俺の青春ラブコメはまちがっている。 sweet love 作:kue
知的好奇心とは恐ろしいものでたとえ小学生でも中学の問題を解くことができる次元まで成長させることができるらしく、実際に俺はほんの小さな疑問からどでかい疑問にまで膨れ上がってしまい、検索中断という処置をしていることがいくつもある。
今不思議に思っているのは友達というものについてだ。お母さんに詳しく聞いてもスッキリした回答が得られず図書館に行って本を探すがあまり詳しく載っているものは無かった。
「八幡、一緒に帰りましょう」
「ん」
友達……と言えるかは分からないが俺には雪ノ下雪乃という今までにない立ち位置の知り合いがいる。
あの一件以来、俺達は一緒に帰ったり、遊んだりする仲になり、夫婦といってちょっかいをかけてきた奴らもこの前の件で俺が怖くなったのか何も言わなくなったどころか顔すら見せに来ない。
外靴に履き替え、グラウンドを通って校門へと向かう。
もう放課後に2人で折り紙を折り始めてからもうすぐ半年が経つ。
「ねえ、八幡はどんな女の子が好きなの?」
「どんなって言われてもな……まだわかんね」
「そう……ねえ、八幡」
「ん?」
雪乃に呼ばれ、顔をそちらへ向けると恥ずかしそうにモジモジしながらチラチラと俺を見てくる。
「よ、よかったら……その…………家に遊びに来る?」
家……雪乃の家……何故かは知らないけど猛烈に雪乃の家が気になって仕方がない。というよりかは他人の家に遊びに行くと言う事が無かったからただ単に他人の家が気になるのかもしれない。
「……雪乃が良いなら」
「うん。八幡ならいいよ」
雪乃が笑みを浮かべた瞬間、また俺の心臓が鼓動を大きく上げる。
「わ、分かった……じゃあ電話ちょうだい。これ俺の家の番号だから」
「分かった。またね、八幡」
ランドセルから白紙の紙を取り出してそこに自宅の電話番号を書き、雪乃に渡し、俺達はそれぞれの帰り道で分かれた。
それにしても誰かの家に遊びに行くのは初めてだな……お母さんに言ったら泣いて喜びそう。
その時、後ろから肩を軽く叩かれ、振り返ると俺よりも身長が高く、そしてどこか雪乃に似ているランドセルを背負った女の子と半袖短パンの男子が立っていた。
「ねえねえ、君雪乃ちゃんのお友達?」
「お友達…………なのかな?」
「そうなんだ~。君が……あ、私は陽乃って言うの! それでこの子は葉山隼人!」
そう言われ、男子が一歩前に出てぺこりと小さくお辞儀をしたので俺もつられて小さくお辞儀をした。
「ねえねえ、雪乃ちゃんと何話してたの?」
「止めなよ陽姉。また雪乃ちゃんに怒られるよ」
「良いの良いの! お姉ちゃんは妹のことを知らなくてはならないのです! ていう事でお姉ちゃんに教えなさい!」
「やだ」
一言ズバッとそう言うとポカーンと口を開けて驚きのあまり言葉を失った様子の女子を放置して家に向かって歩き出すが思いっきり後ろに引っ張られ、思わず尻餅をついてしまった。
「おもしろーい! ねえねえ! 君の名前、なんていうの!?」
「……比企谷八幡」
「そっかー! 比企谷君! またね!」
そう言って女の子は男子の手を取ると雪乃が歩いていった方向と同じ方向に走り去っていった。
…………いったい何だったんだろ。
そんなことを思いながら俺はようやく家までの道を歩き始めた。
雪乃の家に遊びに行くと約束した週の土曜日、俺は学校の校門前でジーッと本を読みながら雪乃が来るのを心の端で今か今かと思いながら待っていた。
家に帰ってからすぐに雪乃から電話が来て土曜日ならいいと言われたのでお母さんにその旨を伝えると何故か熱を測られ、お母さんから話しを聞いた妹、果てはお父さんにまで何故か心配された。
まぁ、今まで友達の"と"の字すら匂わせなかったし仕方がないか。
「にしても……遅いな」
現在の時刻は集合時間に指定された朝の10時5分前。そろそろ来てもおかしくないはずなんだけど……。
その時、すーっと静かな音をたてながら黒塗りのあからさまにお金持ってそうな車が俺の前に止まり、運転席からグレー髪のダンディーなオジサンが降りてきて俺に一礼した後、ドアが開けられ、そこから雪乃が降りてきた。
…………車の車種は分からないけれどお金持ちなのは分かった。明らかに普通の車なんかよりもはるかに値段がする車なことは間違いないだろう。下手したらお父さんが見たら土下座するかもしれない。
「おはよう、八幡」
「あ、うん。おはよう」
「行こ」
手を引かれ、車に乗り込むとダンディーなオジサンがドアを閉めてくれ、そのまま運転席に戻るといつも聞こえてくるようなエンジン音はあまり聞こえず、車が発進した。
…………凄いとしか言いようがないな。
「八幡、今日は何の本を読んでいるの?」
「小学生でもわかる中学生の数学書」
「そう。八幡は数学が好きなの?」
「気になってるだけ。別に数学が好きってわけじゃないけど」
そう、ただ気になっているだけでそれが終わると見向きもしなくなる。お母さんが言うに熱くなるのも早いけど冷めるのも早いらしい。
俺の肩にもたれ掛ってきて俺が読んでいるのを一緒に読もうとしてくる。
雪乃の長くて綺麗な黒髪が俺の手に触れ、良いシャンプーでも使っているのかほんのりと良い匂いがして来て本を読むどころではなくなってしまったけどそれに気づかれない様に俺は本に視線を向ける。
あ、頭に入ってこない…………お、落ち着くのだ俺。
「八幡。今度のテストの点数、勝負しましょう」
「テスト?」
ふっ。一応、これでも俺は勉強に関しては小学生の次元を超えていると謡われている男だ。毎回のテストなんてオール満点とはいかないけどほとんどの科目は満点だ。その俺に勝負を仕掛けてくるか……面白い。
「負けた方が相手の言うことを何でも1つ聞くってのはどう?」
「いいぞ」
くっくっく。俺が勝つことは明白……勝った時、雪乃に何お願いを聞いてもらおうか。
そんなことを考えていると車が止まったので窓の外を見てみると目の前にまぁ、それはもう明らかにお金持ちが住んでいますよと示しているような大きな家が建っていた。
…………これ、何階建てだ? 俺の家と比べる……意味もないくらいだぞ。
ダンディーなオジサンにドアを開けられ、外に出ると雪乃に手を引かれて敷地内に入り、玄関へと入り、そのまま雪乃の部屋に案内される。
部屋にはパンダのパンさんのグッズが大量に並べられている。
「パンさん好きなの?」
「ええ。誕生日のプレゼントに本を貰ってそれ以来、好きになったの」
出された本を開けてみると外国語の言葉がびっしりと書かれており、ページに挟まれているメモ用紙には辞書で調べたのか一つ一つの言葉の隣に意味が書かれている。
凄いな……ここまで一つ一つ丁寧に調べたのか……。
「これ読み終わるのにどれくらいかかったんだ?」
「そうね……1か月ちょっとかしら。パズルみたいで楽しいの。例えばここの文のね」
それから俺はパンダのパンさんの魅力を語る雪乃の話に耳を傾け、単語と単語を組み合わせて最初のページから最後のページまで2人で一緒にパズルをするように読み進めていく。
そんな時間がどこか楽しくてさっきまでずっと離さずに持っていた本を床に置いて雪乃と一緒に単語と単語をつなぎ合わせてひたすら読んでいった。
全ページを読み終え、ふと顔を上げると壁にかけられている時計が目に入り、もう6時を回っていた。
「ごめん雪乃。俺もう帰らないと」
「もうこんな時間……そうね。楽しかったわ、八幡」
「俺も楽しかった。なんか外国語に興味が湧いたからさ、今度はもっと厚い外国語の本を2人で読もう。図書館に行けばいっぱいあるし」
「うん。今度読む時はもっと辞書を用意しないといけないわね」
雪乃が持っているのは小学生向けの単語しか載っていない簡易的な辞書だから分厚い本を読むには少し、というかかなり物足りないだろうし、お父さんに言ったら買ってくれるかな。
「お邪魔しました」
「あ、比企谷君じゃーん! 来てたんだ」
…………あ、確かこの人、帰り道に話しかけてきた人だ。
「お姉ちゃん」
「……お、お姉ちゃん?」
「うん! 雪ノ下陽乃! よろしく」
笑みを浮かべながら自己紹介をされるけど理由は分からない。だけれどどこかその笑みは雪乃の浮かべる笑みとは全く別物のように感じた。
なんというか…………グイグイっと入ってくるような笑い方だな。例えるなら……あ、そうだ。1回家にお父さんの上司の人がやってきてその時に父さんが浮かべていた笑みと似てる。
「よ、よろしく……じゃあ、俺帰るわ」
「あら、今から帰るの?」
後ろから声が聞こえ、振り返ると雪乃のお母さんらしい女の人が困った表情で立っていた。
「今お外、土砂降りの雨よ?」
「お母さん、車は?」
「たった今、お父さんを迎えに行っちゃったのよ」
言われて窓の外を見ると確かに雨粒が激しく窓に打ち付けられているのが見えた。
「八幡……」
「あ、そうだっ! 良かったら泊まっていきなよ!」
「え、でも」
「そうねぇ。当分やみそうにないくらいに降っているし。比企谷君のご両親には私から電話するわ」
……あれ? 雪乃のお母さんに自己紹介したっけ?
そんな疑問を抱いている間に雪乃のお母さんは家電の子機を手にして廊下の方へと消えていった。
「泊まっても良いの?」
「良いよ良いよ! 比企谷君のお話聞きたいな」
「……ダメ……八幡は私とお話しするの」
俺と陽乃さんの間に入るように身をよじらせて入ってくるとどこかだけどバチバチと火花が散っているというか周りの温度が数℃下がったような気がするくらいの寒気を感じた。
……いったい何なんだこの姉妹は……。
その日の晩、俺は雪乃の家にお泊りすることが決まり、おいしい晩御飯も食べさせてもらい、今は雪乃の隣で布団に寝転がりながらパンダのパンさんの本を読んでいる。
結局、陽乃さんは侵入しようとしたが雪乃の防御網に根気負けしたらしく、寂しそうに肩を落としながら去っていった。
すると雪乃は立ち上がり、机の上をいそいそと探し物でもしているのか手を左右に動かし、見つけたのか一枚の紙をもって俺の隣に戻ってきた。
「八幡。こんやくとどけって知ってる?」
「こんやくとどけ?」
なんだそれ……食べたら異国語が分かるこんにゃくなら知ってるけど。
「いや、知らない」
「そう…………八幡、ここに名前書いて」
そう言われ、何の疑いもなく自分の名前を書くと俺の名前の右端に大きくバツが書かれてそのバツの隣に雪乃のフルネームが書かれ、雪乃の指には俺があげた折り紙の指輪がはめられている。
雪乃は何やら笑みを浮かべながら鉛筆で書くと指輪をはずして2つの指輪をセロハンテープで軽く止めた。
「何書いてんだ?」
「秘密……私と八幡がずっと一緒にいれるおまじないよ」
「ふーん……」
雪乃はそう言うと大事そうにその紙をカンカンに入れて蓋をし、机の引き出しにそれを入れた。
「お休み、八幡」
「お休み、雪乃」