玄武の騎士に転生した人物。
当然、彼の目的は玄武を滅びの運命から救うことで……

え?違う?
自分が生き残れればそれでいいじゃんって?
そ、そんな殺生な。


1 / 1
玄武人が生き残るのってどうすればいいのか個人的に考えてみた結果。
けっこう酷い内容ですが、大目に見て。


玄武の騎士に転生して生き残る

水の月(2月)3日

ロリカ同盟は朱雀領ルブルムに次ぐ歴史を持つ北の大国である。

 

鴎歴28年にウルシャナビが古来より存在する陥没穴で玄武クリスタルを発見。

玄武クリスタルはウルシャナビをルシに選ぶとウルシャナビは都市国家ロリカと地下拝殿ペリシティリウムを設立した。

 

こうして巨大化していったロリカだが、西の山脈を越えたところに存在した都市国家ベリトとの対立が表面化してきた。

ロリカにはペリシティリウムがある強みがあるが、緑豊かな大地を領するベリトにはそれは絶対的なアドバンテージとはならなかった。

 

こうしてロリカを中心とする都市国家群とベリトを中心とする都市国家群は長らく対立を続けたが、紆余曲折を経てロリカがベリトを破り、ロリカが玄武統一を成し遂げ、ロリカ同盟を成立させるに至る。

 

それから西のミリテス皇国と幾度となく争い、ロリカ同盟は強靭なクリスタルの武具を身に纏う騎士の帝国へと変貌をとげた。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

午前十一時二分。

ミリテス皇国が隣国朱雀領ルブルムに宣戦布告し、皇国の大部隊が朱雀領に侵攻。

 

これの対応を議論すべく、玄武の各都市国家を纏める王達が首都の会議室に集まっていた。

この会議が玄武王臨席の下、開催されていることが事の重大性を物語っている。

 

パクス=コーデックス調印以来、各国が国境で小競り合いをし続けることで保たれていたパワーバランスが崩れかけない大事件なだけに議論にも熱が籠る。

 

「白虎との国境に配備していた騎士団はなにをしていたのだ!?

これほどの大軍が移動していることを全く察知できなかったとは!」

 

「我が騎士団の目的はあくまで国境の守護。

敵国の内情を調べるのは、我らの役目ではない」

 

「しかし! 此度の白虎軍が朱雀侵攻に向かわせた兵力は軽く見積もっても20万は優に超えるとのことだぞ!!」

 

「それほどの大部隊が移動していたなら流石に気づくだろうが!!」

 

「そうだ。この役立たず!」

 

「な! そ、それは暴言でありましょう!!」

 

「落ち着け、諸卿らの言い分は尤もだが、この場は責任問題を話し合う場に非ず。今後の方策について話し合う場だ。それを念頭においてほしい」

 

「し、失礼。執政官殿」

 

「執政官殿がそう言われるなら……」

 

「白虎軍は半ばまでもが朱雀侵攻に参加させているのだ。本土は手薄になっていよう。

この隙をつき、我が軍が白虎領に攻め込むというのはどうだ?」

 

「それでは古の大戦のように白虎のルシに潰されて終わりであろう!!」

 

「あの時は王とその近衛が別行動しておられた。

今回は王にルシを抑えていただければ白虎クリスタルを奪うことも……」

 

「不確定要素がおおすぎる。今は防衛体制を整えて暫く様子を……」

 

「いやはや悠長な。白虎は我が玄武にとって長年に渡る宿敵。

奴らを駆逐し、長き因縁にケリをつけるのは今を置いて他ありません!」

 

「いや、しかし……」

 

喧々諤々の議論が続いたが、玄武王ギルガメッシュ・アッシュルが片手を上げたのを見て全員が黙り込む。

 

「諸卿らの意見はわかった。

しかし我らが白虎領に攻め込んだ途端に蒼龍が我が領土に攻め込んでこないとも限らん。

ひとまず、国境地帯を除く各国家の騎士団をこの首都に集めるよう動員令を発令する。

そして蒼龍に特使を送り、対白虎同盟を打診するとしよう。

蒼龍とて今回の白虎の朱雀侵攻を脅威に思っているだろうからな」

 

玄武王の決断に各都市国家の代表達は一斉に立ち上がると腰を折り、王命に服した。

 

・・・・・・・・・・

 

「この時が来てしまったか……」

 

各都市国家の王に与えられた私室。

そこで岩のような鎧に身を包んだ大男が、いかにも疲れ切った表情で呟く。

 

彼の名はワルシャマ・ヒッタイト。

 

ロリカ同盟に属する都市国家カネシュの王であり、同国の騎士団を率いる人物である。

 

「して、どうなされるのです?」

 

カネシュの騎士団参謀のレライハが控えめに尋ねる。

 

「ひとまず、カネシュに戻る。支度をせよ」

 

「ハッ」

 

レライハが去った後、ワルシャマは床にバタリと倒れた。

 

「ほんとーシャレになんねー。そもそも玄武って生き残る難易度がルナティックじゃねぇか、ふざけんなよ神様め。ってこの世界の神様って虐殺ヒャッハーの仮面の野郎と特技がマザコン養育のババアの2人か。アホすぎて憎むのバカバカしくなるな。いや、そんなことはどうでもいい。なぜ玄武なんだ?原作知識の利用ないしは悪用がまったくできねぇじゃねぇか。第二の人生があるならスリルある生活を送りたいとは思ってはいたが、新世界の拠り所たる祖国が原作開始早々消滅の国に転生とか笑えないよ。マジで。皇国なり朱雀なり蒼龍なりに転生すればまだまだオレツェーー的なノリで無双できたこもしれんが、玄武じゃ無理じゃん。どう考えても個人の行動でどうにかなるレベルじゃないじゃん。だってさあ――――」

 

そのまま激しくゴロゴロと動き回りながら、しばらくこの世界の理不尽について文句を言いまくった。

 

・・・・・・・・・・

 

ほんとーにシャレになんねーよー。

 

え?なんか言葉遣い変わりすぎって?

 

いや、いいじゃん。独り言くらい前世と同じ喋り方で。

 

オレの前世はただの大工さんだよ?

 

周りからは『高貴なる変態大工』という異名で親しまれていただけの一般人だ。

 

……異名に突っ込みどころがあるのはわかる。オレ個人としても非常に謎だ。

 

周りが言うには「自分の家を改築して、謎の摩天楼を築き上げたから」らしいが……

 

いや、だって、趣味で家を弄ってたらそうなっただけなんだもん。

 

まあ前世のトラウマを振り返るのはここまでにしよう。

 

振り返ると辛いだけだし。

 

とにかくそんなこんなあって、57歳の時に家の改築中に高度200mから足を滑らせて転落死。

 

次に目が覚めると何故か、『FF零式』の世界に玄武人として転生してたわけだ。

 

なぜ転生したのかは謎。こっちに転生してから既に30越えてるけど未だ謎。

 

まあ、とにかくカネシュってロリカ同盟の一都市国家で、オレは武芸の修練を重ねて、20を少し超えた頃に騎士団の先代団長を破って騎士団の長となり、力を重んじる玄武の文化的にそのままカネシュの王になってしまったわけだ。

 

オレがカネシュの王になったのはだいたいこういう経緯だ。

 

ただ、それだけだ。

 

ん?レライハが呼んでるな。

 

戻る準備ができたのか。

 

・・・・・・・・・・

 

午後三時十三分。

 

都市国家カネシュの民は峡谷の崖を掘ってできた洞穴を住居にして暮らしている。

 

そんな洞穴の中で、もっとも大きいものがカネシュ王ワルシャマの居城である。

 

ワルシャマが前世の趣味の延長で内部改築に余念が無い為、非常に快適で広い洞穴となっている。

 

そんな中、カネシュの騎士団の猛者達がワルシャマの下に集まっていた。

 

玄武王直々の召集令での会議の結果を聞くためである。

 

「白虎が朱雀に大軍を送り込んだそうだ」

 

ワルシャマの言葉に、全員の顔が一斉に強張る。

 

「つまり、白虎が朱雀に全面戦争を吹っ掛けたってことか?」

 

代表して副団長のロレイが厳つい顔で問う。

 

するとワルシャマは重々しく頷いた。

 

「それで玄武王はどう対処するつもりだ」

 

「各国の騎士団をロリカに集め、蒼龍と連携してしばらく様子を見るつもりだそうだ」

 

「では、今すぐ首都への遠征の用意を……」

 

「必要ない」

 

ワルシャマの言葉にレライハとロレイを含め、全員が怪訝な顔をする。

 

「なにゆえ? まさか玄武王の命に背かれるおつもりか」

 

レライハは諌めるような声で問う。

 

「背くという訳ではない。ただ……」

 

「ただ?」

 

ロレイも真意を確かめるように言葉を重ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【王】(´・ω・`)<白虎が大量破壊兵器使おうとしてるって情報があるから暫く傍観したい

 

【騎士団員一同】 え?> (ω・` )(ω・` )(ω・` )(ω・` )

 

【王】(´・ω・`)<どうした?

 

【騎士団員一同】 あの……>(ω・` )どこでそんな情報を?>(ω・` )(ω・` )(ω・` )

 

【王】(´・ω・`)<白虎の内通者たちからの情報だ

 

【騎士団員一同】( ´・ω)<知ってた? (´・ω・) 知らぬ>(・ω・`) 左に同じ>(ω・` )

 

【騎士団員一同】( ´・ω)<全員知らなかった?(´・ω・) うむ>(・ω・`) 初耳>(ω・` )

 

【騎士団員一同】( ´・ω)<団長、気でも狂った?(´・ω) (´・ω) (´・ω)<<<……

 

【王】(`・ω・´)<失礼だぞ。貴様ら!!

 

【騎士団員一同】 いや> (ω・` )だって>(ω・` )ねぇ?>(ω・` )正気?>(ω・` )

 

【王】(`・ω・´)<大丈夫だ……。おれは しょうきに もどった!!

 

【騎士団員一同】 信じられねー>>>> (ω・` )(ω・` )(ω・` )(ω・` )

 

【王】(/・ω・\) <すまん。ちょっと今のは調子乗った。

 

【騎士団員一同】 ……> (ω・` )……>(ω・` )……>(ω・` )……>(ω・` )

 

【騎士団員一同】 正気> (ω・` )正気だ>(ω・` )正気だな>(ω・` )左に同じ>(ω・` )

 

【王】ヾ(`ε´)ノ <ちょっと待て!! 貴様ら、なんで今ので正気だと判断する!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――という訳でしばらくロリカに向かうのは様子を見たい」

 

約一時間に及ぶ喧々諤々の(殆ど本筋から離れた)議論の末、ようやく本題に入ることができたワルシャマは既に疲れ切った表情をしていた。

 

「「「「……異議なし」」」」

 

居並ぶ団員達も既に事前の議論で疲弊しきっており、これ以上議論する気力がなかったため、容易く賛成した。

 

これには団員達のワルシャマへの信頼があるからのだが、そうとは知らないワルシャマは騎士団がこんなので大丈夫かと頭を抱えた。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

なんとかこれでロリカを見捨てる見通しがたったな。

 

え?なんでロリカを見捨てるのかって?

 

だって、オレの国カネシュにとってロリカ同盟はそこまで存在意義ないんだよね……

 

というのもカネシュってFF零式で言う『北の峡谷』の谷間に存在する都市国家で他の都市国家と距離が離れすぎてるんだよね。

 

他の都市国家がある所と言ったらベリト砂漠のオアシスか、ユハンラ地方に流れる川の近くか、山脈の近くだ。

 

ハッキリ言って辺境も辺境である。

当然のことながら同盟内での扱いは悪い。

 

例えば、ロリカ同盟主導で国中の道と用水路を整備するという計画が実行されたことがある。

 

その計画で整備された地域はベリト地方とロリカ地方とユハンラ地方のみ。

我がカネシュはハブられたのだ。

 

こんな扱いがデフォなのが我が国カネシュなのだ。

 

……自分で言っててなんか泣けてくるな。

 

まぁ、そんなこんなで公共事業の恩恵に中々預かれないカネシュはロリカ同盟に所属しつつも、独立独歩の気風がある。

 

ロリカ同盟にしてもカネシュはそこまで価値のない都市国家なので、他の都市国家に比べてやたらと自由度の高い自治権を与えて半ば放置している。

 

もし、これが数千の規模を誇る騎士団を抱える都市国家ベリトとかならありえない対処だ。

しかしカネシュの騎士団の兵力は200を少し超えるかどうかというところなので、同盟の中心部にとってもそこまで関係を強化してまで欲しい戦力ではないから放置という対応がまかり通っているのだ。

 

というわけで見捨てることにした。

 

ところでいま気づいたが、なんか東の空が眩しく輝いてるじゃねーか。

どう見ても100%ミリテスのアルテマ弾ですね。ええ。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

水の月(2月)3日

カネシュの騎士たちが再び重苦しい空気の中、集まっていた。

 

「さて」

 

副団長のロレイがまず話し始める。

 

「先日、ロリカに大量破壊兵器が投下された。ロリカに集まっていた各国の騎士団も全滅したと見て間違いあるまい」

 

全員が沈黙する。

 

無理もない。

700年近く続いたロリカ同盟がたった一日で消え去ったのだ。

都市国家カネシュは立地上ロリカ同盟に属しながらも独立独歩の気風が強い地だが、それでも同盟が潰えて完全孤立したというのは耐えがたい。

 

「団長、我々はこれからどうすれば!」

 

参謀のレライハが切羽詰ったように問う。

 

先行きが全くと言って言いほど見えないのだからある意味当然だ。

全員の視線がカネシュの王たるワルシャマへ集う。

 

「鎖国しよう」

 

ワルシャマはぽつりとそう呟いた。

 

「さ、鎖国ですか?」

 

引き攣った顔でロレイが確認する。

ワルシャマは何も気負うことなく頷いた。

 

「考えても見よ。我らと白虎の戦力差はいくらだ?

我らカネシュの騎士は僅か200程度に対し、白虎の総兵力はいくらだ?

120万。120万だ。内、6割近くが朱雀領侵攻に投入されているとしても、まだ50万近くの兵力が白虎領内に残っているだろう。

単純計算で1人あたり2000人以上と相手しなければならん。

我らが全員一騎当千という次元を超えた英雄でなければ挑むだけ無駄というものよ」

 

「そ、それで鎖国だと?」

 

「うむ。幸いにしてカネシュは食料も水も自給自足できる立地だからな。

だから鎖国すべきだと思うのだが、なにか異論のあるものはおるか?」

 

なんとも情けないとカネシュの騎士たちは思いながらも、自分たちが生き残るのに良い案を他に思いつかなかったので、ぎこちなく全員頷いた。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

ヒャッハー!ひとまず安全を確保したぜ!!

 

白虎もこんな玄武の辺境というか魔境の谷底なんぞをそこまで重要視してないだろうからバレる可能性は極めて低い。

 

なにせ洞穴作って生活してるほど辺境だからね。

 

さらに必要とあれば谷底から一切出ることなく、生活が可能だ。

 

飲み水は洞穴の底に地底湖があるのでそこから確保できるし、食料は谷底をうろちょろしてるキングベヒーモスをハンティングして丸焼きにすれば食える。

 

あと薬師がモルボルグレートの臭い玉を生成している体液から薬をつくったりするのでアフターケアも万全だ。

 

……いつも思うのだが、いったいなにをどうすればあの異常事態しか発生しないモルボルグレートの体液が治療薬になるのか謎だ。

 

一回、薬師に聞いたみたことがあるが「そこはここをバサッとしてシュララディン、そしてこれを突っ込んだらドッカーンとなって、キラッとしたものを取り出し、それを必要に応じて他の部分と混ぜ合わせてあらゆる治療薬を作るんです」と言われた。

擬音が多すぎてわからん。

 

まあ、とにかく。

今必要なのは、数か月後に【フィニス】にオリエンス中にあの悪名高き害虫Gのごとく現れるルルサスの戦士への対策だ。

 

この谷底の要塞化……は、既にオレが王になって殆ど済ませているから女子供を守れるよう安全地帯の確保だな。

 

とりあえず可能な限り、洞穴を掘り進めようか。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

某月某日。

最近、部下から「最近の団長はいったいどうしたんだ?」とよく聞かれる。

 

ハッキリ言うが、私の方が聞きたい。

 

唐突に洞穴を拡張すると言って「あの青い狸出身の芋ほりロボットを思い出せ」とかブツブツ呟きながら、洞穴の穴を掘り進めているのだ。

 

レライハからも「毎度のことだが、ワルシャマ団長は気でも狂ったか」と真剣な顔で問われた。

 

今までもあの人の変な奇行は多々あったが、全部考えがあってのことだった。

 

たとえば、団長が王となり「洞穴を要塞化する」とか言って洞穴の出入り口付近に剣山を設置し、出入り口に弾幕を張れるよう洞穴内部に自動弓を設置して珍妙なカラクリ細工で離れて矢を乱射できるようにした。

 

これのおかげで我々は寝ずの番でモンスターにやられて騎士を失う確率がぐっと減った。

 

だから今回の洞穴拡張もたぶんなにかの考えがあってのことだと思う。

 

たぶん、きっと、おそらくは、そうだと考えたいと思っている。

そう、団長を信じることこそ副団長の役目の筈!!

 

「ちょっと失礼」

 

ん? なんだ薬師殿か。

 

「なんだ?」

 

「いや、多くの騎士からこれを副団長にと言われてね」

 

そう言って薬師殿は小瓶を私に渡した。

 

小瓶のラベルを見ると『胃薬』と書かれてある。

 

騎士団の皆の優しさに私は思わず泣きそうになった。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

空の月(12月)07日

空は赤く染まり、海は漆黒に塗りつぶされ、血の雨が降り注ぐ。

伝承にある【フィニスの刻】がおとずれたのだ。

 

カネシュの谷に現れた化物達はワルシャマの指揮の下、撃退に成功。

ワルシャマ団長は周辺の状況を調べさせるため、周辺に斥候を放つ。

 

そして騎士団の主だったメンバーはその報告を受けていた。

 

「団長、周辺を探らせていた者達によると先ほども現れた5メートル近いでかさの化物が大量発生しているそうです!」

 

「なるほど。どこの国かしらんが妙な兵器を開発したものだ」

 

「兵器!? あの化物が兵器と仰るのですか!!?」

 

レライハやロレイが困惑した顔で問う。

するとワルシャマは豪快に笑った。

 

「他のものには目もくれず、人の命を奪うことのみを目的として行動している。どう考えても兵器としてうってつけのものだ」

 

「しっ、しかしでは、どこの国がこんな兵器を運用していると!?」

 

「レライハ、お前は皇国の番外者をしっておるか」

 

「ハッ、確か白虎が捕虜に薬物などを投与して生物兵器として運用していたかと」

 

レライハはあまりに非人道的な白虎の所業を思い出しながら答える。

 

「それの発展形があの化物でないと言い切れるか?」

 

ワルシャマにそう言われ、レライハ達はハッとする。

 

確かに白虎が運用する番外者は、敵を屠るという行動以外なんの思考もできなくなった兵器だ。

先ほどから周辺をうろついている化物との類似性も多い!

 

「或いは朱雀の軍神とやらか。あの国は化物を呼び出しておきながら制御できず、玄武を危うく滅ぼしかけた前科があるからな」

 

「……そういえば、そうですねぇ」

 

「ですが、それならなぜ治癒ができぬのです? それに空が赤くなったことも含め、あれがフィニスの際に世界を滅ぼすというルルサスの軍勢ではないかという声もあがっているのですが」

 

ロレイの疑問をワルシャマは鼻で笑う。

 

「ロレイ、白虎のクリスタルジャマーをしっておるか?」

 

「ハッ、確か朱雀クリスタルの力を完全に封じ込める空間を発生させる兵器だとか……」

 

「うむ。その通りだ。

そこで、白虎の内通者から情報をえておるのだが、どうも奴ら、人の治癒能力を根こそぎ奪うジャマーの開発に成功したそうだぞ」

 

「な、なんですと!!?」

 

ロレイ以外の騎士たちも言葉にださねど皆驚いている。

 

「でだ。そのジャマーを展開すると空間が赤く見えるようになるそうだ。

おそらく空が赤く見えるのはそのジャマーが展開されているに違いない!!」

 

ワルシャマの力強い断言に、騎士たちは「その通りに違いない!」と叫びだす。

はっきり言って騎士たちに得体の知れない化物が襲ってくる心理的疲労を、自分たちの分かる次元の強力な存在に襲われているということにして軽減してしまいたいという心理もあったのは否めない。

 

「とりあえず謎の兵器の大部隊の襲撃からは第八防衛案の編成でこの都市を守る! また、基本的にあの兵器には1人2組であたれ! 1人は弓矢で遠距離から攻撃し、もう一人は剣と槍で相方を守る。そして常に遠距離戦法で戦うのだ。そして敵の兵器が動かなくなったら、必ず手足を刎ねよ! 生物兵器というのは動けない体でも敵を襲ってくるのだからな!」

 

「「「ハッ」」」

 

騎士全員がワルシャマの下に跪いた。

すべては自分たちの祖国カネシュを守りぬくために。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

いやー、ひっどい理屈でルルサスを既存の枠に押し込めたよ。

 

なんというか、得体の知れない強力な【ルルサスの戦士】どもと戦うのって予想以上に心理的疲労が凄いんだよ。

 

だっているはずのない化物なんだから。

 

例えるならFFTのルカヴィみたいに。

いや、あれは雷神が仲間になった後は雑魚すぎるな。

 

やはり、ベルセルクの使徒やゴットハンドの方がわけわからん常識の通じぬ強力な化物に近いか。

 

ようするに人と言うのは意味不明なものに異常な恐怖を持つ特性があるのだ。

 

だから【ルルサスの戦士】を白虎だか朱雀だかが造り出した兵器と自信を持って言ってやればいいのだ。

 

蘇るのも生物兵器として強化しまくった結果と言えばどうにかなるだろう。

よしんば蘇っても、手足がないんじゃ戦えんだろうし。

 

そうするだけで自分たちの理解の範囲内にいる敵だと錯覚して戦いやすくなるのだから。

 

しかし、いくら勢いに任せたとはいえ、我ながら理屈が無茶苦茶すぎるだろう。

そもそも白虎のジャマーは緑色の結界なんだが……

 

まあ、いいか。

今、誰もそんなこと考えてる余裕ないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

                 団長、新型兵器がやってきました!!>└┤´д` ├┐===

 

【王】(`・ω・´)<新型兵器!? どんなだ!?

 

             言葉じゃ説明できない! とにかく見てくれ!!>└┤´д` ├┐

 

【王】(`・ω・´)<どれどれ……

 

【王】( ゚д゚)………

 

【王】( ° Д ° )………

 

【王】((( ;° Д ° )))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと待て。聞いてないぞこんなの。

 

いや、アルティマニアで設定だけとはいえ存在したからいたのかもしれないけどさ。

 

だからってなんであの宇宙人みたいな【ルルサスの戦士最終形態】がいるんだよ……

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

顔はなく、全身は真っ白。

 

背中には太陽を模した黄金のような円盤が浮いている。

 

そして、その円盤に巨大な目が2つ、凝視するように敵を睨んでいる。

 

「引くなッ! ここで引けばカネシュの騎士の英列に並べられぬと思え!」

 

ロレイは声を張り上げる。

 

先程まで相手していたような人を5メートルくらい大きくしたような化物や、胸に顔があって羽が生えていて飛び回る化物とは一線を画する、言うなれば超化物という存在だとロレイの勘は告げていた。

 

超化物の円盤の目が赤く不気味に輝いたのを見て、ロレイの背筋に寒気が走った。

 

次の瞬間、円盤から赤黒い極太ビームが発射され、騎士が10人単位で跡形もなく吹っ飛んだ。

 

「くっ」

 

ロレイはあたりを見回す。

 

あの超化物に気をさかれ、多くの騎士が化物の軍勢に押されている。

 

あの超化物を倒さねば活路はあるまいとロレイは超化物に突貫した。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

渾身の一撃を超化物はなんなく剣で防ぎ、ロレイの視界から消え失せる。

 

(瞬間移動か!)

 

超化物に限らず、化物共は全員瞬間移動を使ってくる。

 

これのせいで弓矢で敵を近寄らせることなく一方的に攻撃という手段ができなくなっているのだ。

 

ロレイが勢いよく振り返るとそこには剣を振り下ろさんとしている超化物がいた。

 

やられるとロレイが覚悟した瞬間、超化物は明後日の方向に吹っ飛ばされていった。

 

「は?」

 

しばし呆けるロレイ。

 

超化物が吹っ飛んでいた方向と反対方向を見ると、そこにはでっかい何かを持ったワルシャマの姿が見えた。

 

「また、趣味が暴走して超兵器つくってたのか。あの人」

 

ロレイは苦笑いすると、混乱している騎士たちを叱咤して纏め上げようとした。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

いや~、こんなこともあろうかと!つくっておいてよかったガトリングガン!!

 

冗談です。

本当は、元々あった飛空艇とかを攻撃するための巨大な弓のような対空射撃兵器。

 

この対空兵器を小型化して個人装備できるようにした上で連射式にした代物で【ルルサスの戦士最終形態】(以下宇宙人)を吹っ飛ばしたのだ。

 

……本当はダメ元でルルサスのクリスタルである謎仮面用がやってきたときに使うつもりだったけど、何事も計算外というものはあるもんだな。

 

まぁ謎仮面と敵対するよかマシだが、どっちにしろあぶねぇ。

 

ん?なんかあの宇宙人の背後の円盤が高速回転して、ヘリコプターみたいに飛び始めたぞあの宇宙人!!

 

滑稽にもほどがある光景だぞ!!?

 

いや、んなことどうでもいい!! とりあえずシネェイ!!

 

と言う感じで自作の小型化連射式対空兵器を、宇宙人目掛けて乱射。

 

だが、あろうことかあの宇宙人はもうちょいで直撃というところでオレの目の前に瞬間移動して攻撃を避け、逆にオレに切りかかろうとしてきた。

 

ハッ! 接近されたときの対策を考えていないとでも思ったか。この宇宙人め。

 

すぐさま手元のボタンを押し、小型化連射式対空兵器の側面についている2つの箱を開封する。

この箱はビックリ箱のような構造になっており、ビックリ箱の中身が2つ宇宙人目掛けて長ーく伸びる!!

 

ん?このビックリ箱の先端になにをつけてたかだって?

それはな。玄武クリスタルの産物のひとつである【クリスタルの欠片】。

 

この欠片を少々改造して、地雷のような性能を持たせた。

 

早い話、この欠片にぶつかったら左右から乙型ルシなら確実に死ぬレベルの破壊力を持つ爆発に挟まれて死ぬ。

 

宇宙人みたいなのはこのビックリ箱みたいな仕掛けの兵器を喰らい、木っ端微塵に砕け散った。

 

ハッ、これで切り札使い切ったぞ、謎仮面きたらどうしよ?

 

と思ってたら、【ルルサスの戦士】が次々と消えていく。

な、なにがあった!!?

 

暫く呆然としていると、自分たちが日の光を浴びていることに気付く。

 

どうやら原作主人公共がやってくれたらしい。

 

ひょっとしたら、主人公達が世界を救う巡じゃなかったのかもしれん。

こうなったら最後はカネシュの最奥部に山のようにため込んであるロリカからパクリまくった【クリスタルの欠片】を爆発させ、カネシュごと滅びようかと考え始めてたが、しなくてよかった。

 

とりあえず、騎士たちがうろたえているのを見て、こりゃいかんと胸を張って宣言する。

 

「諸君! 諸君らの尽力により、我らが故郷カネシュを守り切った!! 我らは勝利したのだ!!」

 

一瞬静かになった次の瞬間、騎士たちの爆発した歓声が聞こえた。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

「団長」

 

傷だらけのレライハが、疲れたような声でワルシャマに話しかける。

 

「なんだ?」

 

「あの化物共がどこぞの生物兵器と言うのは嘘でしょう」

 

「……やっぱばれてた?」

 

「この程度見抜けなくては、参謀は務まりません……」

 

軽口のようにそう呟くと、レライハは力を失ったように倒れこむ。

するとワルシャマが顔を顰めて、悲しそうな顔をした。

 

ワルシャマは原作知識を持っている。

だからレライハが死んでしまうことも想像がついた。

 

ワルシャマやロレイのようにすくない傷なら、なにかで血を止めとけば完治せずとも生きて行けようが、これでは駄目だ。

 

「団長、ひとつだけ、よろしいでしょうか……?」

 

「なんだ」

 

「団長は、未来でも、見えるのですか……?」

 

「……」

 

ワルシャマは少しだけ悩んだ。

 

「前世の記憶というやつだが、一応な」

 

「なるほど……。合点がいきました。道理で、カネシュを要塞化したり、ロリカ同盟を見捨てたり、平然と決断したのですね……この結末を見据えていたから」

 

正直、ワルシャマは原作通りに物語が進むという奇跡に縋っただけだ。

ハッキリ言ってワルシャマ自身、うまくいく可能性は高く見積もっても20%を上回ることはあるまいと踏んでいた。

 

だが、そんなことをこれから死ぬやつに言う必要はあるまい。

 

「レライハ、お前はオレがカネシュの王となる前からの仲だ。よく今まで仕えてくれた。感謝する」

 

「なにを。貴方の底知れなさに……惹かれただけです」

 

「フン、言いおる」

 

「えぇ言いますよ。我らが王よ……」

 

そう呟いた次の瞬間、レライハの体がまったく動かなくなったのにワルシャマは気づいた。

 

「なるほど。死の忘却もなくなったか。とりあえずレライハがロリカが消失してから国の再建が第一だと言っていた。最早、オリエンスで未だ戦争をしたがる物好きなどいまい」

 

そう呟くと、ワルシャマは生き残りの騎士達と共に死んだ騎士を弔らい、騎士達を自分の洞穴へと集めた。

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

その後、ワルシャマは玄武の生き残り達を集めてカネシュを立て直し、玄武人の中心的立ち位置としてクリスタルなきオリエンスの指導者マキナ・クナギリの補佐をすることとなる。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。