俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第三十話

 女の子3人は高校生の俺に話しかけるのに少し緊張しているのかさっきから小さな声でどうする? と相談していたがようやく話す奴が決まったのか1人が俺の方を向く。

 

「あ、あの今いいですか?」

「別にいいけど……何の用?」

「え、えっとその……留美ちゃんについてなんですけど」

 留美……ちょうど良いかもしれない。

「それで?」

「その…………私達ここに来てからまだ留美ちゃんと1度も話せてなくて……それでどうやったら留美ちゃんと話しできるのかってお兄さんたちに聞きたくて」

 

 ……今分かったわ。留美は俺とは似ているが状況は全く違う。こんなにもあいつと話したいってやつがいるっていう時点で俺とは全く違う道へ行くのは確実だ。

「みんな留美ちゃんのこと怖い怖いっていうけど……全然そんなことなくて……でもどうやって話しかけたらいいか分からなくて」

「なるほどねぇ……」

 

 

 共通点を探してそれを話題にして話しかければいいかもとも思ったが俺と似ているあいつがみんな見ているようなアニメやかっこいいと思うタレントなんかに興味を持っているはずもないだろうしな……。

「なんで君たちは留美と喋りたいって思うんだよ」

 そう尋ねると俺に喋りかけてきていた女の子がどこか恥ずかしそうにモジモジしながらも口を開いた。

「そ、その……前に私が解けずに悩んでた問題があって……それを一瞬で解いた留美ちゃんを見てカッコいいなって……思ったんです」

「わ、私は色んなこと知ってるからすごいな~って」

 ……やっぱり小学生だな。理由が純粋だ……。

「……まあ、これが良いかは分かんねえけど……今日の肝試しで留美も一緒に連れて行けばいい」

 

 

 どうせあいつのことだから俺みたいに適当な理由で先生を丸め込んで肝試しにもキャンプファイヤーにも参加しないだろうからな。行事があればいくらかは話しやすくはなるだろうし。

「でも留美ちゃんのことだから来ないかも……」

 ……どうせ留美とは喋らなきゃいけないんだし俺の方から会いに行きますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川から離れ、小学生たちに案内してもらい、留美がいる部屋を覗くと確かにベッドの上で1人、黙々と高校の数学のことについて書かれている本を読んでいる。

 まあ、確かに話しかけ辛いわな。

 ドアを開けて中に入ると一瞬、俺のことを見て驚いた様子を浮かべるがすぐに本の方へ視線を戻した。

 

「よっ」

「……何か用」

「ちょっとな……お前、肝試し参加するのか?」

「しない」

「だよな」

 ここまでは想定済みだ……。

「…………なあ、留美」

「なに」

「…………俺が言っても仕方ないんだが……この先の人生で友達いなくても別に生きていけるとは思う……でも人との繋がりも全部捨てたら……それはそれで生きていけないぞ」

 

 そう言うと留美は一瞬、反応して本から視線を外して俺の方へと向けるがまたすぐに本へと視線を戻した。

 …………俺も雪乃と出会っていなければ留美と全く同じ道を突き進んだはずだ。雪乃と一緒にいたから何ともなかったことでも雪乃がいなければ押しつぶされていたかもしれない事なんて幾つも経験してきた。

 だから……そんなことを留美に経験させたくない。これから先、留美の頭脳が、知識が大いに発揮される可能性だってあるんだ。そこに至るまでに壁にぶち当たったら……留美は何もできなくなる。

 

「別にいい。お母さんとお父さんがいるし」

「全部、両親に相談できるのか? 恋愛のことも自分にしか分からないことも両親に相談できんのかよ」

「…………」

「俺は雪乃と出会ったから……ろくでもないボッチにならずに済んだ。この先の長い人生でどんなことが起こるかも分からねえんだ…………誰かに相談できるってことも大切なことだと思うぞ」

「ネットで聞けばいい。知恵袋とかあるし」

「…………まあな。ネットなら匿名だしな……じゃあお前、自分の体のこと聞けんのかよ。見ずしらずで顔も分からない性別だってわからないような相手に自分の体に起きてる変調を聞けんのかよ」

「…………」

「友達なんて作らなくても生きていける…………でも人と人の繋がりまで無くしたら……生きていけないぞ」

 

 

 繋がりを無くしたければ人間であることを辞めるしかない。それはすなわち死ぬと言う事だ……でもそんなこと誰だってしたくない。だから嫌いな奴でも付き合わなきゃいけない……そう平塚先生にヒントを貰った。

「……たとえば?」

「さっき言ったみたいに悩んでいる時に全部、親に話せるとも限らねえだろ。それに話し相手がいれば少なからず自分のことを心配してくれるし、何かあれば心配して話しかけてくれるし……今は親以外心配されないことが何ともなくても後々、嫌になることだってあるらしい」

 高々17年ちょっとしか生きていない俺が言うのもあれだけどな。

「…………みんな私に話しかけたくないんだよ。怖いから」

「……本当にそうか?」

「え?」

「本当にみんながみんなお前を怖いと思って話しかけてこないのか? 俺でも話せる相手が出来たんだ……お前にだって軽く話せる相手くらいできる」

 

 そう言いながら留美にばれない様にチラッと外を見てみるとガラスからヒョコッと顔を出して留美のグループのメンバーたちが俺達の方を見てくる。

 俺と決定的に違う点は留美と話したい、仲良くしたいという存在がいる点だ。ほんと神様って上手いこと事象を操るよな……俺に話しかける奴が0かと思えば雪乃と出会わせてくれるし、留美みたいに雪乃のような存在がいなければ話しかけたいと思うやつらを作ったり……ほんと……賽銭箱に多めに賽銭入れたいくらいだ。

 

「まあ……なんだ。お前の人生だからお前が決めればいいさ。俺達はただ単にアドバイスするだけだし」

「待って」

 そう言い、部屋から出ようとした時、留美に呼び止められた。

「……八幡は…………そういう人居てよかったって思えることあった? この人がいてくれたおかげで自分の人生は変わったって思える人はいた?」

 なんだそんな事か……自信を持っていえるさ。

「…………あぁ。そう言うやつらがいてくれてよかったってことは腐るほどあった」

 

 雪乃がいなければ、隼人がいなければ……考えるだけで俺の人生お先真っ暗なことが分かるくらいにあいつらがいてよかったって思えることはある。

 

「時には嫌なこともあったけど……それを超えるくらいに良いことはある。ボッチっていうのは友達がいないだけで知り合いがいない奴を言い表すもんじゃねえし……それにボッチボッチって口に出してるやつほど知り合いは多いんだよ、ソースは俺だ」

「……そう……なんだ」

「じゃあな、留美」

 そう言い、俺は留美がいる部屋から出て雪乃たちがいる場所へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 留美のところから川へ戻ってくるといまだに小町と由比ヶ浜は水鉄砲という武器を手に持ち、互いに水を掛け合うという古典的な遊びの興じており、平塚先生の姿は周囲には見当たらず、向こうの方で海老名さんと三浦の姿が、雪乃は木陰で休んでいるのが見えた。

 

「お帰りなさい」

「ただいま……体調でも悪いのか」

「いいえ。少し疲れただけよ……由比ヶ浜さん達の体力は底知れないものを感じるわ」

 雪乃は驚愕を露わにしながらそう言うがただ単に雪乃自身に体力がないだけである。

「話は終わったの?」

「気づいてたのか」

「八幡が小学生と話しているのを見たもの……それでどうだったの?」

「一応、実体験を踏まえつつ話してきた……あとは留美の反応を待つだけというか」

 

 こればっかりは解決できずに解消しかできない問題だ……まあ、今まで解決出来てきたこと自体が珍しいっちゃ珍しいんだけどさ……。

 そんなことを考えていると雪乃がもたれ掛ってきたのでそちらの方を向くと遊び疲れてしまったのか寝息を小さくたてながら寝ていた。

 …………ほんと……こんな寝顔を見せてくれる女の子なんてそうそういないぞ……。

 雪乃の長くて綺麗な髪に指を通すとスーッと指が降りていく。

 …………もう少しだけ待っててくれ、雪乃…………文化祭が終わったら……必ず。

 改めて決意をして雪乃の頭を撫でるとうれしそうに小さく微笑んだ。


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