俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第二十五話

 ガタガタと揺らされる感覚がし、ゆっくりと目を開けると一番最初に雪乃の顔が視界に入り、次に車の中の内装が目に入ってようやく出かけている最中に寝たんだと思いだした。

 起き上がり、窓の外の景色を見てみると一目で山の中だと分かった。

 目を擦りながら外へ出ると夏真っ盛りのあのじりじりとした太陽があるにもかかわらず、汗が出てこない程度の涼しさを感じる。

 

「山の中涼しいな……って山?」

「何を寝ぼけているんだ。さっさと荷物を出したまえ」

 平塚先生にそう言われ、車から荷物を降ろしているともう一台のワンボックスカーが俺達の近くに停車し、そこからやんややんやと楽しそうにしている連中が降りてきた。

 大体ああいうやつらに限ってこういうキャンプでカップルが成立するんだよな。そうそう、あんな感じに金髪縦巻きにしてる女子と金に近い茶髪の男子がくっついて……な、何で奴がここに。

 

「お、八幡」

「は、隼人」

 ワンボックスカーから降りてきたのはなんと隼人たちだった。よく見てみると三浦さんに戸部、海老名さんといつもの隼人グループの面々だった。

 

「あっれぇ~? 隼人君とヒキタニ君って知り合いな感じ?」

「まあね。小学校から一緒だから」

「ハ、ハヤハチですと!? しかも幼馴染と来たぁぁぁ!」

 とにかく叫んでいる海老名さんは放置しておくにしても……何故にリア充グループがここに?

「お、来たな」

「まさか先生が呼んだんすか?」

「うむ。揃ったことだし、今回の説明をするか。今回、君達には小学校の2泊3日の林間学校のサポートをしてもらう。教員、職員の奴隷というやつだな」

 もっと綺麗な言葉があるでしょうに……はぁ。

 

「今回の活躍次第では内申点に加点することも考える……私の独断と偏見での判断だがな」

 そう言いながら先生はニタ~っと嫌な笑みを浮かべる。

 この人絶対に加点させる気ないだろ……ていうかなんで先生が小学校のボランティアなんか。

 

「ていうかよく小学校のボランティアなんか引き受けましたね」

「まぁ。私は新人で有望な人材だからよく校長から役職を任されるのだよ。新人で有望だからな」

 ……とりあえず新人を2回言ったことはスルーしておくか。

「よし。では本館に荷物を置きに行くぞ」

 

 降ろし終わった荷物から自分のカバンを取り、先生の後ろを歩きながら少し離れた所にある本館へ向かう。

 隣には雪乃、その後ろには小町と由比ヶ浜と戸塚、そしてその後ろにリア充グループ……ていうかなんであのリア充グループを呼んだんだ。

 

「あの先生。何故、葉山君たちが」

「さっきも言ったが内申点を餌に釣ったのさ。元々奉仕部だけではカバーしきれないと思っていたからな。ま、あんな程度で釣れるとも思っていなかったがな」

 内申点ねぇ……少なくとも隼人はいらないくらいに内申点高いだろ……他の連中は知らないけど。

「だがまさか葉山とまで幼馴染とはな」

「タダの腐れ縁です」

「それを幼馴染というのだよ…………むしろ何故そんな素晴らしい交友関係がありながら……人生はなかなか難しいものだな」

「ちょっと。勝手に俺の人生ハードモードにしないでくださいよ」

 

 確かにイージーモードではないがハードモードではないのは確かだ……な、なんせ雪乃がいるしなぁ……って俺はいつから惚気るようになった。ハァ。にしても2泊3日か……昔はよく雪乃の家に泊まりにいったな……まぁそこで婚約届けというなの契約文書を書いたんだがな。

 本館に到着し、荷物を置いて今度は集いの広場とかいう場所へ向かうと100人くらいの小学生の群れが俺達を出迎えたがまぁ、うるさいことこの上ない。

 林間学校という普段滅多に来ることがない場所に来る行事でやかましくなるのは小学生だろうが中学生だろうが高校生だろうが変わらないことだ。そしてあの名言が飛び出すんだよな。

 いつまで経っても拡声器を持ったまま話そうとしない教員の姿に不安を感じ始めたのか徐々に静かになっていき、3分ほどで静かになった。

 

「はい。皆さんが静かになるまで3分かかりましたよ」

 出た、名言『お前らが静かになるまで~分かかりましたよ』。これ以上に小学生にダメージを与える言葉もないだろうというくらいの名言だ。下手したら中学でも言われるからな……あと怒ってないから話さないっていうのもなかなかのダメージソースになる。

 

「今日から皆さんを手伝ってくれる高校生のお兄ちゃんとお姉ちゃんたちです。挨拶をしましょう」

『よろしくお願いしまーす!』

「今日から皆さんをお手伝いします。皆でいい思い出を作りましょう」

 流石はイケメンで隼人。早速小学生の女の子からハートの視線をバンバン送られてるぜ……にしても良く人前に立ってあんなすらすらと喋れるな。俺だったら固まるかセリフ忘れるわ。

「はい、ありがとうございます。では皆さん、オリエンテーリングから始めます。くれぐれも怪我をしない程度に楽しんでくださいね。それではスタート!」

 

 あらかじめ班を組んでいたらしく、小学生たちは一斉に散らばり、班を形成すると森の中へと歓喜の声をあげながら走っていく。

 小学生は純粋だよな……まぁ、いずれドロドロの人生というものに気づくんだろうがな。

 

「やっぱり小学生って可愛いよね、お兄ちゃん」

「そうか? ただ単に小うるさいガキだろ」

「え~。じゃあ雪姉との子供もそう言うの?」

 そう言われ、凄まじい勢いで鼻から鼻水が噴出し、口から唾液が太陽の光を浴びてキラキラ光り輝きながら放物線を描いて地面に落ちる。

 こ、この妹君はいったい何をおっしゃっているのでしょうか。

 

「お前、いつか覚えてろよ」

 そう言うと小町はわざとらしく、頭をコツンと小突く。

「全員集合」

 平塚先生の招集に全員が答える。

「君たちにお願いするのはゴール地点での飲み物と弁当の配膳だ。私が先に車で運んでおくから君たちはゆっくり、小学生たちと交流しつつ、小学生よりも早くゴールに到着するように。では頼むぞ」

 

 そんなわけで俺達は平塚先生に与えられた仕事を全うするためにオリエンテーリングのゴール地点を目指して山の中をえっちらほっちらと歩きつつ、小学生とも軽く交流をしながら歩いていく。

 にしても……何で隼人はあんなに小学生からもモテるんでしょうかねぇ。

 

「お兄ちゃん!」

「な、なんだよ」

「あのイケメンさんとお兄ちゃん比べたらなんだか頼んないよ。お兄ちゃんもあの人みたいにイメチェンしなきゃ! 今こそメタモルフォーゼしてイケメンになんなきゃ!」

「するか」

「そうよ小町ちゃん。八幡は今のままで十分カッコいいもの」

 こ、こいつは何で人前でそんなこと言えんだよ……そのメンタルの強さ、俺にも欲しいわ。

「ヒキタニ君、モテモテですな~」

「は、はぁ」

 

 ていうかなんでさっきから海老名さんって子は隼人と俺をチラチラ交互に見ながらニヤニヤしてるんでしょうか……さっきから悪寒が半端なく止まらないんですが。

「ふ~ん。雪ノ下さんってそんなの好きなんだ」

 三浦さんが何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべながら雪乃の方を見るが雪乃も負けじと冷たい視線と表情で三浦さんに無言の重圧をぶつける。

 とりあえず、こんな楽しい場で喧嘩されても困るので雪乃の手を引っ張って俺の後ろに隠し、2人の間に立つようにして道を歩き出そうとした時だった。

 

「ここのだけ手伝うよ」

 そんな声が聞こえ、そちらの方を見ると小学生の1グループと隼人が仲良さげに喋っていたがその少し後ろのところにメンバーとは距離を開けている女の子の姿が見えた。

 メンバーは時折、その女の子の方を見るがどこか話しかけ辛そうな表情をした後、元の方に顔を戻す。

 雪乃もその子の存在に気づいているのか同じ方を見ている。

 

「昔の貴方と似ているわね」

「……そうだな」

 

 俺が小学生のころ、何故誰にも話しかけられなかったのかと言えば小学生が読むにしては難しすぎる本を読んでいたと言う事もあるが一番は頭脳がその時は異常とみられていたからであろう。

 小学生なら絶対に興味を抱かないことに興味を抱き、使わないであろう難しい本を使って理解するまで調べる……今は異常さは見られないが小学生の時は雪乃に会うまで異常の塊だった。

 彼女たちが浮かべた表情は俺を見てくる奴らの表情と似ている。話しかけたくても話しかけられない……。

 恐らく距離を開けている女の子も何かしらの異常を秘めているんだろう……まぁ、俺には関係のないことだろうとは思うけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴール地点に到着した俺達に待っていたのはワンボックスカーの荷台から弁当と飲み物が入ったクーラーボックスを降ろすこととデザートの梨を剥くことだった。

 隼人たちがは以前の準備を行い、俺達は梨の皮を剥くこととなり、近くを流れている川で冷やされていた梨を持ってきてナイフで皮を剥いていく。

 

「ヒッキー意外と上手じゃん」

「え、何その上から目線」

「ふふん。あたしだって日々進化する生き物だし、皮むきなんてお茶の子さいさいなんだから」

「では由比ヶ浜さん、お願いしてもいいかしら」

 

 雪ノ下からナイフと梨を受け取り、調子よく皮を剥いていくがまな板にかなりの量の実が付いた皮がボトボトト音をたてながら落ちていき、由比ヶ浜の手にはボン・キュッ・ボンのセクシーグラマラスダイナマイトボディに進化した梨が握られている。

 

「あ、あれ? おっかし~な~。ママこうやってたのに」

 見てただけかよ。

「由比ヶ浜さん。包丁を動かすのではなくて梨を動かすの」

 説明しながら雪乃は慣れた手つきでクルクルと梨を回転させながら綺麗に梨の皮を剥いていく。

「おぉ~」

「この程度で驚く由比ヶ浜の料理スキルの低さが目に浮かぶな」

「なっ! ヒッキー酷!」

 そんなこんなで時間は過ぎ去っていく。


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