俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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やっぱり難しいな~


第八話

 日々の授業というのは俺からすれば既に学習した範囲の朗読会に過ぎないので大体は机の上に小難しい本を並べておいて読んでいれば教師たちは誰も俺を注意しない。

 そりゃそうだ。俺は総武高校学年学力ランキングで第2位だからな……第1位は雪乃だ。何故かあいつには1度も勝てていない。おかしい……いや、リアルにおかしい。

 

 いつも1点や2点差で負けてしまうのだ。小学生の時に始まったこの勝負、最初は俺が勝っていたんだが5年生頃から雪乃が勝ちはじめ、今じゃあいつの方が全てにおいて上だ。やっぱり、一点集中型の俺じゃ全方位網羅型の雪乃には勝てないのかねぇ。

 ちなみに今は10分ほど授業が早く終わったので自習という名の休憩時間だ。

「隼人~。今日サーティワン行こうよ」

 

 後ろからそんな甘ったるい声を出したのはこのクラス、いやはてはこの学校の女王である三浦優美子。金髪縦ロール、お前は花魁かと突っ込みたくなるくらいに肩を出し、スカートはその綺麗な足を惜しげもなく露出するほど短い。ちなみに俺はああいう女子は嫌いだ。雪乃の様に清楚な……んん! 俺は何を考えているのやら。

 

「部活があるしな……部活終わりで良いなら」

「良い良い! 今日ダブルが安いんだ! あーしチョコとショコラのダブルが食べたい」

「それどっちもチョコだし!」

 

 そう言って笑うのが戸部翔。長い髪をゴムか何かで押さえつけ、常時お凸ぴかーん! だ。いわゆるチャラ男だ。意味わからんくらいにハイテンションだし。あとは眼鏡をかけた女の子と数人の男子がいる。

 そのグループの中心人物ともいえ、女王様が恋焦がれているのがイケメン・葉山隼人。俺の幼馴染のうちの1人であり、俺を無自覚の内に中継役にしやがった憎きリア充!

 

 

 バレンタインの時なんか女子が葉山と俺が幼馴染と言う事を知るや否や俺を宅配便とでも思っているのかチョコや手紙などをわんさか渡してくる。もう鬱陶しかったから3つほど形の良い奴貰って食ってやったわ…………その後、雪乃に何故か説教されたけどな。私のチョコを最初に食べないと怒るわよって…………何故に……まぁ、頭の上がらない人物の1人でもある。実際、あの時あいつに会ってなかったらあぁいう別れ方じゃなかったわけだし、そこだけは! そこだけは感謝している。

 

 その時、時計が目に入り、ちょうどいい時間を指示していた。

 ……そろそろ行くか。

 

「あ、あたしちょっと出かけてくる」

「出かけるならついでにレモンティー買ってきてよ。飲み物忘れちゃってさー」

「ごめん。あたしお昼まるまる居ないから」

 

 そう言うと三浦の目が鋭いものに変わり、雰囲気もさっきとはまるで違うものに変わる。

 その姿に由比ヶ浜はオドオドし始める。

 まさしく女王様と付き人だな。女王様の顔色ばかり見ている付き人が由比ヶ浜で付き人が気に食わないことをすれば不機嫌になる女王様が三浦だ。もしくは飼い犬に噛まれた主人だな。

 

「最近、結衣付き合い悪くない? この前も放課後バックれたじゃん」

「え、えっとそれはやむにやまれない事情があるといいますか」

 

 お前はどこのサラリーマンだ。言いたいことありゃハッキリ言えばいいのに。

 

「それじゃわかんないからハッキリ言いたいことあったらいいなよ。隠し事とかよくなくない?」

 

 三浦はイライラしているのが長い爪をカツカツと机に当てる。

 そのイライラが伝染しているかは知らないが周辺にいる奴らは敢えて三浦たちから視線を逸らし、音量を下げて小さな声で喋りだす。

 

 …………ハァ。

 

 俺は心の中でため息をつき、昼飯をもって立ち上がると同時に隼人と一瞬だけ目を合わせる。

 

「優美子。良かったら一緒に行かないか? 俺も買いに行きたいし」

「え、ほんと? 行く!」

「由比ヶ浜。行こうぜ」

「あ、う、うん」

 

 隼人と三浦は入り口から教室の外へ出て俺達は後ろの出口から外へ出て2人を離すような感じで別々の場所へと歩きはじめる。

 

「……ごめん、ヒッキー」

「謝るほどのことでもないだろ」

 

 奉仕部がある特別に向かって歩きながら由比ヶ浜にそう言う。

 

「なんていうかさ…………昔から自分の意見言えないっていうか……人に合わせちゃうっていうか」

 

 さっきのを見ればわかる。由比ヶ浜は空気を読むことには長けているとは思うけど自分の意見を言うところで相手が強く出ればそれに合わせてしまうんだろう。周りの空気が悪くなる前に。

 

「なんか周りの空気がダメになるとなんか嫌なんだ…………友達と一緒にいるときくらいは楽しくいたいし」

 ……友達が多いこいつにしか分からない悩みもあるってことか…………ふぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、図書室で借りた本を返した後に奉仕部の部室へ向かうと何故か由比ヶ浜と雪乃が怪しいもので見るかのような目で部室の中をのぞき込んでいた。

 

「あら、八幡」

「お前なんで気付くんだよ」

「ふふっ。匂いで分かるもの」

 

 笑みを浮かべながらそう言うが一瞬、ドキッとしてしまった。

 そう言えば俺も雪乃が近づいたら匂いで分かるような…………いかんいかん! このままでは俺が変態という称号を与えられてしまうではないか!

 首を左右に振ってそんな考えを吹き飛ばし、部室に入ろうとするが雪乃に停められた。

 

「止めておきなさい」

「はぁ? なんで」

「なんか不審者がいるの。なんかこう、コートを着て変な手袋した人」

 

 由比ヶ浜に変質者の特徴を聞き、ある人物の特徴と合致したので遠慮なくドアをガラッと開けて中に入ると同時に海辺に立っているこの学校特有の潮風が吹き、部室内に大量の用紙が吹き荒れる。

 その吹き荒れる用紙の中、腕を組み、額からダラダラと汗を流し、指ぬきグローブをして眼鏡をかけた小太りの男子が立っている。

 その不審者にリアルに恐れを抱いているのか雪乃は俺の手を握ってくる。

 

「クックック――――まさかこんなところで再び会いまみえるとは。やはり我らの絆は消えぬものだな。八幡」

「迷惑なんで帰ってくれませんか? ていうかマジで帰れよ」

「……ゲフン。は、八幡よ。よもやお主忘れたわけではないな? この主の顔を」

「主ってお前、体育で残り者同士でペアを組まされただけだろ。しかもお前からパス回しが始まっただけだろ」

 

 材木座義輝――――それがこいつの名前だ。去年のある日の体育でボッチ故に余ってしまい、仕方なく体育でペアを組んだが最後、粘着されたのだ。マジで悍ましかったぜ…………本気の目で俺を追いかけてくる材木座の姿は夢にまで出てきたからな。

 

「八幡、知り合い?」

「体育の時間、ペアがいないから組んでるだけの関係だ」

「じゃあヒッキーと同じじゃん」

「同じにすんな」

「クッフッフッフ。左様、我と八幡は同じではない……似て非なるもの! そう! 我の名は剣豪将軍・材木座義輝なりぃぃぃぃぃ!」

 

 バサッとコートを翻し、高らかに宣言するが本格的に怪しい人物と判断したらしい雪乃は携帯を片手に俺の手をギュッと強く握り、材木座を睨み付ける。

 由比ヶ浜はドン引きの表情で材木座を見る。

 

「……そんな目で見んといてください」

「おい、変な関西弁使うなよ。関西人に怒られるぞ。用があってここに来たんじゃねえのか」

「左様。我は奉仕部とやらに用があってここへ参った。聞いてくれるな? 八幡」

 

 不審者を見るような目は継続しながらも雪乃は椅子に座り、俺はその隣に、由比ヶ浜は雪乃の隣に座り、材木座と対面する形をとった。その距離、壁の端と端だ。

 

「ぐすっ。そんな距離とらないで」

 

 素に戻るほど悲しいのか涙目になりながら床に散らばった用紙を拾い集める材木座。

 

「それで用とは何かしら。それとその喋り方不愉快だから辞めてくれないかしら」

「モハハハ! 笑止」

「何が笑止なのかしら。いたって普通のことを言ったのだけれど」

「……すみません」

 メンタル弱!

「じ、実は我は作家を目指しておるのだ。近々、新人賞に送ろうと思うのだが如何せん孤独を愛する剣豪将軍故に周りの評価が気になってな。まぁ、無いとは思うが万が一、いや億が一、無茶苦茶なものであっては困るのでな。故にここに参った所存である」

 

 そう言いながら俺に渡してきた用紙の束に目を通すともうタイトルからして何の新人賞に送るのか理解した。

 こいつラノベ作家になりたいのか…………う、う~ん。

 

「要するに私たちはこのあなたが書いた作品を読んで文章・ストーリーを評価すればいいのかしら」

「左様。新人賞に送っても評価シートが来るのは数か月先なのでな」

 

 そう言いながら用意していたらしいコピーの束も俺達に渡してくる。

 確か今ってどこのレーベルの新人賞も評価シートは一次選考を突破した奴だけにしか送らないんじゃなかったか? なんかどっかのラノベスレとかで見たことあるんだけど。

 

「投稿スレとかに晒した方が良いんじゃねえの? すぐに評価が帰ってくるぞ」

「いや、八幡…………奴らは怖いのだ。まるで弁慶殿のように弓による一斉射撃どころかマシンガンでの一斉射撃程の私刑に処されるのだ……グスンッ」

 

 あ、晒したことあんのね。

 

「でもお前、今みたいに心はしっかり保っておけよ」

「何故だ?」

「…………赤ペン先生ならぬ血みどろ先生だからな」

 

 雪乃を指さしながらそう言うが材木座は理解しておらず、頭に?マークを浮かべるだけだ。

 こいつの血みどろ先生の由来はとある男子からラブレターを貰った際、字の書き方や誤用だらけだったので赤ペンで間違いを指摘し、返したことからだ。

 

「とりあえずまた明日の放課後来てくれるかしら」

「うむ」

 そんなわけで今回の奉仕部の活動は終わった……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく雪乃が送らなくていいと言ったので俺は1人で自転車をコギコギしながら家まで帰っていたがどうも今まで背中にあった感覚が無いせいなのか違和感がしてたまらない。

 そういや今日は小町が晩飯作ってくれる日だったな…………まぁ、材木座の原稿なんてすぐに読めるだろ。

 家に到着し、自転車を停めて鍵を開けると2階のリビングから晩飯の良い匂いが香ってきて条件反射的に腹の虫が鳴った。

 

 良い匂いだな……………今日の晩飯は何なんだ?

 

 自分の部屋にカバンを放り投げ、制服のまま居間に入るとソファに小町がグデーッと座っていた。

 

「あ、お帰りお兄ちゃん」

「お前、晩飯は? もうできてんの?」

「雪姉がやってくれてるよ~」

「あ、そう……はぁ!?」

 

 思わずそんな声を出しながら台所の方を向くと寝間着らしい服の上からエプロンを着ている雪乃がカレー鍋の中身をお玉でグルグルかき混ぜながら鼻歌を歌っていた。

 

「あら、お帰り八幡。もうすぐ夕食が出来るから先にお風呂に入ってきたらどう?」

「待て待て。なんでお前がいるんだ」

「お兄ちゃん何言ってんの? 雪姉がいることはおかしくないじゃん」

 

 ダメだ。すでにこの家は雪乃嬢の支配下に落ちているか…………いや、別に嫌な感じはしないけどさ……なんというか全方位を雪乃に囲まれている気がする。

 

「早く入ってきなよ。お風呂溜まってるし」

「はいはい」

「あ、雪姉お風呂入った後だからってお湯のんじゃダメだよ?」

「飲むか!」

 

 大きな声で小町にツッコミを入れ、脱衣室で服を脱いでそのまま湯船に浸かる。

 まさか家に雪乃がいたとは……ちょっと待て。学校を出たのは一緒の時間なのになんであいつ俺よりも家に着くのが早くてお風呂にも入ってるんだよ……ま、まさか小町の奴も共犯なのか!? この家に俺の味方はいない!


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