ガッと書いた試作のものをバッと載せてみました。
あとすいません! 獣殿すいません!
あのトゥルーエンドの獣殿の独白を見てこれを書くのは、貴方にとって冒涜になるのでしょうが、許して下さい! 書きたかったんです!
空は青く、雲は入道雲のように高々と。青々と緑の草が茂る草原は実に牧歌的な風景がどこまでも続いている。
鳥は木々で囀り、動物達が木々から顔を出してある一点を覗いていた。彼らの視線の先には石造りの城があった。だがそれは造りだけであり、正しく言えば学院だ。
名を、トリステイン王立魔法学院。
その本分は貴族に対する魔法と礼儀作法の教育機関である。堅牢な城壁は、生徒である貴族の子弟を守る意味合いがあるためだ。
ともかく、動物達が見ているのは城ではなく、正しくはその手前。学院の城壁の外にある開けた平野に立つ、一人の少女であった。彼女が何かを言葉にして杖を振ると――衝撃。
ドガン。空気を震わす爆発音。これで何度目だろうか、音に驚いて鳥達がまた羽ばたいた。
だが彼女を見ているのは動物達だけではない。少女を囲むように、生徒達がいた。見守っているようにも見えるが、耳を傾ければ聞こえてくるのは罵声ばかりだ。
そんな罵声の中心点にて爆心地。
黒煙が晴れると、そこにはピンクブロンドの髪を揺らしながら咳き込む美少女。それを見てまた嘲弄や罵声が飛ぶ。
彼女の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。トリステインだけでなくこのハルケギニアでは知られた名門ラ・ヴァリエール公爵家の末娘であった。
「一体何回爆発させれば気がすむんだよ! ゼロのルイズ!」
罵声。ギッとルイズはその声がした方を睨んで怒鳴り返そうと何度か口を開閉させ、結局何も言わないで顔を戻す。
その言葉は、誰よりも彼女自身が思っている言葉だったから。
(一体これで何度目よ!?)
使い魔の召喚。失敗は三十を越えた時点で数えるのは止めた。そんなことに集中力を傾けるのは無駄だし、なにより虚しすぎる。失敗を数えるなら、未だ果たせぬ成功に目をむけた方が何万倍もマシだ。
「こ、今度こそ……ッ!」
何十回目の今度こそ。杖を振るい、強く強く思って呪文を唱えた。一際強い爆発。
「お願い……ッ!」
爆発の煙が晴れるが、そこには彼女が望んだ使い魔の姿はない。ただ地面が吹き飛んだ光景のみ。
「もう諦めりゃいいのに」
「ゼロはなにやったってゼロだろ」
「あいつ、本当にヴァリエールの人間かよ、もしかして――」
「――おい。それはまずいぞ」
〝あいつ、本当にヴァリエールの人間かよ、もしかして――〟
耳に届いた、その言葉。
「――――ッ、ぅ」
それに、気丈に振る舞っていた彼女の顔にヒビが走る。宝石のような瞳が、水面に映る双月のように揺らぐ。
そうだ。
母は無敵のスクウェア。上の姉は研究員で魔法はさほど得意としないが、きちんと魔法は使える。下の姉も魔法は使えるが、体が弱いせいであまり使えない。
自分だけだ。
自分だけなのだ。
座学で良い点数を取れても、魔法は失敗ばかり。何も言い返せない。
周りが爆心地に目を向けている最中、ルイズは誰にも見えないよう目元を拭った。濡れた袖が忌々しい。こんな事で涙を流すなど誰かに――特にツェルプストなんかに知られたら、一生の笑い者だ。
幸い、生徒達の中でそれを見ている者はいなかった。ただ近くにいた教師のコルベールだけが気付いていた。
「……ミス・ヴァリエール。貴女はよく頑張りました。ですが、これ以上は――」
ただ、貴女が傷つくだけです。
そんな、慰めにもならない言葉を飲み込み、伸ばした手はルイズの手で払われた。目にはもう涙はない。不安に揺れながらも諦めていない、強い眼差し。
「お願いです!ミスタ・コルベール!あと一回。あと一回だけチャンスを下さい!」
懇願する様な声色。コルベールは出した手をどうするか一瞬考えた。引くか、伸ばすか。
「…………」
手は――伸びた。ぽん、と肩に置かれる手に、ビクリと竦ませる。コルベールの口が開くのを、死刑宣告を受ける受刑者のような面持ちで見て――
「……ミス・ヴァリエール。君は何を思って使い魔を呼んでいるのですか?」
呟かれた言葉に、思わず首を傾げた。
何を思って?
そんなの、決まっている。
「……私に相応しい使い魔、です」
「では、君に相応しい使い魔とはなんですか?」
言われて最初に思い浮かんだのは、母が引きつれていたマンティコア。
無敵、無双、最強(あと最恐)の名をほしいままにする母に相応しき使い魔。ルイズが見てきた中で、最も雄々しく、強いと思った存在。
「ミス・ヴァリエール。見えない何かに強く望むのではなく、明確な形にして望んでみなさい。そうすれば、きっと成功する筈です」
「――はいッ!」
強く頷くルイズを見て、コルベールは下がった。伝えはしなかったが、これが最後。これで駄目であったのなら、彼女は召喚の儀を失敗――留年となる。
成功させてほしい――コルベールは心からそう思う。多くの嘲弄の的にされながらも決して折れずに努力するその姿勢は、彼であっても見習いたいと思える程に美しいものだから。
「……頑張りなさい、ミス・ヴァリエール」
目を閉じて集中する小さな教え子に、小さく呟いた。だがそう思っているのは彼だけではない。
彼の背後、褐色の肌を持つ赤髪の美女は、真摯な目で自らのライバルを見つめていた。
侮蔑の色など無い。そんなものはありえない。あるのは期待と不安が入り混じった二色の色。この場で、この学園で、彼女ほどルイズを認めている人間はいないのだから。
隣には青い少女。ルイズよりも小さい背丈をした彼女は、周囲のように笑うでもなく、教師や隣の美女のように期待と不安も抱かず、ただ無心な瞳で見つめている。
感情(フィルター)のない青い瞳は、真っ直ぐに。ただ目を閉じて詠唱を始める同級生を映す。
「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! なによりも神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴える!我が導きに応えよ!!」
唱える呪文は変わらない。だが心に思い浮かべるのは有象無象ではなく明確な形があった。
それは獅子だ。神聖で美しく、そして強力な使い魔を!
(これで……ッ!)
詠唱を終え、思いっ切り杖を振り下ろす。爆発。かつてない規模の大爆発だ。
それだけ籠められた思いが強かったのだろう。爆発の余波はコルベールだけでなく、離れて囲っていた生徒達にも被害が及ぶ程であった。
生徒達は悲鳴をあげながらルイズに罵声を送り、コルベールは吹っ飛ばされた眼鏡を探していた。
そうして彼女の渾身の爆発によって姿を現したのは――
「……なにこれ?」
鏡であった。獅子の細工が施された姿見である。
「……えっ、もしかしてこれが使い魔?」
ふよふよと浮かぶ姿見は、うんともすんとも言わない。当り前だ、言ったら驚いて爆発かます自信がある。
……無機物って、使い魔になるのだろうか?
「…………」
数秒考え、即却下。自分にはもっと相応しいのがいる筈である。マンティコアとか、グリフォンとか、竜とか。
爆発の被害を受けて戻って来た生徒達は、ルイズが召喚した鏡に驚きながらも、すぐに馬鹿にしたような言葉を送る。
さすが、ルイズ。召喚もまともにできやしない! などなど。
ルイズも今度ばかりは同意だ。こんなのまともな召喚じゃない。
そうして眼鏡を掛け直したコルベールの方に振りむいた。
――もう一度、やり直させて下さい!
そう言おうとした。
そう、言おうとしたのだ。
バギン!
その音がするまでは。
――ぇ?
小さな、本当に小さな声が、呟かれるように漏れた。ルイズからではない。離れた生徒達の方からだ。
そんな音さえ届く程に。
今、この瞬間。全ての音が消えた。
鳥のさえずり、草木のざわめき、人の声。
全てが消えている。
否。消えたのではない。
押し潰されていた。
何に?
ビシンッ!
鏡から放たれる、圧倒的な存在感に。
いや……鏡からではない。鏡の奥から迫る、何かに――!
見れば、鏡は割れていた。音を立てて崩れていく。まるで、内側から圧迫されるように、仰け反り軋ませる。姿見だけでなく、獅子の細工にもヒビが走った。
そして損傷が限界に達した瞬間、鏡だけでない、もっと別の――例えにしてもおかしいが、世界が割るような音と共に、ルイズの爆発など比べるべくもない閃光が周囲を包んだ。
「――ッッッ。……もう! なんだってい…う……の――」
言葉は半ばで消えていた。桃色の瞳はありえないものを見たかのように大きく見開き、鏡があった場所を凝視している。他の面々も同じだろう。
忘却。彼らの状態を指すのであれば、まさにそれが当て嵌る。意識は空のまま、ただ視線だけは、無理矢理固定されたかのように動かない。
黄金の長髪は、王者を示す獅子の鬣の如くたなびき。
彼らを見回す黄金の双眸も、やはり王者のように。
今、ここで断言しよう。
ここにいる全ての者は、これよりどれほど波乱に満ちた人生を送ろうとも、目の前の男には色褪せる。
この世のなによりも鮮烈であり華麗。強大にして荘厳。神聖さえ感じるほどに――恐ろしき、黄金の人型。
目を焼き、魂を焦がす。黒い太陽のような偉丈夫。黒太子。
人に――非ず。
「――ふむ」
視線を一周回し、王者のような男は視線を前に戻した。黄金の瞳に映したのはルイズ。
(――あ)
目が合った、その一瞬でルイズは呑まれた。声が出ない。体は石像のように動かない。息が詰まるような重圧が彼女の小さな身に降りかかる。がくり、と膝を曲げる。そしてそのまま頭を垂れ――
(――違うッ!)
刹那、彼女は自らを取り戻した。地面に着こうとした膝を杖で叩き、一歩前に出て立ち上がる。称えられるべき精神力。喝采されるべき胆力だ。他の生徒たちは腰を抜かし、膝をつき、コルベールすら膝を曲げている中、ルイズだけは立ち上がった。
――傍から見れば二人の王者に頭を垂れる、民衆の様。
彼女が自らを取り戻せたのは、強い自負。目の前の存在がなんなのか分からない。怖い、凄く恐い。触れられただけで壊される様を幻視する――だが、それがどうした!
あれは鏡から出てきたのだ!
ならば、私が召喚したのだ!
なら、あれは――あれは――私の……私がッ!
私が呼んだッ! 私の――私の――僕だッ!!!!
ビリビリと肌を叩く視線の圧力を浴びながらも、ルイズは怯まず、真っ直ぐ、背筋を伸ばして見据える。何よりも、誰よりも王者のような男を。
「アンタ、誰?」
言葉にするだけなのに、酷く億劫だ。砂漠に放り出されたようにカラカラと喉が渇く。だらだらと冷や汗を流しながらも、それでも顔だけは、おくびにも怯えを見せず。
長身の男はもう一度「ふむ」と頷いた。納得するような響きを載せて。
「私の名は、ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。よければ、卿の名をお聞かせ願おう」
男、ラインハルトは名乗り、足を前に一歩踏み出した。距離が詰まる、同時に圧力が増す。けれど負けない、負けてなるものかッ!
「――る、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよッ!」
ルイズも負けずと足を前に出す。二歩、三歩。ラインハルトの一歩と同じ分だけ前に出る。それをラインハルトは、嬉しそうに頷いた。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……良い名だ。そして――良き目もしている。ではミス・ヴァリエール。無粋であると承知で問おう」
言って、空を見上げた。黄金の瞳に映るのは二つの月。彼がいたであろう世界では、ありえぬ光景。だというのに、彼には幾程の驚きもなかった。ただ、笑みを深くした。
視線を降ろす。
「ミス・ヴァリエール。卿は私の……なんであろうか?」
獣殿、超圧倒。
ルイズ、本当はチビらそうと思ったのになんかカッコよくなってしまったよ。
獣殿は人間ですよ、ちゃぁんと人間ですよ。魔人じゃないですよ。魔人錬成状態だったら召喚と同時にみんな死んでますし。
あと、契約してもいないのになんで喋れてんの? と突っ込むのはやめて。
どう考えても、ルイズが無理矢理ラインハルトに口づけできるとは思えなかったのです。
身長的にも、度胸的にも、格的にも。
あと獣殿のニ人称は<卿>だけど、あれって男や、下の者に対して使うんだよね。ルイズに使うのはどうなのだろうか、いや使った方がいいというのなら、使うけど。うぅん、獣殿が貴女なんていうとすっごい違和感。読者の皆様はどう?