俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第二十四話

 早起きは三文の徳と言われておりますが意外とその意味をしっかり理解している奴はいない。意味としては朝、早く起きることは健康にも良いし、必ずいくらかの利益があり、 また何か自分にとって良いことが得られるというたとえであるがこうは思ったことは無いだろうか? 徳ってなんやねんと……俺的に早起きをすることで今まで見えていなかったものが見える……これが俺が小学校4年から5年の間に導き出した仮説だ。例えば久々に朝早く起きてテレビをつけると見逃したアニメの再放送がされていたり、いつもは母親任せの犬の散歩に出かけると可愛い女の子と話が出来たりなどだ……さて、これを俺に当てはめてみよう…………。

 

「すー……」

 

 ……何で俺の隣で雪乃が寝てるんだ。

 朝、やけに腕に重いものを感じたので隣を見てみると何故か雪乃が気持ちよさそうに眠っていたのだ。

 よく考えてみろ……昨日、雪乃は家にいたか? 答えはNOだ。なら何か雪乃と出掛ける約束をしていたか? これもNOだ……結論を言おう。雪乃は勝手にやってきた。

 とりあえず起こすのも憚られるくらいに可愛い寝顔だったので起こすなどという野暮なことはせず、雪乃が起きるまでの1時間、ずっと寝顔を見ていた。

 目を覚ました雪乃と目が合い、互いに顔を赤くしたのもまた一興。

 とりあえず居間へと向かうと小町がテーブルに勉強道具一式を広げて勉強していたが俺と雪乃を見るや否や俺の方にウインクをしてくる。

 …………こいつら絶対に秘密条約交わしてるわ。

 とりあえずテーブルにつき、朝の子供劇場を見ながら朝食を食べる。

 

「お前いつ来たんだよ」

「昨日の12時位かしら」

「12時って……そんな時間に出歩かなくても」

「大丈夫よ。タクシーで来たもの」

 

 そこが分からん。何もそんな夜遅くに出なくても朝早くに来ればそれで……ってなんで俺は雪乃が家に来ることを肯定してんだか……いやまあ俺としては嬉しいんだが。

 

「で、なんで家に?」

「平塚先生からのメール見てないの?」

 

 そう言われ、部屋にスマホを取りに帰ると昨日充電し忘れていたらしく、電源ボタンを何回押しても画面が表示されなかった。

 とりあえず居間のコンセントに充電器をぶっさして充電しつつ、朝飯を食っていく。

 

「先生からどんなメール着たんだよ」

「奉仕部の合宿をするらしいわ。2泊3日でね」

 

 ……合宿って奉仕がメインの部活動で何を合宿するんだよ……スポーツクラブみたいに練習があるわけでもないし囲碁や将棋みたいに覚えなきゃいけないルールがあるわけでもなし。

 

「小町もそれ行くんだ~。結衣さんから誘われたの!」

「え、良いのかよ」

「良いらしいわ。むしろ多いのは歓迎らしいけど」

 

 えらく自由な合宿だな……。

 その時、スマホからある程度充電で来た時に鳴る音が聞こえ、ボタンを押して画面を表示すると思わず恐怖からのけぞってしまった。

 な、なんだよ。この着信の数とメールの数は……20件来てるぞ。

 電話が5件、メールが15通……怖い。

 恐れを抱きながらメールを開いてみると挨拶から始まり、やけに長い文章が続く。定期テストの結果がどうであったとか最近の奉仕部での活動はどうだとかが最初は占めており、最後の4行くらいで奉仕部で合宿行くことが書かれているが2通目を見ると『できれば早く連絡かえしてください』から始まり、最初の2倍以上は長い文章が打たれており、10通目まで飛んで表示するとたった三行で

 

 『本当は起きてるんじゃないんですか?』。

 

 『ねえ見てるんでしょ?』

 

 『      見ろ          』

 と表示されており、15通目にもなると

 

 『                 』

 

 といった具合で何も書かれていなかった。

 …………半分冗談が入っていると思いたい……これが全力だったらとりあえずスクールカウンセリングの人に相談して是非紹介してあげたいです。

 そう思いながらそっとスマホを置いた。

 

「…………もしかしてお前、家から行くのか」

「ええ。八幡のことだから夏休みは最強の長期休暇である。ゆえに休む……という変な理由で休むでしょ?」

「流石雪姉! お兄ちゃんのことよく分かってる~。良いなお兄ちゃんは~。こんな美人で頭もいい女の子と幼馴染で今でも付き合いがあるなんて」

 

 その幼馴染にエンハンスをかけている要因はいったい誰なんでしょうねぇ……はぁ。今年も夏休みにキャンプに行くのか……まぁ、雪乃がいればそれはそれでいいんだが……。

 

「はぁ。流石にんなこと言わねえよ……じゃあ、準備を」

「あ、もうこっちにあるよ~」

 ……準備万端と喜ぶべきか既に包囲されていると悲しむべきか…………どっちだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで戸締りをし、大きなカバンを持って2人と一緒に集合場所となっている駅のバスロータリーの近くに行くとワンボックスカーにもたれ掛ってタバコを吸っている平塚先生の姿が見えた。

 黒いサングラスをかけ、裾を結んだ黒いTシャツ、デニムのホットパンツ、靴は登山靴のようなスニーカー……何でこんなにもおしゃれで美人な女性に旦那さんがいないんだろうか。

 

「比企谷……なんでお前ばっかりにそんな良い青春が回ってくるんだ!」

「さ、さぁ?」

「私だって青春したい……したいのにっ!」

 先生はサングラスを取って指で涙をぬぐいながらそう言う。

 

「いや、先生はもう青春っていう年齢じゃ」

 

 その時、俺の頬のあたりで一陣の風が吹く。

 ジャンナックルならぬシズナックル……。

 

「女性に年齢は聞くなと教わらなかったのか?」

「す、すみません」

「ふん……これでほぼ全員そろったか」

「あ、ヒッキー! ゆきのーん!」

 

 後ろからそんなやけに元気な声が聞こえ、振り返るとコンビニの袋を持った由比ヶ浜と戸塚が立っており、いつもと変わらず戸塚を見ていると減少した癒しという名のHPが回復していく感じがする。

 あぁ…………神様。やっぱりあんたの功績は偉大だ。今度神社とかお寺とか行ったらいつもよりも多めに賽銭入れてやるからな。

 

「やっはろー! ヒッキーゆきのん!」

「結衣さんやっはろー!」

「あ、小町ちゃんもやっはろ~!」

 

 そのバカっぽい挨拶ははやっているのか?

「八幡、やっはろ~」

 広めようぜ。やっはろ~は今日から世界共通の挨拶だ! 皆さんやっはろ~!

 

「今日は誘ってくれてありがとうございます!」

「いいよいいよ~。あたし小町ちゃんと一杯お喋りしたかったし!」

「全員揃ったな。乗りたまえ……比企谷は私の隣だ」

 

 そう言いながら平塚先生が運転席に乗り込み、俺も隣に乗り込もうとするが小町に腕を引っ張られて由比ヶ浜の隣に押し込まれ、その左隣に雪乃が座り、一番端に戸塚が座ると小町は助手席に座った。

 

「……私は比企谷に言ったんだが」

「やだな~先生。小町も比企谷ですよ~」

「……ほぅ。中々才能があるじゃないか……」

「よく言われます~」

「嘘つけ」

「とりあえず出発するぞ」

 

 そう言い、ワンボックスカーがゆっくりと走り始め、駅のバスロータリーから離れ、5分ほど走ったところで高速道路に乗った。

 

「ところでどこ行くんすか? 高速乗るくらいだからどっかのキャンプ場っすか?」

「キャンプ場ではないがまあ似た所だよ。詳しい話は現地で話す」

「にしても車のってどっか遠い処に行くのあたし久しぶりかも。ヒッキーは?」

「あ、あぁ。俺も久しぶりかな」

 

 さっきから由比ヶ浜がやけに密着してくるし、それに対抗してなのか雪乃に関しては俺の腕に抱き付き、頭を俺の肩にコテンと乗せてくる。

 りょ、両脇から良い匂いがしてくる。

 

「そうね。小学生の頃はよく遊びに行ったのだけれどね」

「…………おい、比企谷八幡」

「ひゃ、ひゃい」

 

 そのあまりにも冷たくてひどく低い声の前に思わず変な声が出てしまう。

 

「まさかとは思うが…………お前が前に言っていた子はお前の左隣の子か?」

「…………ひゃ、ひゃい」

「…………このまま海に突っ込もうかな」

「冗談はやめてください」

「ふっ。冗談だ……まぁ、比企谷が滅びろと思っているのは本気だがな」

 

 バックミラー越しに俺を睨み付けてこないで。怖いから。

 

「……眠いのか、雪乃」

 

 うつらうつらしている雪乃はコクンと頷き、そのまま俺の肩に頭を乗せて眠ってしまった。

 だから朝早くに家に来ればよかったのに……ま、まぁこれは来れであり……ん?

 その時、逆の腕にも今の感覚と似ている感覚があり、そちらの方を見ると俺の肩に頭を乗せてすやすやと寝息を立てている由比ヶ浜がいた。

 …………これを両手に花と言わずしてなんというか。

 とりあえずハンドルを握っている先生の手首の血管がやけに浮き出ているのは見なかったことにして俺も少し寝るか。どうせ先は長いんだし。


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