俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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果たしてこの作品、文化祭で終わるべきかそれとも既刊分全部書いて終わるか……今悩んでおります。


第三十三話

 セミが泣き叫ぶのを聞きながら俺は扇風機にあたりつつ、ソファに横になっていた。

 今年もこの時期がやってきたか……毎年の長期休暇の最初らへんはあいつとも頻繁に連絡とれたり会えたりするのに終わり間近になると連絡も取れないし、会う事さえできない。

 スマホを手に取り、連絡先一覧から雪乃を選択するがそこから決定ボタンを押すことが出来ず、結局画面を元に戻してテーブルの上に戻した。

 俺はこんな自分が嫌いだ。毎年、雪乃と遊べなくなる時期になると何もやる気が起きなくなる自分が。

 

「お兄ちゃ~ん」

「あ?」

「ここ分かんない~」

 

 小町から宿題を受け取り、二重丸がされている問題を見てみると初っ端から式の組み立て方が違うのを見つけてしまい、兄として小町の将来の進路が不安になってしまう。

 

「最初の式の組み立てから違うぞ」

「え!? うっそだー!」

 

 雪乃と同位レベルの頭の良さを誇る俺に対してここまで疑いの眼差しを向けるのは小町くらいだろう。

 小町に勉強を教えながらも頭の中では雪乃のことが頭から離れない。

 小学生の頃は正直、そんなに雪乃に出会えないことは不思議でもなんでもなかったのだが雪乃のことを好きだと自覚し、さらに迎えに行くとまで言った今は夏期講習の時でしか声すら聞けないことが辛い。

 

「あ、小町行くよ」

 来客を告げるインターホンが鳴り響き、小町が玄関先へと向かったとき、ふと時計を見るとそろそろ準備をした方がよろしい時間になっていたのでソファから起き上がる。

 …………まさか夏期講習がこんなにも楽しみになるとは。

 

「やっはろ~」

「……なんでいんの」

 ドアが開き、小町が入ってきたかと思えばなんと入ってきたのは荷物を抱えた由比ヶ浜だった。

「じ、実はさ。これから家族旅行に行くんだけどサブレ連れて行けないんだ」

「ペットホテルとかは」

「この時期、どこも混んでて取れなかったんだよね~……だからその……ヒッキーに預かってほしいっていうか」

「三浦さんとか海老名さんとかそこらへんに言えばいいだろ」

「2人ともペット飼ったことなくてさ……それにゆきのんは連絡とれないし」

 

 由比ヶ浜は少し悲しそうにそう言う。

 この時期、雪乃と連絡が取りにくくなると言う事を知っているのは俺くらいだからな……そのうえ、由比ヶ浜のような友人と密接にかかわっている奴からすれば何事かと考えてしまうのだろう。

 

「あたし、何かしちゃったのかな」

「気にすんな。この時期は連絡取れねえもんだ」

「そうなの?」

「幼馴染の俺でさえ連絡取れにくくなってんだ。別にお前が何かしたってわけじゃねえよ」

 そう言ってやると少し安心したのか由比ヶ浜は小さく笑みを浮かべた。

「え、えっとそれでサブレのこといい……かな?」

「まあ小町がどういうか」

「小町は大賛成!」

「…………じゃあいいんじゃねえの」

「ごめんね。そろそろママたち待ってるから」

「楽しんできてくださいね~」

 

 小町が由比ヶ浜の見送りに行き、俺は用意をしてから玄関へ向かうとすでに由比ヶ浜の姿はなく、小町の見送りを受けながら夏期講習を受けている塾へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国公立理数系は英語はもちろんだが数学・化学・物理・生物の英語を含めたいずれか4科目で構成されており、すでに英語と物理は終わったのであとは数学と化学のみ。

 理系か文系か、どちらへ行くかも決めていない俺がなぜ国公立理数系にいるかといえばもちろん雪乃がいるからであって現に彼女は俺の隣に座ってノートにペンを走らせている。

 やはりどこか彼女が隣にいると落ち着くというか…………。

 そんなことを考えながらノートをとっていると授業終了時間になり、キリがいいとのことで問題を1つやり終えたところで数学の講義が終了した。

 

「ふぅ」

「お疲れさま、八幡」

「あぁ……にしてもやっぱ国公立の数学って濃いな」

「私立と違って掘り下げが深いものね……私立が浅いとは一概には言えないのだけれど」

 

 私立でも偏差値が高いところは入試でも国公立の試験と遜色ないレベルの難易度の問題が出てくることだってあるからな…………やっぱり進路は私立受けつつ国公立受けるか…………まあ、今ここで決めなくてもいい問題だからいいか。私立で授業料免除でももらえたら速攻、家を出て1人暮らしする…………待てよ、そうしたら雪乃が遊びに来ないか? そうなると同棲生活になってそのまま…………。

 あり得るかもしれな未来を考え、妙に恥ずかしくなった俺は頭をガシガシと掻き毟る。

 それにしても…………やっぱりどこへ行っても雪乃は注目の的だな。こんなにも可愛いくて頭もいい……が、悪いが雪乃は俺が貰うぞ。誰にも渡さん…………俺意外と独占欲高い?

 

「お弁当持ってきたの?」

「いや。外に行くつもりだけど」

「ちょうどよかったわ。はい」

 

 そう言い、俺の目の前に大きなお弁当箱……というか重箱みたいなものが置かれ、ふろしきが解かれるとそれはまあ二人分の弁当が1つの重箱に入っていた。

 これまた斬新な弁当箱で。

 

「八幡の分も作ってきたの。食べましょ」

「な、なんか凄い弁当箱だな」

「そう? 1人分も2人分も変わらないもの」

 いや、そういう問題じゃ……まあ雪乃の料理美味いからいいけど。

「「いただきます」」

 

 箸を割り、試しに卵焼きを食べてみるとどうやらだし巻き卵らしい。そして美味い。

 よく考えたら俺、雪乃にばっかりやってもらってる…………少しは俺もやらねえとな。

「雪乃。良かったら今日、講義終わったらどっかいかないか?」

「……ごめんなさい。すぐに帰らないといけないの」

「そ、そうか…………」

 

 …………俺は知りたい。隼人が知っていて俺だけが知らない雪乃の本物ってやつを…………表面上だけじゃ物足りなくて……その胸の中に秘めてるものも知りたい…………でも慌てることは無い。俺は今まで雪乃を待たせてしまったんだ。俺だって待つ。ずっと。

 

「由比ヶ浜さんにも悪いことをしているわね……連絡をくれるのだけれど返すのが遅くなって」

「…………まあ、気にするな。お前はお前のこと優先しとけよ。忙しいんだろ」

 忙しい……果たしてそんな常套文句で終わらせていいものなのだろうか。

「…………そうね。ねえ、八幡。もうすぐ文化祭だけれど……」

 

 そのワードが出てきた瞬間、恐らく同時にあの日の夜のことを思いだしたのか2人して少し顔を赤くして気まずい空気になり、誤魔化すために小さく笑う。

 

 ―――――もう少し待っててくれ。文化祭あたりに……迎えに来る。

 

 そう宣言した。その決意に変わりはない…………改めて考えたら俺、物凄いこと言ってたんだな。

 ふと時計を見てみると授業が始まる10分前にまでなっていたので少々、急いで昼飯を食べ、残り10分間を雪乃との会話で費やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1日……2日…………3年足りない~」

「どんなに休む気だ、お前は」

 

 仮に夏休みを3年過ごしたければ人間の寿命を3倍以上にまで拡張しなければそんなふざけた夢は実現しない。

 ソファに寝転がってそんなことを呟いている小町の胸には由比ヶ浜から預かっている犬のサブレが抱きしめられており、まんざらでもないサブレはさっきから尻尾をユッサユサと揺らしながら小町の顔をぺろぺろしている。

 対して我が家の元祖愛猫であるカマクラ殿はムスーッと不貞腐れた顔をしながら仕方なく、『おい、撫でさせてやるから撫でろ』と言わんばかりの表情で俺に背中を預けてくる。

 まあ、そんなカマクラを撫でているんだが……にしてもまさかここまでサブレの魅力に小町が取りつかれてしまうとはな。カマクラ様が不貞腐れるのも分かる。

 起きればカマクラをナデナデしていた頃とは違い、起きればサブレをナデナデ、キスキスチュッチュ、抱きしめギューギュー、イチャイチャウフフフな循環をしている。

 

「まあ、我慢してくれ。お前はお兄ちゃんだからな」

 昔よく言われたわ……お兄ちゃんなんだからイケメンを小町に紹介しなさいって言われた時は納得いかなかったが。

「そう言えばお兄ちゃん」

「ん?」

「花火大会どうするの? 雪姉と行くの?」

 …………それも断られたんだよな。

 講義がすべて終了し、帰り際に誘ってみたんだがやはり断られてしまった。

「いんや。今年も家でお留守番だ」

「小町綿飴とか食べたいし、受験勉強で忙しいから晩御飯になるもの買ってきて☆」

 そんなミラクルスターを目から放たれても困る。ただ一人で見に行っても仕方がないんだけどな。

「ダメ?」

「…………分かったよ。買ってくるからサブレを使って揺さぶってくんな」

 

 なんでうまい具合にサブレまで目をウルウルさせてんだよ。

 そんなことを思っていると来客を告げるインターホンが鳴り、小町がサブレとその準備一色を担いでドタドタと慌ただしく階段を降りていく。

 

「良かったな。ようやくお役御免だ」

「お兄ちゃーん! ちょっとー!」

 小町から呼ばれ、玄関へ向かうと予想通り由比ヶ浜が玄関先に立っていた。

「サブレ預かってくれてありがと! これヒッキーのお土産!」

「お、おう」

「またサブレ預けに来てくださいね! いつでも待ってるので!」

「え、またいいの?」

 

 由比ヶ浜の質問に小町は親指を立てながらうんと頷いた。

 その瞬間、何かが落ちたような音がしたので振り返ってみるとさっきの話を聞いてショックだったのかカマクラが廊下に腹を見せてこけていた。しかもうまい具合に尻尾や手が震えている。

 何やってんだよお前も小町も。


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