俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第四十話

 俺の予想通りに相模のお触れは公布されてから2回目の定例ミーティングで効果が発揮された。

 遅刻者がいなかった会議だがチラホラとクラスの手伝いなどの理由で30分から40分ほど遅刻してくる奴が増えてきた。

 まあ、それでも遅刻だけなので休むことは無かったので文化祭の準備作業は目に見えて大きく遅れることは無かったんだが問題はそれ以降だ。

 徐々に遅刻してくる奴が増え、メンバー全員が遅刻してくるという部門まで出てくる始末だし遅刻の時間もドンドン長くなってきた。

 こうなってしまっては準備が遅れるのは確実であり、そのしわ寄せが遅刻せずにちゃんと来ている奴に向かい、そいつも「なんで俺だけ」、「なんで私だけ」という気持ちが芽生えたのか次の会議から遅れるようになるという最悪の循環になってきた。

 

 

 生徒会執行部から人員が調達され、遅れが出始めている部門に穴埋め係りをしてくれることになったのだがもちろんそれだけで遅れを取り戻せるはずもなかった。

 そして変化は雪乃にも表れ始める。

 本来ならば他の部署の仕事であるものを家に持って帰ってやったり、残業と称して最終下校時間ぎりぎりまで教室に残って作業を続けはじめた。

 もちろん俺も残って手伝っているが日に日に顔色が悪くなっている気がする。

 少し休めとは言うものの大丈夫としか言わない。

 そしてそんな状況が続いたある日の定例ミーティングに雪乃の姿はなかった。

 

「ではこれより定例ミーティングを始めます。有志統制の方はどうですか?」

「はい。特になしです」

「そうですか。宣伝広報はどうですか?」

「えっと。HPの更新はほぼ終わりましたので特になしです」

 

 これが順調と言えるのだろうか。俺もさっきHPを覗いたが開催日や開催時間などの必要最低限のことは書かれていてもクラスが何をやるのか、今回の文化祭のテーマはなんなのかなどの目玉となるものの宣伝は少し物足りないように感じた。

 

「じゃ、今日もみんなで頑張りましょう!」

 相模のその一言で半数以上がクラスの手伝いをするために会議室を出ていき、結局残ったのは部門ごとに1人か2人くらいなもんだ。

 確かにこのままでも仕事はできなくはないが確実に遅れは大きくなるだけだ。

 

「はぁ……やっぱりダメって言っておくべきだったかな」

 城廻先輩が気分上々で書類整理をしている相模に聞こえないような小さな声で呟いたのを俺は聞き逃さず、城廻先輩の隣に座る。

「そうですね…………まぁ、陽乃さんがいる中で言えっていうのも無理な話ですが」

 どうせあの人のことだ。何かしらの方法で論破しに来るだけだ。

「文化祭のテーマも決めないといけないし……でもこの状況じゃ」

「じゃあ次の次あたりの会議は全員出席するように連絡回しますか」

「そうしようか」

 先輩は近くにいた1人の男子を捕まえてボソボソと伝えると男子は頷き、会議室を出ていった。

「雪ノ下さん。どうしたのかな」

「体調崩したんですよ」

「連絡来たの?」

「いや……長いことずっと一緒にいるからわかるんですよ」

 

 仕事をしながらそう言う。

 …………今回も俺は何もできなかった。

 

「こんな状況じゃなかったら君を早退させてもいいんだけど」

「……仕方ないですよこの状況じゃ」

「話は聞かせてもらった」

 そんな声が聞こえ、そちらの方を見ると平塚先生が入口に立っていた。

「あれ? 先生。どうかしたんですか?」

「ちょっとな……」

 先生が俺に手招きをしたので持ち場を離れ、会議室の外で先生と合流する。

「雪ノ下は体調を崩しているのは正解だ。朝連絡が入った……文化祭の準備は生徒主導という規則があるがこの状況ではそんなことも言ってられないだろう。比企谷、ここは私に任せてお前は行って来い」

「いや、でもさすがに」

「な~に。文化祭を楽しみたいと思っているのは生徒だけじゃないってことだ」

「…………じゃあお言葉に甘えて」

 準備を先生たちに任せて荷物を持って会議室を出てから由比ヶ浜へ電話する。

『ヒッキーどったの?』

「雪乃が今日休んでるんだが……看病行くか?」

『え!? 今日ゆきのん休んでるの!? うん! 行く!』

「じゃあ玄関で待ってる」

 通話を切り、速足で玄関へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 由比ヶ浜と玄関で合流し、自転車の後ろに由比ヶ浜を乗せてあの高級タワーマンション前に俺達は立っていた。由比ヶ浜は初めて雪乃の家に来たらしく、ポカーンと口を開けて驚いている。

 まああまりあいつ自身、俺以外の他人を家に呼ぶことは無いからな。

 

「ゆ、ゆきのんのお家って凄いんだね」

「父親が社長で議員やってるからな」

 エントランスを入り、雪乃に預けられていた合いかぎを使って中へ入り、エレベーターで15階へと向かう。

「なんでヒッキーが鍵持ってるの?」

「預けられたんだよ」

 

 そう言うともう反論することすら諦めたのか由比ヶ浜は小さくため息をつく。

 そんなころに15階へと到着し、ドアが開き、そのまままっすぐ雪乃の部屋へと向かう。

 …………結局、こういう結末になったか。俺がもっと……いや、今更俺自身のことで考えても仕方がない。昔から俺という存在は小さいんだから。

 部屋の前に到着し、鍵で2ロックを開錠すると由比ヶ浜ももう質問することすら諦めたらしく、俺に何も質問してこなかった。

 

「雪乃~」

「お、お邪魔しま~す」

「は、八幡?」

「そうだけど」

「ちょ、ちょっと待ってくれるかしら」

 

 リビングの奥からそんな少し枯れた声がするとともにドタドタと慌てて家の中を走っている音がする。

 どうやら俺が看病に来ると言う事を想像していなかったらしいが……慌てて着替えるくらいにルーズな格好でいたんだろうか……。

 そんなことを考えているとリビングの扉が開かれ、少し顔色が悪い雪乃に手招きされ、俺達はリビングへと入る。

 

「座って」

「あ、うん。ゆきのん大丈夫?」

「ええ。だいぶ楽にはなったわ」

「……とにかくお前が座れよ」

 雪乃の手を引いて無理やり気味に由比ヶ浜の隣に座らせ、俺は壁にもたれ掛る。

「ごめんなさい。2人に心配かけて」

「いいよいいよ! 風邪なんか誰だって引くものだし……でも大丈夫そうで良かった」

「まだ熱はあるのか?」

「微熱だけど…………」

 そこからは誰も言葉を発さず、リビングに静寂が流れ、時計の針が動く音がやけに大きく聞こえる。

「……その……ゆきのん……たまにはあたしにも頼ってほしいな」

 由比ヶ浜にそう言われ、雪乃は少し目を見開いて驚いた表情をする。

「確かにあたしはゆきのんと付き合いは短いけど…………同じ部活の仲間だからさ……奉仕部としてもだけど……友達として何か困ったことがあったら頼ってほしいな」

 

 どうやら由比ヶ浜も雪乃がなぜ、体調を崩して学校を休む羽目になったのかは大体察していたらしい。

 まあ、それもそうか。文実であるはずの相模がクラスを手伝い始めてそいつが雪乃の手腕を褒め称えだしたら奉仕部で何かをしていると考える。

 雪乃は一瞬、驚いた表情を浮かべるがすぐに微笑を浮かべる。

 

「ええ、ありがとう…………いつか頼らせてもらうわ」

「うん……あ、ヒッキーも頼ってね!」

「お、おう」

「ヒッキーってたまに誰にも話さずにやることあるし」

 

 いきなりの攻撃に戸惑いながらそう返事を返す。

 由比ヶ浜も普段はあんなんだがよく周りの奴らを見ているらしい。今までクラス内政治を生きてきただけはあるか……はたまた友人が多いゆえにその繋がりを無くすまいと人よりも気にしていたのか。

 

「じゃあ、あたしはそろそろこの辺で帰るね」

「俺も」

 一緒に由比ヶ浜と玄関へ向かおうとした時に雪乃から見えない角度で思いっきりつま先を踏んづけられてしまい、叫びにならない叫びをあげ、壁に手を着く。

「お、おま……何を」

「風邪を引いたときって女の子は寂しいんだよ……だからヒッキー、いてあげて」

「でも……」

「いいから……ね?」

 そう言う由比ヶ浜の表情はどこか悲しくも見え、必死にこらえている様子も見えた。

 …………由比ヶ浜…………。

「じゃあね、ゆきのん! また学校で!」

「ええ」

 

 さっきの表情を一瞬で消し去り、由比ヶ浜はいつもの笑顔と声で家から去っていった。

 二人っきりになったことで俺も雪乃も妙な緊張感を抱いてしまい、互いに言葉を出せないでいる。

 雪乃と2人っきりになることなんて腐るほどあったのに何故か今はやけに緊張する…………というかいつも雪乃と2人っきりになって緊張するんだがここまで緊張するのは……。

 

「よ、よかったら何か作りましょうか」

「あ、いや。俺が作るからお前は休んでろ」

「大丈夫よ。これくらい」

「…………いいから」

「っ! は、八幡?」

 

 こうなっては押しても引いても無駄なことは分かっているので雪乃の手を引き、壁に押し付け、俺まで顔が赤くなるくらいの至近距離まで近づき、囁くようにそう言うと雪乃は顔を真っ赤にし、何も言わなくなった。

 

「お前は風邪ひいてんだから……ここは俺に任せてゆっくり休んでろ。いいな」

「……う、うん」

 俺の服をギュッと掴み、視線を伏せ気味にそう呟いた雪乃の姿はかなり艶めかしく感じた。

 か、かわいすぎるだろ。

 恥ずかしさのあまり汗が出てくるのを感じながら雪乃から離れ、キッチンへと向かった。 


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