俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第四十二話

 文化祭当日、俺は文化祭のオープニングセレモニーが行われる会場の裏手のところでそれが始まるのをじっと待ち続けていた。

 結局、粗方の予想通りに作業はいくつか完璧に仕上げることが出来ず、オープニングセレモニーが始まる30分前にようやくすべての作業が終了した。

 まあ生徒会メンバーと有志で朝早くから集まった面子で何とか仕上げたんだけどな……それにしても眠たすぎる。

 耳につけているインカムから雪乃と文実各部署のリーダーが話を交わしているのがひっきりなしに聞こえてくる。

 

 今回のことで確実に相模は批判を浴びせられるだろう。だがそんなこと俺の知ったことじゃない。

 あいつ自身、あのお触れを発動したせいでこうなったんだ……奉仕部に来ても追い返す……まあそれを決めるのは部長の雪乃なんだけどさ。

 そう思った直後、視界が眩むほどの閃光がステージに集中する。

 

「お前ら文化してるかー!」

 めぐり先輩のその大きな声に続くように観客席から爆音のような凄まじい歓声が響いてくる。

 どうやら観客席にいる生徒のテンションも最高潮らしい。

 

『八幡。聞こえるかしら』

「あぁ、聞こえてる」

『もうすぐ相模さんの番だと思うのだけれど彼女の様子はどう?』

 

 そう言われ、すぐ後ろにいる相模の方を見てみるが緊張しているのかさっきからキョロキョロと周囲を見渡し、ポケットに入れている小さなペットボトルの水を何度も口に入れる。

 おいおい。そんなに入れたら後で便所が早くなるぞ。

 

「緊張してる。むしろし過ぎているくらいだ」

『そう……とにかく今の相模さんには励ましの言葉はかけないように』

 

 その言葉の後、通信が切れた。

 その選択は正しいだろう。緊張している時に励まされてもむしろプレッシャーを与えられているとしか考えられないし余計に視野が狭くなる。

 

「それでは相模委員長! 開会のあいさつをどうぞー!」

 

 拍手でもって相模が出迎えられるが当の本人ががちがちに緊張してしまっているせいでそれすらもプレッシャーとしてとらえてしまっている。

 そのせいでさっきから何度も見直して練習していたスピーチの紙は途中で落とすし、前練習で言われていた場所に立たずに相模にライトが当たらないわでグダグダだ。

 

 そのことに気づいたのかようやくライトが当たるステージ中央に立ち、マイクを握ってさあ第一声を放とうとした瞬間、きーん! という甲高い音が聞こえ、観客から笑い声が出てくる。

 その笑い声に相模はさらに肩をビクつかせ、マイクをおとしてしまう。

 ようやく話しだすがすでに既定の時間をオーバーしてしまっているのでキーパー役の俺が腕をぐるぐる回して

相模に巻くようにジェスチャーするが緊張のあまり視野が狭まってしまっている相模には見えていない。

 

『八幡。時間が押しているわ』

「ダメだ。緊張しすぎて見えてない」

 

 その時、視界の端にもう1つのマイクが見えたのでそれを手に取り、軽く地面に落とし、大きな音を立てるとようやく気付いたのか相模がこちらを見たので巻くように腕をグルグル回す。

 てんやわんやな思考で考えた結果、導き出したのは早口で喋るという事らしい。

 …………ダメだこりゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文化祭は2日間行われるが初日は校内発表のみなので今日は一般客は入っていない。

 2日目の明日だけが一般客を入れた一般公開になるので本来なら空いているはずなのだが今廊下を往復するのにさえ苦労するほどの数の生徒が廊下を走り回る。

 プラカードを持って店の宣伝を叫んだり、手作り感満載の安いコスプレをした奴らが走り回る。

 人を掻き分けてようやく教室に辿り着き、中へ入るとこっちの準備もすでに大詰めになっているのか女子たちが右往左往しており、劇に参加する男子は衣装姿だ。

 文実でほとんどクラスの方に参加していなかった俺は何をするのか、してもいいのか分からないので壁にもたれ掛ってボーっとしていると、目の前に海老名さんがやってきた。

 

「ユーもでちゃう?」

「イ、イヤ俺劇とか苦手だし」

 そもそも人前に立つのが嫌いだ。

「確か記録雑務の仕事って明日からだよね?」

 なんで知ってるんだよ。

「ま、まあ」

「じゃあ、受付やってくれる? 公演時間教えるだけでいいから」

「分かった」

 教室を出たすぐのところに長机とパイプ椅子が置かれていたのでパイプ椅子を組み立てて座る。

「…………なんかイラつく」

 

 後ろにでっかく隼人と戸塚が映った宣伝用ポスターが張られている。

 戸塚は天使だからいいとしても隼人がこっちに向かって決め顔をしているのがやけにむかつく。

 その決め顔ポスターを見て女子はキャーキャーと騒いで早速劇を見ることに決めたのかまだ行われてもいないのに列を作り出す。

 これ金取ってもいいならうちのクラス凄い売り上げ叩きだすぞ。

 にしても…………明日か。

 雪乃に告白する日は明日。ようやく来たんだ。この時が…………ふぅ。

 前日だというのに何故か緊張してしまい、深呼吸をしたときにチラッと扉の隙間から教室の中が見え、皆が円陣を組んでいた。

 今日という日までみんなで放課後も残って用意したんだ。その気持ちはいいものだろう……たった一人を除いてだけどな。

 相模は輪に入りにくいのかそれとも友達に無理やり入れられたのか複雑な表情をしている。

 オープニングセレモニーでの醜態は大勢の目に触れられていたのだから既に全体に広まっていてもおかしくはない。その中に友人がいるだろう。

 ノリで委員長やるから…………同情はしないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2時間ほどが経過したがうちのクラスの劇は案外、高評価を得ているのかそれとも隼人のイケメン姿だけを見に来ているリピーターがいるのかは知らないけど長蛇の列が出来ている。

 一応、俺もそれを整理する係りをローテーションでやったりもしているがそのしんどさはヤバい。

 今はお昼休みなので落ち着いてはいるがまたあの長蛇の列が出来るかと思えば……うぅ、嫌だ。

 

「八幡」

「っっ。お、おう。雪乃」

 びくっとしながら横を向くと雪乃が立っていた。

「仕事は良いのか?」

「ええ。めぐり先輩から楽しんできてって言われて」

 …………めぐり先輩。あざっす。

「ゆ、雪乃……よかったら回らないか?」

 

 そう言うと雪乃は小さく笑みをこぼし、小さく首を縦に振った。

 立ち上がり、雪乃と共に人混みを掻き分けて歩いていく。

 俺のクラスの3つ隣のクラスでちょうどかき氷をやっていたのでそのクラスに一緒に入ると雪乃という学校1の美少女が入ってきたことで一瞬、クラスの男子が色めき立つが俺という付録を見た瞬間、げんなりとした。

 ふん、ざまあみろ。こんなことできるのは俺か由比ヶ浜位だぞ。男に限れば俺だけだ。

 

「八幡は何が良いのかしら」

「俺は雪乃と一緒で良い」

「……そう。じゃあいちご味で」

 

 なんだ今の間は……そして何故、雪乃さんは不敵な笑みを浮かべているのでしょうか。

 かき氷を貰ったのは良いが何故か雪乃の分しかないが彼女に手を引っ張られ、空いている席に座らされる。

 対面に座った雪乃は先で掬えるように切られたストローで氷をグシャグシャと潰していき、一口自分で食べた後、もう一口分掬うと俺の方に持ってくる。

 

「……あ、あの雪乃さん? これは一体」

「八幡が私と一緒でいいと言ったのよ?」

 

 いや、それは味を…………ま、まさか雪乃は1つの物を食べるからという意味で解釈したのか……頭が良いのか……いや、この場合はずるがしこいと言った方が良い。

 周りの視線を気にしながらも一口食べるといちごシロップの甘い味が口の中に広がる。

 口の中も甘いが……この雰囲気もなかなかに甘いです。

 

 

 

 

 

 

「次はどこに…………」

 

 かき氷を食い終わり、お口も頭も甘々になったところで教室を出てブラブラしている時にふと隣に雪乃がいないことに気づき、慌てて振り返るとジーッとある教室を見ていた。

 体育館に近い3-Eの教室の扉には『ペットどろこ。うーニャン、うーワン』と書かれた宣伝ポスターのようなものが貼り付けられており、下の説明欄を読む限り、ミニ動物園をしているらしかった。

 …………まあ、いいか。

 

「雪乃、ここ入るか」

「え? い、いや私は」

 

 さっきの仕返しとばかりに返事を聞く前に彼女の手を引っ張って教室へ入るとホームセンターなどで売られているような柵が立てられており、その中に猫や犬が数種類ほどいた。

 寝ている奴もいれば俺達を見て興奮しているのか柵に体当たりしている奴もいる。

 

「ほれ、雪乃。お前の好きな猫がいるぞ」

「え、ええそうね」

 

 雪乃は若干、周囲を気にしながら学校での雪ノ下雪乃の状態でなるべく猫が好きという素を出さない様にそーっと猫を抱き上げると店番の奴に見えないところで猫にキスをすると笑みを浮かべる。

「にゃ~」

 

 レアな雪乃の猫鳴き……小さくて俺にしか聞こえなかったと思うが。

 最後にギュッと猫を抱きしめると雪乃はスタスタと教室から出ようとするが子犬を抱き上げたまま彼女の前に立ちはだかった。

 

「雪乃、見てみろよ。犬も可愛いぞ」

「え、ええそうね。八幡、そろそろ他のところにも」

「まあそう言わずに犬も撫でてみろよ」

 

 犬を見て縮こまっている雪乃を見た瞬間、俺の中のドS心が芽生えてしまう。

 子犬も可愛いが……その子犬を見て引いている雪乃もまた可愛い……そろそろ本気で怒られそうだ。

 子犬を柵の中にゆっくりと置き、雪乃と一緒に教室へ出ると脇腹を軽く突かれる。

 

「……八幡のバカ」

「ま、犬嫌い克服はまた今度だな」

 雪乃の頭をポンポンと軽く叩きながら俺達は次の場所へと向かった。


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