俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love   作:kue

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第二十二話

 東京わんにゃんショーと雪乃との買い物があった翌日の日曜日、俺は由比ヶ浜に指定された待ち合わせ場所で壁にもたれ掛って待っていた。

 ちょっと付き合ってくれっていったい俺に何をしようというのだろうか…………それにしても由比ヶ浜があの時の事故で助けた女の子か……。

「ヒッキーやっはろ~」

 いつものおかしな挨拶が聞こえ、そちらの方を見てみるとノースリーブにミニスカ、ハイヒールと露出が高めの格好をした由比ヶ浜が立っていた。

「おう」

「日曜日に呼び出しちゃってごめんね」

「別にいい……慣れてるし」

 小学生の時にいったい何日、日曜日を雪乃お嬢様に捧げたことか……まあ今思えば楽しかったからいいんだけどその当時は休みなしで動き回ってたからくたくただったな。夜は寝付けない日なんてないくらいに毎日、ぐっすり寝ていたくらいだし。

「そっか……よし! 今日は楽しんでいこうよ! ここいっぱいあるし!」

 確かに集合場所となっている駅前にはゲームセンターをはじめ、映画館はあるしカラオケ、公園といった暇つぶし施設は大量にある。まぁ、待ち合わせ場所にはちょうどいいわな。

「あ、ヒッキー! この映画見ようよ!」

 そう言いながら指さす場所を見てみると広報掲示板があり、そこにでっかく「今話題の映画! ついに公開!」といった見出しでチラシが貼り付けられている。

 ちなみにチラシには互いに抱き合っている男女のカップルが涙を流している。

 …………なんか王道パターンな感じしかしないが……まぁ、良いか。

「別にいいけど」

「んじゃ映画館にしゅっぱーっつ!」

 やけに元気な由比ヶ浜と共に近くの映画館が入っているショッピングモールへと入り、最上階へとエレベーターで向かうとポップコーンの良い匂いが空間全体に漂っており、あちこちの映画の宣伝ポスターが貼り付けられている。チケット券売機で2人分のチケットを買い、指定の劇場内に入ると結構話題作らしく、空いている座席はざっと見るだけでも8つほどしかない。

 しかもそのほとんどがカップル連れというね……今度雪乃とも来てみるか。

「そう言えばさ、ヒッキーって映画とか見るの?」

 座席に座りながら由比ヶ浜にそう尋ねられ、過去の記憶をさかのぼるが最近は見ていない。

「昔はな。母親の買い物の間、一緒に入れるってことで小町とぶち込まれてた」

「あ~なるほど……ゆきのんとは?」

「雪乃とか? 小学生の時は何回かはな、最近は行けてない」

「そっか……」

 劇場内の明かりが徐々に暗くなっていき、画面に劇場内でのマナーをお知らせする妙な宣伝CMが流れ、次におなじみのスーツに顔だけビデオカメラという映画泥棒の宣伝CMが流れた後、話題の作品などの予告が次々に流れていく。

 地味にこの予告集ってドキドキするよな。予告集でかっこいいと思った作品を見たけど中身スカスカの最悪作品だったなんて何回もあったもんだ。

 そんなことを思っていると劇場内が完全に暗くなり、映画の本編が始まる。

 さっきチラッと宣伝チラシを見た限りでは余命宣告された彼氏が彼女に黙って過ごすか、それとも話して残りの余命を幸せに生きるかを決めるというまさに王道ものだった。

 そこは流石はラブストーリーもの。でてくる女優や俳優はイケメン・美女だらけ……っておいおい、もう泣いてる奴いるぞ。まだ余命宣告されたところ…………お前かい。

 ふと由比ヶ浜の方を見ると「ぐすっ、ぐすっ」っとおえつを漏らしていた。

 まあ、あれだ……純粋なのは良いことだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ。良い映画だった」

「ヒッキーさっきから同じことばっかり言ってるよ」

 俺はさっきから同じことを言いながらハンカチで流れてくる涙をぬぐう。

 最初はよく見ていなかったんだが途中からヒロインと主役が小学生から一緒の幼馴染という設定が出てきた途端に親近感が湧き、そのまま食い入るように見ていたら最後はやはり主役の男性が病気で死んでしまうのだが最後の最後に残されてしまった幼馴染のヒロインが愛した男性の分まで人生を歩んでいくと決意を固める姿を見ていたら何故だかもう涙が止まらなくなってしまった。

「ぐすっ! 今期一番の映画だと俺は思う」

「さっきまで何も言ってなかったくせに……ねえ、今度ゲームセンター行こうよ」

「あぁ、いいぞ」

 涙を服の袖で拭きながら1階下にあるゲームコーナーに降り、近くにあった太鼓の匠というゲームをすることに決め、100円を入れて楽曲を選択する。

「なんかランキングあるんだって。1位の人は神八?とか言う人」

「へぇ」

「あ、あたしこれがいい!」

 由比ヶ浜は勝手に楽曲を選択し、ゲームを開始してしまう。

 なんというか……雪乃は俺を軽く振り回すだけだけど由比ヶ浜は俺の手を掴んで全力で振り回す感じだよな。まさしく正反対の性格ってやつか。

 にしても…………やっぱ俺、ゲーム苦手だわ。

 さっきから流れてくるマークに合わせてバチでたたいているがどうもタイミングが合わないらしく、全く点数が入っていかない。

「ヒッキー下手~」

「うるせ。俺はゲーム嫌いなんだよ」

 結局、由比ヶ浜のコールド勝ちでゲームは終了した。

「お昼ご飯何食べたい」

「え、奢ってくれるの!?」

「ま、まぁ一応臨時収入はあったし」

 つっても8割がた消えてしまったけどな。

 由比ヶ浜の要望を聞き、ゲームセンターの1つ下のフロアにあるフードエリアまで降り、そこにあるパスタ専門店に入った。

 最近はずっと家にいて本読むなり勉強するなりしていたからこんなところに入るのは久しぶりだな。

 店員に案内されて座席に座り、注文を店員へ伝えると奥と消えた。

「ヒッキーって誕生日いつなの?」

「8月8日。夏休み中だから雪乃と家族以外祝われたことねえけど」

「そうなんだ…………あ、ちなみにあたしは6月18日ね」

「もう過ぎてるし」

「まぁ、そうなんだけど来年期待しておくね」

 そんな笑顔を浮かべながら言われてもなぁ……。

「にしてもヒッキーがゆきのんと同じくらいに頭良いなんて思ってもなかったな~」

「今回はたまたま同順位だっただけだ」

「だってあたし満点とか小学校以来取ったことないし」

「お前でも取れたのか」

「え、ひどくない?」

「冗談だ」

 そんなことを話していると注文したパスタが店員に運ばれてきてテーブルに置かれる。

「美味しそう~。ヒッキーは何頼んだの?」

「ボンゴレ」

「へ~。いただきます」

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで由比ヶ浜と遊んでいるとあっという間に時間は過ぎ去っていき、夜の5時を回ったところで俺達は最初の集合場所にまで戻ってきていた。

「ありがとね、ヒッキー。今日は付き合ってくれて」

「まぁ別にいいけど……なんでまた誘ったんだよ」

「……小町ちゃんから聞いた?」

そう言われ、ふと思い出すのは職業体験に行く日の朝に小町が言っていた俺があの事故で助けた女の子が俺と同じクラスの由比ヶ浜結衣であると言う事。

「あの事故のことか?」

 そう言うと由比ヶ浜は首を縦に振る。

「あぁ、聞いた。あの時、俺が助けたのお前だったんだな」

「うん……お礼言いに行ったときはまだ入院中でいなくてさ……それで2年生で同じクラスになってヒッキーの名前知った時、この人なんだって気づいたの…………」

 そこから何も話し出せずに微妙な空気が俺達の間に流れ出す。

「今日誘ったのはヒッキーとゆっくり話がしたかったの……あたし、ヒッキーのこともっと知りたかったし」

「…………」

「あ、あのねヒッキー!」

「お、おう」

 由比ヶ浜は少し顔を赤くして何か意を決したように立ち止まって俺の方をじっと見てくる。

「…………あの時は助けてくれてありがとう。今のあたしがあるのはヒッキーのお蔭なんだ」

「…………ま、まぁあの時は体が勝手に動いたっていうか」

「ハハハ……でも本当にありがと。あの時ヒッキーが助けてくれなかったらあたし今頃、ヒッキーみたいにボッチになってたかもしれないし……ヒッキーはあたしの高校生活ごと命を救ってくれたヒーローだよ」

『八幡は私のヒーローよ』

 そう言われた時、小学生の時に雪乃に言われたセリフが頭をよぎる。

 …………はっ……人生で2人からヒーローだなんて言われるなんてな……。

「ま、まぁなんだ…………別にヒーローになりたいためにやったわけじゃないしな……なんにせよお前が無事でよかった。目の前で人に死なれてもあれだし」

「…………ヒッキー」

「ゆ、由比ヶ浜?」

 突然、由比ヶ浜が俺の首元に腕を回し、抱き付くようにして俺の耳元に口を寄せてくる。

「あたし……負けないから」

「…………」

 そう呟き、顔を真っ赤にした由比ヶ浜は小さく笑みを浮かべる。

 ……なんとなく今の一言で分かった気がした……由比ヶ浜が本当に言わんとしていることが…………でも……でも俺はそれでも雪乃が好きだ。親友でもあり……俺の初恋の人でもあり……大好きな人なんだ。

「絶対にヒッキーのこと捕まえてやるし。じゃ、また学校で!」

 満面の笑みを浮かべながら由比ヶ浜は走っていく。

 …………俺ってモテ期来てる?

 

 

 

 

 

 

 

「結衣さんはお兄ちゃんのことが好きっと……グフフフ。小町の秘密ノートが潤ってくる~」


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