俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第三十一話

 川遊びも切り上げ、明るいうちに俺達は夜の肝試し用のコースを巡回し、危険な場所はないか、ゴール地点の設置などの準備を行い、小学生を誘導するコースなどを話し合いで決めた。

 肝試しと言えどやるのは山の中で真っ暗だ。危険な場所にまちがって行ってしまって行方不明なんてことでもなられたらこちらとしても責任を取れかねないからな。そこら辺はやけに平塚先生に念を押された。

 待機場所へと戻る間もカラーコーンを置いてルートを示すだとかお化け役はここに配置してこういった具合で驚かすとかそういう話をするが俺は参加せず、頭の中で地図に描く。

 というよりもこういう作業は中途半端に参加するよりも隼人みたいな中心人物を祀り上げておいてそこに付随する形で意見を述べた方がボッチとしては変に注目を集めることもない。

 そんな感じで会議にぶら下がっているといつの間にか待機場所に到着してしまった。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃん」

「あ?」

「えくすとらすて~じとして雪姉と肝試し行ってきなよ」

 ボソボソと耳元で呟く妹に俺は恥ずかしさを打ち消す意味も込めて軽く拳骨を落としてやった。

「小町は気にしなくていいんです。お兄ちゃんの計画はちゃんとあるんです」

「ほほ~ぅ。是非その計画の詳細を」

 

 しまった……思いっきり墓穴掘ってしまった……年々、小町の小悪魔ぶりが加速度的に酷くなっているような気がするのは決して気のせいじゃないはずだ。マジで小悪魔ぶりはいいから知識レベルを上げてくれよ。

 お兄ちゃん不安で不安で夜も眠れない!

 

「お~い。準備捗ってるか~」

 ナイスタイミングで平塚先生が入ってきてくれた。先生グッジョブ!

「どうかなさったんですか?」

「ん? あぁ、ちょっと向こうからの依頼で肝試しの前に盛り上げるために怪談話をしてくれと言われてな。誰か怖い話ができるというやつはいないか?」

 

 怖い話……まあ、無くはないが。

 そうそう、怖い話を持っている奴がいる訳でもないので俺のほかに手が上がったのは戸部くらいであとは知らんぷりというかそんな感じだった。

「ふむ、2人だけか。とりあえず話を聞いてみるか」

 

 

 

 

 そんなわけでビジターハウスに借りた1室へ移動した俺達は雰囲気を出すためにカーテンを閉め、明かりを消し、ろうそくまで用意して雰囲気を出した。

 話し手である俺と戸部は車座に座り、視線だけで順番を譲りあうが結局、空気を読んだらしい戸部が一歩前に出

て正座をし、話し始める。

 

「俺の先輩の話しなんだけど。先輩って車とか乗ってたら飛ばしたくなる性格らしくてさ。普通に法律違反レベルのスピード出してはパトに見つかって違反切られるっていう生活してたんだよ……その日も音楽聞きながら走ってたんだよ。車はもうほとんど見なかったらしいんだ。信号で止まった時に前にパトがいたらしいんだわ。信号が青になって走り出そうとした瞬間、目の前にいきなり女の人が飛び出してきたらしくてさ。ブレーキ踏むには遅すぎるって本能で感じたらしくてハンドル切ったんだ。そしたら案の定、電柱に正面衝突してさ……まあ先輩は助かったんだけど駆けつけた警官にこういわれたらしいんだ

 

 

 

 

『後部座席に座ってた人は大丈夫でしたか』

 

 

 

ってね。よく見ると音楽プレーヤーが何かで叩いたみたいに凹んでたらしいぜ」

 

 

 戸部の話が終わり、全員が事前に渡された用紙にサインペンでスラスラと5点満点中何点か書き、それを俺達に見えるようにたてた。

 平均点で言えば3.5あたりか……まあまあと言う事か。

 まあまあな結果に戸部は乾いた笑みを浮かべながら後ろへ下がり、それと入れ替わりで俺が前に出て正座をし、全員の方を見渡し、咳ばらいをした後話し始める。

 

「俺、高校の入学式の日に事故に遭って入院してたんだけどその時の話しなんだ。俺が入れられた病室ってナースセンターの近くだから真夜中とかでも普通に灯りが漏れてくるんだ。そのせいで眠れなくて気分転換に外の空気吸いに行ってたんだ。外にベンチあったし……そこで85歳くらいのおばあちゃんと会ってさ。最初は会釈するくらいだったんだけど1週間もしたら向こうから話しかけてくるくらいの仲になったんだ。おばあちゃん、癌らしくてさもうすぐお迎えが来るって言ってったんだよ。……入院してから2週間ほど経った日の夜。やけに看護師さんたちが慌ててたんだよ。聞き耳を立てるとそのおばあちゃんがいないらしいんだ。俺は眠たかったから寝ようとしたんだけど妙に下半身が温かくてさ…………布団の中見たら…………目が真黒なおばあちゃんが

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前もこっち来ぉぉぉぉぉぉい!』

 

 

 って叫んでたんだ」

 

 

 

 叫んだ瞬間、女子一同の肩がビクッと上がり、由比ヶ浜と小町は雪乃にしがみついてブルブル震えており、三浦さんも無意識のうちにか隼人の手を握っている。

 まあ、聞いているだけじゃそんなに怖くない話だけど集中している時に大きな声で叫び散らしたら怖いわな……まあ種明かしをすれば創作なんだけどな。あ、おばあちゃんの話は本当だぜ? なんか俺が退院する頃にはやたらと元気になっていたけど。

 

「お前の話は怖すぎるからボツだ」

「え~」

 

 結局、俺の話しは怖すぎると言う事でボツとなり、戸部の話しも法律違反がどうとかの観点からボツとなり、怪談話を集めたDVDを見せると言う事で纏まってしまった。

 せっかく、雰囲気出して怖い話したんだが……まぁ、いいや。

 

 

 

 

 

 

 

 小学生がDVDに夢中になっている間、俺達は肝試しの最終調整とルートの作成に取り掛かっていた。

 肝試しの準備は小学校の教員がしてくれているらしく、そこら辺は気にしなくていいといわれたので俺達は気にせずにルートと最終調整をしっかりと行い、事故の無いようにする。

 気になるのはゴール地点の少し前にまっすぐな道があるんだがそのすぐ結構な距離まで下に降りれる場所があるんだが傾斜がかなり急で明るい時は良いんだが暗いとなるとその傾斜が見えないので下手したらその傾斜を滑り落ちてしまう事もある。

 

「ここどうしようか」

「埋めるには時間も砂も足りないしな……カラーコーン立てまくって規制線代わりにするか」

 

 カラーコーンを5つほど横並びに並べ、傾斜に落ちないようにした後、隼人と共に雪乃たちが準備している場所へと向かう。

 山を降りて待機場所へと向かい、扉を開けて中へ入ると肝試し用の衣装に着替えた雪乃たちの姿が視界に入るが少々、呆れ気味なため息が出てしまった。

 まず海老名さんは何故か巫女服を着ているし、小町は化け猫らしき猫コスプレ、戸塚はローブにトンガリハットと癒しMPMaxの魔法使い、由比ヶ浜は何故か悪魔の格好、そして雪乃は白い着物だ。

 着替えた当人たちもコスプレ並みのレベルの低さに呆れて物も言えないでいる。

 にしても……やっぱり雪乃は清楚系が似合う。ノースリーブなんかの服もいいんだがやはり和服なんかの全身がすっぽりと入っている方が綺麗に感じる……まあノースリーブもいいんだけど。

 

「お帰りなさい「貴方。お風呂にします?」」

「小町。とりあえずリアルアフレコは止めろ」

「テヘッ☆」

 一瞬、雪乃が言ったかと勘違いしただろうが。

「お兄ちゃんたちの衣装もあるよ~」

「「…………」」

 

 残りの衣装を見て俺も隼人も唖然としているというかあまりの衝撃に何も言えずにいた。

 1つは全身真っ黒で長い尻尾、力強さを感じる太い太ももが目立つあのゴリラとクジラを合わせて名前が出来たといわれている怪獣王のコスプレとどっかの島の守り神で最終的に鎧とかレインボーとかアクアとかバーニングとかにフォルムチェンジする蝶々の姿をしているコスプレがあり、二つともやけにリアルだ。

 

「どっちがいい?」

「「こっち」」

 隼人と俺の指し示すものは全く同じだった。

「…………隼人」

「八幡」

 お互いを軽く睨みあいながら握り拳を突き出す。

「「最初はグー! じゃんけんほい!」」

 …………がはっ!

「はいお兄ちゃんモ〇ラね」

 

 なんで俺が着ぐるみみたいなコスプレ仮装をしなきゃいけないんだよ。

「ヒッキーどんまい」

「八幡。私はどんな八幡でも受け入れるわ」

「今それ言われても複雑だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も更けた時間帯、スタート地点に小学生たちがグループごとに集合しており、小町と戸塚の2人が指示を受けて小学生たちを出発させる役割を担っていた。

 気が付けばすでに7割以上の班が出発しており、肝試しも終盤に向かっているところだが俺のメンタルもそろそろデッドエンドに終着しそうになっている。

 

「がー!」

「「「…………わ、わー」」」

 

 小学生相手に気遣いの眼差しで見られ、気遣いの精神をふんだんに込めた叫び声をあげられているのだ。

 悲しいよ俺は…………ちっ。隼人は隼人の方でなんかうまい使い方をして目だけを光らせて小学生を驚かしているのだが俺のコスプレには何の細工も通用しない。ただの蝶々のコスプレに等しいのだ。1人だけやけに特撮ファンの子がいたのかはしゃぎながら近づいてきてくれたら逆に泣いてしまった。

 驚かすんじゃなくて喜ばしてどうすんだよってな……。

 

「うがぁぁぁぁぁおうっふ!?」

 

 その時、ざっと土を踏み鳴らす音が聞こえ、もうやけくそ張りに羽を全開にしてグループめがけてとびかかるが悲鳴を上げられる前に逆に俺の方が悲鳴を上げて、地面に倒れ込んでしまった。

 な、なんで俺の息子にしょ、衝撃が……。

 息子が痛むのを我慢しながら顔を上げてみると冷たい表情をしたままの留美が俺を見下ろしていた。

 

「る、留美ちゃん! なんかその人危ないよ!」

「大丈夫…………これは霊長類人科カワイソウ科目の比企谷八幡っていう珍しい動物。人に危害は加えないから」

「る、留美ちゃん何でも知ってるんだねー!」

 

 おいおい、それを信じるな小学生共……でも留美の奴、結局グループからの誘いを受けたわけか……。

 留美は相変わらず冷たい表情をしたままだがメンバーに手を引かれ、ゴール地点へ向かい、祠から証明書代わりのお札を取り、きゃっきゃわいのわいのと騒いでいるのを小さくため息をつきながらも一緒に歩いていく。

 

「八幡、大丈夫?」

「ゆ、雪乃……俺のメンタルは大丈夫じゃない……でも留美の方は大丈夫だろ」

「そうね…………人と人との繋がりを一旦は受け入れたみたいね」

 あくまで一旦だけどな……まあ、今日出来たあいつらとの繋がりはあいつらが留美を見限らない限りはほぼ永遠に続いていくだろう……俺と雪乃みたいに。


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