
「マズイ。こりゃ《メティスパサー》同士のケンカだよ。巻き添え喰う前に逃げよう」
「《メティスパサー》同士って・・・・つまり、この爆発は」
「そうだよ!詳しい説明は後!今はここから――」
その時、かなり近くでその爆発が起こった。
「海老名、てめぇっ!!どこに逃げやがった!!」
「自分で爆発させたんだろうが、ドアホ!!」
確かにケンカだ。土煙でよく見えないが、その向こうから聞こえてきた怒声は、不良同士のケンカだと思える。だが不良同士のケンカで、手榴弾が使われるはずもない。
「うるせぇっ、てめぇがちょこまか逃げるからだろうが!!」
「こっちにはこっちの戦い方があるんだよ!!」
「くらえっ!《ダビデ・ストーン》!」
「させるかっ!《パペット・イン・ザ・ミラー》」
「くうぅっ、俺の腕が!?」
爆発が起こる。
「ぐああっ!?」
「江坂ァッ!おまえの能力みてぇに攻撃力はねぇが、俺の能力もケンカにゃ結構有効なんだぜ?」
「てめぇらしい陰険な能力だなッ!」
二人の男は、おれたちの存在になど気づいていないかのように《メティス》を使ったケンカを繰り広げている。こんなものに巻き込まれたくはない。それは全くの正論のはずだったが、俺はこの戦いに魅入ってしまっていた。
「慶司っ!なにやってんのよ!」
「速瀬くんっ!!」
先ほどから爆発しているのが、江坂と呼ばれたガタイのいい男の能力だろう。海老名の能力が分かりにくいのだが、どうやら瞬間的に相手の身体を動かしているいうだ。念動力的なものか、それとも催眠術的なものなのか・・・。
「慶司ッ!!」
「わ、悪いッ」
琴羽に腕を引っ張られて、ようやく我に返る。だけど、これが《メティス》・・・・・。想像した以上の能力じゃないか。
「おまえの動きはこの《パペット・イン・ザ・ミラー》で――な、なにィッ!?」
「見切ったぞ!おまえの能力は視線をあわせた相手を操るもの!つまり、こうして目を閉じてしまえばいいんだ!喰らえ!《ダビデ・ストーン》ッ!!」
「マズイ!!琴羽、姫川、逃げろ!!」
目をつぶった江坂が、こともあろうにこちらにいくつかの小石を放ってきた!アレが爆発するっていうのか!?くそっ!!馬鹿か俺は!俺の興味で琴羽と姫川を危険に晒してしまった!!だが、そんな後悔をしている場合じゃない。俺は琴羽と姫川だけでも爆発から守ろうと、後ろを振り返り・・・・・そして絶句した。なにを考えたのか、姫川が怖れもせず毅然と立っていたからだ。
「バカ!姫川、伏せろ!!」
「大丈夫――」
「え」
「私が守るから」
姫川は小石に立ち向かうようにして、両手を突き出し――そしてその名を叫ぶ。
「《アイギス》ッ!!」
複数の爆発音がした。耳がおかしくなったのだろうか、壁を一枚隔てたような音に聞こえる。
いや、音だけではない。俺は爆発の衝撃をまったく感じてはいなかった。姫川の《メティス》が発動し、爆発から俺たちを守ったのだ。それが姫川のメティス、《アイギス》の能力。完全なる『空気の盾』を作り出し、あらゆる衝撃を隔離する能力。そんな理解が、俺の脳裏を駆け巡っていく。
――なんだ?なぜ俺がそれを知っている?
「速瀬くん、琴羽ちゃん、大丈夫!?」
「あ、ああ・・・・大丈夫だ」
「ふぅ・・・・・サンキュー風花!愛してる~っ!」
「お、女の声!?げ・・・・まさか巻き込んだか・・・・・?」
江坂が今さら俺たちの存在に気がついたように言う。
「な・・・無傷?」
「ア・・・《アイギス》だと?2年の姫川か!?」
「知り合い?」
「ううん・・・知らない人、だと思う」
「風花の《アイギス》って言ったら学園内でも《絶対防御》で名高いからね。少なくとも戦車以上の防御力があるって噂だよ」
「マジで!?すっげ・・・・・タンク姫川」
「ちょ、酷いよ速瀬くんっ!ヘンな名前つけないでよぉっ!」
「そ、そっちはまさか『ミス澄之江』の沖原琴羽!?」
「・・・・ミス澄之江?」
「しっ、知らない知らない」
「知らないはずないでーす。琴羽ちゃんは去年の学園祭で『学園一の美人さん』に認定されてまーす」
琴羽のチクリに対する姫川の大反撃である。しかし、琴羽がミスコン優勝とは・・・・。この学園のヤツら、みんな騙されすぎだろ・・・・。
「やっ、エントリーしてない子の方が圧倒的に多いし!っていうか風花!あんた優勝候補って言われてたのに直前で逃げたじゃない!」
「だって・・・恥ずかしかったんだもん。ごめんね★」
「ごめんね★、じゃ・なーいっ!」
「あーつまり、あれだよな?エントリーした中なら自分が一番だったと、琴羽は言ってるわけだ」
「ちがっ――もぉっ!!慶司はなんですぐそうやって意地悪言うのよ!!ばかぁっ!」
「「・・・・」」
「・・・・・なんか俺、むかっ腹がたってんだけどよぉ」
「ああ・・・・てめぇと同じとは虫唾が走るが・・・・俺もだ」
・・・・あれ?俺、やばくね?
「え、えーと・・・俺たちは単なる通りすがりで、まったくあんたたちのケンカに関わるつもりはないので、これにて」
「この二股のサンピン野郎め!俺ァおまえのような軽薄なヤツが一番嫌いなんだ!!」
「よりによって学園1、2を争うカワイコちゃん二人ってのがまた罪が深いっ!!断じて、許ッせんッ!」
サンピンとかカワイコちゃんとか・・・・・今時タイマンとかしてる人たちは言うことが渋すぎるな。というのはさておき。
「別にどっちともつきあってるわけじゃ――」
「《パペット・イン・ザ・ミラー》!」
――ッ!?声が止まった。いや声だけじゃない。俺の四肢の一切がその動きを静止してしまった。俺を睨み付ける海老名の目だけがはっきりと見える。どうやら、目の動きすら封じられているようで、そこから目を逸らすことすらできなかった。
「速瀬くん!?」
「慶司!!」
海老名がニヤリと笑うと、俺の口の端も引っ張られる感覚がした。そうだ、さっき江坂ってほうがなにか叫んでいた。『視線をあわせた相手を操る』――だったか。馬鹿な。一度視線をあわせられたら、目をつぶるどころか視線を逸らすことすらできないじゃないか!
だが次の瞬間、目の前が真っ赤な炎に染まった。
「なっなに・・・・!?」
「炎・・・・?あ、あれ・・・・?動く」
炎は海老名の視線を遮って俺の身体を金縛りから解き放ち、そして、スッと消えた。もう声を出すこともできるし、自由に周りを見ることもできる。
「そこまでよ」
自由になった視線をその声の方へと向けると、そこには――
「手にしたメティス同士、競いあうのは構わない。だけど周りの迷惑も顧みないでメティスを使ったケンカだなんて、《メティスパサー》の風上にも置けないわね!恥を知りなさいッ!!」
赤い髪に強い意志を秘めた瞳、そして凛と澄んだその声。先ほどの炎がそのまま人になったのかと思えるほどの圧倒的は存在感。そんな強い印象を持つ少女がそこに立っていた。
「ぽち」
「ハッ」
赤い髪の少女の背後から長身の少女が現れ、一息に駆け出す。
「なんだおまえはっ!《パペット・イン・ザ・ミラー》!」
「――遅い」
海老名の首筋に刀が沿う。
「な――」
「お嬢様を守護する刀・・・・名を景浦智と申します」
「う・・・ぁ・・・・」
「景浦智と名乗った背の高い女の子は海老名を倒し、そしてその刀を鞘に収めた。――って、刀?
「データによると、海老名の《パペット・イン・ザ・ミラー》の発動条件は対象とコンマ5秒以上視線をあわせること。それさえわかっていれば取り立てて怖れるような能力じゃない。たとえ視線をあわせたとしても、智ならばコンマ5秒のうちに終わらせることができる。そして私の名前は近濠菜緒。お嬢様の付き人にして学園随一の『悪魔の頭脳』」
赤い髪の少女の背後から、今度はやけに背の低い少女が現れたと思ったら、突然解説しはじめ、そして脈絡のない名乗りをあげた。自分で『悪魔の頭脳』とか言い出すのはどうなんだ・・・・・。
「江坂卓ね?今やられたのが海老名孝義・・・・と」
「間違いありません」
「突然出てきやがって、なんなんだてめぇらは!!」
「もしかしてあなた、私のことを知らないの?そんなことだからタイマンなんて古めかしいことをしでかすのよ。いい?耳の穴かっぽじってよくお聞きなさい」
そこで一呼吸おいて赤い髪の少女が言う。
「わたしの名は―――祐天寺美汐」
祐天寺・・・・・美汐・・・・。不敵な笑みを浮かべて赤い髪をなびかせるその少女に、俺は完全に目を奪われていた。
「ゆ、祐天寺、だとぉ・・・・?」
「澄之江学園の平和を守るために立ち上がることにしたの。だからあなたたちのような不作法者はやっつけさせてもらうわね」
「祐天寺・・・?」
「この学園の創設者、祐天寺財閥総帥・祐天寺潮の孫娘・・・。まだ1年生のはずだけど・・・・」
「どっかで見かけた気がするけど、あの子がそうなんだ・・・。さすがの風格って言うか・・・」
「ゆ、祐天寺だからってなんだって言うんだ!!くらえっ、《ダビデ・ストーン》ッ!!」
江坂は怒りで小石を投げつける。いけないこの距離じゃ――
「フッーー」
俺がそう思ったその瞬間、景浦さんが祐天寺さんの前に飛び出すと、滑らかな動作で投げつけられた小石をつかみとり、その勢いを殺さぬまま上空へと投げた。
「お嬢様ッ!頼みますッ!」
「フン・・・」
その声を受けてお嬢様と呼ばれた少女――祐天寺美汐がキッと睨みつける。すると、上空の小石はただそれだけで爆発した。
「なっ・・・睨み付けただけで俺の《ダビデ・ストーン》が・・・」
「これが本物の炎の力・・・太陽の紅炎《プロミネンス》」
「データによると《ダビデ・ストーン》は着弾時の衝撃を増幅して爆発のエネルギーに変える能力。爆発に必要な最低限の衝撃がなければ、爆発自体起こらない」
「そ――それがどうしたっ!!俺は強えぇっ!俺の能力は誰よりも――ッ」
「うるさい・・・・」
そこで場面最初に戻る・・・・
本当にお疲れ様でした!!
感想、ご指摘どんどん募集しているので送っていただけると本当にうれしいです。
最後に読んでいただいて本当にありがとうございました。