俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第四話

 人とは面白いもので今まで傍にいるものがいざ無くなってみるとどこか日々に虚無感を感じる生き物であり、俺も漏れずにそんな状況に陥っていた。

 授業が全て終われば放課後、残って一緒に折り紙を折り、喋っていたころがひどく昔のような感じがしてたまらなくなった。

 

 

 小学校の頃の噂がそのまま引き継がれ、かなり尾ひれはひれ付いたのか誰も俺に近寄ってこないし、喋りにも来ないため、小学校の状態をそのまま引き継いだ。別にボッチの状態が嫌ではないので毎日、本を読んで暇を潰したり、勉強したりして時間を潰すがどこか時間が経つのが遅く感じてしまう。

 

 

 今更ながらだが小学生時代の俺の噂なんかがよく耳に入ってくるが一番多かったのは凸凹夫婦だった。

 流石に中学生にもなって夫婦なんて表現はしていなかったけどやっぱり凸凹、釣り合っていない、なんて言葉が耳に入ってくる。それは男子から。

 

 

 女子からは雪乃と隼人なら釣り合うのにといったものが多いとともに雪乃に対しても才能ないよね、なんて言葉が言われたりしている。

 何の才能は知らないけど確実にいい方向での才能ではなく、マイナスな面の意味合いが強いだろう。

 

 

 肝心の隼人は中学から本格的にサッカーを始めたらしく、連日女子たちの間ではサッカー部のイケメン・葉山隼人に関するピンク色の話をよく聞く。まぁ、中継役は無くなったけど。

 

 

 …………流石に幼馴染の悪口を言われて気分が良い奴なんていない……でも、そんな評価が生まれるきっかけは俺にあるんだよな……で、その評価を覆す方法が俺の存在消去というね……いや、消えないけど……。

 

 

 ただ学校と家を往復するだけの生活、俺の中で学校は自習室っぽい場所になりつつあった。

 今も図書室で1人、英語で書かれた本を読んでいる。あの日、雪乃とパズルの様に楽しかった英書を読むことが今、雪乃との楽しかったあの日を思い出させることだった。

 

 

 ただ…………俺はまた雪乃と出会えると思っている…………だからその間に雪乃にそんなマイナスな評価が出てこない様に…………とりあえず勉強だけやっておくことにする。考え方や顔は変えれないしな。

 

 

「……もうこんな時間か」

 

 ふと顔を上げると時計が最終下校時刻を示していたのでカバンに本を突っ込み、肩から鞄をかけて図書室から出て廊下で楽しそうに喋っている連中の隣を通り過ぎ、校門を出て帰り道へと着く。

 

「……腹減ったな…………今日、何作ろう」

 

 両親は共働きで帰ってくるのも遅し、出るのも早いので毎晩の食事を作るのは俺か妹の小町だ。

 

「……はぁ」

 

 信号が赤になり、立ち止まる。ふと顔を上げるとこれから遊びにでも行くのか小学生低学年くらいの男の子がサッカーボールを持っていた。

 

 ……なんかサッカーボール見ると隼人のこと思い出すわ……なんか隼人のこと思い出したら芋づる式に中継役にされてた時のイライラがよみがえってくる……許すまじ、隼人。

 

「あっ」

 その時、隣から声が聞こえ、ふとそちらを向くと犬の散歩をしている女の子が心配そうな表情で向こう側を見ていたので視線を戻すと少年が持っていたサッカーボールがコロコロと転がり、道の真ん中あたりで止まった。

 

「あ、ちょっとサブレ!」

 ボールに反応したのか女の子が散歩させていた犬が飼い主を引きずるようにボールに近づいていく。

 

「もうサブレったら。ごめんね、はい、ボール」

「ありがとう!」

 

 笑みを浮かべながらお礼を言う男の子を見て何故か俺は雪乃とのあの日々を一瞬だけ思い出してしまった。

 

 

 ……ほんと、どんだけ楽しかったんだって話だよな……そう言えば最近、笑ってないって言われたっけ。

 

 心の中でそんなことを思っているとすぐ近くの曲がり角から猛スピードの乗用車が出てきて歩行者信号が青にも拘らず、そのまま俺達に向かって真っすぐ突っ込んでくる。

 よく見ると運転席にいる運転手はハンドルにもたれ掛っていた。

 

「きゃっ!」

 

 俺はその場から駆け出し、男の子とすれ違いざまに後ろから手で押して車道から押し出し、女の子を押し出すと同時に俺も車道から出ようとした瞬間、足に凄まじい激痛が走り、軽く吹き飛ばされた。

 

「だ、大丈夫ですか!? え、えっと救急車!」

 

 痛みのあまり足を抱えながらも女の子の声が聞こえてくる。

 たまにいいことやったらこれかよ…………神様酷過ぎるだろ。

 薄れゆく意識の中、そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、女の子を助けて自分は足を骨折しちゃったと」

「そうなるな」

 

 事故から一週間後、俺は病院で足をつった状態でベッドの上で横になっていた。

 入院中に弁護士何だか知らないけどスーツ着たおっちゃんが病室に入ってきてその時の詳しい状況を聞きに来てその時に聞くと事故を起こした相手は発作か何か起こして意識が無かったらしい。

 

 その場にいた男の子も犬を散歩させていた女の子も無事らしい。

 で、今は妹の小町がお見舞いに来てくれている。

 だが悲しいことに既に高校の入学式は明日に控えているのだがどう考えても退院できる状態ではないので入学式は欠席、スタート開始時からボッチという状態が継続することになってしまった。

 

 マジで俺かわいそす。

「なんかお兄ちゃんって自己犠牲が過ぎるよね。雪姉のあのときだってほとんど自己犠牲でしょ?」

「元々ボッチなんだから自己犠牲も何もないだろ」

「でもお兄ちゃんにはその後から嫌な噂たちまくったじゃん。知らないだろうけど色々聞いてるんだからね」

「お前に迷惑かけたのは悪かった」

「別に迷惑じゃなかったけどさ……」

 

 小町に迷惑が掛からなかっただけマシだったと思うべきだろう。もしも俺の所為で小町がいじめなんかにあってたら責任なんてとれっこなかったし、そもそも人が取れる責任じゃないしな。

 

「あ、そういえばお菓子の人来てたよ」

「誰だよ」

「えっとね……名前は忘れたけど助けてくれたお礼にっておかしくれた。美味しかったよ!」

 

 え、それ食べてないよね、俺。ていうかお菓子貰ったことすら今知ったよ? いつの間に我が妹は俺を除外してお菓子を食べるようになったのやら。

 

「あ、それと雪姉の家の車見たよ」

「……そりゃお前、同じ形の車は世界中に何台もあるだろうよ」

「小町もそう思ったんだけどあれはどうも雪姉の家の車だって! 小町記憶力良いし!」

 

 俺の誕生日を忘れていた奴の言う言葉じゃねえな……俺の胸キュンを返せ、バカ野郎……にしてももう雪乃が向こうに行ってから2年くらいか……なんか早かったような遅かったような……俺の日常は平常運転……ただそこに1つピースが埋まれば昔の楽しかった日々なんだけどな…………どうせ高校もすぐに終わるだろうし……。

 

 いつになったら彼女に会えるかなんてのは考えれば考えるほど泣けてくるので俺は敢えて考えないようにし、彼女も見ているであろう空をずっと見ていることにした。そうすれば涙が流れてくることもなく、誰かに変な目で見られることもない。

 

「で、俺が頼んだことやってくれたのかよ」

「……なんのこと? お兄ちゃんに何か頼まれてたっけ?」

 

 呆けた顔で言われた瞬間、流石に小町の頭を思いっきり叩いてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 入院期間も終了し、俺は今病院の受付のところにある椅子に座りながら小町が行ってくれている清算が終わるのをボケーっと設置されたテレビを見ながら見ていた。

 入院中もひたすら本を読んでいたおかげが暇を持て余すこともなかったが1日3食の食事と便所に行く時以外はベッドの上にいたせいなのか体力がかなり下がった。

 

「にしても遅いな……何してんだあいつ」

「お待たせ~」

「遅いぞこま……」

 

 後ろから小町の声が聞こえ、振り返ると同時に俺の言葉はそれ以上出なかった。

 荷物を持った小町の隣にはずっと昔、一緒に遊び、ずっと一緒にいようと約束し、海外へ渡ったはずの少女が俺の方をじっと見ながら立っていた。

 

 ……待て待て。なんでこいつがここにいるんだ……。

「ゆき……の」

「久しぶりね、八幡」

 

 周りは騒がしいのに何故か雪乃の声はまっすぐ俺の耳に入ってくる。

 

「じゃ、小町は先に帰ってるのであとはお若い人だけで~」

 

 そう言い、小町はスキップ交じりに病院から去っていく。

 

「…………行きましょうか」

「あ、あぁ」

 

 雪乃に言われ、松葉づえを使って立ち上がり、ゆっくりと歩きながら病院から出る。

 久しぶりに彼女と一緒に歩いていると普段から歩き慣れた場所にも拘らず、どこか異国の地に観光にでも来たかのような高揚感にも似た何かが上がってくる。

 

「……い、いつ帰ってきたんだ」

「先月くらいかしら。貴方に会いに行こうとしてもいろいろと面倒な用事があって会えなかったの……それでようやく用事も終わって貴方に会いに行ってみれば事故に遭ったって言われて……本当にビックリしたわ」

「わ、悪かったな」

「生きてくれていればそれでいいわ…………でも」

 

 雪乃が立ち止り、俺も立ち止まると雪乃は俺の手を優しく握り、心配そうな目をしながら俺の頬に手を当ててくる。

 

「自分を犠牲にして誰かを救うのはこれっきりにしてちょうだい。貴方が傷つくことで誰かが傷つくこともあるのよ…………それを心に留めておいて」

「……あぁ。悪い」

 

 そう言うと雪乃は小さく笑みを浮かべる。

 ……あぁ、これだ…………ずっと俺が欲しかったものだ。

 

「お帰り……雪乃」

「ただいま…………八幡!」

「お、おい!」

 

 昔と同じ笑みを浮かべながら雪乃は俺の胸に抱き付き、俺は恥ずかしさのあまり離そうとするが松葉づえで両手がふさがっているので……仕方なく……雪乃に満足するまで抱き付かせることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして俺の青春ラブコメは始まったのだ。


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